第806話 隠された敵軍
アレンの作戦によって、ヘビーユーザー島は失ったが魔王軍の要塞を1つ破壊した。
さらに、ヘビーユーザー島が安全に引き連れた2つの戦略艦が魔導コア砲によって2つの要塞を半壊することができた。
だが、魔王軍は勇者軍、ゴーレム軍が忘れ去られた大陸に上陸したタイミングで魔導具を使い、何らかの発信を行い魔族や魔獣たちを呼び寄せた。
アレンはこの状況に鳥Fの召喚獣を使い、大声で号令を上げる。
『数十万、数百万の魔王軍の軍勢が現れました! 速やかに守備の陣形に切り替えてください!!』
(敵の動きは速いぞ。どこに潜んでいた?)
穴から破壊されて出てきた魔族や魔獣たちはヘビーユーザー島前に陣形を引くアレン軍たちを前方から左右まで弧の字に囲むように迅速に動き出す。
「分かった。我ら人族隊は全軍の前に陣形を引き、盾を掲げよ!」
ライバック将軍が兵たちを指揮しながらアレンの声に応える。
このまま忘れ去られた大陸の海岸線から進軍を続けて、奥深くにいる魔王城へ到達するため、アレンはアレン軍2万人、勇者軍3万人、ガララ提督軍3万人、戦略艦2万人(各5000人残留)の人員を連れてくることに成功した。
合流した勇者軍、ガララ提督軍と共にアレン軍は、これから50キロメートルほど奥にある2つの要塞目指して進軍を開始しようとしていた。
(出鼻を挫かれたか。移動用通路を活用されたか。クワトロはともかくタムタムも分からなかっただと。ずっと待機していたってことか? 完全に俺の動きが読まれたのか)
魚系統の召喚獣は、地面に潜って泳ぐことができるため、アレンは魚Cの召喚獣を使い、忘れ去られ大陸の地下に何かあるのか調べていた。
それで分かったことは、氷と岩で覆われたこの大陸は、地下で網目のように通路が張り巡らされていた。
要塞間の全て無数に伸びる地下通路で繋がっており、大型の魔獣の通過を可能とするためか、高さも幅も100メートルを超え、ダンジョンもびっくりの全長は大陸全土を覆いつくす数千キロメートル、数万キロメートルにも及んでいる。
人力でこのような地下大迷宮をどうやって作ることが出来ようか。
地上全土に巨大な要塞を配置し、防御に適した見晴らしの良い地形に加工している点も含めて、ステータスのある世界であっても百年単位で時間が掛かりそうだ。
さらにアレンは現状、魔王軍がアレン軍たちを囲む数に違和感を覚える。
クワトロの特技「万里眼」は障害物の先を見ることができない。
タムタムの機能「サテライト」は万里眼ほどの効果範囲はないが、障害物を無視して魔族や魔獣の生体反応を検知することができる。
結果、魚Cの召喚獣を頼って大陸の内部構造も調べていたのだが、直近で調べた際には、今回攻める要塞周辺の通路も含めて、どの通路にも魔族や魔獣などほとんどいなかった。
タムタムが突然現れたということは、転移などで移動してきたのではなく、アレンたちがやってくることを予想して昨日、今日の短い期間で移動して待機していたと思われる。
(今、軍を動かして陣形を組んでいるし、容易に数百万の魔王軍を一瞬で転移するほどの技術力はない。だが、俺の作戦が完全に筒抜けじゃないとこんなことはできないだろ)
魔王軍であっても無限に魔獣や魔族を用意できるわけではない。
アレンの作戦を予見して大陸全土から兵を前日の間に集めていたのだろう。
だが、タムタムでも探知できなかったのは、氷床の下に潜んでいたが魔法的な何かで隠れていたのだろうと予想する。
アレンが現状から何が起きているのか膨大な知力で分析していると、クワトロが叫ぶ。
『アレン様!! 敵軍の動きは速いです。魔族と魔獣合わせて推定300万です。……攻撃が来ます。移動型の砲台の魔導具のようです!!』
魔王軍は地下大迷宮から絶え間なく魔族や魔獣が出てきたかと思ったら、今度は車輪を付けた巨大な数十メートルにもなる巨大な砲台を運び出し始めた。
(地下迷宮から出てきた兵数差は30倍か。兵器まで運びだしていたのか。だから念入りに地下の調査も邪魔していたのか)
地面から出てきた魔族たちが要塞の上にも設置してあったと同様の射程距離30キロメートルと思われる砲台の魔導兵器を数十基、魔族たちが一斉に運び出している。
今回のアレンが考えた作戦では4ヶ所の海上を北上して忘れ去られた大陸を攻めた。
戦略艦は7つあったのだが、勇者軍、ゴーレム軍を運び、魔導コア砲を発射するために作戦で使ったのは4つだ。
3ヶ所に分かれた残り3つの戦略艦は、魔王軍の遠距離攻撃範囲外で、忘れ去られた大陸の南30キロメートルの海上で待機させている。
元々は魔王軍分散のための陽動も兼ねていたのだが、これだけの兵数差が生まれたなら、一部はこちらに呼び寄せたい。
(はい。それも読んでいますよね)
アレンは3ヶ所に分かれた戦略艦の上空に鳥Eの召喚獣、内部に霊Aの召喚獣を連絡用に待機させている。
鳥Eの召喚獣の覚醒スキル「千里眼」なら100キロメートル先まで見渡すことができる。
アレンが兵を一部、アレンたちが攻める箇所に回すように指示をしようとしたところ、3ヶ所前方の大陸海岸線にある要塞から魔獣たちが船を出したり、海上用の魔獣の背中に乗り込み始めた。
(敵はそれぞれ10万くらいか。俺たちを援軍に出せない丁度良い戦力だな。こちらの分散させた戦力分析もバッチリですね。なんだ、未来でも読めるのか?)
こちらの戦力を知り尽くしているのか、行動を読んでいるのか、または、それらを超えた未来を読む先見の力があるのか分からない。
ただ分かっているのは、敵戦力分散用に待機させている3つの戦略艦を足止めするのに丁度良い数の敵兵が海上を進んで攻めてこようとしていることだ。
アレンは戦略艦のそれぞれの指揮官側にいる霊Aの召喚獣を通して、アレン軍などの今の状況、まもなく魔王軍が海上を渡ってそちらに攻めてくる敵兵数などの戦力などを伝える。
特にローゼンヘイム最強の男ガトルーガ指揮する指揮官室で怒号が響く。
「完全に嵌められたのではないのか! 絶対に勝てると言ったではないのか!! ソフィアローネ様は無事なのだろうな!!」
(そこまでは言っていない。勝利するぞという意気込みは伝えたけど)
『ひひ。アレン様はいくつもの作戦を考えている。今は迎え来る敵戦力を叩くことに集中するように』
女の和風幽霊の姿をした霊Aの召喚獣がガトルーガに現状における優先順位を理解させる。
海上の陽動部隊から意識をアレン軍前方へと戻す。
アレンは前方の敵陣の動きを理解しつつ、各軍への指揮を同時に進める。
『皆さん、敵に囲まれていますが援軍は来ません!! 私たちだけで魔王城を目指す必要が……。敵砲台が飛んできます!! 守備を!』
(敵陣の行動が早いな。陣形を崩されるぞ)
海上の戦略艦に指示を出していると、正面の魔王軍はある程度陣形を組み終わり攻撃に転じ始める。
『放て!!』
『放て!!』
『放て!!』
ドオオオオオオオオオン
ドオオオオオオオオオン
ドオオオオオオオオオン
『ライバック将軍は皆に防御の指示を! ルキドラール将軍は砲弾が飛んできます。全て撃ち落としてください!! 完全防御体制を! 戦略艦は敵陣が前進してきた場合、援護射撃をお願いします!!』
アレンは矢継ぎ早に指示を出す。
この作戦はアレン軍が考え得る完全防御体勢だ。
沈んだヘビーユーザー島の先には4つの戦略艦がアレン軍を援護すべく砲台発射の準備を進めている。
「放て! 全ての砲弾を打ち落とすのだ。精霊魔法部隊は風、水系統の防壁を張るんだ! 敵の攻撃が来るぞ!!」
「ゴーレム隊も気合い入れて撃ち落とせ!!」
各軍の将軍、副将軍がアレンの言葉に答え兵たちを指揮する。
「は!!」
「は!!」
「は!!」
魔王軍の要塞外壁に置かれたものと同様の砲台の魔導具から数十人の魔族で込めた魔力で砲弾を放ってくる。
魔王軍に放たれた砲弾に対して、遠距離攻撃に優れたエルフとダークエルフの弓隊が応戦する。
ゴーレム隊は、超長距離に標準を合わせ、砲弾の石板をはめたゴーレムたちが一斉射撃をする。
しかし、それでも100発以上の音速の巨大な砲弾の半分も撃ち落とせないので、今度は精霊使いたちが風や水の精霊の力を使い防御する。
さらに、防壁の弱い部分を通過した砲弾を盾使いたちが防壁のスキルを使い体で防ぐ。
魔王軍の砲弾は矢継ぎ早にどんどん放ってくる。
30キロメートルも離れたところから放たれる砲弾を打ち落とせるのは数キロメートル先に入ってからに過ぎない。
(射程距離が全然違うな。敵の数は30倍、射程は3倍か。包囲は狭まってくるし、耐えているだけで全滅するぞ)
アレン軍たちが固まり、砲弾から守っていると、魔王軍の敵陣は10キロメートル先にある魔導コア砲で破壊された要塞近くまで囲い込みながら詰めてくる。
『敵軍が接近していきます。大型のトロル、オーガ系の魔獣です!!』
(砲弾でこちらを動けなくして、さらに大型の魔獣で叩き潰す作戦か。これは動く時だな)
防ぐだけでは自軍の崩壊は時間の問題だと考える。
『ハク、そして、マグラは前進を!!』
アレンは次の一手を指示する。
『ギャウ!!』
『この中を突っ込めっというのか!? 良い的ではないか!!』
(そうだ。マグラ、一気に進め)
やる気を出すハクと不服のマグラの全長100メートルに達する2体のドラゴンが翼を広げ、高度100メートルも上がらずに滑空するように前進する。
『敵が攻めてきたぞ!!』
『たった2体で馬鹿が!!』
『敵陣のドラゴンに対して標準を合わせよ!!』
(って、言ってるね)
クワトロの特技「万里眼」がはっきりとアレン軍の陣地から飛び出てきた2体のドラゴンに攻撃の対象に移した様子を捉える。
30キロメートル
20キロメートル
10キロメートル
5キロメートル
3キロメートル
我慢比べするように魔王軍前方の数万の部隊は、2体のドラゴンが左右からもすっぽり覆うように隊列を変えていく。
1キロメートルを切ったところで魔王軍の弓隊や魔法隊の遠距離攻撃部隊の射程距離に完全に入ったタイミングで、指揮官は大声で号令を上げた。
『敵主力だ! 放て!!』
『撃ち落とせ! 絶対に敵陣に戻すな!!』
何百、何全の攻撃が包み込むようにハクとマグラに一斉に襲い掛かった。
魔法部隊の火魔法によって、凍った大地が沸騰し、弓隊の圧倒的なスキルによって大地に大穴が開くほど爆散する。
蒸気と土煙が舞い上がり、集中砲火を浴びたことを確認した指揮官たちがさらに指揮する。
『よし! オーガキング、トロルキングの部隊は前へ!! 2体のドラゴンにとどめを刺せ!!』
『ぐぬおおおおおおおおおおお!!』
『ぴぎゅおおおおおおおおおお!!』
全長10メートルに達する数千のAランクの魔獣のオーガキングとトロルキングが突進する。
バチバチ
ゴオオオオッ
『ぐお?』
『ぴぎゅお?』
オーガキングとトロルキングが噴煙立ち込めた隙間から火花か光弾のようなものが弾ける様子が見えるのであった。





