第805話 魔導コア砲
今まさに魔王軍のヘビーユーザー島を沈めるほどの攻撃が迫ろうとする中、2つの戦略艦は作戦に基づき、自らの役割が分かっていた。
アレンの頭上に、2つの戦略艦の上部に設けられた砲弾が通過するために設けられた発射口から、それぞれ魔導コア砲が発射される。
『各軍の合流を助けるため、上空を魔導コア砲からの砲弾が通過します!!』
仲間たちが過って軌道を妨げないよう注意喚起するタイミングと同時に、2発の砲台が発射される。
2つの戦略艦は鳥Fの召喚獣の覚醒スキル「伝令」でアレンやクワトロの視界を共有しながら細かい作戦を伝えることができる。
危機的な状況をすぐに理解し、行動に移してくれたようだ。
ドオオオオオオン
ドオオオオオオン
轟音を鳴らし、全長5メートルを超える漆黒の砲弾は1キロメートルほど上空に真っすぐ上がると、幾何学模様の魔法陣が生じる。
(魔王軍ほどの射程距離はないからここの発射になったけど。その分、誘導弾の機能もあるから狙いは正確だぞ)
設定された着弾地点であるレーザービームのあるそれぞれ2つの要塞に分かれ進行方向を変更する。
勇者軍、ゴーレム軍が移動するヘビーユーザー島、アレン軍や上空を飛ぶ虫Aの召喚獣たちの遥か上空を通過する。
『アレン様、魔王軍が迎撃するようです!!』
魔王軍は要塞を攻めるための対地兵器の対策を取っていたようだ。
クワトロが特技「万里眼」が2つの要塞の外壁上の動きを捉える。
指揮官らしき上位魔族が、それぞれの漆黒の砲弾を指差し何やら号令を上げている。
特技「万里眼」の対象は障害物がなければ、1000キロメートルもの広範囲を確認することができる。
数十発のスキルを込めた弓矢や魔法を受け、漆黒の砲弾は集中砲火を浴びた。
ギュイイイイイイン
火の玉に包まれたが、砲弾全体から魔法陣の幾何学模様の光が強くなり、全てをはじき返し、目標目指して軌道を守って進行を続ける。
(アダマンタイトの多重層と防壁の魔法陣が発動する魔導コア砲はそんなんじゃビクともしないぞ)
対象に命中する前に破壊されないよう上位魔神の攻撃を想定して、巨大な砲弾は、アダマンタイトは特殊な物理装甲と防御の魔法によって施されている。
作ったのはララッパ団長の配下で共に神界で魔法神の研究所で働く、優秀な魔導具師団のドワーフたちだ。
魔法神からは古代魔法の研究に協力してからか、施設や設備を貸してくれるなど、今回の兵器開発に貢献頂いた。
弾道内部は複層構造になり1発当たり数十トンを超えるドラゴン並みの重量だが、その分、威力、防御力、精度など無数の機能を有している。
それぞれの要塞にある超メガロン砲を放つ兵器の上から吸い込まれるよう軌道修正しながら上空から落ちていく。
ドオオオオオオオオンッ
石Eの召喚獣の覚醒スキル「自爆」でも破壊できなかった魔導兵器が魔導コア砲の砲弾によって、捻りつぶし、強固な外壁のある要塞の貫通し、中へ中へと入っていく。
『要塞外壁上の魔導具は2つとも破壊できました! 過度な防御陣形を解除してください!!』
鳥Fの召喚獣を使い、アレンが超メガロン砲の攻撃から身を守るように隊列を組むライバック将軍率いる盾使いに状況を報告する。
要塞の上では、全長5メートル、幅3メートルを超える砲弾が要塞内に入ったため、大きな穴が開いている。
指揮官役の上位魔神は、砲弾着弾時に、魔力を込めていたが吹き飛ばされたしまった魔族たちの救護するように叫んでいるようだ。
さらに要塞内に向かって大穴が空いたためか、指揮官の上位魔神が自ら覗き込んだ瞬間だ。
貫通力を優先するため、アダマンタイトを大量に使用しているための何十トンにもなる高重量、回転の魔法陣によってドリルで要塞の最深部まで到達した。
砲弾の内部では埋め込められた魔導コアが、魔力暴走の魔法陣が生じたことによって、縦横に回転を始め、まばゆい光が砲弾の外皮に亀裂が生じさせる。
バチバチッ
キュイイイイイイイン
カッ
要塞に到達するために軌道修正の魔法陣が施されていた。
邪魔な魔法や攻撃から守りため防壁の魔法陣が施されていた。
要塞の壁を貫通するよう回転の魔法陣が施されていた。
砲弾の中には魔導コアを暴走させるための魔法陣が施されていた。
何重にも重なって施された最後に、アダマンタイトの強固な外皮がまるでパズルや崩れるように無数の亀裂が入り分解して、魔導コアの暴走エネルギーを確実に外に届ける魔法陣が生じた。
最初から接合していなかったのように魔導コア砲の砲弾は要塞深くで、膨大な魔力を爆発エネルギーに変えてはじけ飛ぶ。
『グピャ!?』
弾けたアダマンタイトが弾丸となって大穴を覗き込む指揮官役の上位魔神の頭部を弾き飛ばす。
さらに轟音を立てて要塞の外壁頂部の魔族たちを外壁ごと吹き飛ばす。
要塞は魔導コアがはじけた威力に耐えられず、強固な外壁を内部から大きく膨らませ、大きく弾けるほどの巨大な爆発を生じる。
『上位魔神を2体倒しました』
『魔神を14体倒しました』
『上位魔族を2650体倒しました』
『魔族を43448体倒しました』
アレンの魔導書のログが負えないほどの数千、数万の魔神や魔族たちの死亡を伝えてくれる。
『よし、威力に問題はありません。2つの要塞がほぼほぼ指揮系統を破壊し、半壊させることが出来ました。戦略艦は次弾の装填準備を進めてください!!』
アレンの横まで駆け寄って、10キロメートル先であるが、爆発の衝撃波と爆音、それに高々と舞い上がる噴煙を見上げる者たちがいる。
アレンとパーティー「廃ゲーマー」には全長100メートルに達するハクもいるのですぐに場所が分かる。
4つの戦略艦は、アレン軍たちが忘れ去られた大陸に上陸することを砲弾などで助けるために用意した。
助けるという意味には魔王軍の要塞の破壊も含まれている。
また、アレン軍の陣形を強固にするため、後方から砲弾を放つなど、今からも後方支援に務める。
さらに、ヘビーユーザー島を失うことも想定して、膨大な人員を撤退する際にも戦略艦を必要とする作戦だ。
「タムタム、サテライトで敵の動きを察知してね」
アレン軍前線の上空に浮くメルルがタムタムに指示を出す。
『周囲30キロメートルの大地に敵はおりません。要塞内部には少数ですが生き残った敵がいるようです』
「分かった。タムタム、ここからが大事だから警戒を怠らないようにね」
「おいおい、俺たちのやることが無くなってしまうだろ」
「これはガララ提督、それにヘルミオスさんも合流ありがとうございます。これで要塞を3つ破壊することができたようです」
(タムタムの「サテライト」でも問題なさそうだな。これで半径30キロメートル内に敵はいないか)
ガララ提督と勇者ヘルミオスが、自らの軍の隊列を指揮した後、アレンたちのパーティーに合流した。
『やれやれだぜ。貴重な魔導コアを暴走させて爆発させるなんてよ』
メルルのゴーレム、タムタムの上空には飛翔型に変形したディグラグニが絶句している。
『はは、アレン君らしいよ。常識って何なんだろうね』
精霊神ローゼンも精霊神ファーブルもソフィーとルークの頭に乗ってあきれ顔だ。
『ですが敵は常識の外にいます。これくらいの知略と覚悟がなければ倒せない敵でしょう』
バカラッ
バカラッ
胴体着陸したヘビーユーザー島から、鱗で覆われた馬の形をしており、麒麟の姿を下調停神ファルネメスがゆっくりとアレンたちの下へ向かってきていた。
「ファルちゃん! 来てくれたんだ!!」
『ええ、私の寝床が海に沈みましたからね。追い立てられてやってきましたよ』
濡れた体を振るうファルネメスは、海水の中で目覚め、この場に出てきたようだ。
(お? 色々理由をつけても最後には渋々仲間になって協力するタイプか。島ごと戦場に運んで正解だったな。久々の参戦か。最後の戦いに現れる貴重な仲間感があるな)
クレナが久々に一緒に戦えると調停神の頭を撫でながら、頭に着いた埃を払っている。
調停神ファルネメスは、初めて会ったときはヘビーユーザー島の神殿でアレンたちと戦う敵であった。
その後は、魔神石なるものを修羅王バスクに抜き取られ、精神は正常となり、海底の大国であるプロスティア帝国ではクレナを助け、エクストラモードにもしてくれた。
魔王軍参謀キュベルをかつての名である「キュプラス」と呼び、邪神を「法の神」と慕っていたように見える。
神界に行くための竜神の里にある審判の門という貴重な情報を伝えたものの、アレンたちの冒険には同行していない。
ヘビーユーザー島では馬小屋で寝ながら牧草をはんでいた姿が脳裏に蘇る。
神界で原獣の園を冒険する中、かつて世界を支配していた法の神アクシリオンに仕えていたことを朽ちた神殿を発見して知っている。
この世界の真理を知っている貴重な存在だ。
3つの要塞を破壊して一瞬、仲間や兵の表情にも一瞬安堵の表情が現れようとしたところだ。
『アレン様、奥の2つの要塞に動きがあります』
50キロメートルほど奥にある2つの要塞の上の様子をクワトロの特技「万里眼」が捉えている。
(ん? ここまで攻撃が届かないはずだが。だが島を貫通される兵器を温存していたし。何かやるのか?)
これまで何百回も何千回も忘れ去られた大陸にある魔王軍の要塞からの攻撃で、射程距離30キロメートルを超えたことがない。
魔王軍が何か兵器を隠している可能性をアレンは排除しない。
何をしているのかとアレンの表情に緊張が溢れそうになったタイミングで、2つの要塞上にいる上位魔神がそれぞれ手を上げる。
『魔法障壁解除の号令を出せ!!』
『魔法障壁解除の号令を出せ!!』
50キロメートル先の要塞の外壁上の上位魔神の声を聞き取る術はアレンにはない。
魔族たちがまた巨大な魔導具を10人がかりで動かしている。
砲台のような筒状のものはなく、これまで破壊した3つの要塞に配置された魔導具とは何か違うようだ。
カッ
カッ
2つの要塞がタイミングを合わせるように、魔族たちが上空に向けて魔導具から光の柱を掲げた。
ドドドドッ
忘れ去られた大陸は氷で大部分が覆われた大地だ。
岩石が露出している部分もあるのだが、100メートルを超える氷床で覆われたところも少なくはない。
破壊した10キロメートル先から50キロメートル先で、無数に魔法陣が生じ、氷床が破壊され、魔族や魔獣たちが待っていたと言わんばかりに現れ始めた。
『……あり得ません。私は「サテライト」による探知を怠っていないのに』
「わ、何か、すごい魔獣たちが地面から這い出てくるよ!! タムタムのサテライトが利かなかったってこと!?」
タムタムに乗り込むメルルが上空から望遠の機能のあるスクリーンでも大地を覆うほどの何万、何十万、何百万にもなる魔族が一気に雪崩のように現れる様に絶句する。
『敵を囲め! 罠にかかったぞ!! 誰も逃すな!!』
指揮官の上位魔神が配下の魔族たちに指揮を上げるのであった。





