第802話 超メガロン砲
魔王城のいる大陸まであと30キロメートル弱といったところで、10数発の砲弾がヘビーユーザー島に襲い掛かる。
海岸線の要塞の上から数十人の魔族たちが同時に1つの魔造兵器の砲台に注ぎ込んだ膨大な魔力により精度、飛距離、威力が増しているようだ。
『皆さん、防御と迎撃を!! 魔王城のある大陸はすぐそこです!! 魔導技師団は最高出力で島を大陸へ向かってください!!』
アレンが仲間たちやアレン軍の皆にすぐさま指示を出した。
『盾使いたちは分散して各部隊を守ってください! 敵は強力です! 決して部隊が欠けて上陸するようなことはないようにお願いします!!』
「聞いたか!! Sランクの魔獣相当の攻撃とみた。全部隊は散り、小部隊に分かれ5人以上で攻撃を防げ!!」
盾部隊のライバック将軍は自らが発動したスキル「堅城壁」に受けた衝撃によって、威力を推察し、新たな指示を出す。
前方からの魔王軍の攻撃に備え、元々は島の先端に移動していた盾部隊であったが、敵の砲弾が放物線を描き、島の上空から島全体に攻撃してくることが分かったため、隊を分けることにする。
「ミスリル班はこっちだ!!」
「ブロンズ班は右舷へ!!」
「アイアン班は後方に下がるぞ! アレン軍を守るぞ!!」
任命された盾使いの小隊長たちが配下を引き連れてヘビーユーザー島内で迅速に移動を開始し、小隊ごとに分散し始めた。
今日に備えて、各種族の部隊との合同訓練もしてきたが、盾使い同士の連携はライバックたち盾使いをアレン軍に迎え入れた時からS級ダンジョンの最下層でアイアンゴーレムや最下層ボスを相手にずっと行ってきた。
盾使いの役割は敵の攻撃を防ぎ、仲間たちが攻撃や回復に専念させるものだ。
自らの部隊の何倍もの兵を守らないといけないため、最小限の守りで最大限の効果を発揮する必要がある。
無駄も無理も許されないのが盾使いだ。
元々、才能があっても敵は魔神やSランクの魔獣など人外の力を持った強敵と戦うことを想定してある。
数倍のステータス差のある敵の敵に対して、盾使いたちがどれだけの人員で守備するのか作戦は立ててある。
【盾使いの防御体制】
・Bランク相当の攻撃:1人体制(☆4つは不問)
・Aランク相当の攻撃:3人体制(☆4つは1人以上)
・Sランク相当の攻撃:5人体制(☆4つは2人以上)
・魔神相当の攻撃:10人体制(☆4つは5人以上)
・上位魔神相当の攻撃:20人体制(☆4つは10人以上)
また、盾使いには盾に魔力を込め、盾の耐久力と守備範囲を超える守りに特化したスキルを有する。
【盾使いの防御体制】
・星1つ:固盾
・星2つ:固壁
・星3つ:堅巨盾
・星4つ:堅巨壁
・星5つ:堅城壁
さらに、アレン軍で将軍を務める星5つの才能のあるライバックには、アレンのパーティーとそん色なく、耐久力に関していえば、仲間たちの誰よりも高い。
神界でエクストラモードに達し、神器と神技を獲得した名工ハバラクの最高傑作の2メートル超えの神聖オリハルコン製の大楯2枚持ちだ。
・ライバック将軍の装備一覧
【武器①】オリハルコンの大楯:耐久力15000×3
【武器②】オリハルコンの大楯:耐久力15000×3
【防 具】オリハルコンの鎧:耐久力15000×3
【指輪①】耐久力5000、耐久力5000
【指輪②】耐久力5000、耐久力5000
【腕輪①】体力5000、耐久力5000、物理ダメージ20%減
【腕輪②】体力5000、耐久力5000、魔法ダメージ20%減
【首 飾】耐久力3000、耐久力3000
【耳飾①】耐久力2000、ブレスダメージ10%減
【耳飾②】耐久力2000、ブレスダメージ10%減
【腰 帯】土属性防御、耐久力10000
【足輪①】体力5000、耐久力5000
【足輪②】体力5000、耐久力5000
(ライバックさんは上位魔神相手でも攻撃を防げるからな。さて、この島の戦力であの威力なら)
アレンはこのヘビーユーザー島の戦力と置かれた状況の把握に努める。
この島には、アレンと仲間たち全員、アレン軍2万人、召喚獣ほぼ全部で上空を虫Aの召喚獣3万、地上には虫Bの召喚獣1000体だ。
何としてもアレン軍の戦力を減らすことなく忘れ去られた大陸へ到着しなくてはいけない。
盾使いたちが軌道をずらし部隊を外しても威力を完全に殺しきれなかったのか。
ヘビーユーザー島が砲弾の激突を受け続け、地響きがあちらこちらで鳴り、島を揺らす。
守備する際に受けた砲弾のダメージは、エルフ部隊が迅速に回復する。
『アレン様、次弾が来ますわ。さらに魔導兵器を増やし対応を予定しております』
アレン軍の動きと被害状況を確認していると虫Aの召喚獣の防壁の上空に飛ぶクワトロが要塞の外壁にいる魔王軍が新たな砲弾の発射準備が完了していることを捉えていた。
『よし、仲間たちはハッチたちに到達する前に砲弾を破壊するんだ!!』
アレンは1人でも多く魔王軍のいる大陸へ島を運ぶ必要がある。
仲間たちに対して次弾でやってくる砲弾を破壊するよう指示した。
「分かった! 真鳳凰破!!」
神器アスカロンを握りしめたクレナが返事と共に、自らの魔力を剣に込めると刀身は真っ赤に燃え盛り、砲弾目掛けて一筋の斬撃をお見舞いする。
上空には虫Aの召喚獣たちが防壁のように覆っているが、その隙間を縫うように燃え盛る斬撃が砲弾に向かって飛び出てしまう。
砲弾の進行方向を妨げるように正面からスキル「真鳳凰破」が切りつけられると、クレナが受けたバフの影響もあり、溶解しながら本体を真っ二つに切り裂いた。
砲弾程度の強度では神器から放たれるクレナのスキルには耐えられず、砲弾内に蓄積された魔力が炸裂する。
ドオオオオオンッ!!
「うわっぷ!?」
『ギチギチ!?』
『ギチギチ!?』
『ギチギチ!?』
全長5メートルを超える砲弾が爆発したとあって、爆音と共に衝撃波と熱風がヘビーユーザー島に襲い掛かる。
爆発のすぐ側の上空にいた虫Aの召喚獣たちは衝撃波で何体か吹き飛ばされ、虫Aの召喚獣の防壁が衝撃で輪のように吹き飛ばされていく。
ただ召喚獣たちもクレナも驚きを見せるが、圧倒的なバフを貰っていることもあり無事だった。
「なるほど、そうか。アレンよ、召喚獣の頭を借りるぞ。は!!
この場では獣神化していないシアが、十英獣たちと一緒に、天高く飛び上がった。
100メートルを超える上空を防壁となる虫Aの召喚獣の隙間から、召喚獣の防壁の上に上がる。
さらに、虫Aの召喚獣の頭を何体か、桟橋の上を渡るように蹴り上げながら軽快に駆けた後、砲弾目掛けて獣神ギランに貰った神器の靴で跳躍する。
「むん! 真地獄突!!」
メキメキッ
貫通力の高いスキルを選択したシアは、固い砲弾の外壁へ手刀を突き立てる。
獣神ガルムから貰った神器に覆われた拳が豆腐かプリン(海外版翻訳用)と思わせるほど深々とめり込ませると、砲弾がその体の維持が出来なくなり、真っ赤になり先ほどと同じく爆発する。
ドオオオオオオオオン!!
「ぐぬ!!」
爆発の衝撃や熱戦、砲弾外皮の破片を、左側の肩当てを盾に身を守りながら吹き飛ばされていく。
『シア!? 神器が増えたからと言って無茶をするな!!』
「ふん、この程度、無茶でもなんでもないわ!」
爆炎の中から余裕ありげにシアが飛びでてくる。
(結局、試練の末、さらに神器が増えているし。攻撃、移動、防御の神器3つ持ちか。というか才能が拳獣王から拳獣帝になっているし)
シアは武器として「獣神の拳」を、防具として「俊神の靴」と「風神の袖」を手にしている。
10日間の間に元古代神にして光の神アマンテに仕えていた上位神である風神ヴェスより「風神の袖」という左肩を守る肩当を手にした。
さらに、星4つの拳獣王からレベルとスキルを引き継いだまま、星5つの拳獣帝に変わった。
シアは仲間たちの中でもかなり驚異的にこの10日間の間に成長を遂げた。
今回の戦いに備えて、獣神ガルムは自らの関係するギランなどの神々も含めて全力でシアに力を与えたようだ。
「お前たちもついてこい!! 全て叩き落すぞ!!」
「おいおい、まじかよ!!」
「まったく。私は戦闘職ではないというのに……」
レペは絶句するものの十英獣たちがシアを囲むように飛び上がった。
神界での活動は一時的に離脱していたテミがため息をついて、シアの後を追う。
さらにアレンのパーティーも虫Aの召喚獣の頭を足場に武器を振るった。
「うらああああ!!」
ドゴラが飛び上がり、斧神バッカライから借りた神器ヘラルドと火の神フレイヤの神器カグツチ2本持ちで、十字に切りつけるように砲弾を破壊する。
「ふん、全て打ち落とせばよいのだろう」
神器である精王の弽ですでにSランクの魔石を神技「無限の矢筒」で矢に変えて背中に何十本と背負っているフォルマールは、神器ニニギの弓に矢をつがえる。
1キロメートル離れた位置にある砲弾をスキル「真天雨矢」によって分かれた矢がことごとく打ち落としていく。
「なんだ、俺の出番がないではないか」
イグノマスの周辺に砲弾は1つもないことに不満を漏らす。
仲間たちや十英獣が全ての砲弾を打ち落とすため、自分の仕事がないと、活躍してプロスティア帝国に凱旋を果たしたいようだ。
『油断するな。まだ攻撃はこれから……』
余裕を見せるなと仲間たちを一括しようとしたところで、魔王軍は新たな攻撃の準備を開始していた。
上空を飛ぶヘビーユーザー島のさらに上にいるアレンたちは、視界の先で魔王軍のいる大陸も、その上にある要塞もいくつか捉えている。
全速力でヘビーユーザー島へ向かわせた結果、砲弾を破壊しながら大陸まで30キロメートルから10キロメートルに距離を詰めていた。
だが、その結果、今まで攻撃を加えていた要塞の背後に構える2つの要塞が、ヘビーユーザー島の攻撃圏内に入っている。
『いけません!?』
クワトロの叫び声のような注意喚起と新たに攻撃圏内に入った要塞の攻撃が一致する。
新たに加えた攻撃に加わった2つの要塞が砲弾の魔導具よりも10倍以上の魔族たちが1つの魔造兵器の砲台に集まり、接近する島に対して攻撃の準備をしていた。
それぞれの要塞の最高指揮官の上位魔神が魔導兵器を指揮する魔神に指示を出す。
『よし、攻撃圏内に入った。煩わしい島を打ち落とせ! 魔王様のおわすこの大陸にあのようなものを近付けるな!!』
最高指揮官の声にそれぞれの魔導兵器を指揮する指揮官の魔神が魔力を注ぎ込む魔族の兵たちへ発射の指示を出した。
『は!! シノロム様が研究せし、メガロン砲の威力を見せつけよ!!』
ドオオオオオンッ
ドオオオオオンッ
(これはガンディーラが撃っていたメガロン砲じゃねえか!?)
超高熱のレーザービームのような攻撃で、島の下から2本の熱線の柱が上空へ貫通した。
これまで砲弾が落ちた時とは比にならない衝撃がアレン軍に襲い掛かる。
メキメキ
『魔導技師団! 島は無事ですか!!』
大穴を2ヶ所も開けられた島の状況をアレンは確認を取る。
「いけない。上空を維持するための魔導具がどうやら複数破壊されたようです。墜落します!! 重大な損傷を受けました! 航行を維持できません!!」
ヘビーユーザー島がゆっくりと高度を下げつつある中、駆動室で魔導技師団のドワーフたちが叫ぶのであった。





