第783話 攻略準備6日目:ルプトが残したもの
一晩過ぎて10日目に魔王軍を攻略する6日目となった。
アレン軍との定例会議が終わり、魔王軍との戦いに向けて、アレン軍、ヘルミオス軍、ガララ提督軍も随分形になってきた。
戦略艦は3艦目、4艦目の準備がすでに始まっており、責任をもって期日までに間に合わせるとの回答を得た。
昨日からアレンは目の前に格好の分析の対象だと言わんばかりに、シアと十英獣とガルムの戦いで、クワトロの覚醒スキル「選択眼」の理解を進めていた。
創生のスキル上げ、会議室への参加、5大陸同盟国の盟主との連携、天使Dの召喚獣、神Bの召喚獣の分析を進めつつ、魔王軍の威力偵察も忘れない。
(くそ、フカヒレで大陸内からの潜入を試みたが地中も駄目か。だが、必ず穴はあるはずだ)
地上全体にかなり強力な防壁を掛けているようだが、要塞の配置などの間隔は等間隔ではない。
隙間を突くように鳥Aの召喚獣を使って転移先の「巣」を設置できたが、探知する魔導具を持っており、すぐに破壊されてしまう。
魚系統の召喚獣は地上でも、活動できるよう、創造神かメルスの計らいで地面を泳ぐことができる。
成長スキルでスキルレベルを上げてステータスを強化して、海からそのまま地中を潜るように通過して潜入させているのだが、地中も探知できるようで、衝撃破のようなもので倒されてしまう。
(数十万の知力をもって看破してやる)
創生スキルを上げるため知力よりも魔力重視のステータスであるものの、アレンの知力はロザリナ、ソフィーのバフもあって数十万に達する。
アレンの知力は人智を超え、神の領域に到達しそうなほどの数値になっている。
圧倒的な知力を使い、今後の作戦にも関わってくるので、地上、地中、上空の全ての攻略経路を探り続けている。
アレンが気力を消耗させ、知力を使って思考を巡らせていると、ソフィーが話しかけてきた。
「あの? もう少し休まれては?」
アレンは、深夜ならと夜中の「忘れ去られた大陸」の調査や、昨日手にした覚醒スキル「選択眼」の分析でほとんど睡眠をとっていない。
ソフィーは精霊たちを使って、アレンの様子を確認し続けているのだが、表情からも明らかに疲労が蓄積していっている。
「ありがとう、まだ大丈夫だ。ん? のおおおおおお!! すごいぞ! 選択肢が無限に変更できるぞ!!」
真横で会話するソフィーたちの会話が遠のくほどの集中力をアレンは見せる。
「あ、あの? アレン様……」
「ソフィー、仕方ねえよ。魔王倒したら、いくらでも休めるんだし。俺たちはクレナたちの修行の応援に集中しようぜ」
「そ、そうですわね」
小学生低学年の見た目だが、既に王の器を手にしつつあり、どこか達観したことを口にするルークが、ソフィーを諭した。
一晩経って、昨日獣神ガルムに開放してもらった覚醒スキル「選択眼」が思いのほか汎用性があり便利なスキルであることが分かってきた。
アレンが分析を進める中で不満に思ったことは「こうげき」「ぼうぎょ」「にげる」「かいふく」の中に状況によっては不要なものが多いということだ。
例えば、逃げるつもりのない敵に対して「にげる」が入っているのはおかしい。
そもそも「にげる」の中には戦場からの「撤退」も戦闘中の「回避」の意味も含まれている。
攻撃にも魔法攻撃もあれば物理攻撃もあるし、それによって狙う先も変わってくるだろう。
そもそも防御の必要のない後衛職を相手なら「ぼうぎょ」を捨てて別の選択肢があった方が敵の次の行動が分かって良いだろう。
だが、この覚醒スキル「選択眼」の4つの選択は最大4つというわけで、変更が可能であった。
「こうげき」を1つとってみても、魔法攻撃、物理攻撃、遠距離攻撃、中距離攻撃、近距離攻撃、対象〇〇への攻撃など思いのまま変更可能であった。
スキルが分かるならスキル名を入れることもでき、それが最大4つまでの枠内に収めることができる。
(覚醒スキル「選択眼」の選択肢は無制限で速やかに変更可能。戦闘中切り替えていけたら戦いが随分有利になっていくぞ)
アレンは覚醒スキル「選択眼」の効果を魔導書に整理する。
【覚醒スキル「選択眼」の効果・発動条件】
・対象が「こうげき」「ぼうぎょ」「にげる」「かいふく」などどれを選択しているのか見える
・選択するものは「まほうこうげき」「えんきょりこうげき」「こうしょう」など無限に変更可能
・万里眼改、鑑定眼改、追跡眼改に必要な4つの枠と選択眼は別枠で使用可能
・対象は1度に最大4体
・対象それぞれに選択肢を変更可能
・全ての特技が「改」に変化し、効果が2倍になる
・素早さ10万上昇
・半径1キロメートルの周囲の回避率上昇
・効果は1時間の間に何度でも選択肢の変更、使用が可能
・クールタイムは1日
魔導書に整理しながらも、アレンは1つの考えが頭によぎる。
(なんだろう。ルプトが設定したんだっけ。すごい執念を感じるな。Sランクの召喚獣の覚醒スキルを1つが何で古代神の力がないと解放できないようにしたんだろう。それでいうとリオンも古代神繋がりか)
ルバンカは古代神だが今は随分力を失った風神ヴェスに解放してもらった。
グラハンは古代から存在する剣神セスタヴィヌスに解放してもらった。
クワトロは古代神の獣神ガルムに解放してもらった。
神Sの召喚獣リオンの解放には光の神アマンテと法の神アクシリオンの神器の欠片が必要だった。
ルプトが古代神に拘る理由をメルスに聞いても分からないと言われた。
Sランク召喚獣の設定を行ったルプトにとって、古代神だと都合の良い何かがあったのか強い意志のようなものを感じる。
『今戻ったぞ。4艦目に作業入ったぞ。10日を待たずして進水作業と試運転に取り掛かれそうだといっておったぞ』
アレンが思考を巡らせていると、バウキス帝国のドッグの様子を見ていたリオンが戻ってくる。
リオンの言葉に今すべきことを思い出す。
「リオンはメルスを手伝ってくれ。俺は魔法神の神域に移動する」
『あい、分かった』
リオンに次から次に指示を出すのだがメルスほどの不満を見せることはない。
アレンはピラミッド構造の底の部分を2つくっつけたような構造の魔法神の神域へと転移した。
2柱の夫婦の神域で、上部は魔法神イシリスの研究施設で、下部は時空神デスペラードの時空管理システムとなっている。
今回用事があるのは、上部の魔法神イシリスの研究施設だ。
時空神と魔法神の神域、両方の1階層には、各階層への転移してくれるキューブ状の物体が浮いている。
『こんにちは。どちらの階層へ移動しますか?』
「魔法神様の研究施設の最上階へお願いします」
『かしこまりました』
アレンの全身を金色に輝く幾何学模様が包み込み、魔法神のいる最上層へ移動する。
アレンの目の前では4人組のドワーフが、大人が入るほどの試験管を囲み、管内に浮かぶ魔導コアに手元のタッチパネルで何やら作業しながら話し合っている。
ボコボコ
「魔力量を上げろ。魔導コアはまだ魔力を内包しても耐えられるはずだ」
「衝撃はどの程度だと考えている。素材もだが魔力障壁も考えないと」
「魔導具との連結時にこれ以上、魔力出力量を増やしたら衝撃時に弾けてしまうぞ」
「だが、一点突破では貴重な魔導コアなのに効果が最大限発揮されない……」
小学生くらいの身長のドワーフたちが計測器のデータや管内の溶液に浮かんだ魔導コアを見ながらワチャワチャと会話している。
「……順調のようですね」
「おお! これはアレン総帥!!」
「いらしていたのですね!」
「最大出力量の魔力吸収量の計測中です!!」
「魔導コアに接続する魔導具との反応のデータをとっています!」
「ありがとうございます。明後日には訓練で確認したいのでよろしくお願いします。ララッパ団長は奥ですか?」
「はい! 団長は奥です!!」
ララッパ団長を女王様のように敬愛する魔導技師団の配下の者たちは返事が良い。
奥に進むと残りの配下の者、魔法神、時空神に囲まれたララッパ団長がいた。
(時空神も魔法神も俺の作戦に協力してくれて助かる。ん?)
全員が屈んでいるのだが、背の小さいララッパ団長が急に立ち上がり、アレンの視界に入ってくる。
「やったわ! 起動したわよ!! 天才なのよ!!」
ブウウウウウウン
ギュイイイイイン
パアッ
「さすが団長です!!」
「かっこいいです! 団長!!」
「世界の中心に団長はいます!!」
配下のドワーフたちの称賛を浴びる団長の前の前でいくつもの魔導具が管などで接続している。
アレンが来たタイミングで魔導具の起動が開始したようで、魔導具内で何かが高速で移動するような音が流れ、さらに、数メートル上空に魔法陣が生じる。
『素晴らしいですね。イシリスさん』
『ひひっ。時空管理はあなたが得意とするところ!!』
さらに時空神と魔法神が夫婦でお互いに褒め合っている。
『こ、こんにちは。魔力の接続を確……認しました。……指定先の転移ポイントの復旧を開始します……。記録された……。転移ポイントは1つ……。』
「おお、転移先の復活いけそうだな!」
起動を開始したセリフにアレンが反応する。
人間界でもトップクラスに魔導具に精通したララッパ団長や配下のドワーフたちには、戦略艦の改造より優先してほしいことがあった。
魔導コアの活用と、魔王軍が時空神の神域で置いていった魔導具を活用できるようにすることだ。
「あ、アレン総帥、来てたのね! いけそうよ! 魔王軍もアホね。こんな貴重な魔導具を置いていくなんて。でも私の天才的な頭脳を持ってしまえばチョチョイのチョイよ!!」
団長が自慢しそうになったところで、ドワーフたちが集まって、昔の体育会でよく見た人間ピラミッドを作る。
軽快に跳ねるように上がったララッパ団長が決め顔で遠くを指さしながら勝利を宣言した。
(ふむふむ、敵軍の兵器は鹵獲するもの。これで転移先の問題が解決しそうだな)
上空、地中から潜入しても魔王軍に発見され召喚獣は倒されてしまう。
地上に転移先の「巣」を設置しても速やかに破壊されてしまう。
解決する一手が今、目の前で達成しそうだ。
アレンはララッパ団長を見上げていたが、今回のアレンの作戦に協力してくれた2柱の神々へ視線を移した。
「時空神様も魔法神様もご協力いただいてありがとうございます」
『いえいえ。転移先の指定と利用は問題ないでしょう。魔王軍に干渉されないようもう少し調整が必要でしょうが。お礼を言いたいのは私たちですよ。ルプト様を助け出さなくてはいけないからね』
(神々のできる最大限のことをしてくれたってことか)
『る、るぷとには世話になった。おかげで古代魔法の復活が叶った』
(ん? なんだと? お陰で?)
「え? ルプト様?」
「そうなのよ。ルプト様が古代魔法の復活に必要な素材を提案してくれなかったら……」
「団長、もう少し詳しく教えてください」
「ちょ、ちょっと総帥!?」
ドワーフで作った人間ピラミッドの足元を確認するようにへっぴり腰で降りてきたララッパ団長の言葉に、アレンは両肩を掴んで大きく反応する。
「ルプトが古代魔法の復活に関係しているという話ですか?」
「そ、そうよ。必要な素材の提案とか、私たちがいたころからあれこれ助言してくれたし。ルプト様が第一天使になって数年、ずっと協力的だったらしいわよ。忙しい中ね」
『そう、ルプト様のおかげで私の研究は完成をみせた』
どうやら第一天使ルプトと古代魔法は随分関わり合いがあるようだ。
結果、古代魔法が復活しセシルが必死に体得しようとしている。
(ルプトが第一天使になって3年も経たないんだが。どうやら俺たちが知らないといけない何かがあるようだな)
「ルプトを助け出して聞きたいことが出てきたな……」
アレンは誰に言うこともなく呟いた。
何やら「古代魔法」の存在にルプトの強い意志のようなものを感じる。
魔王軍と戦う1つの問題が解決しようとする中、新たな疑問がアレンの中で沸いて来ようとしているのであった。





