第782話 攻略準備5日目:獣神の報酬
アレンは獣神ガルムに用事があると言う。
『儂にかの?』
「はい。実はゼウさんより伝言からもう1つを頼まれておりまして」
「ゼウ兄さまがか?」
獣神ガルムに話しかけたのに、ゼウの用事とあって、革袋の果実水を飲みながら休憩するシアが横から会話に参加する。
「はい。実はゼウ様が原獣の園にいる獣人たちについてもアルバハル獣王国への受入れの準備を進めると言っております。なんでも、人間界に馴染めるよう新たな町を作ってそこに住んでもらうことも計画しているのだとか」
(ゼウさん、神界での獣人の暮らしを危惧していたな)
時期獣王になったゼウは、早速自らの意思で行動を始めた。
ガルレシア大陸の盟主たるアルバハル獣王国の獣王になったゼウは、魔王軍との戦いのため物資と人員の応援要請の号令を上げた。
さらに、神界の原獣の園にいる数万人の獣人の暮らしについても心配していた。
原獣の園の獣人たちは中央大陸に取り残され、圧政に苦しんでいた際に獣神ガルムが神界に連れてきた者だ。
シャンダール天空国にも獣人はいたらしいのだが、神界人との間に生まれる子供は全員獣人になるらしく、神界でも迫害され、現在は原獣の園にしかいない。
ゼウは神界では生きづらいだろうからアルバハル獣王国で受け入れる用意があることを、アレンは言伝を獣神に伝える。
『……それで望みは何かの?』
「え?」
『とぼけるでない。儂はゼウと直接連絡ができるのは知っておろう。お前らの会話見ておったのじゃ。ついでに大精霊神からも良い返事がなかったようだの』
「……全てご存じで」
(全てお見通しか。まあ、ゼウさんのことずっと監視しているようだし。獣王との関係があるんだから、もし、獣人たちが人間界に戻りたいって思うなら時の獣王に、獣神として命令してやれば一発だったわけだ)
ようやく理解したかと獣神はニヤニヤしている。
アレンは剣神セスタヴィヌスに、グラハンの封印された覚醒スキルを解放してもらった。
Sランクの召喚獣の覚醒スキルを解放する方法のヒントは無く、アレンのレベル250まで上げても解放されず途方にくれていた。
上位神である剣神セスタヴィヌスなら封印が解けるようだ。
同じ上位神ならばとあれこれ神界の活躍をちらつかせ、大精霊神に、草Sの召喚獣であるペクタンの覚醒スキルの解放を求めた。
大精霊神からは「私には封印の解除はできません」と断られてしまった。
【Sランクの召喚獣の覚醒スキルの解放に可否について】
・風神ヴェスは、解放可能
・剣神セスタヴェイヌスは、解放可能
・火の神フレイヤは、不可能
・風神ヴェスは、古代神である
・剣神セスタヴェイヌスは、古代神である
・火の神フレイヤは、古代神ではない
・風神ヴェスは、上位神だった
・剣神セスタヴェイヌスは、上位神だ
・火の神フレイヤは、上位神ではない
【Sランクの召喚獣の覚醒スキル解放条件】
・上位神になったことがある古代神の力で解放してもらう
ここまでの試行と挑戦が、Sランクの召喚獣の覚醒スキルの解放には、古代神の力が必要なようだ。
『焦るのも分からないではないが、「選択」を誤らないようにの』
「申し訳ありません。何か試練が必要なら5日以内に済むものでお願いします」
アレンは仲間で召喚獣のメルスの双子の妹で第一天使ルプトのために頭を下げた。
『なるほど、何でもするか。その言葉に偽りはないかの?』
「はい。もちろんです」
「あ、アレン!? すみません、ガルム様、試練が必要なら私も協力させてください!!」
「……シア、お前は自分の修行に専念してくれ」
獣神ガルムが覚悟を問うように静かにアレンに詰め寄ったため、慌ててシアが間に入ろうとする。
アルバハル獣王国の獣王女として生まれたシアは、獣神ガルムはどれほど厳しい存在か知っている。
だが、獣神はシアを見ることもなく、白眼のないどこまでも奈落の底のような瞳をアレンに向けてくる。
『何でもするのか? 冗談では済まされぬぞ』
獣神の全身から神力が溢れはじめ、アレンに吹き付けてくる。
ゴゴゴゴゴッ
「お、おいおい。まじかよ。って、うおおおおお!?」
休憩していた十英獣のレペが会話を聞いていたところ、獣神の圧に全員が吹き飛ばされそうだ。
上位神が自らに秘めた神力を荒ぶらせただけなのだが、ホバたちも、あまりの力に地面に体を低くし必死に耐えている。
「もちろんです。試練を与えていただきありがとうございます」
足に力を入れたまま、その場で頭を下げ続けている。
『……まあ、よかろう。選択を誤らなかったしの。ゼウやシアにもよくしてくれたし、ほれ、報酬じゃ。どいつにするのじゃ、シアの修行の途中じゃ、はよしてくれ』
今の問答とこれまでのアレンの獣王国のゼウやシアにしてきたことを鑑みて報酬を出してくれるようだ。
(む? 選択系のクエストだったのか。圧迫面接だったが。さて、ほとんど封印解けていないけど)
「1体でしょうか?」
鳥、草、魚、竜、天使、神など、ほとんどのSランクの召喚獣の覚醒スキルが封印されている。
何体まで封印が解除されるのかで優先順位が変わってくる。
アレンの中から漆黒の欲望が溢れてくる。
『欲を出すと今回の話はなしじゃ。あと誰でも良いわけじゃないからの。あれこれ召喚獣がいるようだが、儂の系統に近い者にしてくれ』
「は、はい。近いのであれば、クワトロをよろしくお願いします」
まるでなかったかのように欲望を仕舞い込んだアレンは返事する。
アレンは手の中に特技「幼雛化」で手のひらに収まるクワトロを獣神ガルムに差し出すように両手ごと向ける。
召喚獣と解放できる上位神の傾向のようなものがあるのか分からないが、元剣聖のグラハンを剣神が封印を解放してくれている。
既に獣Sの召喚獣のルバンカは覚醒スキルを解放されているので、獣神に対してクワトロをお願いしてみる。
獣神の信仰を集めるガルレシア大陸には獣王国があれば、鳥人国家もある。
『クワトロじゃな。こやつも儂がせっかく聖鳥にしてやったものの……。皆、恩知らずばかりじゃ』
『獣神ガルム様、その節は申し訳ありません』
3獣と呼ばれた、ルバンカ、クワトロ、マクリスだが、ルバンカとクワトロは獣神ガルムが聖獣にしたらしい。
これまでの経緯もあって、一瞬不満を顔に出した獣神だが、クワトロによぼよぼの骨と皮だけの小枝のような腕を向け、手を開いて神力を放出した。
ポワッ
「おお!! クワトロが輝いているぞ!!」
『まあ!?』
獣神ガルムの神力を浴びたクワトロの羽が煌めき始める。
ブンッ
『ほれ、これで良いかの?』
『鳥Sの召喚獣は覚醒スキル「選択眼」の封印が解けた』
魔導書には確かにクワトロの覚醒スキルの解放のログが流れている。
「おお! すごいぞ! ルバンカ、グラハンに続いてクワトロも覚醒スキル解放されたぞ」
(ここにきて、こんなに短期間でのSランクの召喚獣の強化と新覚醒スキルは助かるぞ!)
先ほど注意されたこともあり、顔に出さないようにして、アレンは魔導書でクワトロのステータスを確認する。
・覚醒スキル「選択眼」発動中のクワトロのステータス
【ランク】S
【名 前】クワトロ
【体 力】40000
【魔 力】40000
【攻撃力】40000
【耐久力】40000
【素早さ】50000+100000
【知 力】50000
【幸 運】40000
【加 護】素早さ5000、知力5000、回避率上昇
【特 技】万里眼改、鑑定眼改、追跡眼改、浮遊羽改、幼雛化改
【覚 醒】不死鳥の羽、聖珠生成、選択眼
「……選択眼か。サポート的な能力っぽいな」
『まったく、何か報酬を貰ったら儂に対する敬意がなくなったぞ……。もう二度とやらん』
アレンは、まるで誰もいないかのように獣神ガルムの目の前で魔導書を開いて、ブツブツと言いながら分析を開始した。
「おい、そろそろ。我らの休憩は終わりよ。すまぬが、そこは危ないぞ。検証ならもう少し端でやった方が良いぞ」
「おお、そうか。すまない」
アレンが魔導書を見ながら大広間の端に移動すると、入れ替わるように獣神に対してシアと十英獣たちの戦いが始まった。
コンボの特訓のようで、いかに息を合わせて、10人で一体となって戦うかの勝負のようだ。
(選択眼か。とりあえず、攻撃っぽくないし味方に使ってみるか。クワトロ選択眼だ)
覚醒スキル「選択眼」発動中のためか、4つの目が輝いている特技「幼雛化」で肩に乗るクワトロに指示した。
『はい、シアさんに選択眼ですね』
カッ
ライトを照射するように4つの目に輝きを増すと、クワトロと共有したアレンの思考にも何かが文字や矢印が現れた。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
神技「獣神化」が解除されたため、獣人の姿で獣神に対してナックルを振るおうとする。
【シアの選択する次の行動】
⇒こうげき
・ぼうぎょ
・にげる
・かいふく
(攻撃を選択したシアがそのまま獣神ガルムを殴ったな。避けられたけど。お? 獣神にも選択眼使用できるな)
【獣神ガルムの選択する次の行動】
・こうげき
・ぼうぎょ
⇒にげる
・かいふく
『単調な攻撃じゃな。ほれ』
「うわ?」
「我の背に入るのだ!!」
【ハチの選択する次の行動】
・こうげき
・ぼうぎょ
⇒にげる
・かいふく
【ホバの選択する次の行動】
・こうげき
⇒ぼうぎょ
・にげる
・かいふく
獣神ガルムに攻められた剣獣帝ハチが下がり、ホバの背に隠れようとする。
ホバは筋肉を強張らせ、重心を低くし、獣神が腰から回転させ振るわれた尾を、錘を盾のように前に突き出して身を守ろうとする。
「ぐは!?」
「へば!?」
しかし、防御も退避も獣神ガルムの振るう尾には盾の役割は果たされなかった。
2人とも大広間の床石の上をピンポン玉のようにはねて転げる。
(すごいな。敵も味方も次に何をするのか分かるようになったぞ。フェイントを避けられるってことか。でもなんだ。予知する能力なのか? 効果範囲は。どれくらい先まで見れるんだ)
決まった運命のようなものを先読みする能力なのかとアレンは疑問に思った。
その前でシアはホバとハチが吹き飛ばされ、「こうげき」を選択したシアの選択眼の結果が変わる瞬間を捉える。
「くっ! 盾役を務めるホバが吹き飛ばされてどうする。皆もいったん下がれ」
シアは前衛役を務める仲間たちにいったん引くように指示し、自らもバックステップで下がり、獣神から距離を取る。
【シアの選択する次の行動】
⇒こうげき
・ぼうぎょ
・にげる
・かいふく
【シアの選択する次の行動】
・こうげき
・ぼうぎょ
⇒にげる
・かいふく
(なるほど、これは対象に最新の意思を反映させているのか。フェイントも偽装も不可能というわけか)
次の行動を変更したら、選択結果も更新され変化する。
戦いの中で攻防に何を選択するのか分かることは、相手の先を行くことができると考える。
魔王軍との戦いに備え、新たに手にしたクワトロの覚醒スキルをさらに分析するアレンであった。





