第773話 攻略準備2日目:神Bの召喚獣
2日目の午後、昨日約束していた定例の会議を進めながらも、神界闘技場の剣神の道場の中央に作った畑でメルスと一緒にスキル「生成」やスキル「創生」を続けている。
アレンたち畑担当の周りで、キール、ソフィー、ルークが畑の端まで溢れるようになった桃の形をした「天の恵み」や、金色に輝く「金の卵」を拾い、自らが持つ魔導袋に収納していく。
また、リオンと一緒に3体ほど召喚した霊Aの召喚獣たちが、魔導書に入れたり、霊力や魔力回復用に「天の恵み」や「旬の味覚」を発動する。
『……』
人間界方々に回って、皇帝や国王などとの調整が済んだメルスはこの場に意識がなく無言で特技「天使の輪」を使用し、天の恵みを生成し続ける。
(霊力回復薬は天の恵みのように全回復するようなのがないからな。メルスの秒間回復がせめてもの救いか)
草Hまで創生のスキルレベルを上げたが、範囲1キロメートルで全体に1万回復の霊力回復の草Gの召喚獣の「秋の味覚」までしか獲得することが出来なかった。
※秋の味覚、旬の味覚の効果があまりにも低いので効果10倍に調整
それに比べてメルスの天使Bの召喚獣の効果はバフや霊力の秒間回復効果の特技や覚醒スキルがあって便利だと思う。
【アレンの装備する霊力回復】
・霊力回復リングS×2
体力30000、魔力30000、霊力秒間5%回復
・三界の腕輪×2
体力50000、魔力50000、霊力秒間10%回復、クールタイム半減
【メルスの天使Bの召喚獣「マラカス」の特技と覚醒スキル簡易版】
・特技「情熱のサンバ」
体力、魔力が1万上昇し、魔力及び霊力が秒間3%回復する。
・覚醒スキル「ハッピーカーニバル」
体力と魔力が3万上昇し、魔力及び霊力が秒間5%回復する
「オキヨサン、天の恵みを使用するタイミングを1・5秒ほど早くしてくれ。魔力が足りなくなっている」
『はい。ケケケ!』
神界なので霊力は自然回復するが、魔力については装備やスキルの効果があっても自然回復しない。
高速召喚でとてつもない速度でアレンもメルスも魔力が減っていくため、なくならないよう天の恵みを使用し、2人の魔力を全快する必要がある。
2人の魔力のついでに回復魔法やバフをかけているキールやソフィー、スキルを使って訓練をするクレナたちの魔力も一緒に回復する。
メルスの視線の先では、鶏の姿をした鳥Hの召喚獣たちがお尻から金色に輝く卵を1つずつ産んでいる。
『コケッ』
『コケッ』
『コケッ』
ポンポンッ
(さて、支援物資のための天の恵みも大事だが、創生のスキルレベルを上げていくぞ)
メルスがSランクになり霊力を手にしたおかげで、2人がかりで「金の卵」を創生できるようになった。
なお、メルスがスキル「創生」を発動してもアレンのスキル「創生」の経験値にはならない。
各軍に提供する天の恵みは100万個、金の卵は10万個を想定している。
『なんだか、すごいことになっているな』
リオンが5、6個の卵を片手にそれぞれ同時に掴んで淡々と魔導書に入れる。
その横でソフィーが心配そうに声を上げた。
「あの……。アレン様、そろそろお休みしませんか?」
「ん? ああ、もう少ししたら……」
「昨日の晩も同じようなことを言っていました!」
何時まで聞いても変わらないアレンの言葉にソフィーが語気を荒げる。
アレンは魔王軍の侵攻を受けた3日前より、時間が惜しいとばかりにほとんど食事をとらず、一睡もしていない。
5大陸同盟の盟主などと魔王軍との戦いを調整し、アレン軍の作戦指揮を行いながら、戦略物資を生成や創生をし続けている。
(ホークたちを飛ばして忘れ去られた大陸の調査も始めているけどかなり厳しいな。これほどの防壁を築いているとはシャレにならんぞ)
アレンが同時に取り組んでいることは他にもある。
それは魔王軍攻略に向けた情報収集だ。
鳥Eと鳥Aの5組10体の召喚獣を魔王軍の本拠地である忘れ去られた大陸に飛ばしており、調査を進めながら、今後の作戦に組み込もうとしている。
だが、魔王軍の邪魔が入り、上手く情報は収集できないし、攻略の糸口は見つからない。
アレンは共有したメルスからも湧き上がる焦りや激しい怒りを感じる。
『必ず……』
無言でスキル「生成」やスキル「創生」を使用するメルスだが、意識の全てを魔王軍の調査にかけると言わんばかりに、共有した鳥Eの召喚獣たちに向けている。
なお、勝手に転移して魔王軍の下へ向かわないよう、メルスの特技「天使の輪」に使用権限から鳥Aの召喚獣の特技や覚醒スキルを外している。
アレンは未だに生成と創生を止めないので睨み続けているソフィーに意識を戻した。
「ソフィー、仲間を失う後悔に比べたらどうってことはない。クレナたちのスキル強化に引き続き協力してくれ」
「で、ですが……」
「アレンはたぶん折れないぞ。あきらめようぜ」
ソフィーはルークに言われ渋々、この場は折れて後ろ髪を引かれる思いで、視線をクレナたちの特訓に向けた。
(できることは全てやって完全に悔いを残さないようにしないと。魔王軍は俺たちが攻めてくることは分かっている上に絶対に罠が仕組まれているからな。その上で、攻略本もセーブポイントもない世界か)
アレンは前世で健一だったころ、初めての魔王討伐には入念に準備して、レベルを上げ、装備を整えた。
それでも、初見での挑戦だと準備が足りず、魔王とのボス戦に負けてしまい、城の外の街にあるセーブポイントからやり直すこともあった。
今回は、罠満載の魔王城へ、敵側が設けた期限内に戦いを挑まないといけない。
何の事前準備が必要かも分からないし、当然、やり直しは効かない。
失敗は魔王軍のさらなる強化と、人間界の破滅を意味し、仲間たちの命、それぞれの故郷の国にいる大切な家族もきっと失われるだろう。
(できる限りのことを)
アレンはさらに意識を集中させて、創生スキルの速度を0・1秒でも早くと加速させていく。
2日目の夕方を終え、夜になろうとしている。
魔導書に表紙にログが表示される。
『創生2巡目のスキルのレベルが8になりました。神Bの召喚獣を召喚することができるようになりました。創生スキルは2巡目が全て召喚可能となったため、創生スキル3巡目を解放します』
魔王軍と戦うための最優先事項の1つである創生スキル2巡目最後であるレベル8に達成した。
(ほかのスキルと違ってマックスのスキル経験値が100億で助かる)
強化や生成などはスキルレベル9だが、さらに上げるためにはスキル経験値1000億を必要としている。
他のスキル経験値上げを最小限にして、創生スキル上げに集中したおかげで、ようやくスキルレベル8に達することができた。
「よし! 神Bだ! おお、何か金色に輝く羽織のようだぞ!!」
アレンがあまりに大きな声で叫ぶため、ソフィーたちの意識が畑側に持っていかれる。
だが、仲間たちはアレンのスキル「創生」のレベルアップが分かり、これから何が始まるのかも長い付き合いで分かっているため、これ以上何も言わない。
(分析を進めるぞ。出てこい天神羽織! これは絶対リオンの防具だ!!)
早速、アレンはスキル「創生」を使用して神Bの召喚獣を召喚した。
金色に輝く和風の外套のようなものが出てきた。
そのまま屈んで金の卵の回収を手伝うリオンに、背中に羽織るように降りてくる。
『おお、儂の防具だな。力が僅かに上がったような気がするぞ』
「そうだな。創生しただけだとBランクだから成長スキルでSランクまで成長させるぞ」
【種 類】神
【ランク】B
【名 前】天神羽織
【体 力】3000
【霊 力】2000
【攻撃力】2000
【耐久力】3000
【素早さ】3000
【知 力】1800
【幸 運】1600
【加 護】全ステータス1000、不死耐性
【特 技】斥力障壁
【覚 醒】荒神舞
アレンは引き続き、スキル「創生」のレベル上げを行いながら防具を手にして意気揚々と神Bの召喚獣の効果を分析する。
長時間に渡る分析の結果、粗方理解が進んだところで0時を回った時間帯になった。
『よし、皆、今日の訓練はそこまで。中央で軽く水分補給したら、外に出て拠点で休んでくれ。クレナ、今朝みたいにコッコの特技で起こされないようにな』
鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を使い、仲間たちに指示を出した。
「はあ、疲れた~。うん、分かったよ~」
剣神の斬撃を受け続けたクレナがふらふらと歩きながら返事する。
鳥Hの召喚獣の特技「朝の目覚め」の鳴き声は睡眠中の対象者を一気に目覚めさせる効果がある。
「ふう、疲れたわ。ロザリナ、もう少し早く休みたいわよ」
中央で歌いながら仲間たちにバフを与え、スキル上げに勤しんだロザリナが、ソフィーが渡したコップに注がれた果実水を飲み干して、道場の外へと向かっていく。
道場の外では、拠点の魔導具を設置しており、仲間たち全員が休むことができる。
アレンがクレナの下へと向かうと、お互いの視線があった。
(さてと、このまま正攻法に仲間たちに修行させていても期限内に強化できるとは限らないからな。交渉が大事だぞ)
目標の神Bの召喚獣を創生できるようになったアレンは次の一手に動き出した。
「はぁはぁ。疲れた。お腹空いた……。ん? アレン? どこ行くの? 休まないの?」
食事などの休憩を除いて、朝早くからずっと特訓していたクレナがアレンの行動の違和感を覚えて話しかけた。
仲間たちも異変に気付いたアレンの向かう先には剣神が神器アスカロンを担いで立っている。
『あん? どうした? 神妙な顔をして、殺気が漏れているぞ?』
剣神セスタヴィヌスが、アレンが剣を握りしめながら向かってくるので、何だとニヤニヤしながら余裕な感じで問いかける。
「はい。まだ頂いていない報酬がございましたので」
『あんだと?』
「以前のお約束の通り報酬を賭け、剣での試合をお願いしたいのです」
2日目の終わり、剣を握りしめるアレンが剣神に語り掛けた内容に、道場は緊張感を増すのであった。





