第772話 攻略準備2日目:軍議
9月23日、魔王軍との戦いまでの準備期間だと2日目だ。
昼過ぎになって、ヘビーユーザー島では、先日の会議室よりも広い100人以上が集まれる会議室にアレン軍の将軍、副将軍、隊長、副隊長たちを呼んだ。
ララッパ団長は、時空神の神域に魔王軍が置いて行った、時空神の管理システムに干渉した機材の解析などを進めているため今回は参加していない。
会議室の上座には鳥Fの召喚獣が1体、机の上にとまり、アレン軍の指揮官たちの報告を聞いている。
昨日の会議は今日のための作業指示するためのものだった。
物資の状況を把握するよう指示を受けたエルフのルキドラール将軍が資料見ながら報告する。
「……物資の状況は以上です。倉庫や各部隊に振り分けたものがありますが、そちらについては後程、資料をまとめたいと思います」
『昨日からの対応依頼でありがとうございます。申し訳ありませんが、食料や弓矢などについても明日までに報告お願いします。また、明日以降も日々の増減見込みも含めて資料にまとめてください』
「……は!」
鳩の姿をした鳥Fの召喚獣からアレンの細かい指示が淡々と発せられる。
ルキドラール将軍は一瞬「そこまで」という言葉を発しそうになったが、飲み込んで大きく返事した。
『ではブンゼンバーグ将軍、全軍の才能の星の数と職業レベルはどのようになっていますか?』
この世界での一般的な表現ではないが、軍の最高指導者であるアレンの意向で、才能や職業レベルの表現は「星の数」や「レベル」によって表現が統一されている。
「は! 全軍将軍の星の数は5つ、副将軍は4つ、部隊長は……」
ダークエルフのブンゼンバーグ将軍は昨日から各軍に聞き取りを行ってまとめた資料を読み上げていく。
【アレン軍の戦術物資】
・天の恵み30万個
・香味野菜12万個
・魔力の種20万個
・命の葉10万個
・金の卵50万個
【アレン軍の才能の星の数と職業レベル】
・全部隊、将軍は星5つ、スキルレベルはブンゼンバーグ将軍のみ5、それ以外は6
・全部隊、副将軍は星4つ、スキルレベル6
・全部隊、隊長は星4つ、スキルレベル6
・全部隊、隊長は星4つ、スキルレベル5
・エルフ族部隊、一般兵、星の数は4つ、スキルレベル6は80%
・ダークエルフ部隊、一般兵、星の数は4つ、スキルレベル6は60%
・獣人部隊、一般兵、星の数は4つ、スキルレベル6は70%
・人族部隊、一般兵、星の数は4つ、スキルレベル6は80%
・魚人兵、一般兵、星の数は4つ、スキルレベル6は70%
・ドワーフ兵、一般兵、星の数は4つ、スキルレベル6は80%
(ふむふむ、アレン軍に向けて天の恵みとか補充してきた続けてきたけど、これ以上の分は各国に配布したら良いか。ローゼンヘイムが提供できる食料量の報告を督促してと)
アレンは報告を聞きながら、魔王軍との戦いに備えた物資の状況、才能や職業レベルについても分析していく。
元々、スキルレベル上げの副産物として大量の天の恵みなどの回復薬を作ってきたが、一部は訓練などで消費され、それでも魔王軍との戦いに備えた十分な量があると分析する。
ただ、食料について、アレン軍自体が広い領土を持っているわけではなく、ヘビーユーザー島という八丈島ほどの島を持っているに過ぎない。
生産した食料はヘビーユーザー島の2万人ほどの市民も必要なものなので、過度に戦場に持っていくわけにはいかない。
兵站を用意するにも時間とコストがかかるものだ。
今後各国に提供する予定の天の恵みなどと食料を交換しようかとアレンは考える。
特にローゼンヘイムは精霊の力を借りている上に、恵みを振りまく世界樹もあって、緑豊かで食料の生産量は他の大陸よりも突出して多い。
【転職ダンジョンの編成】
・去年4月、転職ダンジョン開始(アレン軍結成)
・今年4月、転職ダンジョン改開始
【転職ダンジョンと転職ダンジョン改の違い】
・転職ダンジョンは1回だけ、最大星4つまで転職できる
・転職ダンジョン改は、転職ポイントを消費し、最大星5つまで転職できる
(まさかこんなに職業レベルがカンストしていないの、去年今年何していたんだ。いや、この辺の数値目標を上げていなかった俺の責任か。特にダークエルフの成長不足が顕著か)
各軍の職業レベルの低さに愕然とする。
アレンの基準だとノーマルモードでスキルレベルのカンストなど3ヶ月もかからないと考えている。
本気を出せば1ヶ月で職業レベルカンストが可能だが、アレンのために金策して、軍としての戦闘訓練を行いながらでは厳しかったようだ。
さらに、軍の編成についても、魔王軍と戦ってきた人族、ドワーフ、エルフはレベル、職業レベル共に高い者たちがアレン軍に入ってきた。
その後、アレン軍に参加した獣人については、元々屈強なシアの私設兵であり即戦力となった。
女帝ラプソニルがそれなりに訓練を積んだ魚人兵をアレン軍に参入した。
ただ、ダークエルフについては、里との交易を最小限にし、外で狩りをすることも少ない若い兵たちをアレン軍に参入させたことで成長の遅れを見せているようだ。
鳥Fの召喚獣経由でブンゼンバーグ将軍に向けて語り掛ける。
『……以降の報告は職業レベルがカンストした副将軍が行ってください。将軍は職業レベルのカンストが必須です。ダークエルフ部隊の職業レベルのカンスト80%以上が必要です。他の種族については90%以上が最低目標です。多少の天の恵み、魔力の種の使用を許可します。場所はS級ダンジョン最下層、メンバーの選定は本日中に……』
(ダークエルフの部隊は若手な上に魔王軍との戦闘経験もない者たちで構成されているからな。同じく魔王軍と戦ってこなかったシアの部隊の施設兵の荒くれ者たちとは随分差がでているな)
アレンは将軍の職業レベルのカンストの指示と、ブンゼンバーグ将軍の配下の部隊長たち主体となってダークエルフも含めて本日中に、個別具体的に、どの部隊の誰をどこまでスキル上げをするのか報告するように求める。
余剰分の魔力回復リングやマクリスの聖珠によって作った腕輪、回復薬および草Fの召喚獣の覚醒スキル「ハーブ」を提供するので、1日最低15時間スキル上げを行うよう指示する。
アレンの言葉を聞くブンゼンバーグ将軍が圧巻される横で隊長格がメモ役として、日程ややるべきことを記録する。
「足をひっぱるつもりはないです。期日までに鍛えていきます。しかし、私が離れるのは……」
アレンの話がようやく終わったところで、ブンゼンバーグ将軍が異を唱える。
『ブンゼンバーグ将軍、魔王軍は指揮官役から優先して狙ってきます。神界ではオリハルコンの武具を提供した守人長が殺されています。これは軍全体の生存確率を上げるため必要なことです』
返す刀はすでに用意しており、将軍強化の理由をブンゼンバーグ将軍に伝える。
魔王軍は指揮官の価値をよく分かっている。
自軍の戦術を配下に命令する指揮官を失うと、どれだけの人数の部隊であっても、撤退などの判断が遅れ、瓦解は容易だ。
『将軍の立場は飾りではありません。皆さんは誰よりも生き永らえ、兵の命を守るために指揮を取ってください』
「は!」
「は!」
「は!」
続けて語られるアレンの言葉にここに集まった全員が腹から納得したのか、一様に返事して頭を下げる。
将軍に優先して転職ポイントを消費して転職させ、オリハルコンなどの武具を提供するのも理由があった。
『では、勇者軍との連携に向けた調整をライバック将軍、ガララ提督軍との連携はザウレレ将軍にお願いします。ルキドラール将軍は副将軍と共にローゼンヘイム、それと大変かと思いますが他の大陸の盟主との物資の連携をお願いします』
アレンは各将軍に向けて指示を続けていく。
(あとはバウキス帝国のドックか。こっちは俺とリオンで調整するか)
アレンは、先日、5大陸同盟の盟主に対して「戦略艦」の提供を依頼している。
こちらについても早速動き出しているのだが、アレン軍は手がいっぱいのようだ。
リオンをお使いに出して状況の確認をしようとしたと頭を巡らせる。
「我らは何もないのか。ルキドラール将軍やブンゼンバーグ将軍の負担が大きいのでは?」
ブンゼンバーグ将軍に課せられた鬼特訓を聞いた後のためか、他の将軍が承知の旨の返事する中、ここで名前の挙がってこなかったルド将軍が声を上げ、ラス副将軍も将軍の考えに同意を頷いた。
『もちろんあります。軍での戦いになれたルド将軍には最も大事な戦闘集団の構築をお願いします。今回の戦いは各種族の混成による作戦も考えられます。将軍たちが聞き取った各軍の構成および勇者軍、ガララ提督軍の共闘に必要な軍の構成や配置の検討をお願いします』
(俺だけで戦術の全ては練れないからな)
「ぬぐ?」
結構重たい指示が来て、ルド将軍は一瞬、息を飲み込んだ。
各種族が集まったアレン軍は、その種族によって、得意、不得意に大きな差があった。
【アレン軍の各部隊と特徴】
・エルフ族部隊、弓隊、精霊魔法(回復、バフ)
・ダークエルフ部隊:弓隊、精霊魔法(攻撃、デバフ)
・獣人部隊:剣隊、槍隊、弓隊
・人族部隊:盾隊、剣隊
・魚人兵、槍隊、補助魔法
・ドワーフ兵:ゴーレム(タンク)、魔導具(攻撃、バフ、デバフ)
各種族は物理が得意なのか魔法が得意なのか、遠距離が得意なのか近距離が得意なのか、または人族部隊の盾隊やドワーフのゴーレム部隊のように、同じタンクだが、機動力まで考慮するとさらに大きな特徴の差があったりする。
部隊をどのように配置するのか、指揮系統も含めて戦術を練るようルド将軍に伝え、毎日、考えた戦術を定刻に報告するように伝えた。
『ラス副将軍は、ライバック将軍およびザウレレ将軍の聞き取った勇者軍とガララ提督軍の状況をルド将軍に伝えてください。戦術は勝ち戦だけとは限りません。負け戦の場合の撤退戦の想定してください』
複数の案を考え、さらに、理想論ではなく、具体的に兵たちが動けるよう依頼する。
「……は!!」
ぎりぎり元気よく返事をしたラス副将軍の横で、ルド将軍が頭から煙を上げている。
明日の昼間に次回を予定して、本日の軍議が終了したのであった。