第769話 攻略準備1日目:戦具調達
アレンはヘビーユーザー島に状況を確認するようにとメルスを向かわせた。
そこに、メルスと代わるようにメルルが意気揚々と朝からお願いしてくれていたことを報告してくれる。
メルルたちには残り日数が少ない中、大地の神ガイアの神域である大地の迷宮で大事な仕事を頼んでいた。
それは魔王軍と戦うための武具の調達だ。
仲間たちが武具神たちの試練を受けているのだが、それだけで魔王との戦いが万全となるわけではない。
「アレン、全然問題なかったよ。ハバラク先生たちを無事、オリハルコンの鉱脈まで連れて行ったよ。大地の首飾りってすごいね」
「そうか。守らないといけない人が多かったけど助かったよ、メルル。おかげで武具の調達が捗るぞ」
(メルルは褒めたら伸びる子だ)
「へへっ」
メルルたちが大地の迷宮に向かった目的は武具を作ってもらうため、名工ハバラクとその仲間たちを大地の迷宮80階層に連れていくことだ。
現在手にする神聖オリハルコンは仲間たちに振り分けるには十分な数ではなく、日数制限がある中、ハバラクだけでは十分な武具を用意出来そうにない。
今回は大地の迷宮入り口にいるハバラクが連れてきた9人のドワーフの鍛冶職人たちも参加させようとアレンは判断した。
大地の迷宮の80階層には、神聖オリハルコンの鉱脈と鍛冶するための工房が用意されている。
この工房は神界や人間界などほかの工房に比べてもはるかに速い速度で武具を叩き上げることができる。
80階層にいくには段取りが必要だ。
時間をかけて攻略しても80階層は行けるが、工房でオリハルコンを叩く時間がない。
まず、ハバラクたち10人を守りながら10階層にある隠し扉を目指す必要があった。
大地の迷宮には10階層ごとに宝物庫などの隠し扉があり、10階層は最短の隠し扉にあたる。
アレンたちは大地の迷宮80階層にいる土の化身アンドレを倒したおかげで、どの扉の鍵を開けても、階層を超えて目的の扉の先へ移動できる首飾り「大地の鍵」を手に入れた。
この「大地の首飾り」は装備枠のため、同じく装備枠の「大地のハンマー」同様に大地の迷宮にハバラクが装備したまま持ち込むことができる。
10階層の隠し扉に「大地の鍵」を使用すると80階層のオリハルコンの鉱脈へと繋げることができ、大幅に攻略が捗ることができる。
おかげで大地の迷宮の攻略時間をたっぷり残してハバラクたちにはオリハルコンの武具を準備してくれている。
また、ハバラク自体は星5つの鍛冶職人の才能があるが、9人の鍛冶職人たちは星4つあり、全員、オリハルコンの加工ができる。
なお、今回の武具調達とは関係ないが、大地の首飾りを装備するとRTAのレギュレーション違反となり、攻略時間の記録は無効になると、大地の神の使いの土偶に説明を受けた。
(戻ってくるのが遅かったのは店で工具を揃えるのに時間を食ったかな)
ただし、80階層に向かえば良いというわけではない。
オリハルコンの攻略を掘るためのツルハシなどは迷宮内で準備する必要がある。
10階層に向かう前に迷宮内の宝箱や店で事前に持ち込んだハンマー以外のオリハルコンの鍛造に必要な工具は準備を現地調達する必要がある。
帰りが思いのほか遅かったのは、現地調達に時間が掛かったのだろうと予想する。
アレンは止まることなく天の恵みを生成し続けながら、大地の迷宮にはこれから何度か向かわせることになるので改善点などを模索する。
大地の迷宮の罠察知に優れたロゼッタが朝からのひと仕事を終え、キールから貰った冷却の魔導具で良く冷えた果実水で、喉を潤していると、道場の上部の上座に位置する「神技体」と書かれた掛け軸の背後が輝きだす。
(おっと、昼過ぎだからな。勇者たちも訓練から抜けてきたのかな)
パアッ
クレナの背後の神棚にかけられた掛け軸を払うように、勇者ヘルミオス、剣帝シルビア、剣帝ドベルグが出てきた。
「あれ? ロゼッタ。戻ってたんだ」
朝から武神とその配下の天使たちに揉まれて疲れた3人が休憩スペースに向かい、ソフィーとキールによく冷えた飲み物を貰う。
「すまぬ」
「助かるわ」
老体とは思えぬ筋肉隆々のドベルグがシルビアの横で、冷えた果実水を一気飲みする。
「どうです。武神流武術は習得できそうです」
「……問題ない。アレンよ。我は魔王城に入るからな」
「まだ作戦は検討段階ですが考えておきます」
「単身でも囮でも構わぬ」
「単身にはさせません」
「もう、囮も駄目だよ。アレン君も分かっているね」
ドベルグの圧に負けて1人で魔王城に突っ込む作戦などするつもりはないと返事していたら、ヘルミオスから、囮に使ったらいけないと改めて忠告される。
(話しかけたせいで念を押されたな。かなり昔の話だと聞いてるし、魔王城に妻のクラシスさんがいるとは思えないけど)
今回の作戦指揮を行うのはアレンが主体となっていることをドベルグは分かっているようだ。
武神の下で最後とも言える激しい訓練を受けているドベルグには、とうとう魔王城を攻めるまでに至れたと老体とは思えぬほどの闘気を漲らせている。
英雄のドベルグは妻のクラシスを魔王軍との戦いで、夫婦がお互い20歳の頃に失ったらしい。
自らも片目を失い重傷を負ったのだが、どうもクラシスは行方不明なんだとか。
魔王の住まう魔王城のどこかに生きていると信じており、自らも作戦での魔王城突入に加わりたいようだ。
打倒魔王を最優先の作戦となるため、どのような形の作戦にするのか、現在検討中であるのでハッキリとした答えを言い切らないアレンに、ドベルグは昨日から圧を掛けている。
「あら? もう、訓練良いの?」
「キリが良くてね、ロゼッタ。いや~、試練終わったのにまだ訓練するとは思わなかったよ」
武神より休憩するように言われたらしい。
仲間のメルルや勇者ヘルミオス以外では、竜王マティルドーラが『渡すものがある』とハクを連れて竜神の里に戻ってしまった。
ドベルグが鬼気迫る顔で訓練に臨み、ガララ提督が酒を惜しむように残りの日数を考えて皆が行動に移しているようだ。
【魔王軍神界侵攻後の主な活動先】
・アレンとパーティー:神界闘技場
メルルとタムタム:大地の迷宮
シアと十英獣:原獣の園
ペロムス:ヘビーユーザー島
セシル:時空神の神域
・ガララ提督とパーティー:大地の迷宮
・ヘルミオスとパーティー:武神の神域、大地の迷宮等
・竜王マティルドーラ、ハク:竜神の里
・ゼウとテミ:アルバハル獣王国
「それで終わったら僕たちどうするの?」
アレンが魔導書のメモに皆の活動先を記録し、対応漏れがないことを確認していると、メルルから声が掛かる。
「……済まないが、メルル。他にもして欲しいものがあるが、今は天使たちの道場の復旧を手伝ってくれ」
「うん、分かった」
剣神の道場の側には天使たちが訓練する大きな道場がある。
今回の魔王軍の侵攻で半壊したのだが、まだ翌日で復旧はまだのようだ。
次回の大地の迷宮へハバラクたち鍛冶職人たちを送るまで道場の復旧に手伝ってほしいとアレンは言う。
「それで会議はまだ?」
冷たい果実水を飲み干したヘルミオスが会議の状況を確認したところで、アレンの意識を共有する視界に向けると、メルスからヘビーユーザー島の状況を伝えてくれる。
『戻ったぞ。ヘビーユーザー島は軍議の準備が万全のようだ』
メルスがアレンたちに説明すると、アレンは仲間たちに声を掛けた。
『軍議の準備が整ったようだ。じゃあ、えっと、キール、ソフィー、ルークは会議出席で。イグノマスもこっちに来てくれ。ヘルミオスさんはどうします? あとガララ提督はもちろん参加しますよね』
当たり前のように少し遠くにいる人に声をかける場合、これまでに身に付いた習慣で、鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を使い共有する。
鳥系統の召喚獣は指揮官としての役目のあるアレンにとって有用な特技や覚醒スキルが多い。
「アレン、私も出るわ。ヘルミオスだけじゃ何聞いたか後で確認するの不安だし」
「シルビア、それは助かるよ」
ギアムート帝国出身で学園のころから一緒にいるシルビアがヘルミオスのフォローに一緒に参加すると言う。
(ヘルミオスとシルビアは参加するとして)
「ああ? 俺は1人でいいぜ。お前らもメルルと一緒に道場の復旧手伝ってやれや」
「へい」
「へい」
「へい」
「あとザウレレ将軍もアレン軍として会議に参加願います。配下の皆さんは道場の瓦礫の撤去作業に移ってください」
「分かったのである。皆、天使様たちのご遺体があるかもしれぬ。丁寧に対応するのである!」
「は!」
「は!」
「は!」
声を掛けられなさそうなことが分かったドベルグがズイッとアレンの前に出る。
「わしも参加するぞ」
「もちろんです。席は十分にありますよ、ドベルグさん」
圧を流しつつドベルグの会議出席を了承して、残った皆にも声をかけておく。
『朝から訓練しているから残りの皆は休憩するなり昼食も済ませておいてくれ。今日は深夜まで訓練するからな』
「おう!」
『うむ、わらわの使徒よ、その意気じゃ。飯にするがよい』
「ごはんだ!!」
クレナやドゴラは中央にある休憩スペースでワラワラと集まってくる。
『メルスは代わり、天の恵みを作っておいてくれ。リオンもだ』
『そうだな』
メルスは最初に話し合ったおかげで素直に天の恵みを生成し続けている。
『引き続き収穫を手伝うというわけだな。儂の記憶にはないがきっと生前もこんなことしていなかったと思うの』
リオンの前世は神界を支配していた法の神アクシリオンだ。
全ての神を支配するほどの絶大な力があったらしく、おそらくだが農作業はしていないだろう。
そこまで言うとアレンは会議に出席の仲間たちと配下のアレン軍と一緒に、ヘビーユーザー島へ転移した。
転移した先はメルスが設置してくれたヘビーユーザー島の中で、30人規模で参加するための会議室だ。
30人が座るほどの円卓が並べられており、既にアレン軍の将軍と副将軍たちが席についていた。
軍を総統のアレンがやってきたので思わず席を立つと、横から声がかかる。
「あら、やってきたわね。準備は整っているわよ」
転移早々に会議に必要な魔導具の設定を行っているララッパ団長と目があった。
「では、皆さん、席についてください」
アレンが魔王軍と戦うための作戦会議を始めようとするのであった。





