第766話 問われる日数①
アレンたちは魔王軍との戦いに備えるため、神界に入る試練を超え、神々の試練を受けていた。
試練を受ける仲間がいる中、突如やってきた魔王軍の侵攻によって神界は攻められる。
時空神の神域にある時空管理システムに突如現れた魔王軍の幹部は、上位魔神から魔神王になっていた。
魔王軍総司令オルドー、参謀キュベルを筆頭に、六大魔天という名称の魔王軍幹部を冠するマーラ、ビルディガ、ガンディーラ、それに元人族のバスクが時空管理システムを利用して現れる。
さらに、上位魔神と魔神が合わせて1000体が神界に転移してきて、戦いになろうかというかというところで、魔王軍が時空神の神域、神界闘技場、シャンダール天空国に一気分かれて移動を開始し暴れ始める。
アレンとそのパーティー「廃ゲーマー」、勇者ヘルミオスとそのパーティー「セイクリッド」、ガララ提督とそのパーティー「スティンガー」、さらにゼウ獣王子と十英獣が必死に応戦する。
現地で戦う竜人の守人たちや獣人の協力、神界人の神兵が犠牲を出しながらも応戦し、神々や天使たちの参戦する大きな戦いとなった。
魔王軍の狙いを探りながらの戦いで、まもなく撤退の準備を始めたところでマーラが動き出す。
マーラによってホマルを攫われる寸前で、メルスが救出に入り引き連れていた上位魔神たちと一緒に撃破する。
第一天使となったホマルを狙っての動きだと考えていたが、真の目的は第一天使ルプトにあった。
時空管理システムの発動が残り数秒のところでキュベルによってルプトが魔王軍の根城である魔王城に連れていかれてしまった。
魔王軍総司令オルドーと魔神王バスクに対してクワトロが発動した特技「追跡眼」によって、魔王軍の根城である魔王城の様子を伺うことができた。
魔王軍の真の狙いは、創造神エルメアの神力が注がれた第一天使ルプトを魔王が食らい力を取り込めば、魔王はさらなる力を得ることにあった。
その力を持って、最終的に創造神エルメアを食らい、魔王が世界の新たな理となろうとしている。
これは人間界を含めた世界の終わりを意味した。
今にも魔王の腹の口に食べられそうなルプトであったが、キュベルが待ったをかける。
ルプトを食べれば、神界との全面戦争になるため、それまでに時空管理システムの準備をしておく必要があると言う。
さらに、魔王城の謁見の間の様子を見るアレンとメルスであったが、キュベルは覗き込んでいることに気付いていた。
魔王がルプトを食べるのは、王軍の準備が整う10日後のため、アレンたちはそれまでに攻めてきたらよいと不適な笑みを零しながらルプトを救う機会を与えところで、クワトロの特技「追跡眼」が解除された。
今、この場は魔王軍から神界を救ってくれた礼としてシャンダール天空国の天空大王が、アレン、ヘルミオス、ガララ提督、ゼウ獣王子とその仲間たち、また奮戦した守主のアビゲイルを広い会場に呼ばれ、食事を振舞われている。
天空大王と同じ席でもてなしを受けながら、魔王軍の様子を伺っていたアレンであるが、ルプトが攫われた理由を皆に伝えたところ、場は一気に緊張感を増す。
(これは罠だな。さて、どうするか今後の話をする必要がある。この場には俺たちだけでなく勇者やガララ提督たちもいるからな)
アレンは様子を見た内容を説明した後、仲間たちを見つめる。
仲間たちは怒ったり、ルプトを心配そうにしたりと様々な表情を見せているが、パーティーリーダーのアレンの次の言葉を待っているようだ。
アレンはこれからの話をする前に視線を正面に座る天空大王に戻した。
「……この広間を使うとよい。我らは夜が遅いので休ませてもらおう。使用人を残すゆえに、何か必要なものがあれば言ってくれて構わない」
「神界ではたくさんの方々が亡くなったのに、お心遣い感謝します」
神界にやってきたときは、神の使いのような態度で、随分尊大な王だと思った。
霊獣を狩った際にとれる霊石や霊晶石を神界人の妊婦の腹に与えると天使が生まれる。
与える霊石の数や霊晶石の質によって、生まれてくる天使が大天使であったり、第一天使など格が変わってくる。
神々を支える種族としての誇りがあるからか、神々の神域を挑戦するにも霊晶石を求めるなど、様々な条件を課してきた。
今回、率先してシャンダール天空国に侵攻してきた魔王軍と率先して戦ったこと、王城内の魔王軍を撃退したことなどに対する感謝の気持ちだろうか。
(失った大事な者たちもいそうだけど)
アレンが天空大王の憂いに満ちた表情を見ていると、再度口が開いた。
「ジーゲンは余が生まれた時から仕えてくれていた。……魔王に対する思いは我らも同じであった。協力は惜しまぬ。何かあれば相談してくれ」
大王たちを神界船で逃がすため謁見の間に残り、魔神王マーラに殺された宰相らしい神界人の名を口にする。
その後、寝息が周りに聞こえそうなほどぐっすり眠った第一天使ホマルを王妃が抱きかかえると、天空大王は背中を支え寄り添いながら、神兵や大臣たちと共に大広間から出ていった。
アレンは仲間たちと守主のアビゲイルと、お茶などを用意する天空大王に仕える使用人たちだけとなった。
天空大王のいなくなったアレンの座る席にパーティーの仲間たちが座り、ヘルミオス、ガララ提督、ゼウ獣王子たちがテーブルを囲んだ。
「それでどうするの? アレン、ルプト様を助けに行くんでしょ」
クレナが不安そうにアレンに問う。
「当然だ。メルスの妹だし、助けないと魔王の強化につながる」
魔王軍があれだけの犠牲を払いながらも第一天使ルプトを攫ったのは、それだけ、魔王の目的に対して王手に近い作戦であったからだろう。
第一天使ルプトを吸収すると、魔王はさらなる力を手にし、人間世界など簡単に滅んでしまうかもしれない。
「そうだよね。うんうん、そうだよね!」
質問したクレナやメルルはアレンの答えにホッとするのだが、他の仲間たちには聞きたいのはそれじゃないという顔をしている者もいる。
(決めないといけないのは「いつ」助けにいくかだよな)
助けに行くかどうかで、この大広間を使って話がしたいわけではない。
仲間たちの誰もがルプトを助けに行くと考えている。
問われているのは助けに行くタイミングだ。
だが、魔王軍の参謀であるキュベルは第一天使ルプトを魔王が食らうまでの猶予期間を10日間態々与えた。
いつ助けに行くのかアレンの考えが仲間たちは知りたいようだ。
ヘルミオス、ガララ提督、ゼウ獣王子とその仲間たちもアレンの考えをまず聞きたいと黙っている。
守主のアビゲイルは人間界のことなので、静観を続け、過度に自らの態度は示さないようだ。
「……俺は10日後に救出に向かうで良いと考えている」
『な!? 10日後だと!!』
仲間たちは大なり小なり反応する。
納得するものもいれば、拒絶反応に近い者もいる。
だが声を荒げてまで反応を示したのはメルスだけであった。
(メルスのすごい怒りが共有越しに伝わってくるな。当然か。召喚獣になってからも思っていたのは妹であるルプトだけだったからな。10万年生きたメルスとルプトの血縁なんてお互いしかいないだろうし)
メルスの中に内在する激しい怒りが沸き上がってくるのを、アレンも共有越しに感じる。
だが、思わず声を出してしまっただけで、これ以上何か言おうとしない。
メルスは召喚獣になった。
自らも召喚獣を受け入れた。
だが10万年共に生きた妹は大事だ。
すぐにでも助けに行きたいが召喚獣としての役割がある。
魔王軍の作戦を見破れず、目の前でルプトを攫わせたのは自分だ。
反省と怒りと自らの役割など複数の感情が入り乱れるが、結局、目を瞑って自らの言葉は抑え込み、話し合った内容を優先する選択をする。
(さて、この場で他に話をしそうな人は……。セシルは今も試練中だな)
アレンは世界中を冒険して、たくさんの仲間たちをこれまでに作ってきた。
仲間たちの共通の目標は魔王を倒すことにあるのだが、その考えは様々だ。
クレナやメルルはルプトを助けに行くという答えで満足している。
ソフィーならどんな考えでもアレンの決断を優先してくれるだろう。
ドゴラやロザリナは仲間たちの相談の結果、決まった方針を優先するのか、何も言わない。
ペロムスは自らの力に未だに自信がないので静観している。
イグノマスはプロスティア帝国の反乱の罪で、アレンの仲間となり、魔王と戦っているため、魔王を倒すという選択さえしてくれたら、それ以上を求めない。
未だに時空神の神域で魔法神に与えられた古代魔法を扱う修行を積んでいるセシルだったら何を言うだろうか。
自らの考えを持って行動するシアに対して、あるなら何か言えと言わんばかりアレンは見つめると口を開く。
「……だが、それだと魔王軍に10日間の猶予を与えると言えるのではないのか。それにルプト様を10日間、絶対に生かしておくなんて保障もなかろう」
怒りも戸惑いもない表情のシアは、別にアレンの考えに反対しているわけではないようだ。
ルプトを助けに行くと決まったが、いつ行くのか、仲間たちの中でできるだけ「納得感」が得られるようアレンとは違う考えをぶつけているように思える。
「たしかにそうだな。だが、なぜあの時、ルプトを食べようとする魔王をキュベルは止めたんだろう。今、食べて困ることが魔王軍にあったのは間違いないのでは?」
オルドーに差し出されたルプトは、今にも魔王に飲み込みそうなところで、態々、キュベルが止めた。
いつでも食べられるのであれば、あのままだったら、邪魔が入らず確実に食べることができた。
キュベルはアレンたちがのぞき込んでいることに気付いた上であのような茶番をする必要はないとアレンは言う。
「だが、我らをおびき出すための演技だったとも言える。我らは結局何度も魔王軍の作戦を挫いてきたのだ」
シアはアレンたちがキュベルにしてやられることが大きかったが、それでも最大限の目的が達成しないよう邪魔をしてきた。
魔王軍の目的に邪魔なアレンたちをこの機会に倒すことが目的ではとシアは言う。
「たしかにな。魔王をこれまで何度も邪魔をしてきた。俺たちを一掃するためのお膳立てをする準備に10日間が必要だったとも言えるな。だが、ルプトを食らえば、次は神々だと言う魔王に対して、俺たちは随分、持ち上げられたものだ」
対象が自分らであるなら、それが10日後じゃないといけない理由が分からないとアレンは言う。
「キュベルの言う10日間必要なことに偽りはないと言うわけか」
「少なくともな。なぜ10日間必要だったのか。本当に目的は奪った時空管理システムの制御のためなのかは分からないな」
「なるほど、日数は必要だがそれは我らが10日後に攻めたいという考えになることにはならないな」
シアはアレンの考えに自らの反論をぶつけてくるのであった。
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