第762話 魔神王マーラ戦
【魔王軍撤退まで残り30秒】
第一天使ルプトはアウラたち3体の大天使を引き連れ、2階層の神界船の発着場にやってきた。
突然現れたが転移のスキルを使用したのだろう。
ルプトはホマルを抱え震え、腰を抜かす王妃の前に浮いている。
「おおっ! ルプト様!!」
「お守りに来てくれました!」
突然現れたルプトに対して天空大王が驚きながらも倒れ込んだ王妃を支えるため、小走りで歩み寄る。
神兵たちが王族らに追随し守りを固める。
(ベストタイミングだったな。ルプトも魔王軍の狙いが分かって、向かった先が収束したのか。このタイミングで発着場に来れたってことは、王族たちを船で神界に逃げるよう案内したのもルプトで、前もって連絡してくれていたのかな)
急に現れ驚くメルスの視界にルプトが現れた。
ビルディガが時空管理システムの起動に対して必死に時間を稼いでいるように、まもなく魔王軍は撤退する。
その前に何らかの作戦があるとアレンは考えたのだが、それはルプトも同じだった。
ルプトたちは大精霊神たちを呼び寄せた後、第一天使ホマルを助けるため、王都ラブールに向かったようだ。
第一天使と神界の王族を広大な神界へ逃がすため、もしくは、ホマルを追うことを分かっていたルプトが守りに来たのだろう。
『やっぱり来てくれたね、お兄ちゃん』
『当たり前だ。だが、俺たちが気付かなかったらどうするつもりだ。お前らでは手が余るだろう』
ルプトとメルスが、上位魔神2体を両側に挟んだ魔神王マーラ越しに、お互いに普段よりも言葉が砕けた口調で話をする。
眼下では、上位魔神の一撃によって破壊された神界船がさらに距離が離れ小さくなっていく。
ゆっくりと大天使アウラたちが戦場からの避難も兼ねて、ピラミッド構造の下の階層へ降下させているからだろう。
『……ふん、それで勝ったつもりですか!』
『そのつもりだ。このまま、のこのこと帰れると思わぬことだ。目録発動!!』
メルスが特技「天使の輪」の管理者権限を発動し、アレンのスキル「目録」を使用する。
(上位魔神2体と魔神王1体か。マーラは魔法系だから耐久力も耐性も低いし倒せるか。いや、こいつも何か考えているな)
こんな神界に対して甚大な被害を与えた魔王軍を1体でも多く狩る必要がある。
生きて返せば、作戦が失敗したと、また同じようなことをしかねない。
今回の魔王軍の侵攻でたった1時間かそこらにもかかわらず、数万人の竜人や神界人が命を落とした。
神界闘技場で訓練に励んでいたが、殺された天使は数千体に上り、被害はとても大きい。
知力の高いアレンはマーラの表情に違和感を覚える。
まだ、作戦達成の策はあるとマーラは踏んでいると思っていたら、まだ奥の手があったようだ。
『あなた方を殺せば私の目的は達成される! 上位魔神どもを殺しきれなかったのが貴様の敗因です! 必ず第一天使ホマルを持ち帰り、魔王へ捧げるのです! 究極の魔法を研究していたのは魔法神だけではないことを思い知りなさい!!』
マーラはメキメキと自らの体を変貌させていく。
全てのステータスが5万上昇させたようだ。
【名 前】マーラ
【年 齢】187200
【種 族】魔神王(変貌・バフあり)
【体 力】334050+50000(武器、防具枠)
【魔 力】388000+100000
【攻撃力】245000
【耐久力】274250+50000
【素早さ】271000+50000
【知 力】388000+150000
【幸 運】206000
【攻撃属性】無、攻撃魔法発動時間半減、クールタイム半減、魔法ダメージ50%増
【耐久属性】無、魔法耐性(強)、回避率(強)、状態異常(強)
(惜しげもなく目的を晒しただと……。ステータスは5万増えたな。こ、これは!!)
敵が作戦をさらけ出すのは、別の目的があるか、確実に目的が達成の手段があるのかのどちらかだろう。
マーラの全身に魔力が巡り始める。
攻撃を選択したので、どうやら後者で、目標達成に向けて邪魔者を倒せる圧倒的な攻撃手段があると判断する。
(一撃で倒しきらないとやばそうだぞ。発動より先に叩け、メルス!)
アレンも応援に行きたいのだが、ビルディガとの戦いで手が出せない。
『分かっている。大剣……』
メルスは天使B「双剣」から天使B「大剣」に武器と特技、覚醒スキルの威力が高いもの選択する。
『あら? 助けも来ないとは……。ふふ、全ての手を出し尽くしたようですね。あなたたち、魔法を放つまで私を守りなさい!!』
『うあああ!!』
『うあああ!!』
2体の上位魔神がマーラの壁になるよう、自らが身を挺して盾となる。
その中で全魔力を両手に魔力を込めながら、笑みを零し、壁となっている上位魔神たちに語り掛ける。
『……いい子です。あなた方の魔力も分けなさい! いいえ、命の全てを!!』
『ああうおおぉ!!』
『ああうおおぉ!!』
さらに2体の上位魔神の20万を超える魔力を吸収し始めた。
(おいおい、壁と魔力タンクとして10体を連れていたのか。長い時間かかる魔法もこれなら安心して使えると。合理的だな。さて、感心している場合じゃないぞ。上位魔神ごといけるな?)
上位魔神たちは、マーラの攻撃のための魔力タンクと詠唱を邪魔させない防御のため使う様だ。
ルバンカたちSランクの召喚獣たちは2体ずつ分かれた上位魔神たちとの戦っている最中で手伝いに来れそうにもない。
『やってみるしかないだろう。ルプトはホマルらと一緒にもっと下がってくれ。霊魔結合……。裁きの雷!!』
メルスはSランクになって使用ができるようになった特技「霊魔結合」を発動する。
その後、全魔力を込め自ら振り上げた天使B「大剣」に全魔力を込めた雷を振り下ろす。
(さて、ステータス差はこれで倍以上になったはずだが。壁役ごと叩き切れるかな。だが、マーラが魔力を練るのに時間をかけてくれて助かる。だが、その分発動されたらひどいことになりそうだけど)
この世界にはステータスがあり、その優劣によって、勝敗が左右される。
だが、ステータスが2倍だからと言って、一撃で倒しきるのは難しい。
それでも、4倍、5倍とステータス差があるなら、一撃必殺も可能になる。
大天使で師範代のムライが剣神流ではクレナよりも優れていたのだが、魔王軍総司令オルドーの攻撃に、ムライは瞬殺され、転職を繰り返し、レベルをカンストさせたクレナは耐えたのは、ステータス差も理由だ。
現在、メルスはバフも込みで霊力と魔力がそれぞれ30万弱あり、攻撃力は48万だ。
魔神2体の耐久力は20万ずつで、マーラは33万だ
全魔力と全霊力を消費して覚醒スキル「裁きの雷」を発動後、天の恵みで全魔力と全霊力を回復させた後、メルスは全魔力と全霊力を大剣に集めていく。
『トールスラッシャー!!』
メルスは覚醒スキル「天使の裁き」を天使B「大剣」に込めた後、覚醒スキル「トールスラッシャー」を発動させながら、マーラの下へ向かう。
【霊魔結合の効果】
・特技・覚醒スキルを2回分、同時に発動することができる
・1回目の攻撃が2回目の攻撃に乗る
・1回目の攻撃を発動させないといけない
『あうあ!?』
1体の上位魔神が水平に切り裂かれながら絶叫すると、もう1体の上位魔神が慌てて壁に割り込もうとする。
バリバリッ
雷を纏ったメルスの大剣が2体目の上位魔神を切り裂き、マーラの横腹に到達する。
『ぐふ!? だが死になさい! 第一天使ホマル以外は塵となって崩れ去るのです!! 滅びた楽園!!』
メルスの大剣を横腹で受け、紫の血を吐血するのだが、それでもマーラは2体の上位魔神と自らの全魔力を込めた魔法を発動させようとする。
発動すれば絶対に勝てるという自信があるのか、空間が歪むほどの魔力を込めるマーラからは笑みが零れていた。
『うおおおおおおおおおお!!』
メルスが必死の形相で切り裂こうとするのだが、全魔力と全霊力2回分の消費と攻撃力48万でも、2体の上位魔神によって威力が殺され、マーラを倒し切れなかったようだ。
マーラの手から溢れる漆黒の魔力が無数の髑髏を象り、メルスに向けられる。
必死に切り込むメルスの大剣はこれ以上深く、マーラの腹部に裂けない。
まさに、詠唱が終わり、魔力が消費され、マーラの魔法が発動しようという時に、ルプトが大声で叫ぶ。
『お兄ちゃん! サポートするわ!! クリティカルエナジー!!』
第一天使ホマルたちを遠ざけていたルプトがメルスに補助スキルを発動させた。
待機している間に霊力を練り、サポートする準備をしていたようだ。
今にもメルスの顔にマーラの禍々しい魔法が触れようとしたところで、両手に力が漲ってくる。
ズバッ
『がは!? こ、こんなことが!!』
ギリギリのタイミングでメルスは魔神王マーラを腹部から全身を上下に一刀両断した。
(クワトロ、観察眼だ! よし! 体力が0になったぞ!!)
ルプトのサポートもあり、メルスの大剣で叩き切られ王都ラブールの床石に叩きつけられたマーラの体力はなくなり、上半身だけになった切り口から漆黒の煙を上げ、今にも絶命しそうだ。
『ま、魔王様、申し訳ありません。もう少しで魔王様のお力になれたのですが……』
落下して床石に叩きつけれれたマーラは、メルスによって切り裂かれた漆黒の羽がマーラの体に降り積もる中、懺悔と後悔の言葉を口にする。
(上位魔神たちは殲滅したぞ。ギリギリの戦いだったが、なんとかなったのか。ん? これは?)
アレンとメルスが同時に安堵の表情を浮かべる。
メルスがルプトに対して、抜群のタイミングで補助をかけてマーラを倒そうとしたことに礼を言おうとする。
アレンとメルスが同時に向けたルプトの視線の先、魔法陣が現れることに気付いた。
【魔王軍撤退まで残り5秒】
『何言っているんだい。君のお陰で目的は達成したんだよ。偽りの作戦だったのに良く働いてくれたね』
ガシッ
アレンもメルスも何度も聞いたキュベルの声があたりに響く。
『がは!?』
背後から突然、キュベルが首元を掴んだため、ルプトが目を見開くのであった。