第759話 撤退戦シャウパサイド
【魔王軍撤退まで残り3分00秒】
シノロムが時空管理システムを使い、魔王軍は撤退を開始したようだ。
大精霊神イースレイを筆頭に精霊神ローゼンや精霊王や大精霊たちのバフを受けた竜人、獣人、神界人たちが必死に戦う。
メルスがタイミングを見て、原獣の園から竜人を6万人ほど呼んだ。
一緒にやってきた獣人たちも数千人規模で参加している。
この6万人は要塞の外壁の上から霊獣を狩るためにアレンの依頼で選ばれた遠距離攻撃のエクストラスキルを持つ者たちだ。
6万人の竜人たちは半円を描くように、前衛である元から王都で戦う竜人たちの周りに陣を引く。
大地の神ガイア、風の神ニンリル、水の神アクアの属性神の戦いも激しさを増す。
シノロムが掌握した時空転移システムで90体の化身となった魔神たちが新たに戦闘に参加するのだが、数の面で、神界側が圧倒的に優勢だ。
ドゴラは、メルスが王都ラブールへ向けて飛び立つ様を見て思わず声が出る。
「お、おい! またかよ!!」
『……』
メルスがドゴラに答えることなく、王都近隣都市シャウパ上空から魔神王マーラを追って、凄い勢いで戦線から離れていく。
しかし、鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を使い、戦場にいる者たちへの指示は欠かさない。
『勝利は目前だ! 守主のアビゲイルは、部隊の陣形を固め、遠距離攻撃に務めよ!! 強力な敵はアレンの仲間たちと神々が倒す故に獣人、神界人も含めて絶対に深入りするな!! 召喚獣を壁役に配置する故に、しばらくの辛抱だ!!』
メルスは、竜人たちを指揮する最高指揮官の竜人で守主のアビゲイルに陣形は固めるよう、指示をする。
大精霊神が精霊神たちを引き連れやってきており、属性神たちも参戦した状況で無理をするなと釘を刺した。
アレンのパーティーはロザリナを筆頭にバフを掛けられ、大精霊神や精霊王たちが加護を振りまいている。
【種 類】魚
【ランク】F
【成 長】S
【名 前】カバヤキ
【体 力】216294
【霊 力】200850
【攻撃力】299000
【耐久力】194740
【素早さ】271050
【知 力】299000
【幸 運】180700
【加 護】魔力500+500、知力500+500
【特 技】泥沼
【覚 醒】泉沸き
【種 類】霊
【ランク】D
【成 長】S
【名 前】マツヒメ
【体 力】208429
【霊 力】193700
【攻撃力】299000
【耐久力】201890
【素早さ】280800
【知 力】280800
【幸 運】180700
【加 護】耐久力500+500、知力500+500
【特 技】針千本
【覚 醒】伸びた毛
魔王軍の進行を防ぐため、戦線が広がり非戦闘員の神界人や守人でもない竜人が犠牲にならないよう必死に耐えてきた。
神々も参加してこのまま戦えば、勝利も目前の中、犠牲を増やさないようメルスは魚Fと霊Dの召喚獣を高速召喚で創生して、成長ランクSまで上げたものを1体ずつ配置する。
アレンの召喚獣は攻めだけに優れているわけではない。
多様な戦術が練れるよう守りに優れた召喚獣がおり、この2体がそうだ。
バフを受け、戦況を左右できるまでに至る。
ヌルヌル
竜人たちの陣形の前にウナギの姿をした魚Fの召喚獣が特技「泥沼」を発動し、目の前を沼地にして、魔神や上位魔神を引きずり込み、進行の勢いをそぐ。
最前列で 魔神の足がめり込んだところで、中距離から槍などで大勢の竜人たちが一斉に襲う。
シュルシュル
翼があったり、空を飛べる魔神たちが沼地を避けて、上空から攻めてくると、霊Dの召喚獣が覚醒スキル「伸びた毛」で髪の毛を数百メートルと伸ばし、魔神の翼や足に絡ませ、沼地に引きずり落とす。
ボチャリッ
「うおおお!! 殺せえええええ!!」
地面に落とされ、手を地面に突き、毛が絡んで体勢を戻さないうちに、竜人部隊の中に落ちた魔神を360度、剣を持った竜人や爪を装備した獣人たちが群がるように一斉に襲い掛かる。
「皆、聞いたか!! 守れば勝てる! 神々はきっと我らを守ってくださる!! うおおおおおおお!! ウイングパリイ!!」
守主のアビゲイルは、前進する魔神たちを風の神ニンリルより頂いた武器「ウイングクラッシャー」を振るい、必死に後退させる。
必死に魔神マーラの後を追うメルスが鳥Fの召喚獣の覚醒スキル「伝令」を使い、2万の遠距離攻撃を持つ竜人部隊の1陣2万人に指示を出す。
『一陣発射せよ!!』
「うおおおおおおおおおおおぉおお!!」
そこで各部隊2万人で構成された、3部隊が交互に精霊神ローゼンの「精霊神の祝福」によりリセットされたエクストラスキルを再度発動した。
化身となった魔神たちは、投擲された槍などを直撃し、肉体を破壊されていく。
魔神王ガンディーラの使用した化身石には、魔神たちを肉体やステータスを強化し、打たれ強くする力があるが、不死身にするわけではない。
だが、打たれ強さでは化身になってから随分強化されたようで、内臓がはみ出ても、手足が引きちぎられてもそれでも、殺意を振りまきながら、竜人の陣形に向かっていく。
「ぐるああああ!?」
魔神よりもさらに体力も耐久力もある上位魔神の1体が、泣き叫びながらも、全身に槍が刺されながらも数十メートルの巨躯で弾むように飛び上がり、体当たりを決めるように陣形に突っ込んでいく。
今にも捻り潰さんと数十人が組んだ竜人の陣形に落ちようとしたところで、横から割って入る者がいた。
『もう十分に生きましたよね。あなたの魂はどうやら終わりを迎えたようです』
全長100メートルのカモシカの姿をした大精霊神イースレイが飛び上がった上位魔神を優しく咥えた。
『チャウアア……』
大精霊が、悲鳴のような鳴き声のような声を発しながら暴れる上位魔神に構わず咥えていると、体がぐったりとなり動かなくなった。
どうやら上位魔神の魂を吸っているようだ。
バフッ
大精霊神に咥えられた上位魔神は全身に亀裂が入り、とうとう漆黒の煙となって四散する。
『穢れた魂ですね。どれだけの苦痛を強いたのでしょうか……。全ての道を踏み外した者たちを導くことにしましょう』
『ああああうああ!?』
次の獲物はと言わんばかりに大精霊神は魔人たちの陣形にゆっくりと足を踏み入れ、優しく命を奪っていくようだ。
バフを貰ったドゴラとシアとバスクの戦いにも終盤戦に突入したようだ。
ドゴラの神器カグツチを躱しきれず、神技「獣神化」を発動したシアの拳を受けて、バスクは全身から斬撃と殴打で血を吹き出している。
『ち、畜生が!! 卑怯だぞ!! こんなに援護しやがって!!』
魔神王になったバスクが攻められる立場になって不満を言いながら魔剣オヌバを振るう。
「さっきまでお前らがそうだっただろうが!!」
魔神王マーラを筆頭にバフもりもりでバスクの圧倒的ステータス相手に苦戦していたドゴラが言い返す。
バスクはふらつく魔神を壁にしながら2人の攻撃の直撃を避けながら戦うことに、シアは仲間を仲間と思わぬ行動にイラつきを覚える。
『そうだぞ! 正々堂々と戦え!!』
『はあ!? お前みたいな獣女に言われたくないわ!! なんだよ! 毛がボーボーで全く可愛くねえぜ!!』
『おい、バスク。真面目に戦え。流石に押され過ぎてて、やばそうだぞ!!』
魔剣オヌバが忠告するが、それ以上の脅威がバスクに迫る。
「シアのこと悪くいってんじゃねえ!! 爆炎撃!!」
クールタイムがリセットされたドゴラが怒りに任せて神技「爆炎撃」を発動する。
シンプルに炎を纏った神器カグツチを大振りに振るうのだが、バスクは躱すことも受けきることもできなかった。
『げばっひゃ!!』
ドゴラの一撃を腹に受けたバスクは絶叫しながら、魔神たちにぶつかり弾むように吹き飛ばされる。
「倒したか!!」
バスクは倒された先でぐったりと横になったが、何秒もしないうちに目がカッと開き、起き上がった。
『へへ、止めの追撃が遅いぜ。まだまだ甘ちゃんだぜ!!』
バスクの言葉にシアが追撃しようとすると、さらに魔神たちを盾にしながら、背中を見せ必死に立ち去ろうとする。
『な!? 逃げる気か!!』
『げへへ! 勝負は次回に預けておくぜ!! あばよ!! って!? ぐひゃお!!』
バスクも魔導砲の一撃を受け、全身を燃やしながら、大きく飛び上がってしまった。
魔剣オヌバを握りしめたバスクが逃げ去ろうとする。
壁にしようとした魔神が目の前で真っ赤になり爆散した。
バスクが何事かと見上げた上空には、メルルたちドワーフが操縦する神技「超神合体」と神技「迷宮主」を発動した超神合体ゴーレムがガンディーラを中心に、魔導砲(大)を打ちまくる。
2重の神技が折り重なり、25人のドワーフが操作する超神合体ゴーレムの1発が魔神や上位魔神を消し飛ばしていく。
もう一体の魔神王であるガンディーラは、超神合体ゴーレムの集中砲火を浴び、肩が爆散し、片足を失っており、これ以上動けないようだ。
『魔王軍損壊率80%超。我活動限界……。危険水域。応援要請拒絶中……』
「よっし、デカブツの動きが止まった。このまま打ちまくれ!!」
「うむ! 勝利まで油断大敵である!!」
頭役のガララ提督とザウレレ将軍が駆動室内で右腕役のメルルたちに攻撃の手を緩めるなと言う。
だが、損傷を受けたパーツを修復するわけでもなく、全身を丸め固まるように静かに沈黙している。
チカチカッ
「ん? 何か様子が変だよ!!」
ガンディーラの動きに不穏さを感じたメルルが駆動室で声を荒げる。
正面のスクリーンにガンディーラの眼が点滅し、魔力が胴体に集まり始めた。
ガンディーラは小さく何か言っているようだ
何事かと様子をガララ提督もメルルたちも外の音を拾うよう拡声器をフル稼働させた。
『目標第2段階以降。破壊範囲10キロメートル。胴体防御集中。自爆30秒前。29秒前。28秒前……』
「え? もしかして自爆ってこと!?」
ドワーフたちが同時にガンディーラが自爆しようとしていることが分かった。
『いけません!! 降下を!! 超神合体ゴーレムとの合体をお願いします!!』
『降下ってどうすんだよ。ああ、分かったよ!! 接続信号をさっさとよこせ!!』
タムタムは背中に付いた羽の役割をするディグラグニに対して指示を出す。
意味を理解する前に時間がないと急加速で降りると、タムタムはダンジョンマスターに対して新たな指示を出す。
『魔導砲を!!』
『ああ、そういうことか。負けると分かって自爆かよ! はるか先まで吹き飛ばしてやる!! 超巨大魔導砲!!』
胴体部分に全魔力を集中し、破壊されることを覚悟したガンディーラは手足を消し炭にされながらも胴体部分を守っているようだ。
「おいおい、破壊されねえぞ。爆発する胴体の防御を固めてやがる!!」
「これ以上の威力は厳しいのである!!」
300メートルあるガンディーラの体は頭部と胴体を残してほとんどが無くなるが、魔王軍の陣形に背後まで動かしたところで留まってしまう。
『自爆15秒前……』
『ですが、体積を最小限にしました。これなら吹き飛ばせるはずです!!』
人工知能を搭載したタムタムの作戦をメルルが理解する。
単純な破壊だけの目的ではなく、次の作戦をタムタムは考えていたようだ。
「そういうことか! メガトンパアアアアアアアアンチ!!」
超神合体ゴーレムの3分の1ほどの大きさになったガンディーラを右腕役のメルルたち5人が右腕を噴射する。
胴体中央に激突した超神合体ゴーレムの右腕がどこまでも伸びるケーブルに繋がったまま、ガンディーラの胴体にぴったりくっつき吹き飛ばしていく。
「おい、もっとはるか先まで吹き飛ばさねえと! この先にも市街地が広がってんだぞ!!」
ガンディーラの本体は全身が真っ赤な熱を帯び、大きく輝き始めるのだが、まだまだ1キロメートルも離れておらず、この距離なら自爆の被害を受けそうだ。
『自爆10秒前……』
「分かっている! でもこれが全力全開だよ!!」
メルルがガララ提督の檄に反発していると、タムタムの目の前に風の神ニンリルが神力による風をまとってやってきた。
超神合体ゴーレムの右肩の部分に降り立つ。
『……ふん、世話が焼ける。悪しき者よ俺のかわいい者たちの傍から消え失せろ』
「って、すごい勢いで右腕が引っ張られるよ!?」
メルルたち右腕役たちの力以上に、スキル「メガトンパンチ」が加速する。
超神合体ゴーレムの右腕は神力によって生じる風に包まれており、風の神ニンリルが一緒になって、ガンディーラを遠くに飛ばしていくようだ。
『二度とこの地を踏み入れるな。消え去れ』
強い光を放つ点滅だけがようやく人々の視認できるところまであっという間に追いやってしまう。
『自爆3秒前……』
『自爆2秒前……』
『自爆1秒前……』
カッ
ズオオオオオオオオオオオオオン!!
居住区から遠く離れた彼方で自爆したガンディーラの体から放たれる衝撃波が、竜人たちを襲うが、距離が十分に離れたおかげで無事だ。
「やったあああ! デカブツ倒したぞ!!」
遥か彼方で巨大な火柱を上げ自爆したガンディーラに対して、駆動室内でメルルたちが喜ぶのであった。





