第757話 魔王軍撤退戦①
精霊神たちがシャンダール天空国にやってきたタイミングでアレンたちが一旦いなくなったことで、魔神王ビルディガは研究所長シノロムに指示して時空神の神域から撤収を進める。
アレンは向かってくる上位魔神の1体を、大地の迷宮を攻略した際に大地の神ガイアより頂いた「アレンの剣」の斬撃で細切れにした。
ローゼンが「精霊神の祝福」を使ってくれたおかげで、神技「生命の泉」を掛け直したソフィーだけでなく、アレンも同様に召喚獣に特技や覚醒スキルの掛け直しさせた。
『なんという切れ味か……』
宙に浮く肉片を見て覚醒スキル「憑依合体」によってアレンの中にいるグラハンが思ず驚愕する。
(こんだけのことをしておいて、逃がすわけないだろう。そして、貴様はワイ秘蔵の聖獣石で……。でゅふふ)
時空神のシステムを使って、魔王軍が魔神たちを連れてきた。
このまま転移させてしまったら、他の戦線で戦う魔神王たちも倒せずに逃がすかもしれない。
最高幹部たちをこの場で倒しきれば、あとは魔王だけになるくらい魔王軍を一気に弱体化することが予想できる。
アレンの最終目標は「魔王討伐」に置いてある。
(メルスは急げよ。マーラが王城に到達してしまうぞ)
『分かってる。召喚獣の枠は全部埋めるなよ!』
翼を広げ、シャンダール天空国の上空を凄い勢いで飛ぶメルスが、共有したアレンの意識越しにすごい勢いで反応する。
この場でビルディガを倒し、時空管理システムを取り戻し神界に魔王軍を閉じ込め、魔王軍の幹部たちを一掃すると同じくらい重要な役目が、メルスにはある。
これだけのリスクのある行動をとっても魔王軍がやりたいことがあるようだ。
その目的のために、ビルディガだけでは厳しい時空管理システムの掌握のための人員の1体であるマーラを、魔王軍総司令オルドーの指示で王都ラブールに向かわせた。
なお、続々と神々が神界闘技場や天空国にやって来たお陰で、戦況は随分こちらに有利になってきた。
無数の斬撃を浴びせたアレンのステータスは精霊神やロザリナ筆頭に無数のバフを受けてとんでもないことになっている。
当然、アレンの仲間たちや竜人、獣人、神界人たちも力を増し、攻勢が進んでいる。
【3手に分かれた魔王軍の配置戦力状況:1時間強経過後】
①時空神・魔法神イシリスの神域
・魔神王ビルディガ
・シノロム、最終魔造究極兵器ギィちゃん
・上位魔神8体、魔神14体
②神界闘技場編
・魔神王オルドー、魔神王キュベル
・上位魔神100体、魔神120体
③シャンダール天空国王都ラブール周辺の街
・魔神王ガンディーラ、魔神王バスク、魔剣オヌバ
・上位魔神約130体、魔神約230体
④王都ラブール城内
・魔神王マーラ
・上位魔神10体
※②には鳥Eの召喚獣がいないためアレンは正確な数を把握していない
ボタボタッ
アレンが時間を圧縮したかのように、あらゆる状況を召喚獣たちの視界から一気に情報が送られる中、細切れにした上位魔神の肉片がようやく地面に落ちる。
(ふむ、剣さばきよし!)
ビルディガがアレンの動き、斬撃の威力を見極めて両端に大顎が飛び出た口を開く。
『急げ。どうやら別の場所で強化されてきたようだ……』
「分かっておる。って、もう、これ以上追加ユニット送っている暇ないわい! これ以上戦線を維持できないじゃと? そっちでなんとかせんかい!!」
割れ目の下でシノロムがビルディガの会話中にもガンディーラと通信しているようだ。
大精霊神たちがやってきたおかげで再度、超神合体ゴーレムになれたメルルに押されていることが天空国の上空に飛ばした数体の鳥Eの召喚獣たちが捉える。
(何度も補給して戦えたがそんな余裕はないよな。あのデカブツは何分も持たないと。さて、こっちも急ぐぞ)
『シノロムよ……』
時間との戦いのアレンとビルディガの思いが一致する。
「転移装置の起動は始まっておるわい。……3分ほど時間を稼いでくれ」
(3分だと。3分後に撤退が完了するのか)
響く声が対峙するアレンの耳にも入る。
『承知した……』
【魔王軍撤退まで残り3分】
無数の斬撃によって一瞬で上位魔神を肉片に変えたアレンに対して大鎌を構えて、ビルディガはこの先を塞ぐように立ちはだかる。
「おい、アレン。前に出すぎた!」
ルークと一緒に突っ込んだが、上位魔神が魔神を倒されてルークを狙ったため、前に出て倒したことで、アレンは他の魔神たちに狙われてしまったようだ。
化身となった前衛役の上位魔神が既に大斧を振り上げており、アレンの頭めがけて振り下ろした。
ギン
アレンが右腕で庇って受けたが、火花が散って大斧が威力を殺されて腕に密着したまま止まってしまう。
魔神や上位魔神が腹や背中に一斉に攻めるが、アレンに怪我を負わせることはできない。
ギンッ
ギンッ
「効くか!!」
アレンが水平に剣を振るうと斬撃の威力で上位魔神も魔神も胴体から切り裂かれ倒されてしまう。
剣の間合いにいなかった魔神たちが斬撃の風圧で吹き飛ばされてしまった。
(3分持つと思うなよ! だけど結構痛いね)
天空国で精霊神ローゼンやロザリナのバフを貰うことによって、アレンは爆発的にステータスを上げることができた。
・戦士の咆哮時のアレンのステータス(+武器防具)とバフ名一覧
【体 力】117000/471903(戦士の咆哮)
【魔 力】477606
【霊 力】477606
【攻撃力】594291+50000
【耐久力】381400+12000
【素早さ】829901
【知 力】853700+30000
【幸 運】376354
・ソフィーとルークの大精霊たちの加護
・鳥Hの召喚獣の金の卵
・グラハンの戦士の咆哮
・マクリスのロイヤルガード
・マクリスのロイヤルオーラ
・ロザリナの真応援レベル8
・ロザリナの真行進曲レベル8
・ロザリナの人魚姫レベル8
・ロザリナの天翔乱舞レベル8
・ロザリナの高吟放歌レベル8
・メルスのファニーポンポン
・メルスのクレイジーダンス
・精霊神ローゼンの精霊神の祝福レベル8
・大精霊神イースレイの世界の息吹
【大精霊神イースレイの「世界の息吹」の効果
・全ステータス3万上昇
・体力、魔力、霊力秒間3%回復
・効果1日
大精霊神イースレイの「世界の息吹」が基礎ステータスを3万も上昇したため、バフの重なりによって凄いことになっている。
なお、これは広大な範囲に陣形を組む竜人たちも含めた全ての者たちへの効果があるようで、上位神の圧倒的な力を発揮している。
(やばい。イースレイやるやんけ! 我が斬撃、とくと味わうがよい!!)
シャンダール天空国転移したアレンたちにすぐに気付いた大精霊神イースレイがすぐにアレンたち全員にバフを掛けてくれた。
バフの掛け合わせによりステータスによっては上位神をもしのぐほどの力が、今のアレンにはある。
『ちまちましている余裕はないぞ!全員でかかれ!!』
バフを受け、化身となった上位魔神と魔神がアレンとルークに瞬殺された。
魔王軍が撤退するまでの時間をビルディガは稼がなくてはいけない。
残り20体ほどの魔神たちが陣形からかなり前進してきたアレンを取り囲み、一斉に襲い掛かる。
「雑魚は消えろ!! マジックイーター!!」
剣や斧、槍などを振り上げ襲い掛かる魔神たちに対して、アレンは自らの剣を足元の床石に叩きつける。
衝撃波が周囲に広がり、今にも攻撃を加えようとする魔神たちに襲い掛かる。
グラハンの特技「マジックイーター」は剣を地面に突き立てることによって周囲の敵に攻撃を与える範囲攻撃だ。
デバフ効果として対象の魔力を吸い取ることができる。
だが、範囲攻撃は単体攻撃に比べて威力は低くなりがちだ。
またデバフ効果のある攻撃スキルは、デバフの効果がある分、そうではない攻撃スキルに比べてダメージを与えられない。
(知力の暴力を見せてくれる!!)
『ぐひゃっ!?』
『びらっぱ!?』
『へげれげ!?』
だが、グラハンの特技は召喚士のアレンに合わせたかのように、知力依存で威力が格段に増す。
88万の知力の暴力が、今にも襲い掛かりそうだった魔神も上位魔神も衝撃波で爆散する。
『上位魔神を1体倒倒しました』
『上位魔神を1体倒倒しました』
『上位魔神を1体倒倒しました』
『魔神を1体倒倒しました』
『魔神を1体倒倒しました』
『魔神を1体倒倒しました』
少し距離があった魔神も耐えられず、四肢がちぎれ床石に転がる。
まだ距離をとっていた上位魔神が何体か、なんとか命が繋がったようだ。
数体の上位魔神を残して屠って見せたアレンの範囲攻撃が味方たちにも届いてしまう。
「あっという間に、って、きゃあ!?」
「ソフィアローネ様お下がりを!!」
「おい、アレン!!」
吹き飛ばされそうになるソフィーをフォルマールが支え、大精霊たちが結界となりダメージを防いでくれる。
『ぐぐ、こ、この威力は!?』
『ギイイ!?』
撤収するために割れ目の下の階層へ向かおうとしていたビルディガも、割れ目から顔を出す最終魔造兵器ギイも衝撃で押されてしまう。
「雑魚にとどめを。ルークは一緒に来い!! 奴の装甲を破壊しろ!! 時間がないぞ!!」
「おう! 任せろ!!」
ソフィーとフォルマールに数体の上位魔神たちが回復魔法などで復活しないよう速やかに止めを刺すように言う。
衝撃波で後退してしまったルークには一緒に前線に出るように伝える。
なお、ステータスの上昇を確認したアレンは召喚獣たちをほとんど天空国に置いてきており、覚醒スキル「憑依合体」でグラハンと合体した力でビルディガたちを倒すつもりだ。
『それがどうした』
魔神や上位魔神が瞬殺されたため、あと2分半の時間を稼がないといけないと判断したようだ。
時空管理システムのある下の階層の大穴を守るようにビルディガが大鎌を左右に突き出して立ちはだかる。
アレンたちが天空国に転移する前に本気を出したため、肉体はさらに大きくなり10メートルに達する。
「うおおおおおおお!! 霊呪爆炎撃!!」
飛び上がり上段から迫るアレンの剣が炎を纏い、ビルディガに振るわれる。
『ぐが!?』
ズン
物理耐性が「極」に達するビルディガの3メートルを超える一番上段の大鎌を真ん中付近から特技「霊呪爆炎撃」によって叩き切った。
どれほどの重量があるのか、ビルディガが落ちた先の床石が粉砕され亀裂が広がる。
『ぬん!!』
「ぐふ!!」
前足を一本切り落とされたビルディガだが、もう片方の前足の大鎌でアレンに振るう。
ザバッ
「アレン様!!」
「問題ない。殲滅に集中してくれ」
他のステータスに比べたら高くないアレンの耐久力では耐えられなかった。
防具を切り裂き、血肉を吹き出してしまった。
だが、まるでなかったかのようにみるみる回復していく。
これは大精霊神の「世界の息吹」による体力3%自然回復によるものだ。
血の跡が残るが傷がなかったかのように完全に塞がってしまう。
(さすがに10万を超えると体力管理が容易で助かるぜ。って、お!)
特技「戦士の咆哮」の効果を維持しつつ、体力管理を試行していると仲間たちにも動きがあったようだ。
アレンに攻撃を向けるビルディガの視界から隠れるようにルークが神器精王の勾玉の短剣を振るう。
「うりゃああああ!! 呪詛禁刃!!」
『うあああああああ!?』
『ぬぐ!?』
ルークのスキル「呪詛禁刃」によって骸骨がビルディガの背後から覆いかぶさるのであった。
魔王軍の脱出が早いのか、アレンたちの攻撃が勝るのか残り時間2分強の中、戦いは激しさを増すのであった。
ヘルモードコミック11巻
何卒、よろしくお願いしますm( _ _)m