第753話 シャンダール天空国強襲⑤※他者視点
魔神王ガンディーラの胴体部分を目掛けて、超神合体ゴーレムの右腕が飛び出て、瓦礫となった背後に吹き飛ばす。
そのまま倒れ込むのかと思われたが、ガンディーラの背面部分に魔法陣が無数に現れた。
『追加ユニット要請。ジェットエンジン転送確認。接合信号送信。……装着』
ジェットエンジンの吹き出し口が魔法陣の数だけ出現し、ガンディーラの背面から魔力を消費し推進力を生みだす。
開口部分からギリギリ見えるほどの奥に存在する魔力炉からガンディーラ本体の魔力を吸収し、吹き出し部分から推進力を噴射し、瓦礫を蹴散らしながら立ち上がる。
だが、全身がオリハルコンであっても圧倒的なステータスから繰り出される超神合体ゴーレムのスキル「飛腕」で腹部には亀裂が広がり陥没している。
※超神合体ゴーレム本体に備わったもので発動するのは「機能」、ドワーフが発動するのは「スキル」だが、混在していて分かりづらいため、全て「スキル」で統一
『外傷部分認識。魔力ブースト……。修復』
オリハルコンの体に走る全身の幾何学模様の線が光り出し、メキメキと音を立てながら肉体を修復する。
「簡単に修復しやがった。って、くるぞ!!」
『超速貫通拳』
超神合体ゴーレムの死角となるガンディーラの背面では魔力炉が稼働を再開し、ジェット噴射の加速を利用して一気に距離を詰めてくる。
拳が高速回転するドリルに変わり、超神合体ゴーレムの顔面を半壊させ、後方へ吹き飛ばす。
吹き飛ばした先には竜人たちの陣形に今にも突っ込みそうだ。
竜人たちの陣形の背後には神界人たちの住む無数の建物があり、いきなりの強襲によって避難できていない者たちも多い。
当然、超神合体ゴーレムに押しつぶされたら竜人はひとたまりもない。
背面の状況をスクリーンで確認した頭役たちは咄嗟に指示を出した。
「おい、このままじゃ被害が出るぞ!! 両足役は『飛翔』を使え!!」
「頭部の損傷が激しいのである。左腕役たちは『修復』を!! 胴体役も合体の維持を!! 崩れるではないのである!!」
頭役のガララ提督やザウレレ将軍が細かい指示を矢継ぎ早に繰り出す。
「魔力ゲージの減りが早い! このままじゃバラバラになるぞ!! これ以上、同時にスキルを使用するのは危険だ!!」
胴体役の前には超神合体ゴーレムの魔力量のストックと消費量がバーとなって表示されている。
全身に魔力を送る役割を担う胴体役5人が自らの魔力を膨大に消費してまで各パーツの役割を果たすため泣き言を言いながら必死に耐える。
5人の両足役が飛翔を使い、一気に上昇し、倒れ落ちて竜人たちを踏みつぶすことを避ける。
5人の左腕役がスキル「修復」を発動する。
体幹の維持を務める胴体役が体の向きを修正し、上空に飛び上がるころには、左腕役の「修復」によって半壊しかけた頭部が元通りになっている。
胴体役と左腕役は天の恵みで操縦席のドワーフたちの魔力を回復させるのも仕事だ。
魔導袋から天の恵みを取り出して超神合体ゴーレムの駆動室にいるドワーフたちの消耗した魔力を回復させる。
なお、超神合体ゴーレム自体の損傷を回復させるのは石板を新しいものに付替えるか「スキル」か「機能」でしか回復できないため、天の恵みによる直接の効果も回復魔法も無い。
超神合体ゴーレムが魔王軍陣形の奥深くまで入り込んで戦っているため、一部の上位魔神や魔神からも魔法などで攻撃受けているが、軽微な損傷ばかりのため、今回の修復で一緒に治してしまった。
駆動室内でいくつかの動作をつつがなくこなしたドワーフたちが息を切らしながら、元いた場所にゆっくりと戻ってくる。
この間、追撃をすることができたガンディーラはその場で超神合体ゴーレムと距離を維持しつつ頭部周囲に魔法陣を形成し、超神合体ゴーレムの様子を伺っていた。
『修復時間確認……。弱点把握。シノロム所長。メガロン砲転移要請』
超神合体ゴーレムの動きにガンディーラは作戦を立てることができたようだ。
時空神の神域2階層にいる魔獣兵研究所長シノロムに対して、砲台を要求する。
ガンディーラの上空に巨大な魔法陣が現れ全長100メートルの砲台がガンディーラの肩に降りてくる。
「む? 何してんだ!! ぶ、武器だぞ!! 砲身だ! やべえの出してきたぞ!!」
ガララ提督は目の前の中央スクリーンの画角を調整し、砲台が肩に装着される様を確認する。
膨大な量の魔力が消費され、巨大な砲身の口に光が集まる様が画面ごしでもはっきりと分かる。
「いけない。奴はどっからか武器とかどんどん取り寄せる。さっさと倒さないと!!」
「うむ! そうであるな。 両足役は加速して距離を詰めよ!!」
「加速!! 直進するぞ!!」
メルルの認識は24人のドワーフとタムタムに共有される。
ザウレレ将軍が両足役に指示を出し、一気に加速し砲台を使った遠距離攻撃を仕掛けようとするガンディーラと距離を詰めようとする。
だが、全身の幾何学上のラインを流れる魔力がガンディーラの巨大砲門に収束されていく。
『魔力消費量60%出力開始。メガロン砲発射!』
ズオオオオオオオオオンッ
超神合体ゴーレムが距離を詰め切る前に魔力による超高熱のビーム砲が発射される。
「左腕役!!」
「間に合わない!!」
「光壁!!」
駆動室では25人のドワーフたちが必死になって立ち回る。
ガララ提督やザウレレ将軍の指示を聞いた左腕役5人が一斉にスキル「光壁」を発動した。
左腕役がスキルレベル6で覚える強力な障壁を瞬時に生むのだが膨大な魔力を必要とする。
ドワーフ5人がかりとタムタムの協力で全長250メートルの超神合体ゴーレムの左腕から100メートルにもなる光の壁を生じ、ガンディーラの超高熱のスキル「メガロン砲」を防ぐ。
だが、足元の踏ん張りがきかず全長250メートルもある超神合体ゴーレムが後退を始める。
「下がっているぞ。両足も踏ん張れ!!」
「威力が大きすぎます! 一旦躱しましょう!! でないと俺たちがバラバラになってしまいます!!』
スキル「加速」を使い前進を試みる両足役の5人だが、パワーが足りないためか、前に進むことは一切できない。
「ああ!! できるわけねえだろ! お、おい! 胴体役ども!! 魔力をもっと練ろや!!」
「これで全力です! 提督、こ、これ以上は……」
『私の人工知能による演算で魔力供給を光壁に割り当て幅をあげます!!』
超神合体ゴーレムの一部となっているタムタムが魔力消費についてサポートする。
ゴーレムは自らの魔力を完全に消耗してしまうと動かなくなる。
その場合、ゴーレム使いの魔力を消費して稼働が可能なのだが、消費の演算、魔力循環にも知力が必要だ。
全長100メートルの光壁が200メートルになり、頭部と足元以外完全に防いでしまう。
タムタム自身のスキルの使用が制限されるものの、お陰で超神合体ゴーレムに一層の力が入り、ゆっくりとだがスキル「光壁」で超高熱のスキル「メガロン砲」を押し始めた。
だが、ガンディーラには全力を出し切っておらず、余力があった。
『……魔力消費量80%出力開始。魔力タンク2点転送要請』
ドオオオオオオオッ
ガンディーラはスキル「メガロン砲」の威力をさらに上げ、轟音を鳴らし、煌めくほどの砲身から超高熱のビームを発射し始めた。
さらに、消費した魔力を回復させ確実に超神合体ゴーレムを倒すため、魔力の回復も忘れない。
砲身を右肩で担いでいたのだが、左肩に2つの魔力を大量に詰めた箱状のタンクを転送させ、1つ目の魔力タンクで消費した魔力を全回復させる。
ガンディーラの魔力が全回復すると自然とタンクが右肩から外れ地面に自然落下する。
さらに予備でもう1つの魔力タンクが左肩に装着され、今後の魔力消費についても万全な状態にする。
「ぐは!? 何だこの威力は!! もう耐えられません!!」
胴体役たちから踏ん張りを利かすための両足役とスキル「光壁」に必要な魔力を自らの体から消費して送り出すのだが5人がかりでも意識が飛びそうだ。
ガララ提督が各パーツに必死に指示を出し、タムタムの魔力演算への協力も得たが、さらに後退する。
スキル「光壁」で守られていない頭部と両足はスキル「メガロン砲」の超高熱に融解が始まった。
左腕たちは必死にダメージを負った部分の回復に努めるが、融解の方が早いようだ。
両足が壊れ始め、踏ん張りは効かなくなってきている。
このままでは超神合体ゴーレムごと竜人の陣形ごとスキル「メガロン砲」の餌食になってしまう。
鳥Eの召喚獣を使い状況を俯瞰して把握しているメルスが超神合体ゴーレムの危機的状況を把握した。
『おい! ハッチたちよ!! あのデカブツを何とかするぞ! 』
3柱の属性神たちは魔王軍の侵攻から防ぐためにこれ以上、手が空かないようだ。
魔王軍と竜人の状況は属性神たちのお陰で、倒すたびに化身に変貌する魔神たちを相手に被害がかなり減ったが、超神合体ゴーレムに加勢する余力はないようだ。
成長させた虫Aの召喚獣と子ハッチたちが群れを成して上空から襲い掛かる。
『ギチギチッ』
『ギチギチッ』
『ギチギチッ』
だが、無数の魔法陣を頭部周辺に生成し、常に全方位を警戒したガンディーラに隙は無かった。
『追尾弾幕発射』
ガンディーラの頭部から無数の機関銃が現れるとガトリングガンのように秒間数千発の銃弾が発射される。
弾丸の全てに追跡機能がついており、吸い込まれるように召喚獣たちへ確実に命中し、蹴散らしていく。
バフがそれほどかかっていない虫Aの召喚獣たちや子ハッチでは魔神王の攻撃に耐えられないようだ。
凄い勢いで光る泡へと変えていき数を減らしていく。
さらに超神合体ゴーレムを狙っていた上位魔神や魔神たちも上空を飛び回る召喚獣に狙いを定め撃ち落としていく。
メルスはそれでも召喚獣を使い、メルルたちをサポートするがそれは叶わないようだ。
「やべえ、やべえぞ!!」
これ以上下がれないほど押し返されてしまい、まもなく竜人たち諸共吹き飛ばされてしまう中、悲観的な状況が駆動室を満たしていく。
そこへ駆動室内にタムタムの音声が響く。
『……メルル』
「そうだね。タムタム、これはダンジョンマスターを呼ぶしかないね」
タムタムが先に駆動室内に語り掛けたが思いは同じだった。
さらなる作戦がメルルにはあった。
「って、おい。ディグラグニと合体か? いけるのかよ。ヘルミオスんときも使わなかっただろ。負担が心配だからって」
「やるしかないよ! 大丈夫だよ。……タブン」
「おい、いま小さく『タブン』って聞こえたぞ!!」
「このままじゃ負けちゃう。いくよ!!」
「ったく、このままじゃどっちみち終わりだぜ。皆、腹くくれよおおおおおおおおおおおおお!!」
ガララ提督はこれ以上の問答をする間がないことは明らかだと分かっている。
メルルがダンジョンマスターを神界に呼んで超神合体ゴーレムの中で魔導キューブを高らかに掲げた。
「迷宮主降臨(ディグラグニ・オオオオオオオオオオオオオオオオン)!!」
カッ
上空に巨大な魔法陣が現れ、金色に輝く全長100メートルにもなる巨大なゴーレムが姿を現したのであった。





