第750話 シャンダール天空国強襲②※他者視点
第一天使ルプトの指示によって大天使アウラが、4大属性神のうち、水、風、大地の神の3柱とその神々に仕える大天使たちを引き連れてやってきた。
大地の神の下にいる最近、神界にやってきた10体のゴーレムたちもこの場にいる。
先頭に立つのアレン軍のザウレレ将軍が声を上げた。
「なんて状況だ……」
「ザウレレ将軍!!」
「おお、メルル殿か。これはひどい……。魔王軍に天罰が必要であるな!」
「よっし。ザウレレ将軍もいる。……10体のゴーレムも! これなら!!」
『はい。いけますね』
第一天使ルプトからの情報どおり、ザウレレ将軍が配下のゴーレム使いたちとやってきたことに、メルルとタムタムは魔王軍との戦いの閃きがあった。
3体で横一列に立ちはだかる3柱の属性神のうち、風の神ニンリルが怒気を込めて口を開く。
『神々に仕える者たちをこんなにしやがって……』
手を掲げた先の頭上には、暴風の巨大な玉に包まれた校舎がある。
普段の呑気な表情はそこにはなく、風の神が手を振りながら巧みに操作すると、校舎は壊れることもなく外壁の外へとゆっくりと着地した。
無事であった校舎を見つめ怒りを落ち着かせようとする風の神の横で、大地の神が大天使アウラに確認を取る。
『それでアウラよ。エルメア様は、ここは神界で存分に神力を行使しても問題ないってことなんだよな?』
神々には創造神エルメアが定めた「理」があり、人々をむやみやたらと救済するわけには行かない。
神界は人間界ではないが、救済の対象には多数の神界人や竜人などの人々がおり、微妙な状況のようだ。
『天空国の破壊は、神界だけではなく、人間界の存続にも関わることでございます! 攻撃の対象に大勢の幼い天使たちがいたなら、なおさらです。一切の制限がないことを確約いただいております。存分にお力のほどをお願いします!!』
『当然の判断だな。やるぞ、お前たち』
大地の神は神力を全身に溢れさせると、力はそのままゆっくりと地面に向かっていく。
モコモモ
『攻撃対象が視認できません。大地の神ガイア様より攻撃命令が下りました。対象を把握し、攻撃を開始しなさい』
『バウバフ!!』
『バウバウ!!』
アレンたちが大地の迷宮で攻略を苦労させた、指揮役の番人の姿と大型の犬の姿をした土塊たちが大地の神の周りに湧き上がり始めた。
番人が狩猟犬を放つよう、アダマンタイト製の土塊たちを解き放った。
戦闘準備に入ろうとしたところで、何か2つの巨大なものがこちらに向かってくる。
ブウウウン
『あぶないです!!』
大気を押しのけながら巨大な建物がまた飛んできたのだが、今度は水の神アクアが、それぞれの建物を水の玉の中に優しく包み込み、勢いを殺して近くにゆっくりと降ろしてあげる。
『また投げやがって。ここにある残骸は全部奴の仕業かよ。攻撃を止めねえといけねえな!!』
戦闘が開始し、30分ほどが経過する中、多くの建物の残骸が外壁に激突し、山のようになっている。
超大型のゴーレムを倒さないと建物の投擲は終わらないと神々は判断したようだ。
「戦線に向かいましょう!! ザウレレ将軍もついてきてください!!」
「う、うむ! 分かったのだ、メルルよ。皆、覚悟するのだぞ!! モードイーグル!! 羽ばたくのだ!!」
ずっと訓練をしてきたが、元々はバウキス帝国で10年以上の軍属経験もあるザウレレ将軍たちだ。
特殊用石板「鷲」で飛び上がり、メルルの後を追う。
メルルがもう一度、魔神王ガンディーラやバスクのいる最前線に向かう。
属性神や天使たちも同様に魔王軍と戦うため後を追うようだ。
『陣形を組んで攻めているようです。前衛、中衛、後衛が強固に中央の超大型ゴーレムを守っているように思われます』
「そうだね、タムタム」
ガンディーラは何かを探しているのか、魔法陣を頭部周囲に生成し、探知を続けながら気になった建物を拾い上げているように思える。
たまに持ち上げた建物内を確認し、市街地の果てまで放り投げることを繰り返す。
この行為にどんな意味があるのか分からないが、絶対に邪魔をさせないという強い意志が、魔王軍の陣形から感じ取れる。
魔王軍はガンディーラを中心に四方を囲うように陣形を組み、竜人や神界人の兵たちが近付けないよう魔神たちが陣形を引いて動いている。
ガンディーラの進行に合わせて前進や後退を繰り返し、メルスに対してはバスクが当たり動きを封じ、召喚獣たちも蹴散らしていく。
破壊された城下町の様は、上空から見て道のように見えるのは、ガンディーラの進行方向によって作られてしまったようだ。
【魔王軍との戦いシャンダール天空国編の構成】
指揮官:ガンディーラ、バスク、魔剣オヌバ
上位魔神:前衛10体、中衛20体、後衛10体、回復役10体 計50体
魔神:前衛40体、中衛60体、後衛20体、回復役30体 計150体
※メルスをバスクが抑えることによって30分以上経過した現状で魔神たちに被害なし
「ひでえ状況だな!!」
眼下を見てドゴラが声を荒げ、握りしめるカグツチが思いに答えるよう光るように赤みを増していく。
メルルたちの集まる場所に竜王マティルドーラやガララ提督たちが追いついてきた。
「皆を癒さないと! 神薬草界!!」
戦いの始まりはキールの神技「神薬草界」の発動だった。
体力、魔力、霊力の回復効果のある花々がキールを中心に城下町を覆っていく。
竜人たちは一瞬、困惑するのだが、すぐに自分らの助けが来たと上空に浮かぶ竜王マティルドーラを見上げて理解した。
「私も魅せてあげるわよ!!」
ロザリナがバフをまき散らし、メルスや竜人たちを鼓舞していく。
ただし、スキル「人魚の歌姫」や2つの神技「天翔乱舞」と神技「高吟放歌」は神界闘技場で使ってしまったため、クールタイムの短いスキルに限られる。
ロザリナのバフによってメルスの動きが良くなってきた。
『お! 少しはやるようになったじゃねえか! いひひ!! オヌバも気合入れろよ!!』
『ああ、お前も戦いに集中しやがれ!』
それでも、苦戦していたメルスが若干だが形勢を逆転させつつある。
だが、戦っているメルスとバスクだけが分かるほどのわずかな変化で、周りの魔神たちも、召喚獣を倒したらいつでもバスクに加勢するぞと言わんばかりの状況だ。
「おっし、俺はいくぞ。メルスが厳しそうだ」
ドゴラが今にも飛び降りそうだ。
土塊の番犬たちも魔神たちと戦い始め、ロザリナやキールのサポートも始まったがまだまだ魔王軍の強固な陣形に押され気味だ。
「おい、ドゴラ。勝手に行くなよ。作戦は必要だろ。神様たちもいらっしゃったし。メルルたちも俺の話を聞いてくれ!!」
神器カグツチを肩に担いだドゴラが300メートル以上上空から身を乗り出し、飛び降りそうだったので、横にいるキールが制止する。
「うん、分かった」
上空でタムタムに乗るメルルもホバリングして、竜王マティルドーラに並走して飛ぶ。
学園でパーティーを組んだころからアレンと一緒にいるときは、常にアレンが作戦を提案してくれた。
召喚獣という無数の目を持つアレンが俯瞰した作戦を立ててくれたおかげで、考えることもなく、敵陣に突っ込み、目の前の敵に集中することができた。
3柱の属性神がいて、竜人とわずか50人ばかりの獣人もいるような状況だが、何が効果的か分からない。
アレンに作戦を乞おうと神々と一緒にやってきた天使のうちの1体、大天使アウラをキールは見た。
『アレンは現在、時空神の神域で魔王軍と交戦中です。戦況からも、こちらへの援軍は厳しいでしょう』
「時空神のところから動けない強敵と戦っているってことか。……ドゴラ、シア、イグノマスはメルスを援護しつつ、周りの魔神たちを排除してくれ。竜人や獣人たちも回復するからな。あまり無茶して前に出て暴れるなよ」
『我は竜人たちに降り注ぐ魔法を何とかしよう。存分に暴れる故に、我の上にいるのであれば振り落とされぬことだな。竜人たちをこんなにしおって』
キールの足元で、竜王マティルドーラは怒りが込み上げているのか、口から炎が漏れながら、自らの役目を果たすと言う。
「助かります。あとは……」
メルスが魔神を1体も倒せなかった理由に魔神王バスクを援護する。
「じゃあ、こんな作戦でいくからアクア様は回復とか補助とか魔神の数減らしを頼む……。ん? フレイヤがいないぞ」
さすがの3柱の属性神たちにまで、あれこれ指示をするのも違うなとキールが思っているところ、ドゴラが遠慮なく、ずけずけと協力を依頼する。
『分かりましたわ。私がキールと共に回復に専念しましょう。ニンリルは敵の遠距離やあのでかいゴーレムの投擲を防いで下さい。ガイアは土塊たちと前線に出て応戦願います。………それでフレイヤなのですが、火の神の使徒よ。あんたに神力を与えすぎているようで無茶させまいと神殿に籠って貰ってます』
キールやドゴラの思ったことを水の神アクアが汲んでくれる。
4大属性神と呼ばれる火土風水の内、火の神フレイヤは、元々他の属性神よりも信者の少ない中、使徒となったドゴラのために神力を結構無茶な消費の仕方をしているため、戦線には出ていないようだ。
「そうだったのかよ。無茶させたのか?」
『いらぬ心配よ。我が使徒よ。戦いに集中するのだな』
「ああ、分かった。シア、行くぞ。イグノマスもな!!」
「水の神、アクア様、あなたに頂いた神器、存分に使わせていただきます!!」
ドゴラ、シア、イグノマスが300メートル近い上空から一気に飛び降りて、メルスたちのいる前線へと向かう。
『神技開放! 獣帝化(フルビーストモード!) 獣神化!! ぐおおおおおおおおお!!』
飛び降りながら神技を解放したシアがスキル「獣帝化」と神技「獣神化」を重ね掛けする。
全長100メートルの巨大な獣の化身へと変わっていく。
シアが飛び降りた先には守主アビゲイルが風の神ニンリルから貰った武器を振るい、必死に魔神の前進を阻もうとしていたのであった。





