第745話 神界闘技場強襲③※他者視点
壁際までクレナが吹き飛ばされ戦線を離脱してしまう。
クレナから視線を移した魔王軍総司令オルドーが口を開く。
『皆の者! 確実に殺せ!! こいつらをどこにも行かせるな!!』
『そうだよ。パーティーの始まりだ~』
『おおおおおおおおおぉ!!!』
魔王軍の最高幹部の双頭といえる総司令オルドーと参謀キュベルが檄を入れると、700体にもなる上位魔神、魔神が勢い立つ。
前衛のトップに総司令オルドーを、後衛の中心にキュベルを据え、左右にも広がりつつ、修練中の天使たちを囲っていく。
この場にいる中でもっとも強かったムライ師範代がオルドーに瞬殺されていない。
他の師範代も師範もいない。
剣神も武神を呼びにいって戻ってこない。
この状況の中で兄弟子たちが大声で叫び始めた。
『皆、固まれ!』
『そうだ。援軍が来るまで耐えるのだ!!』
『ケルビン様たちはきっと戻ってこられる!!』
天使たちが背後を突かれないよう道場の端で、守りの陣形を組んでいく。
ムライの命がけの攻撃は天使たちが大勢を組む時間を生んでくれたようだ。
メキメキ
激高して総司令オルドーを襲ったが、キュベルとオルドーの合わせ技で攻撃が失敗し、壁に叩きつけられ全身の骨が折れたクレナが、壁の中で動き始める。
スキル「限界突破」で砕けた骨は繋ぎ合わされ、絶たれた筋繊維は瞬く間に修復された。
神器アスカロンを片手で握りしめたクレナはベコッと音を立てめり込んだ壁から出てきた後、床板に落ちてくると大きなヒビが生じる。
『お、おい。クレナよ。お前も中に入れ』
『そうだ。間もなく応援は来る』
『すぐに仲間の天使たちも駆けつけてくれる』
団子状態になった天使から外れてグングンと魔王軍に向かって歩み寄るクレナに対して、天使たちは自制を呼びかけ集団に戻れというがクレナは聞くことはない。
大剣を掲げた総司令オルドーを前に、両手で聖剣を握りしめたクレナが大きく息を吸って吐いた。
『貴様1人が頑張ったところで、結果は何も変わらぬぞ。いつまでそんな時間稼ぎをするつもりだ!!』
クレナが微動だにしないところで、オルドーがクレナの意図を勘違いする。
クレナとしては明らかに自らよりも戦力が劣る天使たちよりも自らが先頭に戦って、ターゲットを外す選択をした。
アレンのパーティーの中で前衛を何年も務め、後衛のキールやセシルを守ってきたクレナにとって当然の行動だった。
今の天使たちの耐久力はソフィーやセシルにすら劣る。
だが、オルドーは一団から外れ、先頭に立つことで自らに意識を集中させ、さらに、むやみやたらと攻撃をしかけないことで、少しでも時間を稼いでいると思ったようだ。
オルドーは確実な作戦遂行を優先し、目障りなクレナを速やかに倒すと判断した。
巨大な大剣を振り上げ、クレナに向かって突っ込んでいく。
クレナの数倍のステータスと体長を誇るオルドーが何歩か歩き、そこから一気に加速して、目の前で大剣を振り下ろした。
巨大で重い大剣とは思えないほどの速度でクレナの頭部へと達して、真っ二つに勝ち割ろうとした。
「夢想斬撃!」
今にも眉間に大剣が迫り、避けようのないタイミングでクレナはスキル「夢想斬撃」を発動する。
オルドーの大剣は頭から切り裂くが、クレナは霧となって体を四散させる。
『ぬ?』
自らの斬撃に手ごたえがないことに違和感を覚えていたが、クレナはオルドーの背後に一瞬で回り込み、外套に向かって斬撃を浴びせた。
キイイイイン
「はあ!! くうう!?」
オルドーの圧倒的な耐久力とクレナの攻撃力の差から、剣神セスタヴィヌスより預かった神器アスカロンが外套を切り裂くことができず、全くめり込むことすらできない。
『ふふ、僕に背後を見せて良いのかな?』
オルドーの背後を攻撃したと言うことは、キュベルや魔神たちの陣営を背にしたことだ。
既に魔法弾の準備が整ったキュベルは、もう一度、無防備なクレナの背中に向かって魔法弾を放とうとする。
しかし、キュベルの行動を読んでいたクレナが背後を見せたまま叫ぶ。
「それがどうした! 次元断絶!!」
『ほよ? って、うわ!!』
クレナは30メートル以上離れた場所に浮くキュベルのもとに一瞬で転移する。
そのまま魔法弾を放とうとするキュベルの腕に聖剣を振り下ろした。
クレナには単純な斬撃ではなく、距離を詰めたり、躱した上でのカウンターなど数多の剣に関わるスキルがある。
神技も含めたスキルの数なら仲間たちの中で圧倒したものを誇る。
【クレナの神技、スキル一覧簡易版】
・竜気:竜の気を纏い、竜と共にステータスが増加する
・竜騎一体剣:竜と一緒に攻撃する。攻撃力が重なり強力な一撃となる
・超突撃:調停神と一緒に攻撃する。速いため躱されづらい。クリティカル率100%上昇
・因果天翔:神聖属性。常時発動スキル。攻撃を躱して、カウンター攻撃できるようになる
・烈光剣:光属性の攻撃。上段、中段、下段などあらゆる方向から攻撃可能
・焔烈火斬:光属性と火属性の攻撃。袈裟斬り
・神魔滅破:光属性の攻撃。大きく振り上げ、溜めてからの上段斬り
・崩魂天撃:光属性と土属性の攻撃。下段からの攻撃。対象を中心に波状の衝撃波を放つ
・真騎竜:竜に乗った状態の斬撃。スキル「真斬撃」よりも威力が高い
・真竜王剣:無属性。覇王剣の上位互換。あらゆる方向から攻撃可能
・雷竜破:雷属性。上段斬りと共に雷が落ちる追加攻撃有り。マヒ効果
・次元断絶:離れた位置にいる敵に対して。転移して斬撃を浴びせる。クリティカル率100%
・牙竜転生:竜と立ち位置を交代して攻撃できる。転移された竜の攻撃力が加算される
・真斬撃:上段斬り
・真鳳凰破:火属性。遠距離攻撃
・真快癒剣:無属性。上段斬り。体力が回復する
・真覇王剣:上段斬り。前方へ衝撃波を浴びせる
・夢想斬撃:攻撃時、相手の攻撃を無効にする
・必中突:クリティカル率100%上昇の突き
・限界突破:スキルレベル1アップごとに3000上昇する。体力秒間1%回復
・天騎士:天騎士の才能、職業。天騎士のスキルを鍛えると職業レベルが上がる
・天剣:天騎士の才能のステータス増加スキル
・竜騎魂:竜騎帝の才能のステータス増加スキル
・真豪傑:剣帝の才能のステータス増加スキル
・神技発動:1時間、神技発動状態になる
・剣術:剣術が上達する
・瞑想:体力、魔力、霊力が早くなる。スキルの威力、命中率が上がる。奥義、秘奥義の発動成功率が上がる
【クレナと竜騎士と天騎士】
・クレナは竜騎士と天騎士の2つの才能がある
・騎乗状態は竜騎士になる
・騎乗するのは、竜、調停神、召喚獣、馬でも可能
・竜騎士状態では、竜騎士のスキルレベルが上がっていく
試しの門で竜騎士となり、神界では天騎士となる上で、手にしたスキルを駆使して魔王軍の最高幹部2体と戦う。
「き、切り落とせない!!」
一刀両断の思いで振り下ろしたクレナの渾身の一撃でも、キュベルの腕に神器がめり込むのだが断ち切ることはできず、空中に留まってしまう。
『ふふふ。マーラ君たちの補助が良く効いているね。危うく、腕を切り落とされるところだったよ~。そんな物騒なもの振るってから~』
バフを受けて耐久力が上がったキュベルがお道化るようにクレナをからかいながらも、攻撃を受けた腕とは反対の手で、魔力弾を生成し始めていた。
発言も身振りも魔力弾の生成も、キュベルの誘導で、オルドーが飛ぶように跳躍し、クレナを相手に縦に1回転しながら踵落としを決める。
「むぐ!?」
キュベルの不自然な発言と魔力弾の所作から罠であると気付いたクレナは、ギリギリのタイミングで大剣の取っ手と刀身にそれぞれ手を当て、背後から迫るオルドーの踵落としを受け防御した。
しかし、オルドーの圧倒的な攻撃力に耐えることもできず、床石に叩きつけられる。
『しぶといな。さっきの雑魚の天使のようにはいかぬか……』
「げはっ……。む、ムライさんのことを!!」
床板が粉砕され、土煙が舞う中、咳き込みながらも、無残に殺されたムライに対する怒りでクレナが活き込みながら立ち上がる。
両手と大剣で受けた衝撃で両腕の骨が折れており、すぐには超回復しないようだ。
『クレナの援護を!!』
『1人で戦わせるな!!』
『遠距離攻撃できるものはサポートに入れ!! 補助できるものはクレナにも!!』
クレナの戦いに天使たち2000人が守られていることに気付く。
自らが先頭に立つことで天使たちが狙われるのを避けているようだ。
ムライ師範代が瞬殺された唐突の攻撃に戦意を失いかけたが、クレナの孤軍奮闘に沸き立ち始めた。
「みんなありがと!!」
腰を低く下げ、両手で聖剣を握るクレナが背後に向かって礼を言う。
回復魔法によって両腕が瞬く間に回復され、陣形から離れたクレナに対しても補助魔法が掛けられ、ステータスのアップを感じる。
『こんな小娘1人など構うな。天使共を殲滅せよ!!』
『おおおおおおおおおおおお!!』
オルドーの指揮に陣形を組んだ上位魔神、魔神たちの中でも前衛役の者たちが天使の陣形に雪崩れ込んでくる。
『来たぞ!! 敵は強いぞ。決して1体で当たるな!!』
『援軍は必ずくる!! 耐えたら我らの勝利だ!!』
初撃で1割近い天使が負傷したが、回復魔法で2000体近くまで戦闘可能状態に回復している。
しかし、天使たちの気合とは裏腹に魔王軍の攻撃は一方的なものであった。
戦闘が始まれば、上位魔神相手ならステータスが3倍から5倍近い差があるのか、一撃で頭部が吹き飛ばされ絶命する天使がいる。
『がは!?』
『ぐああああああ!?』
クレナは魔神王であるオルドーとキュベルの意識を向けるので手一杯で助けることはできない。
ルプトから連絡を受けて20分、戦闘開始からも15分かかっただろうか、既に3割近い天使が殺されてしまう。
クレナが息を切らしながらも、絶叫しながら倒される天使の最後の声を耳で聞き悔しい思いをしながら大剣を振るう。
『ふむ、そろそろ良いのではないのか。こいつらの言う通り援軍が来たら面倒よ』
『あ~はいはい。そろそろ終わりにしよう。助けはこない。絶望で終わりだよ~』
適当なことを言いながらキュベルは天に向かって片手を上げた。
巨大な魔力弾が生成し始める。
「させない!!」
『いい加減諦めよ』
「ぐふ!!」
クレナが横殴りの斬撃をオルドーから受け、壁際まで吹き飛ばされる。
オルドーが盾となり、その先に行けない状況でキュベルの魔力はさらに魔力弾に込められていく。
『ダークネスソウル!! この一撃でみんな終わりさ~。おやや、君も諦めないねえ』
クレナは天使たちのために身を挺してキュベルの魔法「ダークネスソウル」を受けるようだ。
オルドーは馬鹿なことをと鼻で笑う。
数十メートルにもなる巨大で漆黒の魔法弾が今まさにクレナや天使たちに迫ろうとするのであった。





