第740話 魔神王戦②化身
フォルマールが頭を吹き飛ばした上位魔神の1体が、目玉の化け物である究極魔造兵器ギイの触手によって頭部を再生させた。
『ヘギイュレゲゲゲ……』
だが、元の状態で蘇生することはなかった。
憎悪とも絶望とも似た表情を見せ、涎を垂らしながら、先ほど頭部を吹き飛ばされたときに落とした自らの杖を拾おうとする。
しかし、視界がはっきりと見えていないのか、うつろな瞳で何度も砕けた床石を間違えて掴み、手放し、杖をようやく掴みゆっくりと体を起こす。
(こ、こいつは……)
アレンはこの上位魔神の状態によく似た敵をエルマール教国で大量に倒した記憶があった。
『ヘウレゼン様。なんだ、どういうことでしょう?』
『このような話は聞いていない。六大魔天マーラ様、御説明頂けないでしょうか?』
『我らは化け物になるためにここに来たというのか……』
頭部を吹き飛ばされた回復役の上位魔神の変貌ぶりに魔神たちは驚愕している。
驚いているのはアレンだけではなかった。
話を飲み込めないのか、聞いていない状況なのか上位魔神や魔神たちも困惑を隠せない。
『ふふ、何を言いますか。ねえ、ギイちゃん。そちらも起こしてあげなさい』
『ギイ!!』
驚き慄く魔神たちを置き去りにするようにマーラとギイはことを進める。
ギイが目玉をカッと開くと、絶命した魔神に怪光線を照射される。
『グリリモアアアアア!!』
メキメキと肉体がふさがるが、その表情は生前のものとは思えない。
(まるで邪神の化身だな。いや、元々こうやって不滅の軍勢を作るための研究の産物を人々を変貌させて魂収集に当てたってことか?)
プロスティア帝国で帝都パトランタの水晶花の下に眠る邪神復活に必要な魂の収集に邪神の化身は使われた。
『我らを兵器として使うために研究していたと?』
『わ、我々はこんな化け物になるために、ここに呼びだされたのでしょうか……』
(これは行けるのか。とりあえず、武装解除をお願いするか)
「おい、お前ら! そのままだと邪神の化身と同じ化け物のままで終わるぞ! 今すぐに魔王城に帰れば、これ以上の戦闘はしない!!」
3手に分かれた魔王軍のうち、残り2手の対応をしなくてはいけない。
このまま戦闘にならなければアレンは必死な表情で魔神たちを脅して説得を試みる。
『ふふ、愚かな話です。あなた方が上位魔神や魔神になれたのは魔王様のお陰です。まもなく、魔王様によって3界は支配される。その時の幹部候補の試練と思いなさい。私はただの天使でしかありませんでしたが、功績が認められ魔神王になりました!』
「儂の研究も役立っておるのじゃ」
『ギイ!!』
魔神や上位魔神が増えたのは魔王だけじゃなく魔獣兵研究長官シノロムの功績もあると、床に開いた大きな切れ目の下から口を挟む。
シノロムの意見にギイは触手を掲げて同意見のようだ。
『さあ、選びなさい。このまま魔王様のために働き、支配した世界で力を得るのか。それとも裏切者として制裁を受けるのか!!』
両手を掲げ、マーラは魔神、上位魔神たちに問う。
この言葉に魔神たちは覚悟が決まったようだ。
例えば化け物になっても、元に戻す手段もあると言う。
そもそも戦うしか選択肢がなかったことに気付いたのかもしれない。
1体、また1体と武器を握りしめ、戦意を取り戻していくようだ。
『とんだ茶番だ。しかし、目的達成は近いのはそのとおりだ』
2本の脚、4本の腕を持つ甲虫の姿をしたビルディガが自らの一番大きな腕に光るギイザギイザのカマをこちらに向け、戦闘準備に入った。
(この目玉の化け物がいれば何度でも再生できる。だから魔神たちはこの数で良いって話だな)
「あ、アレン様、どうしましょう」
『敵は再生する。フォルマールとルークは陣形を守ることを優先してくれ。俺とリオンで前線を守るから』
鳥Fの召喚獣ごしに作戦を伝えながら、2個の目を特技「追跡眼」に使用したクワトロに、残り2個の目で特技「鑑定眼」を発動させる。
【名 前】マーラ
【年 齢】187200
【種 族】魔神王
【体 力】284050+50000(武器、防具枠)
【魔 力】338000+100000
【攻撃力】195000
【耐久力】224250+50000
【素早さ】221000+50000
【知 力】338000+150000
【幸 運】156000
【攻撃属性】無、攻撃魔法発動時間半減、クールタイム半減、魔法ダメージ50%増
【耐久属性】無、魔法耐性(強)、回避率(強)、状態異常(強)
【名 前】ビルディガ
【年 齢】1289995
【種 族】魔神王
【体 力】299000
【魔 力】247000
【攻撃力】273000
【耐久力】388700
【素早さ】338000
【知 力】221000
【幸 運】195000
【攻撃属性】無、クリティカル率50%増
【耐久属性】物理耐性(極)、ブレス耐性(強)、魔法耐性(強)
【名 前】ギイ
【年 齢】105
【種 族】究極魔造兵器
【体 力】239200
【魔 力】143000
【攻撃力】169000
【耐久力】194350
【素早さ】143000
【知 力】169000
【幸 運】156000
【攻撃属性】無
【耐久属性】魔法耐性(強)、体力無限回復、魔力超回復
【名 前】ヘウレゼン
【年 齢】8200
【種 族】化身上位魔神(最上級魔造兵)
【体 力】89700
【魔 力】104000
【攻撃力】67600
【耐久力】74750
【素早さ】91000
【知 力】104000
【幸 運】39000
【攻撃属性】無、攻撃魔法発動時間3割減、クールタイム3割減
【耐久属性】無、魔法耐性(中)
【名 前】グリルモア
【年 齢】450
【種 族】化身魔神(最上級魔造兵)
【体 力】56810
【魔 力】54600
【攻撃力】45500
【耐久力】47840
【素早さ】49400
【知 力】58500
【幸 運】15600
【攻撃属性】無、攻撃魔法発動時間3割減、クールタイム3割減
【耐久属性】無、魔法耐性(中)
【そのほか共通のバフ、耐性等の効果】
・攻撃:物理攻撃3割増、クリティカル率3割増、魔法発動時間2倍、クールタイム3割減、詠唱速度3割減
・耐久:魔法耐性(強)、ブレス耐性(強)、体力秒間100回復、魔力秒間100回復
魔神たちの説得に失敗し、魔王軍との戦いは始まった。
『目玉だ。あの目玉を破壊しろ!! こいつを倒さないと戦いは終わらないぞ!!』
(アンドレ以上の力のあるビルディガは後回しだ!)
この状況で誰を優先して戦うか誰でも判断ができる。
さらに、鑑定眼のお陰でブレス耐性がないことも一目瞭然だ。
『おう、炎極殺!!』
『ギイ!?』
『ふん、分かりやすい判断だ』
驚いたギイは触手で体を保護するように丸まってしまう。
だが、行動を読んでいたのかビルディガが一瞬で跳躍する。
マグラの放つ巨大な炎に対してバフで強化されたビルディガが盾になるように遮ってくる。
光沢のある甲虫の外骨格は、マグラの特技「炎極殺」で多少焦げるものの、威力は完全に殺され、ギイのところまで届かない。
しかし、マグラの超高熱の炎は、強化された魔神程度なら即死のようで、前列にいた十数体を黒後げにした。
『ふふ、ギイちゃん。皆を起こしてあげなさい』
『ギイ!!』
自らのところにほとんどブレスの炎が来なかったことに気付いたギイがクワッと目玉を大きく見開き、広範囲に怪光線を照射し、消し炭になった魔神たちを一気に化身にして復活させていく。
(ゾンビ化は同時に10体も行けるのか。範囲攻撃で一気に数を減らしていくってのは難しそうだな。これを超える速度での攻撃が必要か。流石にそれは厳しいな。蘇生できないよう粉みじんにして数を減らしていくか)
アレンの頭の中で攻略法が練られていく。
『マーラよ。回復だ』
『エビルエナジーレイン!』
漆黒の雨がマーラを中心に降り注ぐ。
『お前たちも陣形を立て直せ。強力なブレスがくるぞ。回復とブレス防御の魔法は絶やすな』
『は!!』
『ギィュルオオオオ!!』
一部化身になった魔神たちもビルディガの指揮に呼応し、陣形を組んでいく。
前衛、中衛、攻撃役の後衛、回復役の後衛に分かれ、確実にアレンたちを倒すようだ。
(陣形と装備から役回りと)
上空を飛ぶクワトロは特技「鑑定眼」を使っている以外の時は、1つの目は常時「万里眼」を発動している。
【魔王軍との戦い魔法神時空神編の構成】
指揮官:マーラ、ビルディガ
上位魔神:前衛15体、中衛15体、後衛10体、回復役10体 計50体
魔神:前衛30体、中衛10体、後衛5体、回復役5体 計50体
その他:シノロム、ギイ
(守りに固い布陣だな。時空神の腕はまだ直らないのか)
魔王軍総司令オルドーの攻撃のダメージによって、手首から下がない時空神にアレンは話しかける。
『時空神様は敵の隔離、遠距離攻撃からの防御をお願いします』
『も、もちろんです。このままイシリスもいるこの神域で好き勝手させるわけには行きませんからね』
状況も状況なので両腕がまだ完治していない時空神も戦うよう念を押す。
『こ、これは骨が折れそうじゃわい』
『ソフィー、トーニス様は回復と火魔法からの防御をお願いしてくれ』
『もちろんですわ。お任せください』
「おい、カカも燃やし尽くせよ!!」
『おう、任せとけ! うおおおおおおおおお!!』
ゾンビのようになった化身たちも混じる状況に水の大精霊トーニスは絶句する。
大精霊と精霊たちへの指示はソフィーとルークに任せる。
ソフィーはスキルレベルが上がったため4体の大精霊だけではなく4体の精霊までも全て顕現できるようになった。
ビキニアーマーのカカが敵陣前衛に突っ込んでいく。
『うおおおおおおお!!』
『おせえよ!! おらあああ!!』
『げふあ!?』
大斧を振るう魔神の攻撃を避け、燃える拳を腹に叩き込むと、魔神はそれでも倒れない。
武器を放し、カカに抱き着いた。
『なに、抱き着いてんだよ! 燃え尽きろ!!』
『ギュアアアアアア!?』
カカの体は巨大な炎の柱になって抱き着いた魔神を燃やし尽くす。
「うわっ。ま、魔力が」
契約した精霊使いの全魔力を吸い尽くしたため、ルークは立ち眩みを覚えたようだ。
『おい、カカ! ルークの魔力を吸い過ぎだ!!』
『わりぃ、わりぃ。だけど、これで一体消し炭になったぜ』
ボロボロッ
1体の魔神は消し炭になるがギイは触手を伸ばそうとしないようだ。
(よし、完全に燃やし尽くすと化身にはできない)
『お見事です。さすがは我らの作戦を邪魔するアレンさんですわ。皆を気を抜くと、魔王様の支配する素晴らしい世界に参加できませんよ』
六大魔天マーラが魔神たちに檄を入れ、魔神たちをアレンに襲わせる。
ゾンビアタックならぬ化身アタックによる魔王軍との戦いは続いていくのであった。





