第737話 掌握されたシステム
上位魔神から魔神王に変貌を遂げたバスクとビルディガが時空神と魔法神の境界となる、ピラミッド構造を上下にくっつけた1階層にやってきた。
アレンたちが急行し戦いが始まったが、やってきた魔王軍は彼ら2体だけではなかった。
魔神王オルドーがスキル「神切剣」により切り裂いた時空神の2階層に当たる床石の割れ目から、魔神王となったキュベルとマーラが浮かび上がってくる。
さらに割れ目の底からは聞き覚えのあるシノロムという老齢な魔族が耳障りな声で、時空管理システムの掌握を宣言した。
『ギイ』という特徴的な鳴き声しか聞こえなかったが配下の魔獣を引き連れているようだ。
ここからは見えないがペロムスの話では触手の生えた目玉の化け物だと思われる。
元獣王太子ベクを誑かし内乱を起こさせ、ドベルグの妻であるクラシスを奪い、彼の片目を奪ったという話も以前に聞いた因縁の敵だ。
魔神王たちに睨みを効かされる中、今の状況を整理する。
何も話を聞かされていないバスクと無表情で虫面のビルディガのコンビで、助けを求める程度には余裕を与えながらも時空神を執拗に攻撃していたのには理由があったようだ。
今思えば、バスクはともかくビルディガは攻めが甘く守りを固め時間を稼いでいたとも思える。
『そういうこと。また、まんまと来ちゃったね。そろそろ学習しようか? もう、すぐに何にも考えずに来ちゃうんだから~。アレン君ったら~』
邪神教の教祖のいた火を祀る神殿にアレンたちは閉じ込められたこともあった。
その時は上位魔神であるグシャラだけでなく、バスク、その当時は敵であった調停神ファルネメスとの戦いとなった。
「どうかな。ここは時空神様の神域、俺はどこへでも行けるぞ」
鳥Aの召喚獣の特技、覚醒スキルを使いどこへでも行くことができる。
さらに、特技「天使の輪」による管理者権限の発動できるメルスをこの場につれて来なかった分、前回の邪神教の教祖との戦いよりも自由が利くと言える。
『やってみるといいよ。でも、この場にいる仲間はきっと助からないけど。君はずっと僕たちの手の平で踊っているんだよ』
アレンがこの場に来るしか選択肢がなかったことをキュベルは確信していたようだ。
指先と口元でチッチッチっと鳴らし、仮面の内側でウインクをしながら明らかに勝ち誇っているようだ。
「くっ!」
セシルやララッパ団長の情報をどの程度掴んでいるのか知らないが、仲間たちがこの神域にいることは知っているようだ。
ワザとらしく悔しそうにしながらも、キュベルの裏をかくべく、必死に情報を収集しようとする。
(俺たちをおびき寄せて絶対にこの俺を倒すことが目的か。そんな単純な話ではないはずだ。別の目的があるのか。邪魔させないために俺を呼び寄せたと考えるのが自然か。さて、この3人の力はと。クワトロ、鑑定眼を)
『はい、かしこまりましたわ』
新たにやって来た3体のステータスをクワトロの特技「鑑定眼」で同時に鑑定させる。
【名 前】マーラ
【年 齢】187200
【種 族】魔神王
【体 力】180000+50000(武器、防具枠)
【魔 力】250000+100000
【攻撃力】140000
【耐久力】140000+50000
【素早さ】160000+50000
【知 力】250000+150000
【幸 運】120000
【攻撃属性】無、攻撃魔法発動時間半減、クールタイム半減、魔法ダメージ50%増
【耐久属性】無、魔法耐性(強)、回避率(強)、状態異常(強)
【名 前】オルドー
【年 齢】2180000
【種 族】魔神王
【体 力】350000+100000(武器、防具枠)
【魔 力】250000
【攻撃力】300000+150000
【耐久力】230000+50000
【素早さ】250000+100000
【知 力】200000
【幸 運】100000+50000
【攻撃属性】暗黒、クリティカル率50%増、クールタイム半減
【耐久属性】暗黒、ブレス耐性(強)、魔法耐性(強)
【名 前】キュベル
【年 齢】?????+?????
【種 族】魔神王
【体 力】?????+?????
【魔 力】?????+?????
【攻撃力】?????+?????
【耐久力】?????+?????
【素早さ】?????+?????
【知 力】?????+?????
【幸 運】?????+?????
【攻撃属性】????、????、????、????
【耐久属性】????、????、????、????
(マーラは見た目どおり、魔法特化タイプか。オルドーがかなり強いな。流石魔王軍最強らしいからな。ん?)
メルスから魔王軍最強はオルドーと聞いた。
火の神フレイヤの神器を強奪する際も最前列で指揮していたと言う。
チカチカッ
キュベルの顔につけた道化師の仮面が淡く紫の色の光を放ち点滅する。
『アレン様、申し訳ありません。どうやら、キュベルには私の鑑定眼で看破できない防壁か何かがあるようです』
(なんだと、状態異常耐性があるバスクでも鑑定できたのに。神クラスの耐性を持っているのか)
キュベルは仮面の装備か何かでクワトロの特技「鑑定眼」を防いでいるようだ。
『もう駄目だよ。アレン君、勝手に僕を覗き込んじゃ。でも、君は慎重なのが長所であり、短所のようだね。準備は進んでいくけど大丈夫?』
(その上に状態異常を受けたことを知ることもできると)
先ほどは先走り過ぎて失敗したと言う、今度は注意深いから失敗したと言う。
情報収集に努めるキュベルが仮面越しからもニヤニヤと笑みを零す。
「準備だと」
『そう。破滅の準備さ』
『くだらない会話はその辺にしておけ。ここからは時間との勝負だ。シノロムよ。無駄話をしている間に準備は整ったな?』
「問題なさそうじゃ。魔王城転送システムとの同期が完了しましたのじゃ。予定魔力値も転移数最大になるよう調整してと……」
『よし、では転移を進めよ。とりあえず、この場に新たに魔造した魔神たちを呼び寄せるのだ。このまま解き放っても神々に討たれて終わりだろうからな』
「ん? 呼び寄せるだと」
『召喚獣たちで僕たちを取り囲んでいるようだけど形勢逆転ってことだよ』
『アレン殿よ。戦った方が良いようだぞ』
「確かにそのとおりだな。好き勝手させるわけには行かないぞ」
時空神の両腕を容易く切り裂いたオルドーの背後には4体の魔神王がいる布陣だ。
悪い予感しかせず、リオンから戦闘再開を催促される。
こちらは扇状に魔神王たちを囲み、いつでも攻撃できるよう陣形を組んでいた。
だが、時すでに遅い。
シノロムの管理システムへの干渉によって、魔王城からおびただしい数の敵を呼び寄せようとしているようだ。
無数の魔法陣がアレンたちのいる時空神の神域に現れる。
キイイイイン
カッ
機械音の終わり魔法陣が閃光のように光を放ち、アレンたちは一瞬目を抑えそうになる。
『グルウウウウ!!』
『グオオオオオ!!』
『ジョエエエイ!!』
(なんだ? 魔獣、いや魔神たちか。数百、いや1000体近くいるぞ! 何だ、上位魔神までいるぞ!!)
視界の全てを絶望が覆いつくしていく。
クワトロに鑑定させると「魔神」だけでなく「上位魔神」まで鑑定結果に表示された。
「アレン殿、どうするのだ! このような状況戦えぬぞ。逃げた方が良いのではないのか!! ソフィアローネ様、もう少しお傍に!!」
「え、ええ。流石にこれは……」
『ルークむやみに動くなよ』
「ムートン分かってるよ!」
状況はさらに一変し、アレンの仲間たちも絶句し、思わず声が漏れだす。
【名 前】レイゾン
【年 齢】2500
【種 族】魔神(上級魔造兵)
【体 力】30000+50000(武器、防具枠)
【魔 力】22000
【攻撃力】30000+50000
【耐久力】20000+30000
【素早さ】22000+30000
【知 力】23000
【幸 運】0
【攻撃属性】雷、クリティカル率30%増、クールタイム30%増、
【耐久属性】雷、物理耐性(中)、魔法耐性(中)
【名 前】モロゾヌ
【年 齢】12000
【種 族】上位魔神(最上級魔造兵)
【体 力】60000+60000(武器、防具枠)
【魔 力】72000+100000
【攻撃力】40000
【耐久力】45000+60000
【素早さ】60000+60000
【知 力】75000+100000
【幸 運】0
【攻撃属性】風、火、攻撃魔法発動時間半減、クールタイム30%増
【耐久属性】風、火、ブレス耐性(強)、魔法耐性(強)
アレンたちの前方にクワトロの特技「万里眼」と特技「鑑定眼」を併用すると上位魔神300体、魔神700体をこの場に呼び寄せたようだ。
4つの目を持つクワトロはその目の数だけ同時に目を使用した特技を使用することができる。
『ふむ、数的にはこれで十分か。マーラよ。バフをかけよ』
『はい、分かりましたわ。エビルフォース! 皆もこれで掛けるバフの効果が跳ね上がったはず。魔王軍総司令の命です。バフをかけていきなさい』
『は! ダークプロテクト!!』
『フルクライハイ!』
『フルデビルクラッシュ!』
『エナジーフルアタック!』
バチバチッ
パアッ
キュイイイイイン
オルドーの指示でマーラが魔力を練り魔神、上位魔神たちにバフをかけたかと思ったら、バフを得意とする魔法使い系の敵たちが邪悪な魔力を込め、破裂音などの効果音を鳴らしながら強化していく。
『マクリス。フリーズキャノンだ!!』
鳥Fの召喚獣を使い、マクリスにだけ通じるよう指示を出した。
だが、仮面の下でにやつくキュベルは全てお見通しだと言わんばかりに口を開く。
『もう、相変わらず、アレン君は単調だな。そんなんだと背後を狙われちゃうぞ。ガンディーラ、やっておしまい』
『フリーキャノンなのらあ!? って、ぬあああああああ!?』
キュベルの言葉と陣形の最後列にいたマクリスの叫び声が同時になる。
マクリスの後ろ、陣形の最後列の背後にも、転移していた者がいた。
振り向いたアレンが見たのは最後列の背後に、以前プロスティア帝国の帝都パトランタにもやってきた六大魔天の一角であるゴーレム系の敵だ。
当時は漆黒のアダマンタイトの体をしているが、こいつも魔神王として強化されているようだ。
金色に輝くオリハルコンの体をしている。
巨大な体から繰り出した右腕を振り払うと、右側から巨大な壁が迫ったかのような錯覚を覚える。
マクリスが放つ「フリーズキャノン」をなんなく粉砕したかと思ったらそのままマクリスごと、アレンたちの元へ100メートルはあろう巨大な腕を振るう。
吹き飛ばされる途中でマクリスは体力が0になったようだ。
ガンディーラの右腕と床石の間で光る泡となって消えていく。
『アレン殿!!』
『ルークよ、動くなよ。我が覆うぞ!!』
「ジゲン様、防壁を!! きゃああああああ!?」
「ソフィアローネ様!? うあああああああ!!」
アレンをルバンカが体全体で覆い、身を挺する。
毒沼の大精霊ムートンが巨大な膜となり、ソフィー、ルーク、フォルマールを覆おうとする。
水の大精霊は水の防壁、空間の大精霊は結界を構築し、防御に徹する
だが、非常なまでの一撃が大精霊の力の身の守りごと、皆を飲み込こんでいく。
『誰も助からない。全ては絶望の中で終わるのさ』
キュベルが仮面越しでも分かるほどの笑みを零し、残骸が広がる様に、無情なまでの現状に対して言葉を零すのであった。





