第728話 学園都市の開発
土の化身アンドレが落としたのは有益なアイテムであった。
「よし、残り5分だな。せっかくなんでツルハシでオリハルコンの鉱石を掘って持って帰ろう」
セシルがレベル99になったので、目的を果たした。
あと5分で強制的に大地の迷宮を退出させられるのだが、階層を攻略する上で次いでに手に入れたり、店で盗んだツルハシが3本も余っていた。
「お? 助かるぜ」
仲間たちの影で状況を静観していたハバラクがツルハシ背負って、急いでオルハルコンの鉱脈に向かう。
『アレン様、24時間が経過しました』
アレンとフォルマールもツルハシ握ってそれぞれ1つずつオルハルコンの鉱石を手にしたところで視界が一気に切り替わる。
「ふう、助かったぜ。これで新たな武器や防具が叩けるぜ」
「いえいえ、何度も一緒にお付き合いいただきありがとうございます。この鉱石も素晴らしい防具を期待しております」
「任せとけ」
バランスボールサイズのかなり大きな鉱石は1つ当たり100キログラムを超える重さがある。
アレンとフォルマールがハバラクの工房にオリハルコンの鉱石の塊をそれぞれ運び入れる。
「それでこれからどうするの? 時空神様の所へ行く?」
セシルをレベル99にする目的は果たされたのだから、これから1人専用の試練を受けに、時空神でデスペラードの試練を受ける予定だ。
「そうだ。だけど、まずは一休みだ。それからセシルは時空神の試練に行って、俺たちは学園都市に行くぞ」
「あら? 勇者様の試練を手伝うんじゃないのですの?」
「勇者の試練は手伝うが、この大地の首飾りは使えるからな。……飯を食いながら、説明しよう。……ハバラクさんも一緒に聞いていただいてよろしいですか?」
(元気なおっちゃんだな。精力的に働いてくれて助かるんだけど)
鉱石を手にしたことで意気揚々と職人モードに着替え、手拭を頭に巻き始めた。
「お、おう。じゃあ、こいつらを高炉にくべたら食堂に向かうぜ」
大地の迷宮のオリハルコンの鉱石は、高純度でほぼオリハルコンなのだが、鍛造しやすいよう高炉に入れて24時間以上過熱しておくらしい。
弟子の職人たちと今回手に入れた3つのオリハルコンの鉱石を高炉へ運び始めた。
アレンたちも、拠点内にある男女それぞれの風呂場へと向かい、24時間攻略の汗を流した。
アレンとルークが食堂に集まった後、髪の長いセシル、ソフィー、フォルマールも遅れてやってくる。
「腹減ったぜ。なあ、ムートン」
『そうだな。ペコペコだぜ』
頭に乗せていた毒沼の大精霊ムートンがテーブルに乗って食事が来るのを待つ。
(大精霊を普通に顕現しているな。星1つだったら干乾びて死んでしまうらしいけど)
星5つになり神の加護を得たルークが軽い口調で平然と今は必要な大精霊を1体顕現しているが、相当な霊力や魔力を必要とする。
「わりぃわりぃ。あいつらオリハルコンなのに熱の調整が下手過ぎてしばいていたところだ」
ハバラクが手の甲をさすりながらやってきた。
アレンがルークとムートンの話の掛け合いを眺めていたら、ハバラクが弟子の職人たちをしばき倒していたようだ。
ついでに入浴も済ませているようで顔が火照った状態のおっさんが、どかりとアレンの正面の席についた。
全員揃ったところで食事がどんどん運ばれてくる。
「精霊様、全ての恵みに感謝いたします」
学園にいたころから祈り担当のソフィーが、食事に感謝の祈りを捧げた後、温かい食事を口に運んだ。
「それでこれからどうするんだよ?」
木の皿を両手で持ってスープを流し込むように飲んだルークが、アレンに今後の話を問う。
24時間の断酒から開放され果実酒を飲んでいたハバラクも何だと、テーブルに木のコップを置いた。
「俺たちはこれからセシルを時空神に試練に送った後、勇者の試練を手伝いに行く。この大地の迷宮の全ての鍵が開くこの大地の首飾りをこのまま装備枠として持っておくのはもったいない」
「大地の迷宮に行くってことかしら? でも、私たち全員ここから離れるのよね」
「そうだ。ハバラクさんを置いて離れるから、このままだと鉱石不足が解決できない。だから地上にいるザウレレ将軍にゴーレム部隊を率いて鉱石収集を手伝ってもらいたいと考えている」
(そういえば、鎮魂祭があったな。報酬の話は大精霊神につけているけど、そろそろ日程が知りたいところだ)
アレンは大地の迷宮でセシルをレベル99にした今後の話を始めた。
セシルはこのまま時空神デスペラードの試練を受け、加護は既に手にしたが、神技と神器を手にしてもらう。
このままアレンたちが勇者ヘルミオスの試練に全員が参加すると大地の首飾りの効果が活かせない。
アレンたちなしでは「オリハルコンの鉱石」が手に入らない。
「ふむ」
ハバラクがそうだなと言わんばかりに頷いている。
「でもそれでザウレレ将軍にゴーレム部隊を引き連れてもらうって話ね」
「そのとおりだ。霊獣のいない大地の迷宮でオリハルコンやそのほかの鉱石を手に入れてもらいハバラクが武器や防具を作ってもらう」
「さすがに80階層のオリハルコンの鉱脈まで行けないけど、そこはボスの間や宝物庫にある宝箱を回収するってことね」
セシルが、アレンが言わんとしている作戦を補足してくれる。
「そのとおり。とりあえず、星4つまで転職が進んだ10人くらい入れば、鉱石の回収くらいはできるだろう。魔導盤拡張端子が手に入ってもアレン軍の強化になるし」
魔導盤拡張端子とは、ゴーレム使いの魔導盤には石板を入れる穴が表面10個開いているのだが、穴のない裏面に石板を埋める穴を最大10個開けることができるアイテムだ。
ゴーレム使いにとって、石板の穴の数はとても大事なものだ。
なお、メルルは30個、石板の穴の開いた魔導キューブを手にし、ガララ提督も既に20個の穴をあけている。
ガララ提督のパーティーも15個以上開けているし、アレンたちも、今回の4回の攻略で5つの「魔導盤拡張端子」を手にした。
(こうやって、大地の首飾り起点に、ドワーフたちが大地の迷宮の恩恵を受け続けると)
今となったら大地の神ガイアが、なぜ、セシルのレベル上げができることを臭わせたのか分かったような気がする。
大地の迷宮の報酬を紐づけして、ドワーフと大地の神の関連を強くしたかったと予想する。
魔王を倒した場合、大地の神の報酬が功績となり、倒したという話が広がり、一層、ドワーフたちの信仰を集められるだろう。
255柱居ると言われる神々は、自らが積極的に関与して信者を増やさないと神ではいられないのだろう。
だが、直接的なことをすると創造神に叱られる理のようだ。
ハバラクが手に持ったコップの中の果実水を飲み干した後、口を開いた。
「そいつは助かるぜ。叩くもんは多い方がいいぞ」
大地の迷宮にはオリハルコンだけでなく、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、ミスリルといった鉱石も手に入る。
アレンたちにはオリハルコン以外不要だがアレン軍の強化には繋がる上にハバラクのスキルがアップし、さらなる武器や防具が作れるようになるかもしれない。
アレンとは違いハバラクは、神々の狙いも何もなく、自分の求めることをしたいようだ。
「じゃあ、今日は休んで明日から行動に移そう」
アレンは皆が納得したところで、今後の話を締めくくった。
翌日になり、アレンたちはまず時空神の神域に向かいセシルと別れた。
このまま、竜神の里経由で、地上に戻った後、学園都市に向かった。
(さてと、上空に上がってザウレレ将軍を探してと)
鳥Eの召喚獣の特技「鷹の目」を飛ばすだけであったのだが、仲間たちも開拓の様子が見たいというので、皆で空高く移動する。
100メートルほどの高さからアレンたちは学園都市の状況を確認すると仲間たちが口々に声を上げる。
「なんかすごいことになっているな!!」
「ええ、既に街は完成しているようですわ。ねえ、フォルマール」
「はい。ローゼンヘイムのエルフたちの頑張りに寄るものでしょう」
「なんだよ。俺の里のダークエルフたちも頑張ってるって聞いたぞ」
「その辺にしとこう。たしか10月1日に学園都市の受入れが開始されるって話だったか」
(俺の17歳の誕生日まで12日か)
種族の王家がいるとこんな会話にもなるものだと話を流す。
ラターシュ王国の学園都市は元々の大きさの2倍の広さになっていた。
事の発端はアレンがラターシュ王国の学園都市には才能を1つ増やすものと、星を4つまでふやすものの2つの転職ダンジョンがある。
魔王軍と戦う勤めのある者たちが安全に戦線に行けるよう、学園制を見直し転職してからにしよう。
転職するには時間を要するので今のままの3年制の学園では間に合わない。
4年制や5年制のカリキュラムに変更し、全世界で勤めのある生徒たちの受入れをするため、今の学園の大きさでは人が入りきれない。
アレンが5大陸同盟会議で提言してから半年という短期間でほとんどの開拓が終わっているようだ。
(開発資金の金貨1億枚投入しているからな。ペロムスがほとんど稼いでくれたけど。外壁は要望通りになったな)
要塞と思えるほどの外壁は、アレンが依頼したものだ。
転職ダンジョンを抱えるこのラターシュ王国学園都市は人類の希望だ。
この都市の存続させることが魔王軍と戦っていく大事なことだ。
100平米キロメートルを超える学園都市には幅30メートルにもなる厚さ、30メートルを超える高さの外壁がある。
魔導列車が旧市街と新市街をすぐに連結した状態で整備されている。
川に汚水が流れ込まないよう、帝都でも対応できるほどの浄水の魔導具(特大)の施設が上下水用に2つも完備されている。
「教会に冒険者ギルドもあるな」
弓使いとして遠目ができるフォルマールもエルメア教会と冒険者ギルドが複数あることに気付く。
「この規模だからな。出張所をいくつか設けて混雑しないようにしているのさ。お? ザウレレ将軍がいたな」
精霊使いもゴーレム使いも十分にいるアレン軍だけでも、これほどの大規模の都市は作れなかった。
5大陸同盟の各国代表はもちろんのこと、エルメア教会と冒険者ギルドにも都市開発に協力を依頼している。
鳥Eの召喚獣の鷹の目が、ザウレレ将軍が新市街とも言える開拓したエリアの中央広場でゴーレムたちに指揮していることに気付いた。
アレンたちが空を飛んで中央の広場へと向かうと広場の中央で何やら銅像のようなものを建てている最中のようだ。
(おや、これってなんだ?)
作業の邪魔にならないよう少し離れたところで、まだほとんどの人が踏んでいない綺麗に舗装された石畳の上に着地する。
アレンは石像の足場の土台を掴み、ゴーレムによってゆっくりと運ばれて、定位置と思われる中央の広場に向かう銅像を見る。
「アレン様、あれって?」
「何だ、何故こうなった? 何故俺の……」
ソフィーとアレンが同時に声を上げたが現場の人たちは像の設置に神経を使っているのか、気付かないようだ。
「アレン総帥の像だ! 丁寧に運ぶのだ!!」
自分らに背を見せ、現場を指揮しているザウレレ将軍が大声で叫ぶのであった。





