第727話 アンドレ戦④
ここまでの戦いになるとはセシルは思ってもみなかった。
攻撃を合わせているから無事なものの、タイミングが悪ければアレンもろとも全滅しかねない。
どれほどの戦いを強いるのかと完全に自分のせいで、仲間たちが戦っていることが随分苦しかった。
(ネスティラドほどの苦戦でもないし。戦士の咆哮を使わなくても行けそうだし)
「……セシル。強くなって、ミハイさんの仇を取るんだろう。それに、勝利は目前だ」
セシルは思いを汲み取られて、思わず息を飲んでしまった。
仲間たちには色々な理由で戦っている。
セシルの戦う理由はずっと憧れ思ってきた兄のミハイの仇を取るためだ。
そのためにはどうしても力が必要だ。
セシルの中で強い思いが改めて溢れてくる。
「そうね……。私には力が必要よ。もう少し無理してね」
「ああ、任せろ。まだ時間はあるし、余裕だぜ」
(大地の癒しはデバフの全解除、大地の怒りは高威力で効果範囲が広すぎるからな。霊力を消費して仕方あるまい)
土砂と瓦礫の中から出てきた防具がボロボロになったアレンは勝利を確信する。
時間はあと20分くらいあるのだが、明らかにアンドレの霊力の減りの方が時間より早い。
パアッ
瓦礫の上で光る泡が形となってリオンを形作る。
バフは継続するため、神A「蓋世天錫」は、覚醒スキル「因果応報」によって威力が増した状態だ。
『何度も何度も復活しおって。何なんだ!!』
『絶対に倒されない不死の存在よ。むん! 無限天元突!!』
あまりに高速の突きで内側の甲板を粉砕し、300メートルの巨躯をのけぞらせる。
リオンの攻めに、体勢を立て直した先でアンドレは霊力を両の前足に込め始めた。
『ぐぬお!? 大地の怒り!!』
(うし、思わず回復よりも攻撃を優先させたな。メルス、防御耐性の変更はできたか?)
『土耐性はどうやら固定なようだ。だが、火耐性弱点を追加することができたぞ』
攻撃を続けながら倒しきるための戦術は進めてきた。
「今だ! セシル!!」
濁流に飲まれながらもアレンはセシルに魔法「小隕石」を放つように言う。
エクストラスキルから魔法枠になった「小隕石」の攻撃属性は土と火だ。
「分かってるわ! 小隕石!!」
大地の迷宮の頭上に巨大な魔法陣が現れる。
『し、しまった!? だ、大地の癒しを!?』
(今から発動させても体力が回復始めるまで4秒かかるだろ。間に合うまい)
強力な一撃を放った後の硬直により、アンドレは回避も防御の行動もとれない。
アンドレの頭上に自らよりも大きい、真っ赤に燃える岩の塊が落ちてくる。
攻撃を受け、アンドレの体が光る泡へとなっていく。
『アレンたちはアンドレを倒した。セシルはレベルが10上がった』
「やったわ。レベルが上がったわよ!!」
濁流に飲まれたアレンの魔導書にアンドレ討伐のログが流れ、セシルの歓喜の声が広がったのであった。
仲間と大精霊と召喚獣の活躍によって、本気を出した土の化身アンドレを倒した。
「たしかにレベル99だ」
(残り時間17分くらいあったな。まあ、リオンがいるからな。余裕と言えば余裕か。つうか、神級倒したけど、ワイのレベルアップは?)
相変わらずレベルが上がらないようだ。
レベル250以降、亜神級、神級の敵を倒しても一切上がらない。
経験値を取得できないのは、どうやら、レベルアップ固定の敵に限られ、アイアンゴーレムを倒せば、普通に経験値は数字上増えていく。
どうすれば、レベルアップできるのか方法を考えているとセシルが我慢できなかったようだ。
「やったわね!! 私にも見せなさいよ。やったわ! やっと上がったわ! 99よ、99!!」
【名 前】セシル=グランヴェル
【年 齢】17
【加護①】魔法神(加護特大)
【加護②】時空神(加護大)
【職 業】魔導帝
【レベル】99
【体 力】6752+12000(加護)
【魔 力】9174+12000
【霊 力】21174
【攻撃力】6047+6000
【耐久力】6059+12000
【素早さ】9025+12000
【知 力】9214+12000
【幸 運】8815+12000
【加護①】全ステータス3万、クールタイム半減、魔法威力2倍
【加護②】全ステータス1万、魔法発動速度1・5倍、魔法効果範囲1・5倍
【神 技】魔力蓄積、知力強化、古代魔法(未完成)
【スキル】魔導帝〈7〉、火〈7〉、風〈7〉、雷〈7〉、闇〈7〉、深淵〈2〉、重力〈7〉、小隕石〈5〉、神技発動、組手〈7〉
※装備はアンドレ対策のため変更なし
※修練用の杖、霊力回復リングは今回装備していない
セシルがレベルも才能のスキルレベル1のエクストラモードになり、アイアンゴーレム狩りに3日、一度に挑戦すれば24時間かかる大地の迷宮を挑戦3回で、約10日が過ぎた。
これまでの練習の杖(強)によるスキルレベル10倍、加護によるクールタイムと魔法発動速の向上により、大地の迷宮で移動時間が多い中、丁度よいタイミングでスキルレベル7に達したようだ。
セシルが魔導書を見て感動していると、勝利を喜ぶ仲間たちも集まってくる。
「なんか最下層ボスじゃないのにクソ強かったな!! まあ、ネスティラドほどじゃねえけどな」
「そうですわね。その……リオン様はすごかったですね」
ルークの言葉にソフィーは神Sの召喚獣リオンの戦いを思い出しているようだ。
『常時発動で復活か。随分な特技、覚醒スキルの盛りようだな』
メルスが呆れながら、上空からゆっくりとアレンたちの下へ降りてきた。
(たしかにな。「輪廻転生」は常時発動な上にクールタイム1分だから、1分以内に2回倒さないと復活するってことだしな。補助魔法やスキルなんかでクールタイムはこれ以上下がらないようだけど、それ以上の効果だ)
強力なスキルには相応のクールタイムが存在する。
エクストラスキルなら1日に1回しか使えないなどだ。
スキルでも1時間のクールタイムを設けているものも多い。
だが、リオンの覚醒スキル「輪廻転生」は常時発動でクールタイムは1分と極端に短いため、復活してから再度倒すまでに1分以内でなければ無限に「復活」が可能だ。
敵側にもクールタイムが存在し、アンドレは1分以内に「大地の怒り」を発動するのは無理なようであった。
結果、通常攻撃やスキル「大地の癒し」などを併用しながら戦ってきたわけだが、これではリオンを倒しきれなくてもしょうがない。
さらに、リオンは召喚獣になる前の特徴というか力を取り戻すかのように、複数の特技や覚醒スキルが重なりスキルは威力を増す。
また、神A「蓋世天錫」はあらゆる耐性、属性、バフを貫通する常時発動の覚醒スキル「森羅万象」の効果がある。
さらに、リオンの特技「無限天元突」は、リオン本体の覚醒スキル「因果応報」が、10回同時攻撃全てに効果が乗って数倍の威力になる。
(全てのスキルが相乗効果しまくっていてステータス以上の力だな。ステータスと回復だけの敵など相手ではないというわけだな、リオン)
『……そうか。貴重な力を得たと感謝しよう。まだ何か動いているようだぞ』
先ほどから警戒心を解除しないリオンの言葉にセシルが落とした大岩を仲間たちが慌てて見る。
ピキッ
大岩の上部からヒビが入り、とうとう2つに割れてしまった。
「おい、まだ何かあんのか?」
「皆は俺の後ろで!」
アレンが先頭に仲間たちが割れた大岩の下へ向かっていくと、何か小さなものがうごめいている。
(ん? 亀だな。みどり亀的な)
前世でインターネットの動画で見た孵化して、砂場に這い上がってきたウミガメの幼体がそこにはいた。
『ピキーッ 我をこんなにしおって』
「見た目のわりに口調は可愛くないわね……」
「アンドレ様はこのようになられたようですわね」
明らかに力を失った土の化身アンドレに、仲間たちの緊張は解けていく。
『ふん、我を倒した褒美に「大地の首飾り」はお前らのものだ。受け取れ』
ブツブツ言いながら、瓦礫の隙間へと潜り姿を消した。
キラリッ
幼体のアンドレの側には輝く紐の先端に鍵状の飾りのついた全てオリハルコンで出来た首飾りが落ちている。
(首飾りだと? なんか見た目がアンドレが首にぶら下げていた奴と少し違うな)
「メルス、鑑定を」
『ああ』
メルスは天使B「虫眼鏡」の特技「鑑定」を使って、幼体アンドレの側に落ちていた首飾りを鑑定すると、魔導書のログに結果が表示される。
【大地の首飾りの効果】
・体力10000増
・物理耐性30%増
・大地の迷宮の門を無限に開錠できる
『鍵っぽいが、魔法具で首飾りの装備枠だな』
アレンはその言葉にミニ土偶の時間を確認すると残り時間は『12分』と表示されてある。
「よし、まだ検証できるな。急いで扉を開けてみよう」
アレンたちはクワトロに特技「飛翔羽」を発動させて、一気に出口の扉へ向かう。
扉にある鍵穴部分に「大地の首飾り」の鍵を使ってみると、ゴゴゴッと音を立てて開錠され、通路が目の前に現れた。
「空いたわねって、何で、アレンが使ってるのよ!!」
「いや、無制限だし。実際に消えていないだろ」
「それもそうね……」
アンドレのいる間から出るための鍵は、前回、メルスが口から入って奪ったのだが、その際は使用後に消えてしまった。
大地の迷宮の鍵は2種類あって、専用の扉の鍵と宝の番人の間に宝物庫、工房、鉱脈にはいるための一般的な鍵がある。
専用の鍵は1回使用後に消えてしまうのだが、普通に残っている。
(無制限な上に装備枠か。大地のハンマーの首飾り版じゃねえか)
扉を開けた先は長い通路になっており、通路をまっすぐ進んだ先には次の81階層の階段がある。
通路を進むと左右に扉があり、開けると片方に鍛冶用の工房、もう片方にオリハルコンの鉱脈がある。
カチャ
工房の扉を開けてみると普通に扉が開いた。
カチャ
反対側の鉱脈へ続く扉の鍵に使用してみるとこっちも開いた。
扉を開けるたびにセシルやソフィーがビクッとなり緊張感が増すのはなぜだろうか。
当然、無限に使用できるため、3回使用しても消えることはないのだが、鍵はそもそも2回から5回程度まで使用できるが、鑑定結果も踏まえて1つの検証結果を口にする。
(専用の扉も一般の扉も無制限に開けられる。専用も一般も開けられる鍵は初めてだな)
「これは大地の迷宮で使いたい放題の鍵を手にしたとみてよいだろう」
アンドレを倒して「大地の首飾り」を手にしたアレンたちであった。