第705話 幸運999999②
ペロムスがスキル「達磨祈願」を発動させた。
このスキルは、金貨を敵にぶつける度に黒目が塗りつぶされ、塗りつぶされた目の数によって、今後発動した際の確率を一度だけ上昇させる効果がある。
『何だあれは……』
2発のスキル「真銭投」の金貨を受け、ネスティラドは強力な砲弾のように明らかに警戒している。
(流石に学習したか。それに、銭投はネスティラドを吹き飛ばしているが、ダメージを与えている感じはしないな。やはりここは100連コンボを確実に決める必要がある。まずはキールだ)
『キール。今回は短期決戦だ。最初から神技を惜しみなく使うんだ』
陣形が組めたので神技を使うようアレンは指示する。
「ああ、分かってるぜ。神技発動!! 神薬草園!!」
満開の花々が地面を覆っていく。
『よし、ペロムスは引き続き、金貨を投げるんだ! お前の命中が勝敗を分けるんだぞ!!』
たしかにカンストした幸運による「真銭投」の威力はネスティラドを吹き飛ばすほどの威力はあるが、耐久力も耐性も規格外のため、肉体を破壊し体力を削るには至らないようだ。
おそらくだが、ネスティラドには物理攻撃無効や物理耐性強などあらゆる耐性があり、ステータスの暴力をさらに上昇させている。
「おりゃああ! 真・銭投!!」
『馬鹿め!!』
流石の3発目であった。
金貨の投擲と同時にネスティラドは足に蓄えていた力を解放した。
跳躍により躱され、ネスティラドのいた位置を輝く金貨が凄い勢いで通過していく。
金貨は深い森の中を、巨木をへし折り、貫き、遥か彼方まで飛んで行ってしまった。
『ふん。避けられてしまったな。当てねば願いは叶わぬぞ』
ペロムスの頭の上の「達磨祈願」がため息交じりに呟いた。
『ペロムス。そんなに大振りで振るとネスティラドに気付かれる。もう少し前に出て、確実に金貨を当ててくれ。皆はペロムスの投擲のフォローを!!』
「えええええ!? そ、そんなこと言われても。さっきから睨んでて怖すぎるんだけど!!」
『苦情は後で受け付けるから前に出てくれ』
ペロムスはネスティラドの動き、仲間たちのバフによって圧倒的に上昇したステータスによる攻防を見て困惑して固まってしまう。
ネスティラドが右腕と左腕を振るうたびに前衛たちは高速で動き、寸前で躱し、死角から攻撃を加える。
シアとルークに攻撃対象にならないよう、残りの4人は一糸乱れぬ動きでフォローをしつつ、後衛の召喚獣やハク、メルルの攻撃が続く。
ステータスを幸運で特化にしたため、ネスティラドの動きはもちろんのこと、他の前衛の動きが見えなくなったりして間違えて金貨を背後から当ててしまいそうだ。
さらに、ハクやマグラのブレスでネスティラドの体本体が炎で包まれると、視認できなくなる。
狂暴なネスティラド相手に距離を詰めて確実に当てろと言うアレンに対して困惑してしまうと、中衛として横に並ぶフォルマールが語り掛けてくる。
「よい。私がフォローしよう、ペロムスよ」
『お? ソフィーの配置が終わったフォルマール先生が戻って来た。先生頼みますぞ!!』
アレンは鳥Fの特技を使い、願望を垂れ流す。
「先生お願いね!」
「フォルマール先生、きっちりお願いです」
クレナとソフィーもノリ良くアレンの言葉に反応する。
「ほれ、ペロムス。立て」
「フォルマールありがと……」
手を差し出しペロムスをようやく立たせて上げる。
今回、「ラッキースロット」と「開運招福」の2つで幸運を上げ、ペロムスのスキルの効果を上げる。
幸運を上げた次は銭投げをネスティラドに当てていかないといけないわけだが、知能があるネスティラド相手に戦闘経験の少ないペロムスでは難しいことは容易に想像できた。
そこで、同じく中衛で弓矢という物理系の遠距離攻撃が主体のフォルマールにこの1ヶ月間、指導役を買ってもらった。
「敵の動きを予想しろ。予想した先を狙うのだ」
前衛の動き、敵の目や体の動きなどあらゆることを予想して中衛は遠距離攻撃で戦う。
たった1ヶ月ではあったが、最低限の中衛としてのペロムスの役割を叩き込んでくれた。
「無理だよ。たまに見えなくなるし」
ネスティラドとペロムスでは幸運以外のステータス、特に相手の動きを把握するための素早さが違い過ぎた。
「……そうだな。私が狙いやすくするから金貨を2枚、スキルを込めてくれ」
フォルマールはペロムスの弱気な態度に否定することなく淡々と冷静にことを進める。
「むん。一攫千金!」
バチバチッ
バチバチッ
ひとつかみにした金貨を2枚、一攫千金で光金貨の輝きに変える。
「助かる。……無限の矢筒。ほう、これは素晴らしい! なんという矢だ!!」
メキメキッ
メキメキッ
フォルマールは神技「無限の矢筒」を使い、幸運カンストしたペロムスのスキルを込めると、金貨を光り輝く矢に変えた。
フォルマールの神技「無限の矢筒」は生命体でなければなんでも矢に変えてしまう。
矢を1本、神器ニニギの弦にかける。
矢に込められたあまりの力にフォルマールは驚愕しているようだ。
「……真・強引。……真・強引。……真・強引」
フォルマールはスキル「真強引」によって威力を上げながら、巨木をへし折り、暴れるネスティラドと仲間たちの動きを読みながらただただ静かに狙いを定める。
「私が矢を放った後、金貨を投げろ。疾風迅雷!!」
ネスティラドが軽快なフットワークで前衛たちを翻弄する。
フォルマールは跳躍し、片足を着くというタイミングで着いた方の足のつけね目掛けて神技「疾風迅雷」を放った。
『ぬぐあ!!』
吹き飛ばされるほどの衝撃を受け、ネスティラドは重心となる片足を吹き飛ばされ、顔面から地面に叩きつけられる。
「ここだね! 真・銭投!!」
『ぐぐ!!』
転んだタイミングでネスティラドの胸元めがけて金貨を投げつけた。
「よく当てたな。だが、確実に当てないといけないこの場合は、地面に付く際に奴は地面に転がらぬよう手元を地面に向ける。そこを狙った方が良いぞ」
今回は恐らくどこを投げても当たっていたとフォローも入れつつ、最適解を教えてくれる。
「う、うん。ありがと」
ソフィーのため、自らの矢の当たり外れが全てだと考えてきた半生だった。
どうしたら敵に遠距離から確実に当てることができるのか、フォルマールにとって、必中の造詣はとても深いようだ。
『おお! もう1つも金貨を当てたな。願いはなんだ。早く言うのだ』
片目であったペロムスの頭の上の達磨の白目の中に黒目が浮き出る。
「押貸請求の成功率を上げてほしい」
『分かった。次の真銭投の際、成功率を160%上げておいた。確実に当てることだな』
ポンッ
両目が黒目になった達磨が願いを聞くとペロムスの頭の上で光る泡と消え、キラキラとペロムスに降り注ぐ。
「次外したら意味ないというスキルだったな。今度は跳躍させるからそこを狙え。空中なら避けられぬだろう」
「フォルマール、ありがと」
横で2つ作った金貨の矢のうちの最後の1本をつがえたフォルマールが、ペロムスが金貨をスキル「押貸請求」を発動させるため確実に当てなくてはいけない。
「前衛たちよ。私にタイミングを合わせよ!」
フォルマールは大声で叫んだ。
「分かった!!」
「おう!!」
『……』
フォルマール、クレナ、ドゴラのやり取りをネスティラドは気付かないように立ちまわる。
「真・強引!!」
メキメキと弦を引き、フォルマールはネスティラドの足元を狙う。
「やあああ!!」
「うおおおお!!」
クレナとドゴラが渾身の一撃を込める。
まだ戦闘が始まって5分も立っておらず、ルークのデバフがまだ一度も効いていないため、肉体を割くこともできず、表面で火花が散るだけだ。
だが、それでもあきらめずに攻撃を加えていくとネスティラドが我慢できなかったようだ。
『ええい、纏わりつくな!!』
片足で軽く跳躍し、前衛たちから距離を取ろうとする。
「今だ! 疾風迅雷!!」
『馬鹿め。二度も受けると思うな!!』
予想していたとネスティラドは神技「疾風迅雷」を躱そうと、事前に予想していた通り、タイミングよくリーチの長い右腕を瞬時に地面を押し、これまでよりも変則的なタイミングで高々と跳躍した。
「ふん、それは『疾風迅雷』ではない。クールタイムがまだ終わっていないからな」
それはスキル「真金弓箭」だと笑みを零し付け加える。
先ほど放ったばかりの神技「疾風迅雷」はまだクールタイムは終わっておらず、放つことはできない。
精霊の園で大精霊神の試練を乗り越え力をつけたフォルマールが抜群の活躍を見せる。
『なんだと?』
「今だ! 真・銭投!! 押貸請求!!」
『がは!?』
跳躍し、空中で動くことができない中、真・銭投で金貨を投げつける。
金貨はネスティラドの頭部に当たり、弾けるように四散する。
カチャン
カチャン
金貨が重なる音がする。
ネスティラドが何事だと触るが痛みは感じられないようだ。
『よし、押貸請求の効果が出たようだぞ!! ネスティラドの幸運を削っていくぞ!!』
アレンは仲間たちに作戦が上手くいったことを共有するのを忘れない。
『ぬ? 何だ?』
「お金貸したんだから『幸運』で返して貰うよ」
ネスティラドの顔からカチャカチャと音を鳴らして金貨が溢れ始めた。
しかし、ネスティラドは痛みを感じていないようだ。
スキル「押貸請求」を受けた顔面から金貨が溢れる中、ネスティラドがそのまま地面に降りてくる。
ネスティラドの顔面からどんどん溢れてくる金貨がペロムスの下へと向かっていく。
ペロムスはスキル「押貸請求」の効果に成功したようだ。
金貨を投げつけた代償に、対象の幸運を金貨の形に変え奪うものだ。
成功確率は幸運と相手の幸運や耐性に依存し、「達磨祈願」によって確率は飛躍的に上昇する。
『さて、手に入れた幸運はルークとシアどっちに振り分けるか。って。お!!』
ネスティラドから奪った幸運の使い道を考えていると戦況が進んでいく。
『うあああああああ!?』
「よっし!! 呪詛禁刃が効いたぞ!!」
『また、こいつか。離れよ!!』
巨大な骸骨が倒れ込むようにネスティラドにもたれかかる。
(よしよし、ネスティラドの幸運が削られて「呪詛禁刃」が効きやすくなってきたな。まあ、幸運はそこまでデバフの発生率に知力や耐性ほど影響しないけど。運が良かったと)
デバフ系のスキルは相手のステータスや耐性に依存する。
幸運は知力ほどデバフの成功確率にそこまで影響を与えないステータスであるが、ルークはペロムスのお陰で幸運が30万上がっている。
増加したステータスにソフィーの精霊神の祝福などでさらに増加したおかげで40万近い幸運が上がったことが、今回はたった10分もたたずに1回目の「呪詛禁刃」が効いたのは、それこそ幸運だとアレンは分析する。
『またこれか』
「おりゃ!! 真・銭投!!」
『ぬぐ!?』
ネスティラドが背後からもたれかかる骸骨に意識が向いたところで、再度、スキル「達磨祈願」を発動させ、両目が真っ白な達磨を頭に乗せたペロムスが金貨を投擲する。
ペロムスの頭の上の達磨の目が1つ黒く塗られる。
『また我に願うか。強く願うのであれば、もう1つ金貨を当てるのだ』
ペロムスはフォルマールのフォローを受けながら、金貨をネスティラドにぶつけていくのであった。





