第703話 輝け商運!神技「開運招福」!!
ペロムスの頭の上に一辺1メートルのサイコロが6つ現れる。
「サイコロは全部6つだぞ! このためにこんな前準備したんだからな!!」
(つうか。なんて幸運だ。ペロムスが輝いて見えるぜ。これが幸運62万か)
「うぅ……。そんなに言わないでよ」
ペロムスの幸運のステータスを上げるために皆でスロットを回すといった準備をした。
圧倒的な幸運のステータスによって、ペロムスの全身からありがたい後光が溢れているように見える。
『お、おおお……。何という商運だ。神の域を超えている。この力があれば、人間界は僕のもんやで。でゅふふ!!』
神器クシナダ越しに商神が自らの欲望をまき散らす。
ステータスお化けのネスティラドを倒す方法をアレンは考えてきた。
神の試練を超えて、圧倒的な威力のスキルやバフを手にした仲間でも倒せない。
アレンは召喚獣を引き連れ、何度も戦う中で、ネスティラドはコミュニケーションを図れないが、前回の戦いを学習することも分かった。
単純な肉弾戦や数に頼った戦法では倒せない。
同じ戦いを重ねれば勝率は下がり仲間たちの危険は増していくだろう。
仲間たちのスキルや神技の中で、ペロムスの異質なスキルや神技をアレンは知る。
それはとても異質で、絡め手を得意とする商人の資質そのものだった。
【ペロムスの神技「開運招福」の説明】
・サイコロが幸運10万当たり1つ現れる
・投げたサイコロの目によって自らの幸運が上がる
・スキルレベルが上がるごとに幸運の固定値数は100ずつ上昇する
・幸運の上昇値は以下の計算で表す
固定値数×(出目の和)×(ぞろ目のサイコロの数)×(ぞろ目の目の数値)
・魔力10万消費(足りない場合は霊力消費)
・十分な魔力(霊力)がない分、サイコロの数、出目の結果が下がる
・出目は幸運依存で大きくなる
・効果は1時間
・クールタイムは1日
【ペロムスのスキル説明簡易版】
・真演算:なんかすごい演算が可能。スキルは魔力消費不要の常時発動タイプ
・真鑑定:なんかすごい鑑定が可能。レベルが上がるほど鑑定種類が広がる
・真交渉:なんかすごい交渉が可能。スキルは魔力消費不要の常時発動タイプ
・真銭投:硬貨を敵に投げてダメージを与える。威力は硬貨の種類・幸運に依存
・天秤:物の価値が分かる
・押貸請求:金貨と引き換えに対象の幸運を奪う。魔導袋に入れていても金貨は失われる。スキルレベル、一攫千金のレベルにより威力が増す。一度に奪える限界は10万で、相手の耐性、幸運に依存。効果は1時間。重複可能
・幸運十一:仲間に幸運を貸し与える。借りた者は幸運を借りている間、経験値、スキル経験値の一部を提供する。借りている幸運値、時間によって、提供する経験値、スキル経験値両が増えていく。時間によって10分あたり10%ずつ雪だるま式に増えていく
・達磨祈願:目玉無しの達磨が現れる。銭投で対象に1回当てると片目が現れる。2つ当てると両目が現れる。願いの確率を片目だと(10%×スキルレベル分)上昇。願いの確率を両目だと(20%×スキルレベル分)上昇。願うと目が消える。願いの効果は必中率補正やデバフなど。
・一攫千金:投げる硬貨の威力がスキルレベルが上がるほどに増していく。持っている金貨の価値が一時的に上がる。「真銭投」の威力が上昇する。「押貸請求」の金貨減少数が緩和される。幸運依存。効果は一時間
アレンが健一だった頃遊んだゲームでも、商人は成長しても、ラスボス戦で必ずしも役に立った記憶はない。
そのお金を稼ぐ職業名からも、凄い威力のスキル、戦況を覆すほどのバフはなかった。
ただし、便利なスキルによって冒険中、金策であったり、仲間たちのレベル上げが捗ったり、スキルの条件を満たせば強敵をはめて倒すこともできる。
(前世の商人は前人未踏のダンジョンを攻略し、美人の妻との間にできたかわいい子を育て、国すら作った。ペロムスよ。お前の真価を見せてくれ)
あまりの神々しさに仲間たちが絶句する中、アレンも期待の視線をペロムスに注ぎ込む。
困惑する中、仲間たちを振り払うようにペロムスは、中空に浮くサイコロに視線を移した。
「も、もう。皆、好きなことをいって。し、知らないからね!!」
両手を上げると空中に浮いていたサイコロがそれぞれ縦横ナナメに回転を始め、ふわりと上がったかと思うと、ペロムスの周囲にコロコロと落ちた。
最初は地面を跳ねていたサイコロは、回転速度は減速していき、1つ、また1つと結果を出した。
「おお!! 6だ!! 6が出たよ!!」
クレナが1つのサイコロの上部の面を覗き込むと6つの点がある。
「おい、これも6だぞ!!」
「マジかよ。幸運依存ってすごいな」
ドゴラもキールも、幸運依存で6が出やすくなるのに絶句する。
「全てが6か。これがアレンの考えた戦略。ペロムスの力か……」
周囲に転がり終わったサイコロは6つ全て上部の面が6となった。
ペロムスの幸運62万のステータスに答えるように神技「開運招福」は最高の結果をもたらす。
「サイコロたちよ。来て」
コロリ
キュイイイイインッ
パチパチッ
バチバチバチッ
ペロムスの周りに転がり落ちて動きを止めていたサイコロは角を下になるよう動いたかと思ったら、再度高速で回転を再開して、ふわりと浮くと、太陽の周を回る衛星のように回り始める。
引力に吸い寄せられるようにペロムスの中へと入っていく。
(たしか90万以上、幸運が上昇するはずやで)
固定値数×(出目の和)×(ぞろ目のサイコロの数)×(ぞろ目の目の数値)
=700×(6+6+6+6+6+6)×6×6
=907200
「あわわわ、幸運が!? 僕の幸運が!!」
幸運という肉体的な変化がないステータスのはずだが、困惑する程の幸運の上昇値に商人であるペロムスは肌で感じているようだ。
ブンッ
アレンの魔導書が勝手に出てきて、ペロムスのステータスの異常を告げる。
『ペロムスの幸運が成長限界に達しました』
「ぶっ!? 999999!!」
アレンは魔導を見て思わず噴き出した。
・ペロムスのステータス(簡易版)
【体 力】181732+30000(武器や防具)
【魔 力】157881
【霊 力】157881
【攻撃力】288331+10000
【耐久力】135229+10000
【素早さ】350086
【知 力】356962
【幸 運】999999+40000
(お? ステータスの限界があるのか。さて、気合を入れていくぞ)
1時間ほどにわたる余興の果てに最高の結果となった。
ステータスの上限など気になることはあるのだが、分析よりも大事なことがある。
だが、ここからが本番だと仲間たちに視線を移す。
「賽は投げられた! ネスティラドとの戦いが始まるぞ!!」
「うん、やっちゃおう!!」
(よし、ネスティラドは動きを止めて休んでいるな。既にバフはかけている。継続時間にも問題はないな)
霊障の吹き溜まりの巨木の生える森林の中で、霊獣ネスティラドは巨木にもたれ、頭を下げて休んでいる。
頭がうつらうつらを舟をこいでいるため、眠っているようだ。
アレンは好機が続いていると考え、メルスの「ラッキースロット」の時から仲間たちはバフかけを絶やしていない。
「ペロムス、1回、ルークに『幸運十一』で幸運を。とりあえず、10万くらい」
「分かった。幸運十一!」
自らの幸運を仲間に貸し与えることができるスキルをペロムスは発動し、ルークに幸運を10万貸し与える。
経験値、スキル経験値を対価に仲間たちに幸運を貸すことができる。
このスキルのお陰で、アレンはペロムスから幸運を借りて、ペロムスはこの短期間で、爆速でスキルレベルを上げることができた。
ペロムスの手の平から幸運が光の玉となって、ルークの下に向かっていき、小さな体に吸い込まれていく。
「ありがと」
幸運のステータスは体力とか攻撃力とか他のステータスに比べてとても分かりにくい。
あった方が良いのだが、なくても困らないがアレンの考えであった。
だが、この幸運の数値の違いが強敵との戦いで勝敗を分けるのではと作戦に組み込んだ。
肉体的に大きな変化はないのだが、幸運が上がると、デバフが効きやすくなったり、敵の攻撃を避けやすくなったり、スキル発動時にクリティカルが出やすくなる。
アレンは思考を回しながらも、魔導書を見つめる。
ルークは幸運が10万上昇するが、ペロムスの幸運は999999の上限から変化はない。
「やはり、上限には達しているが、『幸運十一』で渡されるのは上限に達して切り捨てられた幸運からか。じゃあ、実際の上限はメルス抜きで137万あるはずだから、ルークにさらに20万、シアに7万の幸運を与えてくれ」
ステータスとしての上限値は999999だが、切り捨てた幸運を渡すことができるようだ。
「分かった。幸運十一!」
【ペロムスの幸運は以下のとおり】
・195473:自らのステータス(バフ込み)
・390000:メルスのラッキースロット(バフ込み)
・1179360:開運招福の効果(バフ込み)
メルス抜きの実際のルークの幸運の値
=195473+1179360
=1374833
ペロムスはデバフの要であるルークに合計30万の幸運を与える。
さらに100連コンボの要であるシアにも7万分け与える。
「よし、メルス。ラッキースロットを解除。素早さを上げてくれ」
『ああ、そういう作戦だったな。ラッキースロット解除。目録発動!「ボンボン」!
ファニーポンポン! クレイジーダンス!!」
メルスが天使B「ラッキースロット」を解除し、今度は流れるように天使B「ボンボン」に武器を持ち替える。
仲間たちの素早さのステータスが一気に上昇し、その結果、「ラッキースロット」の当たり効果は全て消える。
メルスの天使Bのバフは1つの武器の種類しか効果が重ならない。
今回、幸運を30万も上げたのはペロムスの神技「開運招福」の効果を最大にするためだ。
幸運は高い方が良いのだが、戦いでは素早さを上げねば、ネスティラドとの戦いにはならない。
「よし。ペロムスの神技の効果が切れるまでにネスティラドを倒すぞ! 帰巣本能!!」
ペロムスの神技「開運招福」は1時間しか持続しない。
時の大精霊タイムの力を使っても2時間で効果が切れる。
アレンは今回もネスティラドに見られない巨木の影に鳥Aの覚醒スキル「帰巣本能」で仲間たちと共に一気に転移する。
『ドゴラ、クレナ、2人は左右に分け回り込むように……』
ドドドドドッ
今度はアレンの肩に止まる鳥Fの召喚獣の特技を使い、ネスティラドに聞こえないよう、さらなる指示をかけようとした。
「ちょっと、何よ!!」
ロザリナが困惑して大きな声を上げる。
だが、何かが爆音を立てこっちに向かってくるのであった。