第694話 霊獣ネスティラド戦②
オリハルコンの鎧にヒビが入るほどの攻撃をネスティラドから受けて、中衛たちがいる場所付近まで吹き飛ばされたドゴラに代わり、シアとクレナが左右から攻める。
「行かせない!!」
クレナが大声で自らのこれからの行動を仲間たちに伝える。
霊獣ネスティラドの姿勢が若干前かがみになったことに気付いたからだ。
ネスティラドは一歩動いたわけでもない。
だが、強敵のわずかな動作や視線の向きなど細かい変化も、神々の試練を乗り越えた仲間たちは見逃さない。
このまま前進されようものなら陣形が崩され、中衛、後衛に危険が及ぶ。
『獣王無尽を使うぞ!! クレナ合わせよ!!』
凄い勢いで攻撃されたネスティラドの全身から火花が散る。
まるではじけるように見えるのはあまりに早い攻撃を受けているため、シアの残像すら捉えられないからだ。
「分かった! 私も行くよ!!」
シアのスキル「獣王無尽」は攻撃連携時に攻撃スキルの威力が増す。
神界闘技場で剣神セスタヴィヌスの試練を超え天騎士となったクレナは、まるで背中に羽が生えたかのような軽快な動きを示す。
左腕の一撃をもろに受けたドゴラと違い、ネスティラドの拳を寸前で避けたクレナは、襲い掛かってきた腕に刃を立て火花を散らしながらも接近し、まるで敵の攻撃が読めるかのような足取りで、一撃二撃と攻撃を加える。
『煩わしい……』
一方的なクレナの攻撃に不快感を露わにしたネスティラドは、大きな右腕で縦に大きく振り落した。
クレナは躱しながら、体を捻りながら1回転して、勢いそのままにスキルを発動する。
「やああ!! 焔烈火斬!!」
剣神より預かった両手もちの大剣である神器アスカロンが炎を上げる。
神聖オリハルコンの神器アスカロンは超高熱の炎で包まれた。
(おおお! まるで動きを読んだかのようだ。ドゴラの動きがかすんで見えるぞ)
「やってやら!!」
『ドゴラよ。その意気だ! 剣神の使徒などに後れを取るでないぞ!!』
吹き飛ばされたドゴラが火の神フレイヤから檄を受け、前線に復帰し、攻撃に参加する。
ガンガンと3人の連携で攻撃を加え続ける。
『むん! だが、攻撃はほぼ通じていないぞ!』
天使Sの召喚獣となり圧倒的なステータスとなったメルスが声を荒らげた。
クレナ、シア、ドゴラの連携により一方的に攻撃を加えているのだが、ネスティラドにダメージがあるようには見えない。
『煩わしい……。駿円斬界!!』
(ぶ? いきなり大技はひどすぎ!!)
『下がれ!! ルバンカ前へ! メルスは止めろ!!』
鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を慌てて発動させる。
不快そうに顔を歪ませるネスティラドは右腕に霊力を込め始める。
すぐに霊力が溜まり、体幹を軸に右腕で手刀を作ったまま、一気に回転して見せる。
「へば!?」
「なにっ!?」
クレナとドゴラが慌ててしまったが作戦通り、後方へ下がろうとする。
ネスティラドのスキル「駿円斬界」は攻撃範囲が10メートルになる右腕の手刀のまま、体幹を軸に一回転するものだ。
バフをかけまくったクレナとシアはネスティラドの霊力の溜めの瞬間にかろうじて10メートル以上後退し、中衛付近まで下がる。
前衛のすぐ後ろにいたイグノマスも同様だ。
しかし、クレナ、シアに比べて素早さの低いドゴラに向かって凶悪な手刀が襲い掛かる。
攻撃後の距離を一旦とるタイミングであったクレナとシアと違い、斧を振りかぶり襲い掛かるタイミングであったのも運が悪い。
急な攻撃のキャンセルは頭で考える以上に難しいものだ。
アレンはこの一撃を受けたらドゴラが真っ二つに切り裂かれるのは知っている。
ほんの1秒に満たない瞬間に、ネスティラドを挟んで反対側から攻撃を加えていたルバンカに対して、前方に出るように指示を出す。
風の化身のようになったルバンカは既に覚醒スキル「嵐獣化」しており、3本の右腕の全てを突き出して、攻撃を加えようとした。
『がは!?』
ネスティラドの手刀の回転は物理攻撃に強力な耐性のあるルバンカの右腕の全てを粉砕し、胴体を完全に上下に切り裂いた。
ネスティラドのスキルによってルバンカの体力は全てなくなり、光る泡へと変わっていこうとする中、それでも止まらずドゴラを襲う。
『むん! スパークリングスラッシュ!!』
(よし最強スキルの発動が間に合った!!)
メルスは攻撃の受け役であることを理解しており、ネスティラドの攻撃に割って入りながらも自らの覚醒スキル「スパークリングスラッシュ」が発動する。
発光する電撃となった剣身がネスティラドの手刀とぶつかり、衝撃波がアレンたちのいる場所まで一気に広がった。
『むぐぐ! ぐああああ!?』
ガキキッ
(うっそ。へし折られた!?)
ネスティラドの手刀にメルスのオリハルコンの剣をへし折られるが、慌てて左手に持つ盾をかざした。
メルスの左腕には天使Bの召喚獣により盾を装備している。
しかし、覚醒スキルの威力を殺し、剣をへし折り、盾までも粉砕してもその威力は殺しきれなかった。
天使Cの召喚獣により纏ったオリハルコンの見た目の鎧がアルミホイルのように容易く拉げてしまい、後衛近くまで50メートル近く吹き飛ばされてしまった。
『攻撃は終わったぞ! 皆陣形に戻れ!!』
アレンの前衛としてトップを張る万全の状態のSランクの召喚獣であるルバンカ、メルスに対するあまりにも強力な一撃により、一瞬、仲間たちは気力を失いかける。
メルスの強さは仲間たちならだれもが知るところだ。
・メルスのステータス(簡易版+バフ一覧)
【体 力】221013+20000(剣盾+指揮化+強化)+35000(鎧+強化)
【魔 力】190840+20000+15000
【霊 力】190840+20000+15000
【攻撃力】304070+40000+15000
【耐久力】170430+40000+35000
【素早さ】328900+20000+15000
【知 力】320970+20000+15000
【幸 運】171600+20000+15000
・天使Bと天使Cの召喚獣は武器と防具枠のためバフの効果適用外
・指揮化5000(天使B)、強化5000×2(天使B、天使C)
※天使S分はステータス内で計算されている
※天使Sとなったため王化スキルは不可
・水の大精霊トーニス:知力10000、魔力秒間100ずつ回復(神界は効果なし)
・雷の大精霊ジン:素早さ10000、マヒ耐性強
・空間の大精霊ジゲン:幸運10000、非クリティカル率半減
・光の精霊ライト:体力10000、攻撃力10000、光属性付与
・火の大精霊カカ:攻撃力10000、ダメージ10%増
・毒沼の大精霊ムートン:体力10000、毒耐性強、マヒ耐性強
・時の精霊クイック:素早さ10000、クールタイム半減
・闇の大精霊ダーク:魔力10000、知力10000、闇属性付与
・金の卵:全ステータス3000
・ロイヤルガード:体力と耐久力3000、体力と耐久力10%、全ダメージ30%減、体力秒間200回復
・ロイヤルオーラ:体力と魔力10%、攻撃力と知力5000、全攻撃ダメージ30%、クールタイム50%減
・真応援〈8〉:体力8000、魔力8000
・真行進曲〈8〉:素早さ8000
・真鎮魂歌〈8〉:発動中のデバフ解除、デバフ耐性80%
・真幻影舞〈8〉:非クリティカル耐性80%
・人魚の歌姫〈8〉:全ステータス40000、攻撃力、知力30%増、体力、魔力秒間4000回復
・天翔乱舞〈5〉:素早さ50%、回避率50%、スキル発動時間50%減、クールタイム50%減
・高吟放歌〈5〉:攻撃力と知力50000、20%魔法ダメージ増
・天使Bの特技「ファニーポンポン」:素早さ10000、スキル発動時間20%減
・天使Bの覚醒スキル「クレイジーダンス」:素早さ30000、スキル発動時間50%減、クールタイム50%減
・精霊神の祝福〈8〉:全ステータス24000、全ステータスを30%
・祈りの舞〈9〉:体力、魔力、霊力が秒間900回復
※かけるタイミングによってステータスが一部増減する
※ステータスの「増」文言省略
例①1000⇒ステータス1000増加
例②10%⇒ステータス1・1倍の意味
※神界で魔力は回復効果無効
※ルークの神技「太極図」は未発動
※キールの体力上昇は省略
40万を超える攻撃力とステータスには乗り切れない数々のバフによる、攻撃ダメージ増加にクリティカル率アップでもネスティラドを倒しきれない。
(攻撃力もそうだが、やはり、あれこれバフを貰っているが耐久力が全然足りていないか)
アレンはルバンカを再召喚し、キールがメルスの体力を全回復させているのを視認しながら考察する。
仲間たちの圧倒的なバフに自らもSランクの召喚獣となったメルスだが、バフによる耐久力の増強はあまりない。
そもそも仲間たちのバフの中で耐久力を上げる効果は限られていた。
天使Bと天使Cの召喚獣を成長させ、さらに強化してようやく75000上昇させても、攻撃力や素早さなどそのほかのステータスに見劣りする。
(もろに受けてしまったな。あの、ルークさん。作戦通りに)
「ちっくしょおおおおお!! デバフの効果が薄いぞ!!」
メルスが圧倒的な一撃で後方付近まで吹き飛ばされる中、声を荒げたのはデバフ担当のルークだ。
先ほどからネスティラドのステータス減少効果のあるスキルをいくつも発動させているがほとんど効果が全く見られない。
ネスティラドの圧倒的な知力とデバフ耐性がルークのデバフの効果を打ち消してしまっているようだ。
デバフ効果は必須だ。
「やあ!!」
「むん!!」
「おらあああ!!」
一旦後方に下がったクレナ、シア、ドゴラは既にネスティラドへの攻撃を再開していた。
しかし、3人の神器を全力で打ち付けても、ネスティラドの体表を、火花を散らすだけで、攻撃が全く通じていない。
ネスティラド自体もダメージを受けた様子もなく依然として右腕と左腕で攻撃を続ける。
「仕方ない。ソフィー! 俺が前に出る。ちゃんと合わせろよ!」
「もちろん! お任せなさい!!」
中衛にいたルークが声を荒らげ、神器「精王の勾玉」を両手にそれぞれ握りしめて駆けだした。
「『精霊の衣』!! ジゲン様お願いします!!」
ソフィーはルークに対してスキル「精霊の衣」を発動させた。
『うむ! 任されたぞ!!』
ブンッ
ネスティラド目掛けて駆けだしたルークの全身を、時の大精霊「ジゲン」が纏い、鎧を形成させていくのであった。





