第642話 大地の迷宮RTA⑪神の狙い
【42階層・残り17:26】
・アダマンタイト玉鋼2個
・爆炎草2個
・備超炭3個
・極みハンマー1個
・鍵2個
・その他必要アイテム省略
アレンたちは42階層まで攻略を進めてきた。
「なかなか近くに階段がないわね。せっかくのヒヒイロカネスコップも消費してしまったし」
セシルが愚痴を零す。
「仕方ない。運要素は大きいからな」
隣にいるアレンがフォローを入れる。
思ったことは口に出すを地で行くセシルの言葉は、仲間の思いの代弁だ。
予言獣テミが攻略に加わり、召喚獣を使って階段を探す必要はなくなった。
だが、降りた先から階段までの距離はかなり運に左右される。
しかも、階段の途中に店があれば、必要なアイテム目指して寄り道することもある。
(さて、仲間たちのためにも、ここらで時間を詰めたいんだが、さっきの階層で店に寄ったせいで、時間をかなり消費してしまったかな)
アレンはミニ土偶のタイマーを確認する。
40を超える階層を6時間弱は優秀なのだが、アレンたちは1つ前の階層で無理をして15分ほど時間を消費してしまった。
40階層を超えてもなかなか出てこなかった「アダマンタイト玉鋼」が41階層で手に入るとテミが占った結果、かなり遠くにある店に寄ったからだ。
さらに40階層を超えると、門番も霊獣も一気に強くなるため、42階層までの脱出に時間をかけてしまった。
(まだ時間があるが、スコップがない状況はつらいな。選択をミスすると、攻略が遠のくからな)
タイムアタックでは、常に状況が異なる中で、アレンは最善の策を考える。
「ソフィーそろそろ限界だ。精霊神の祝福をかけてくれ」
(加速させていくで!)
「畏まりましたわ。精霊神の祝福!!」
光る雨が仲間たちに降り注ぎ、6時間強使用していたバフスキルのクールタイムをリセットしていく。
常にバフ大盛りで攻略を進めてきたのだが、ここにきて更なるバフをかける。
精霊神の祝福は仲間たちのクールタイムをリセットしてくれる。
これで仲間たちはもう一度、クールタイムの長いバフスキルを発動させることができる。
もう少し粘ることもできたのだが、スコップがない状況ではステータスにものを言わせての攻略で進めていきたい。
最善の策だとアレンは考えた。
仲間たちのスキルの持続時間はまちまちなのだが、すでに効果が切れてしまった者からどんどんバフを再開するため、スキルや魔法を発動させていく。
「ほら、落とし穴よ!!」
スキル「罠探知」を発動させながら移動を続ける、ロゼッタが罠を発見する。
「お、ロゼッタさん、助かります!」
ローグライクのタイムアタックは決して運ゲーだけの要素ではない。
しかし、こういった落とし穴は引き当てれば、攻略が近づくこともある。
「ほらよっと!」
ロゼッタが地面に隠された宝石状のスイッチを、短剣を投げつけて発動させると、ボコッと下の階層に繋がる巨大な落とし穴が出現する。
一片1キロメートルにもなる巨大な落とし穴は垂直に下の階層へとつながっており、長さは10キロメートルに達する。
【ロゼッタの役目】
・落とし穴の発見
・階層ボス戦やお店で強奪による手助け
・転移罠を避ける
ロゼッタはたまに不満を垂れることがあるが、パーティーへの貢献度は大きい。
すぐにロゼッタが落とし穴を発見してくれたおかげで、早く仲間たちと共に下の階層へ進める。
「玉鋼があるおかげで、店に寄ることもなくすぐに下の階層に行けますわね」
「そうだな、ソフィー。全ては結果論だが、おかげで選択を間違わずに済んだ」
「ちょっと! 私は別にさっきの選択が間違っていたなんて言っているわけじゃないわよ!」
話の流れにセシルが横で非難の声を上げた。
どんな選択をしても、それが確実に正しいとは限らないのがローグライクのRTAだと考える。
霊獣は下の階層になるほど強くなり、40階層を超えるとロザリナのスキル「魅惑の唄」の効きが弱くなるため、無駄に戦闘時間が増えてくる。
【階層別、霊獣と番人の強さ】
・1階層から39階層、霊獣はB~Aランク、番人はS~魔神級ランク
・40階層から80階層、霊獣はA~S、番人は魔神級~亜神級ランク
※分かりやすくするため地上での魔獣、魔神等の強さで表現
「ふむ、これはいかんな。霊獣の住処に激突しそうだの」
長い通路を移動中、落下しながらも占い続けているテミが口を開く。
(スコップないから避けられないぞ。幸先が良かったのではなかったのか。精霊神の祝福をかけておいて良かったってことか)
アレンはこの長い落とし穴の先に何があるのか分かった。
落とし穴を抜けた先は巨大な広間になっており、そこは霊獣の住処だった。
『グルルルルル!!』
『ギャアアアス!!』
『カロカロカロ!!』
階段を使って降りたなら、先は小さな広間で、そこから先の通路へとつながっている。
だから、通路を越えた先に霊獣の住処があっても、いきなりじゃないので対策の選択肢が広がる。
「仕方ない。どうせ、スコップはさっき強盗するときに使ってしまったんだ。力づくで押しとおるぞ。テミさん、この階層に『工房』はありそうですか?」
既に仲間たちが戦闘に入っている状況でテミさんには占いを依頼する。
「ふむふむ、無さそうだな」
「では、階段をお願いします」
アダマンタイトのスコップを作るのに必要なアイテムは全て手に入れた。
あとは50階層までに「工房」を発見するだけだ。
現在は43階の霊獣の住処を狩りながら移動中なので、49階層までに絶対に「工房」を発見しないといけない。
5階に1階程度の確率で、「工房」がある。
決して引けない確率ではないので、今回は階段を店よりも優先にしつつ、工房があれば最優先で向かいたい。
アレンたち優先順位を間違えないよう2時間ほどかけて48階層へと移動した。
「ようやくあったわね。ギリギリだったわ」
アレンたちが通路を抜けた先に広がる広間に大きな建物がある。
建物には奥行きがあるようで、奥の方の天井の排気口からモクモクと煙が上がっている。
(待ちに待った工房だ)
「よし、工房だな」
護衛されていたハバラクがヨイショとタムタムから降りて、建物の中に入っていく。
アレンたちもハバラクの後ろをついていくと、中には休憩スペースなどほとんどなく、所狭しと鞴や金型などが置かれている。
ここにない工具や材料は、ここまでの道中で、宝箱、店、階層ボスなどから手に入れないといけない。
「どうぞ。2つともスコップでお願いします」
「スコップだな。ツルハシも作れるぞ?」
「そうですね。今回は99階層までの攻略を目指していますので、2本ともスコップで大丈夫です」
【大地の迷宮攻略メモ⑦】
・スコップは通路や床下を掘ることができる
・ツルハシは鉱脈から鉱石を掘り出すことができる
・ハンマーはスコップやツルハシを鍛造することができる
・スコップとツルハシを作るためには、爆炎草、備超炭、玉鋼が必要
・スコップ、ツルハシ、ハンマーにはランクがあり、玉鋼が高ランクでないと機能が発揮しない場合がある
「分かった。すぐに終わるから待ってろ」
アレンが渡した、アダマンタイト玉鋼2個、爆炎草2個、備超炭2個を受け取った。
爆炎草の草をもみもみと揉みしだくと、煙が生じる。
火種ができると、備超炭を入れた土釜に放り込む。
備超炭に勢い良く火が移ると極みハンマーを振るいながらアダマンタイトのスコップを2個仕上げていく。
「皆は休憩しててくれ。ここから先もぶっ続けだぞ」
「分かったわ」
セシルがカロリーメイトを数倍にデカくしたような、四角いクッキー状の栄養剤にかぶりつき、同じく長筒のような水筒から水分を補給する。
この食事も店で強奪したもので、食事もダンジョン内で出たものに限られるため、味わいなどへったくれもない。
それでもアレンたちにとって栄養剤は必要だ。
攻略に全神経を集中しており、店で奪った栄養剤はたしかに疲弊と空腹を癒してくれる。
(まあ24時間の攻略で餓死することもないが、腐ったパンを食べて飢えを凌いだ前世のゲームを思い出すぜ)
アレンにとって「ローグライク」とは数少ないやり込んだジャンルの1つだ。
「ありがてぇ。アダマンタイトをこんなに早く鍛えられるとは」
ハバラクがいつものように、感心しながらハンマーを振るっているようだ。
ミニ土偶は刻一刻と残り時間を削っていくのだが、これでもサクサクと鍛造出来ている方だ。
爆炎草も備超炭も大地の迷宮専用アイテムで、脱出すると使用できない。
なお、魔導盤拡張端子など、脱出後も機能を発揮するものもある。
(ハバラクさんは楽しそうだな。60階層攻略報酬の大地の神の「加護」もハバラクさんに使ってしまったし)
ブロック状の栄養剤を齧るアレンは、みるみるうちに玉鋼がスコップに変わる様を見て感心する。
アレンが参加する前に、メルルたちはロザリナの合流もあって、60階層の攻略に成功した。
【大地の神ガイアの試練の報酬】
・20階層を攻略すると、エクストラモードになれる
・40階層を攻略すると、神技を貰える
・60階層を攻略すると、大地の加護を貰える
・80階層を攻略すると、神器「大地のハンマー」を貰える
・99階層を脱出すると、大地の神ガイアが願いを1つ叶えてもらえる
この時、報酬として大地の神の加護を得られるのだが、加護をハバラクへ与えることにした。
土偶状の物体に効果について確認したところ、加護がある方が、ツルハシ、スコップを作る時間が短縮される。
これだけなら、大地の迷宮の攻略のメリットしかなく、やめようと思い、メルルに加護を与えようかと思った。
しかし、土偶状の物体に食い気味に、地上や神界でも、武器や防具を鍛造することが早くなると言われた。
(攻略を教えやがって。大地の神はドワーフの信仰が欲しいとみえる)
この土偶状の発言から分かるのは、この試練を通じて、大地の神ガイアはドワーフの信仰を欲している。
そうでなければ、聞かれてもいない攻略や強化のヒントは与えないということだ。
既にダンジョンマスターディグラグニの加護を与えられたメルルよりも、魔王軍攻略に必要な武器や防具を鍛えることができ、ドワーフにそこそこの知名度があるハバラクを自らの信徒に迎える算段なのだろう。
「よしできたぞ」
大地のハンマーが神器の時に気付くべきだったかと考えているとどうやらハバラクのスコップ作りが終わったようだ。