第639話 大地の迷宮RTA⑧ローゼンヘイム最強の男
大地の迷宮の攻略が始まった。
「まずはメルスからだ」
陣形を組んだまま、アレンは後ろから、最前面にいるメルスに指示を出す。
『分かっている』
最初はある程度一本道なので、道が分かれる前に全ての初動は終わらせたい。
メルスが天使Bの召喚獣「マラカス」の特技と覚醒スキルを使い、仲間たちの最大魔力と霊力自然回復を強化する。
いくつかあるバフのうち、仲間たちの魔法やスキルの持続時間が長くなるものをアレンは選択した。
大地の迷宮攻略の肝はバフの持続時間と捉えた。
「次はソフィー、生命の泉だ。そのほかのバフも全かけだ!!」
「分かりましたわ。生命の泉!!」
メルスのおかげもあって40万近くになった魔力と霊力の合計値の全てを、ソフィーは一気に消費する。
神技「生命の泉」を発動させ、ソフィーとルークは4体全ての大精霊を顕現させた。
この神技は精霊使いの負担を軽減させながら、複数の精霊を同時に顕現できる。
大精霊たちは仲間たちにバフを振りまきながら、大精霊自らもバフにより強化していく。
大精霊たちも召喚獣のように、バフスキルやアイテムによる強化が可能だ。
おかげで亜神級の力をもった4体の大精霊たちに指示を出すことができる。
ソフィーもルークも随分強くなったものだ。
「ルーク、タイムにスキルの持続時間を2倍にしてくれ! 加護は全力でばらまいてくれ!!」
「分かった!」
ルークはメルスと違って素直に返事をしてくれる。
ルークの時の大精霊「タイム」によって、発動中もこれから発動するスキル(特技、覚醒スキル、神技全て含む)の持続時間を2倍に変えてくれる。
矢継ぎ早に指示を出していく。
【残り時間23:56】
アレンの握るミニ土偶が刻々と時間を減らす中、隊列を組んだまま、すごい勢いで大地の迷宮を進んでいく。
ここは1階層のフロアが縦横1000キロメートルにもなる巨大な階層が99階層まで続いている。
扉をくぐり1階層の攻略が始まったが、最初の一本道を高速で移動していく。
上下前後左右中央と立体的な陣は、今回の攻略に合わせたものだ。
最前方:①メルス
前方:③ガトルーガ(大精霊1体)、ロゼッタ
中央:㉕アレン(鳥F)、ソフィー(大精霊4体)、ルーク(大精霊4体)、テミ、セシル、シア、ハバラク、ルバンカ、グラハン、タムタム(メルル)、グレタ、イングリッサ、リミア、ローラ、
上部:②竜王、クワトロ
右側:④ガララ提督とガララ提督のパーティーのゴーレム使い4人
左側:⑤ガララ提督のパーティーのゴーレム使い5人
後側:⑤ガララ提督のパーティーのゴーレム使い5人
下部:③ハク、ガトルーガ、マクリス
※ソフィーとルークの4体の大精霊はそれぞれの近く
※ガトルーガの氷の大精霊はメルスの側
※タムタムの上に中央にいる者たち全員が乗っている
※鳥Fはアレンの側
(さて、今日は本番だからな。皆の動きをよく観察してと。微修正が必要なら早めにだな)
召喚獣の枠は必要最小限だ。
大精霊の有用性と、今後の階層攻略などのボス戦を考えたら、ルバンカやグラハンは外せない。
結果、視界をサポートする召喚獣の枠は普段より極端に低い中、全ての召喚獣を使って、隊列全ての動きをアレンは把握する。
さらに数十万に達したアレンの知力をもって、敵だけでなく、仲間たちの次の行動を可能性の多い順に複数予想する。
誤った行動の初動を発見すれば、鳥Fの召喚獣を使いすぐに修正を依頼する。
だが、それでも、仲間たちにも大きさが翼長300メートルから人間ほどのサイズまで様々あり、才能や持ち場によっても、行動が変わってくる。
死角が生じ視界が切れた時、仲間たちの瞬時のアドリブも重要になってくる。
この2ヵ月、攻略に向けた経験を積んできたと仲間たちの表情に自信が伺える。
メルルたちの最高攻略階層は62階だ。
これまでと違う対応も臨機応変に求められると作戦では伝えてある。
「今回も霊獣が多い。ロザリナは人魚の歌姫を」
「ええ、分かったわ。ロザリナが魅せるわよ!」
【ロザリナのスキル3点公開】
・真応援の説明(スキルレベル7)
【スキル使用者】ロザリナ
【スキルの種類】スキル、バフ
【消費魔力(霊)】7000
【エフェクト】チアリーダーみたいな感じで応援する
【効果】体力7000、魔力7000上昇
【範囲】1キロメートルほど
【成長性(効果)】星の数×スキルレベル×100×2(エクストラモードの場合)だけ体力と魔力が増加する
【持続時間(秒)】30分
【発動時間】10秒
【クールタイム】10分
【必要スキル経験値】スキルレベル2になるまでに1000必要。以降、レベルが上がるごとに10倍必要
【その他】仲間と認識していない者には効果がない。
・真鎮魂歌の説明(スキルレベル7)
【スキル使用者】ロザリナ
【スキルの種類】スキル、バフ
【消費魔力(霊)】7000
【エフェクト】教会のシスターのように両手で祈りのポーズで歌うと白い羽が降ってくる
【効果】発動中のデバフ解除、デバフ耐性70%増
【範囲】1キロメートルほど
【成長性(効果)】星の数×スキルレベル×1%×2(エクストラモードの場合)だけデバフ耐性が増加する
【持続時間(秒)】1時間
【発動時間】2分
【クールタイム】30分
【必要スキル経験値】スキルレベル2になるまでに1000必要。以降、レベルが上がるごとに10倍必要
【その他】仲間と認識していない者には効果がない。元の耐性から増加するので、デバフ耐性が低いと効果は薄い
・真幻影舞の説明(スキルレベル7)
【スキル使用者】ロザリナ
【スキルの種類】スキル、バフ
【消費魔力(霊)】7000
【エフェクト】扇をもって妖艶に踊るとロザリナが無数に分かれたように見える
【効果】非クリティカル耐性70%増
【範囲】1キロメートルほど
【成長性(効果)】星の数×スキルレベル×1%×2(エクストラモードの場合)だけ非クリティカル耐性が増加する
【持続時間(秒)】1時間
【発動時間】2分
【クールタイム】30分
【必要スキル経験値】スキルレベル2になるまでに1000必要。以降、レベルが上がるごとに10倍必要
【その他】仲間と認識していない者には効果がない。元の非クリティカル率から増加するので、率が低いと効果は薄い。
ギランの試練の際にかけたバフも当然仲間たちに振りまいている。
結果、素早さの上昇により、移動速度は飛躍的に上がった。
大いなるバフによって、アレンたちの移動速度はジェット機並みから戦闘機並みに変わった。
(さて、ここからが時間との戦いだ。回復の泉のある階層へ早く到着せねば)
「テミさん、まもなく最初の分かれ道です。右ですか? 左ですか?」
直線にして2キロメートル以上離れているのだが、鳥Fの召喚獣の特技「伝達」を通したアレンには、巨大な通路正面の突き当りと左右に分かれた壁の途切れを視認できる。
突き当りはT字路のようだ。
「むむぅ、右じゃ」
アレンの横にいるテミが掌の中にある宝石のような石をコロコロと転がしながら、行先を占う。
『右です』
アレンは鳥Fの召喚獣の特技「伝達」によって、仲間たち全体に指示を出す。
最前列にいるメルスは普段は通路中央を飛んでいるのだが、今は右側に寄っている。
これは右折の合図なのだが、周囲3キロメートルの対象に声を飛ばすことができる、特技「伝達」でも念のため共有する。
試練を越えたテミが加わったことにより、迷宮が長いだけの一本道へと変わった。
おかげで、鳥Eと鳥Aの召喚獣コンビによる階段を見つける必要もなくなった。
(仲間たちも集中してくれているな)
テミは進行方向を占っている。
精霊使いたち3人は、顕現させた大精霊たちに集中力を切らさず意識を傾けないといけない。
タムタムの上に乗っているアレンたちの中で、シアとルバンカは、後衛職や非戦闘職の護衛に神経を使う。
「ここまで、落とし穴はなしっと」
(落とし穴なしなら階段だな。もう5分経過か。低階層は10分もかけられないぞ)
特に時間把握を求められるアレンとソフィーは、腰に時計の魔導具を取り付けている。
【大地の迷宮攻略メモ④】
・大地の迷宮は24時間で99階層を攻略しないといけない
・99階層全部攻略した先へ到達しないといけないので100階層(予想)へ到達する必要がある
・単純計算で1階層平均は24時間÷99=14・5分
・攻略に必要なスコップの鍛造、店への立寄り(強盗含む)、回復の泉、20階層ごとのボス戦もこなさないといけない
・50階層以降、10階層ごとにアダマンタイト層エリアが出現(予想)
階層によってかけられる時間に差が生じる。
比較的に攻略難易度の低い、低階層はさっさと移動する必要がある。
バフは最初から全力でかける。
デバフに対する抵抗力も少しでも多くつけておく。
時間のロスは許されない。
メルスが通路を曲がったところで、蛇のような霊獣が10体ほど待ち構えていた。
とぐろを巻き、体を収縮させているのは蛇型の霊獣たちだ。
霊獣たちがアレンたちの下まで床石から一気に跳躍しそうだ。
「む、前方、イルゾ様お願いします」
『ガトルーガよ、任せなさい!』
何万年も生きた氷の大精霊イルゾは、レオタードのような露出の少ない衣を身にまとっている。
全身に纏う凍てつくような冷気が、霊獣たちの足元を襲う。
床石の地面は、一気に凍てつき、霊獣たちの下部から冷気が襲う。
霊獣たちはもがき苦しむが、行動を不可能にする。
(カッチカチやで)
無駄な戦いは時間を浪費する。
倒すことよりも足止めを優先するため、ガトルーガが契約した4体の大精霊のうち、足止めに適した氷の大精霊に攻略に参加してもらっている。
「さすが、ローゼンヘイム最強の男ね!」
「おい、聞こえているぞ」
セシルの思いのほか大きめに出た誉め言葉が、前方にいるガトルーガまで聞こえてしまったようだ。
それから何分も経たないうちに下の階層を発見する。
2階層は、すぐそばに階段があったため、3階層まであっという間だった。
さらに4階層へと進む。
「順調ね。でも、階段を先に見つけるとスコップが手に入らないわ。『霊獣の巣』対策がないと心配ね」
「ふむ、だが仕方ない。階段があるときは作戦どおり、階段最優先だ」
この大地の迷宮にはいくつか、立ち寄らないといけないところ、絶対に立ち寄ってはいけないところがある。
【大地の迷宮の立ち寄るべきところ、探すべきもの】
・宝箱にはスコップなどの攻略アイテム、魔導盤拡張端子などの貴重なアイテムが入っている
・鉱床にはスコップを強化するために必要な、鉱石が取れる。ツルハシが必要
・工房には、スコップを鍛えるために必要な施設がある。ハンマーが必要
・店には、スコップ、鉱石、ハンマー、ツルハシ、鍵、回復薬など貴重なアイテムを売っている
・店で買い物をするには金塊が必要
・回復の泉は、51階層以降に存在し、体力、魔力、霊力、クールタイムを回復させる
・落とし穴、下の階層へ移動できる貴重な罠
【大地の迷宮で絶対に避けるべきところ】
・霊獣の住処は、霊獣がたくさんおり、時間泥棒
・各種罠で、クールタイム倍化や、移動速度低下、転移罠など、絶望的な罠がある。絶対に大地の神は性格が悪い
アレンたちは結局、スコップが手に入らないまま、階層を進んでいく。
その中で、隣にいるテミの顔が曇る。
「む? このまま行くと霊獣の住処にたどり着くの」
「え? それは本当ですか?」
タムタムに乗っているアレンたちの表情が険しくなるのであった。