第593話 日と月のカケラを探せ
現実に戻ったアレンは、アルバハルを見る。
『これからどうするのだ?』
「先ほど話したとおり、シアはもっと力を得なければなりません。神技、神器、加護を得るため、獣神様に会おうと考えております」
「ふうううむ。なるほど、獣神様方と会われると。いよいよか」
「え? どうしました。ホバ将軍」
「い、いや。何でもない。会話を止めて申し訳ない。続けてくれ」
十英獣の1人で将軍職も兼任しながら、獣王直属の親衛隊隊長にも就いていたホバ将軍が大きく唸った。
皆が反応するほどの唸りと呟きに視線が集まったことを謝罪する。
(ん? そう言えば、親衛隊長を辞任したんだっけか。あれはいつだっけか)
アレンが頭の中がホバ将軍の情報で満たされ始めたが、意識をアルバハルに戻す。
『獣神に会うなら、まずは獣神「ギラン」様に会うのだろう?』
念を押すように問われた。
アレンは獣神ギランと獣神ガルムの両方の羅神くじを持っている。
より上位の神のくじを持っているからと言って、次にすべきことは分かっているなと、アルバハルは言いたいのだろう。
「そうですね。それが筋なら致し方ありません」
『時間も大事だが、獣神ガルム様にお会いする前に、挨拶はしておくことだ。試練もあるかもしれぬからな』
(ふむ、神技、神器、加護全部1つの上位神から得るのは試練が厳しすぎるかもしれんし。ギランに会っておくか)
アレンは原獣の園の力関係が分かってきたような気がする。
【原獣の園の力関係】
・上位神 ガルム
・神 ギラン
・幻獣 アルバハル
・聖獣 ルバンカ
同じ獣神でもガルムがこの原獣の園全てを治めている。
アルバハルの圧もあったので、まずはギランに会うことにする。
「何から何までありがとうございます。ただ、この場で決めないといけないことがまだあります」
(獣神ギランの場所は後で聞くとして、この場で話を進めておくか)
ここに来る前から、考えていた案がアレンにはあった。
『ぬ?』
「宴の席を設けて頂きましたが、少し話し合いをさせてください」
仲間内でしたい話があるとアレンは言う。
『好きにするがよい』
「ちなみに、先ほども問いましたが、日と月のカケラはご存じありませんか?」
『ないな』
「ルバンカもないか」
『ない』
ルバンカは召喚獣になったので敬称なしで呼ぶことにする。
(さて、本当に知っていなさそうだな。もしかして、別の物と思い違いをしている可能性もあるが、そのわずかな可能性をあれこれ問いただして調べる時間はないぞ。その可能性はかなり低いだろうし)
「アレン、この場でって、ああ! 場所を占ってもらおうってことかしら」
「む? 私か?」
アレンが何をしたいのか、セシルは占星獣王テミを見ながら言う。
リスの少女のような見た目のテミは、握っていたパンを持ったまま、アレンたちの下にトコトコと向かう。
すごく若く見えるが、見た目の割に50歳を過ぎており、年を重ねている。
テミはアルバハル獣王国の重鎮中の重鎮で、獣王の相談役という立場だ。
アルバハル獣王国には宰相も大臣もいるのだが、次期獣王の助言や諸問題の解決案を才能で占ったりする。
圧倒的立場のため、十英獣のまとめ役を買って出てくれている。
「そうなんです。魔法神イシリスは原獣の園にあると言っているのですが、調べることはできますか?」
「探し物だな。調べてみよう」
テミは腰に下げた小さなポーチのような魔導袋から、河川敷で拾った色とりどりの角の取れた石のような物をジャラジャラと床に落としていく。
指ではじいたりしながら、ブツブツと何か唱えている。
魔力が漏れており、スキルを発動させ調べてくれているようだ。
「どうかしら?」
「むむ? 分からないな」
「そう……」
アルバハルもルバンカも在処が分からなかった。
テミも駄目なら、どうしたら良いのかとセシルは茫然としてしまう。
「だが待っておれ。『ない』とは出なかった。あるのであれば、場所を特定するだけよ。星の運命」
(「ない」か「ある」で一旦結果が出たあと、「どこ」に変わる感じかな。スキルの特徴をよく理解してるな。それにしても、エクストラスキル初めて見るね)
テミは自らを陽炎のように揺らし、エクストラスキル「星の運命」を発動させた。
「……、で、出てきたな。隠されているのか。ひ、『日』のば、ば、ばしょは……」
ポタポタ
声が発するのもままならない状態になったテミは、必死に占い結果の場所を指差そうとする。
体に無理をさせているのか、鼻から流れるように血が零れる。
それでも歯を食いしばり、目や耳からも血が垂れ始め、とうとう口から大量に血を吐き出して倒れこむ。
「大丈夫ですか!!」
アレンが慌てて、床で頭をぶつけないよう抱き上げる。
天の恵みを魔導書から出して、テミの体力を回復させる。
「はぁはぁ。すまぬな。役には立てなんだ。だが、分かったことがあるぞ……。どうやら日と月は別物で2カ所に分かれておる……」
テミはエクストラスキルによって分かったことを語り出す。
アレンたちが探している日と月のカケラは何者かによって隠されており、場所の詳細は特定できないと言う。
だが、確かに原獣の園に日と月のカケラがあるようだ。
「じゃあ、後は探すだけね。でも、えっと獣神ギラン様にも会わないと……」
焦るセシルは大事なことを思い出す。
つい先ほどの話で、シアの強化のためにも、獣神ギランに会うのは必須だ。
広大な場所でどこにあるのか分からないカケラ探しの前に挨拶はすべきだろう。
「そこで、ここは十英獣の皆さんにはカケラ探しをしていただきたいと考えています」
「ほう?」
いきなりの話であったが、十英獣の皆は、アレンたちがこの原獣の園で探し物をしており、自分らに探してほしいという話は理解できたようだ。
「なるほどね。さすが、アレンね」
「久々に褒められたな」
ガシッ
「いつも褒めているわ!」
「ちょっと、セシル。今は……」
「そうね。ソフィー。後にするわ。アレン、覚えていなさい」
(後でしばかれるのか。儚い運命よ)
ソフィーに制止され、セシルは我に返ったようだ。
「ほう、たしかに私の占いも近くなれば効果が発揮するかもしれないからの」
テミもたしかに名案だと納得した。
「いえ、テミさんには、これから占い神タルロット様の下で修行をお願いしたいです」
「ぬ? どういうことだ?」
「テミさんにしていただきたいことはこれだけじゃないのです。大地の迷宮の攻略にお力を貸していただきたいのです」
「まあ! なるほどですわね。流石、アレン様です!! テミさんのお力なら、50階層の攻略が容易いかもしれませんわ!」
ソフィーが感心した。
セシルも「なるほどね」とすぐに理解できたが、シアや十英獣の皆を置いてけぼりにしてしまった。
「今度はなんだ? 私にも分かるように説明するのだ」
「そうですね。実は大地の神ガイア様の試練にも私たちは苦戦をしておりまして……」
魔法神イシリスのお使いクエストを受けたセシルと、獣神に会って試練を受けないといけないシアとは別に、原獣の園以外で抱えているもう1つの問題がある。
それは、大地の迷宮は1階層から99階層まで、各階層1辺1000キロメートルにもなる巨大な迷宮になっている。
メルルを筆頭に、ルークやハク、ヘルミオスのパーティーの一部、ガララ提督たち、下界にいるマティルドーラやガトルーガを呼び、メルス、クワトロ、マクリスたちも総動員して攻略を進めている。
しかし、24時間で99階層からなるダンジョン攻略を目指すのは至難で、特に50階層は無条件で下の階層に行けるスコップも使えず、部屋もない通路のみの大迷宮が広がっている。
とてもじゃないが、時間が削られてしまい、このままでは大地の迷宮の攻略が不可能に近い状況だ。
さらに、大地の迷宮のどこかに眠る竜神マグラを見つけなくてはいけない。
竜神マグラはSランク召喚獣候補の上、その角は魔法神イシリスが求める素材だ。
「なるほど、他にも下界から有力な者を連れてきておるのだな」
「え? そうですね。ホバ将軍」
会話にこんなに入ってくるのも珍しいのか、元々こんな感じだったか一瞬考えたが、アレンは視線をテミに戻した。
「それで、神の試練を越え、力をつけて迷宮攻略をしてほしいと」
「そうです。どうしても攻略が必要なのです」
カケラ探しもそうだが、大地の迷宮攻略に占い神の試練を越えたテミの力が必要だと言う。
短期間で占い神の下で修行を行い、エクストラモードになってもらって、大地の迷宮及び原獣の園でいかんなく才能を発揮してほしい。
「分かった。試練に臨んでみよう。元々そういう話だからな。獣神ガルム様には会えなかったがの」
元々、占い神に会う前に、神界に来たため、信仰神である獣神ガルムへの挨拶に原獣の園に来ていた。
挨拶はできないが、状況を理解したテミは仕方ないと納得してくれた。
「申し訳ありませんが、十英獣の皆さんには先ほどテミさんが指示した方向にカケラがあるかもしれません。是非、探していただきたいです」
原獣の園は中央大陸の10倍を超える広さがある。
地球の表面全てよりも広大な大地のため、指で方向を差しただけで文字通り「カケラ」ほどの大きさなら探すことは難しいかもしれない。
だが、これから先は時間との戦いのため、是非協力してほしいとお願いすることにする。
「なるほど、シア様方と二手に分けるって話だな」
(大地の迷宮に手伝いに来てもらっても、手は足りているしな)
ほとんどが前衛で構成されている十英獣の皆は、ドゴラ以上に大地の迷宮では役に立ちそうにない。
だったら、こちらでセシルとシアの強化に協力してほしい。
「その通りです、ホバ将軍。話が早くて助かります。では、ホバ将軍がテミさんに代わって陣頭指揮をとってカケラ探しを……」
「それはできぬ!」
話が早くて助かると、アレンはホバ将軍にこれからの話をしようとしたが、話は途中で阻まれてしまった。
ホバ将軍からは食い気味に断られてしまう。
誰もが、この話の流れで断るとは思ってもみず、広間には一気に沈黙が広がるのであった。





