第581話 大地の迷宮RTA⑤
東の果てから日の光が昇っていく。
人間世界と同じように、アレンのいる部屋の窓から降り注ぐ。
コンコン
アレンの眠る拠点用魔導具の一室の扉を叩く者がいる。
「アレン、もうみんな準備整ったよ」
「あ、ああ、分かった。すぐに行く」
仲間たちはアレンが夜更かしていることを知っていたのか、出発ギリギリまで寝かせてくれたようだ。
軽くシャワーを浴びて収納からモルモの実とフカマンを取り出して、食べながら拠点用の魔導具の通路を歩く。
アレンが出てきたところで、同じく遅い目覚めのセシルも部屋から出てきた。
拠点の外に出ると、仲間たちが装備万全で待っていた。
アレンはその中で、拠点に影を作るほど巨大なドラゴンに話しかける。
「マティルドーラさん、調子はいかがですか? 長丁場なので無理されないでください」
老齢の竜王が参加するのだが、ここから24時間の不眠不休の戦いが始まる。
万を超えるステータスに達したアレンたちだが、疲れるものは疲れる。
昨日はかなり張り切っていたので、改めて声をかける。
『全く問題はない。あまり儂を年寄扱いしないことだな! むん!!』
全長100メートルにもなる竜王は口から煌々と炎をたぎらせ、翼を広げた。
翼長300メートルを超える姿は雄大そのものだ。
『ボクモ! ギャウ!!』
ハクも負けじと、天に向かって炎を吐いた。
「いいじゃねえか。俺も久々のダンジョンだ。みなぎって来たぜ」
斧を両手でそれぞれ握りしめ、それぞれ肩で担いだドゴラもニヤニヤと嬉しそうだ。
(さて、ドゴラもやる気と。明後日には原獣の園へピヨンさんの魔導船が到着するけど)
アレン、セシル、ソフィー、ドゴラ、キールの5人は、ピヨンが到着次第、シアの合流目指して、原獣の園へ行く予定だ。
階段を降りていき、土偶が立っている小部屋に皆で向かう。
『大地の迷宮に挑戦されますか?』
「はい。ちなみに、竜神マグラというドラゴンがこの大地の迷宮に封印されていると聞いています。どちらに封印されているか、教えて頂けますか?」
聞ける情報は聞いておく。
『お答えできかねます』
「そうですか。理由を聞いてもよろしいですか?」
『この大地の迷宮に囚われた者たちは罪を犯し、投獄しております。神界の安定のため、一切の情報は開示できない決まりです』
(じゃあ、魔法神は何故教えてくれた。口が軽い系なのか。まあ、脇は甘そうだし、だから天使たちを研究室から遠ざけられているのか)
竜神に限らず、具体的にどの霊獣がいるのかとか、何故投獄されているのか開示はしていないようだ。
「分かりました。では、挑戦します」
『頑張ってください。こちらをお渡します』
腹に24時間のタイマーの表示のある陶器でできたミニ土偶を渡される。
そのまま、アレンたちは説明を受ける部屋を抜け、1階層のダンジョン攻略を進める。
ガララ提督たちとメルルは16体のゴーレムを降臨させる。
陣を広く形成させているが、このダンジョンは1階層が1000キロメート四方もあり、高さは10キロメートルもある。
通路も数キロメートルもあり、ゴーレムたちだけでなく、竜王やハクなど巨躯がいても十分な広さだ。
『魔法職、回復職は中央に集まってください』
アレンは鳥Fの召喚獣を使って指示を出す。
3キロメートルまでなら特技「伝達」だけで、簡単に指示が通る。
今回のダンジョン攻略は新たに加わった者たちへの予行演習の意味も含まれている。
S級ダンジョン攻略でも中心的な役割をこなしたアレンの指示を、皆よく聞いてくれる
前方:タムタム、セシル、魔導王、魔導王、怪盗王ロゼッタ
中央:アレン、ドゴラ、キール、ソフィー、ルーク、聖王、聖王、名工ハバラク
上部:竜王、メルス、クワトロ、
右側:ガララ提督のパーティーのゴーレム使い5人
左側:ガララ提督のパーティーのゴーレム使い5人
後方:ガララ提督とガララ提督のパーティーのゴーレム使い4人
下部:ハク、グラハン、マクリス
陣を組んでいる間に鳥Aと鳥Eの召喚獣の5組を先行させる。
『両側、後方、下部は中央への守り優先で、殲滅は前方と上部の者たちでお願いします!!』
移動に魔力を馬鹿食いするゴーレムたちは、何かあった時のために守り優先だ。
戦闘には高火力、範囲攻撃が可能なタムタムだけが参加する。
それぞれ全長100メートルのゴーレムだが、守りが万全かと言われたらそんなことはない。
攻めも意識して、ある程度の距離を取った陣営を保っているので、守りが漏れて、中央にいる回復職などが攻められたら死にかねない。
それだけ、大地の迷宮の霊獣たちは強い。
アレンの指示を聞いて迅速に動いているところ1人のジャガイモ顔の男が異を唱える。
「おい。なんで俺が守りなんだよ!!」
アレンが後方を見ると、中央にいるドゴラが、攻め役の前方に行きたいとフガフガ言っている。
「ん? 暴れたいのか。じゃあ、前方と代わってくれ」
「え? いいのか? ちょ、おい、なんだよ……」
拍子抜けをするドゴラは、すぐに話が通るとは思ってもみなかったようだ。
ちょっと不満が言いたかっただけだが、困惑しながらも前方と中央をアレンと交代する。
(まあ、すぐに気付く)
アレンたちはクワトロの特技「浮遊羽」を使って、飛べない者たちを浮かし、前進し始めた。
「ルークはスキル効果2倍の効果を使ってくれ」
「ああ、任せとけ」
役割のあるルークは何やら嬉しそうだ。
今回、ルークを呼んだのはこのスキル持続時間2倍の時の大精霊がいるからだ。
ステータスの補助魔法も、エクストラスキルの発動時間も2倍になると、それだけ戦術が変わってくる。
(お陰で、剣の神技の修行は途中放棄になってしまったからな)
ルークやロゼッタは、大地の迷宮を優先するために、それぞれ短剣の神技の修行を諦めてもらった。
大地の迷宮で得られるものが大きいと判断したからだ。
特にロゼッタは修行にほとんど身が入っておらず、得られるものが小さいとみた。
(よし、ロゼッタには2体のマリアをつけてと。これで時間短縮になればいいんだが)
24時間で99階層を攻略しなければならない。
作戦通り、ロゼッタの両サイドに2体の霊Cの召喚獣を召喚する。
陣形を維持したまま、一気に進みだす。
通路の先に広がりを感じる。
構造からも部屋があるようだ。
『シャー!』
『シャー!』
『シャー!』
前回もいた蛇の姿をした霊獣が無数に襲い掛かってくる。
今度は10体以上いるようだ。
扇状に陣形を組んだ霊獣たちが取り囲むようにアレンたちを襲ってくる。
「よっしゃああ! 任せとけ!!」
やったるぞ感あふれるドゴラが斧を担ぎ、浮遊羽で飛んだまま突っ込んでいく。
しかし、視界の上部が眩しくなったかと思うと、竜王が一気に火を吐いた。
『グオオオオオオオオオオォオオ!!』
轟きと共に、広範囲の霊獣たちを一気に燃やし尽くした。
「お、おいおい。俺の敵が……」
ドゴラの向かった先の霊獣は黒焦げになり、霊獣だけが消え、霊石が散らばる。
「ロゼッタ。この部屋に罠はありそうか?」
「罠探知! ……えっと、あっちとあっちね」
ロゼッタのスキル「罠探知」を発動すると、罠がキラキラと輝いており、アレンたちにも視認することができる。
ロゼッタが指さした瞬間、共有でアレンが指示をした霊Cの召喚獣が動き出す。
『サイコなのデス!』
『サイコなのデス!』
ドオオオオオオン
ドオオオオオオン
キラキラと輝く床を目掛けて特技「サイコ」を発動すると、罠のある床にぶつかり、それぞれ大きな爆発が起きる。
「2つとも罠は地雷か。先に行くぞ」
「は? 何やってんだ?」
昨晩、軽く説明はしていたのだが、途中で特訓するからと抜けていたドゴラは何が起きたのか分からなかったようだ。
先行させている召喚獣たちが階段を見つけていないので、通路から入った部屋からに繋がっている通路のうちの1つを選択して、アレンたちは進んでいく。
通路を曲がった先でも霊獣たちが待ち構えていた。
「お! 今度こそ!!」
ドゴラが斧を握りしめて突っ込もうとする。
しかし、前方の役目をするセシルを含めた3人の魔法使いの杖の先が炎を纏う。
「フレイムランス!」
「フレイムランス!」
「フレイムランス!」
無数の火の槍が霊獣たちを何度も貫き焦がし、一気に殲滅した。
「え? ああ……」
「ドゴラ、分かったか。ここはお前のような遠距離攻撃の少ない前衛が前に出ても何もできないぞ。遠距離殲滅構成だからな」
(獲物の長い槍使いでも厳しいんだ。弓でも持たないと)
ドゴラがようやく悟ったところでアレンが前に出て説明をする。
砲撃を持つタムタムも控えており、遠距離攻撃主体の隊列だ。
昨晩の作戦では、敵が攻撃に移る前に殲滅するように何度も言っている。
ガララ提督たちゴーレム使いは身を固めて守りに入っており、攻撃には参加しない。
攻撃の担い手たちは即座の殲滅が優先される。
「何だよ。言ってくれてもいいじゃないか。俺、下がるわ」
分かったのは分かったが不満が多そうだ。
ドゴラが理解してアレンと代わる。
アレンは作戦指揮のためにも前方にいた方がいいし、ドゴラはその体全体を使って、回復を担う者たちを守ったほうが、それぞれの持ち味を発揮する。
「焦るのは分かるが、ドゴラ、どこにでも役割があるもんだ」
「焦ってねえよ。最近なんか活躍してねえなって思ってるだけだ……」
(全力で焦っている件について。最初に強くなったキャラは埋もれるのが常だからな)
ドゴラは最近の戦いで活躍の機会が減ってきたので、どこか焦っているようだ。
プロスティア帝国での深海での戦いは、ドゴラは武器を新調したバスクにいいようにやられてしまった。
バスクは声をかけていた「オヌバ」という名前のよくしゃべる毒々しい大剣を持ってきていた。
竜神の里での審判の門はクレナの独壇場であった。
仲間たちがどんどんエクストラモードになっていく中、ドゴラは自らの活躍の場が欲しいようだ。
悔しがるドゴラを見ながら、前世の記憶を思い出す。
ゲームの登場人物の中で、最初に強くなったキャラクターは、後半やラストの戦いについていけないことが多い。
早熟なキャラクターはそれだけで、前半の難所を超えることに必要だ。
だが、後半で強くなったキャラクターの方が、最後の局面において、活躍の場や見せ場が多かったと記憶している。
早熟なキャラクターよりも大器晩成のキャラクターの方が強いは基本的な法則だ。
それゆえに、アレンは未だにエクストラモードになっていないセシルの強化に期待が大きい。
セシルの試練がとんでもない内容になっていることにも一定の納得がある。
(早熟で後半置いてけぼりにされたキャラが、たまに2度化けして、更なる強さを手に入れる者もいるがな。ドゴラよ)
あえて口に出さないアレンが、視線を前方に移した矢先のことだ。
「罠探知!」
キラリ
『そこデスね。サイコ!!』
ロゼッタが発動したスキル「罠探知」によって通路の端の床がきらりと光り、霊Cの召喚獣の放った特技「サイコ」の魔法弾が放たれる。
ドオオオン
爆発と共に、床に半径数百メートルの深い大穴が空いた。
覗き込むと、視界の遥か先まで大穴は伸びており、次の階層へと続いているようだ。
「ちょっと、こんな方法で本当に下の階層への大穴を見つけるなんて……」
アレンの作戦にセシルは絶句している。
「やはり、ロゼッタさんを連れてきて正解だったな」
「あら、もっと褒めていいのよ」
「ちょっと、ロゼッタさん隊列を守ってください!!」
アレンにくっ付こうとするロゼッタに真っ赤な顔をして隊列を守らせようとするセシルであった。
 





