第563話 瞑想と剣神術
アレンに向かって武道着姿の頭頂部に髪のない50歳過ぎの見た目をした厳つい天使がやってくる。
頭にトゲトゲした輪があり、背中に2組の羽が生えている以外は普通に道場に居そうなおっさんだ。
『貴様ら、何を騒いでいる!!』
(ムライ感半端ないな。大天使か)
名前が体を表している気がする。
天使たちを指導していた師範っぽい天使は魔神相当の力がある大天使だった。
鼻息を荒らげ、床板を響かせながら、ズカズカと素足でこちらに向かってくる。
【階級ごとの天使の見た目】
・天使は、頭にドーナツ状の輪、背中に1組の羽
・大天使は、頭にトゲトゲした輪、背中に2組の羽
・第一天使(第二天使)は2層の輪、背中に3組の羽
アレンは修行を積む天使やムライと名乗る師範っぽい天使、そして、この場に案内してくれた第一天使ケルビンから、天使の階級によって羽や輪に変化があるのが分かった。
なお、元第一天使のメルスは王化していない状態で、ドーナツ輪と1組の羽の姿をしている。
「ちょっと、アレン君!」
たまらず、瞑想していたヘルミオスが声を上げる。
ヘルミオスの仲間たちも、胡坐をかいて座っていた天使たちも何事だと騒ぎ始めた。
『き、貴様がアレンか……』
気付いたところで間合いを大事にしたいのか、腰に差した剣は抜かないものの、手を腰の位置まで上げ、かなり警戒しているのは分かる。
商神マーネの配下のカルネや、第一天使ケルビンにしても、アレンを見てかなり警戒している。
試練を越えるため、上位神である大精霊神の山を破壊した知らせは天使たちを警戒させるには十分すぎる内容であったようだ。
(この場合の態度はこうだな)
「はい。アレンでございます。ムライ様、この度は私の仲間たちをご指導いただきありがとうございます」
アレンは深々と頭を下げて、礼を言った。
『あ? ぬ、そうだな……。それで、何を騒いでいる?』
師範っぽい天使のムライは、腰を少し下げ、両足を軽く前後にしていつでも前後左右に移動できる姿勢を保っているが、冷や水を浴びたかのように怒りの感情が引いていくようだ。
「こら! クレナ!! ムライ様がせっかくお前たちを指導しているんだぞ。寝てどうする!!」
「ひーん。ごめんなさい」
『マンマ……』
大広間に響き渡るほど大きな声で叱責され、クレナは半泣き状態だ。
思わず、クレナを庇おうと、ハクもアレンとの間に入ろうとしてしまう。
『そ、そうであったか。剣神術を体得するためにも、今は瞑想をしている段階だ。大人しくしておるのだな』
(クレナのスキルに『瞑想』ってスキルが生えているのは、次の段階のステップアップのためか。早く神技を体得してほしいんだが)
アレンたちが精霊の園で活動している1ヵ月ほどの間から、クレナやハクは瞑想の修業をしていた。
ただ、このスキルはスキル経験値の表示のない剣術などと同じノーマルスキルのようだ。
ノーマルスキル、才能スキル、そしてエクストラモードになって覚えられるスキルのさらに上にあるのが神技だ。
全く意味のないことをしているわけではないのだろうが、流石に1ヶ月以上胡坐をかいて瞑想にふけるのは悠長過ぎる。
「申し訳ありません。まことに勝手ながら、私たち人間世界の人々は存続が脅かされている状況でございます。魔王に対抗すべく、一縷の望みをかけて、剣神様に修行を求めてきました……」
アレンは懇切丁寧に説明を続ける。
剣の道を究めたいだけの求道者ではないので、どうしても時間が惜しいと言う。
瞑想が何の役に立つか分からないが、何万年も生きると言われる天使と同じスケジュール感で修行はしてもらっても困ることを遠回しに伝える。
『儂は剣神術の師範代のムライだ。……たしかに、命を懸け、この場に臨んでいるのは分かったし、アレンよ。そなたの言う通りだ。だが、だからと言って特別待遇はできぬが……』
アレンはムライの言葉を分析し、ここでの修行の価値を見出そうとする。
(剣神「流」じゃなくて、剣神「術」ね。剣の神の元で修行しているから、流派とかないのかな。俺の教えが全てだ! みたいなノリなのか)
支流に分かれておらず、術を教えなのだろうと、ムライ師範代の言葉から理解する。
「条件があると?」
アレンは食い気味に話を誘導する。
『そ、そうだな。条件か……』
(やった、いい感じだ)
いつものようにアレンが交渉して、いつものようにセシルはため息をつく。
ヘルミオスはアレンらしいと苦笑しつつ、クレナは面倒な修行じゃなくなるとワクワクしている。
「正道こそ王道の訓練であることは重々理解しているつもりです」
近道をしようとしていることは分かっているので相応の試練に臨んでも良いと言う。
アレンはこういうものの、どうやらこういうときの対処法は決まっていたようだ。
すぐにムライから返事が返ってきた。
『そうだな。では、剣神術の師範代の儂から一本を取って見せよ。瞑想の次は、剣神術である。そちらの修行をつけてやろう』
「ありがとうございます!」
(分かりやすいやつきたぞ。大精霊神の謎の泉の嵩が減っているからどうにかしろに比べたらちょちょいのちょいや)
にやけ顔を隠すため、アレンは深々と頭を下げる。
『では、えっと、そうだな……』
「よし、クレナ。ムライ様に一本取るんだぞ!」
やや強引に話を持っていくが、ムライ師範代は何も言わない。
「うん!! アレン、ありがとう」
「何を言う。わがまま聞いてくれるムライ様の優しさに感謝するんだぞ」
「そうだった。ムライ様ありがとうございます!」
(よしよし、ステータス的にクレナの圧勝な気がするがどうなんだろうか)
クレナとムライ師範代が戦うと分かった修行中の天使たちが武道場に円形状のスペースを空けてくれる。
クレナとムライのどっちが勝つのか天使たちはザワザワと話をしているようだ。
アレンは肩に乗せているクワトロに特技「鑑定眼」を使用させる。
ムライ師範代はたしかに魔神相当の力のある大天使のようだ。
【名 前】 ムライ
【年 齢】 30581
【種 族】 天使
【体 力】 28000
【魔 力】 37000
【霊 力】 36000
【攻撃力】 33000
【耐久力】 29000
【素早さ】 30000
【知 力】 28000
【幸 運】 33000
【攻撃属性】 無
【耐久属性】 無
【名 前】 クレナ
【年 齢】 16
【職 業】 竜騎帝
【加 護】 調停神(中)
【レベル】 99
【体 力】 15328+6000(真竜魂)+12000(真豪傑)
【魔 力】 9766+6000+12000
【霊 力】 27766
【攻撃力】 16094+6000+12000
【耐久力】 14181+6000+12000
【素早さ】 15201+6000+12000
【知 力】 9425+6000+6000
【幸 運】 10309+3000+12000
【神 技】 竜気〈3〉、竜騎一体剣〈3〉、超突撃〈6〉
【スキル】 竜騎帝〈3〉、真騎竜〈3〉、真竜王剣〈3〉、真竜魂〈1〉、真斬撃〈7〉、真鳳凰破〈7〉、真快癒剣〈7〉、真覇王剣〈7〉、真豪傑〈2〉、限界突破〈7〉、神技発動、剣術〈7〉、瞑想〈3〉
・装備
【武器】オリハルコンの大剣:攻撃力12000、攻撃力6000
【防具】オリハルコンの鎧:耐久力10000、耐久力5000
【指輪①】攻撃力5000、攻撃力5000
【指輪②】攻撃力5000、攻撃力5000
【腕輪①】体力5000、耐久力5000、クールタイム半減、防御ダメージ10%減
【腕輪②】攻撃力5000、耐久力5000、防御ダメージ10%減
【首飾り】攻撃力3000、攻撃力3000
【耳飾り①】体力2000、攻撃力2000、攻撃ダメージ10%増
【耳飾り②】体力2000、攻撃力2000、攻撃ダメージ10%増
【腰帯】光防御耐性、体力10000
【足輪①】素早さ5000、転移、回避率20%増
【足輪②】素早さ5000、転移、回避率20%増
(こうしてみると天騎士とは何だったのか)
竜騎士の上位に、天騎士というものがあるらしい。
クレナの才能は1ヵ月ほどの神界闘技場の修行を経ても変わっていなかった。
「よし、ソフィー、クレナに大精霊たちに加護をかけるようにしてくれ」
『な!?』
「あ、あの、アレン様……」
ムライ師範代がアレンの言葉に絶句し、ソフィーはさすがにどうかと絶句する。
天使たちも「卑怯」だの何だの罵る者も多い。
(こういう空間が騎士道精神とやらを育んでいるのか?)
「も、もしかして駄目だったでしょうか……」
『当然だ。自らの力だけで勝負するものだ!』
「そうでしたか」
(ふむ、あまり言って、武器や防具まで同じにしろと言われてもかなわんな)
粘ろうとせず、すぐに折れることにする。
『お前、さては、あまり我のことを敬っておらぬな。……、まあよい』
アレンの本心がバレてしまったようだが、このまま試合は続けてくれるようだ。
「クレナ、自らのスキルは使っていいみたいだぞ。全力で行くんだ」
「う、うん」
ムライ師範代は腰に差していたアダマンタイトの剣を、剣道の試合のように、ゆっくりと正道の位置に持ってきて構えている。
腰に差していたムライ師範代の剣はアレンの持っている剣ほどの大きさだ。
ムライはクレナの大剣に比べて、ヒョロヒョロの剣に、防具の類はほとんど装備していない。
若干の困惑が見て取れるクレナに全力で行けと言う。
1人の兄弟子っぽい天使がムライとクレナの傍までやってきて、口を開いた。
『師範代、私が試合の合図をしましょう』
『うむ、頼んだ』
クレナの表情は真剣になっていく。
『はじめ!』
『ゆくぞ』
素足で床板を踏みつけ、クレナに一気に距離を詰めた。
「ん!!」
クレナは振りあげていたオリハルコンの大剣を、全力で振り下ろし、ムライを切り伏せようとする。
(武器の大きさの違いを理解した良い一撃だ)
キンッ
2人の剣が合わさったにしては随分軽い音がなったかと思ったら、ムライはクレナの剣に強くぶつけることもなく、一気に距離を詰める。
ムライもクレナと同様に、剣のリーチの長さ、重さ、ステータスの差などよく理解しているようだ。
「く!」
張り込むのと同時に、最小限の動作でクレナの喉元目掛けて、剣を繰り出す。
クレナは体勢を崩しながらも大剣の腹を胸元まで寄せて防御する。
クレナが一手繰り出す前に、ムライは二手三手の動きをする。
ムライの剣捌きは既に予行演習が済んだ殺陣のように無駄がない。
『どうした! 試しの門を越えてきたのにその程度か!!』
「おりゃ!!」
『止まって見えるぞ! ほりゃ!!』
大振りは完全に避けられ、さらにムライの剣に受け切れず、吹き飛ばされてしまう。
慌てて立とうとするクレナに対して、今度こそ、喉元に剣が添えられてしまった。
「参りました……」
『これで分かったか。瞑想からやりな……』
「クレナ、惜しかったな。じゃあ、次は私が挑戦します!!」
「ぬ!?」
クレナが負け、ムライの言葉に被せるようにアレンが名乗り出るのであった。





