第543話 精霊獣戦④
アレンたちと精霊獣との激戦は続いている。
数度の変態を繰り返し、2足歩行のトカゲのような体格をしている。
筋肉で引き締まった体は俊敏に動き、両手には強力で、数メートルの長さの大きいかぎ爪を持っている。
「メルス、合わせろ!」
アレンは精霊獣の正面から向かっていく。
『ああ、後ろからだな』
精霊王の祝福を受けたメルスが精霊獣の後ろから一気に距離を詰める。
『キュロロ!!』
『ぐは!?』
精霊獣は片腕の爪を振るい、メルスを容易に引き裂く。
しかし、これは陽動だ。
タイミングを合わせて、メルスとアレンの別方向から、3方向目となるマクリスが攻撃を構えていた。
『フリーズキャノンなのらああああ!!』
マクリスは特技「フリーズキャノン」を精霊獣に放つ。
『キュル!』
精霊獣はマクリスの特技「フリーズキャノン」の円錐状の氷柱にも容易に対応し、長い爪を使い無造作に切り捨てる。
「霊呪爆炎撃!!」
片手で構える精霊獣の腕に、アレンはグラハンの特技「霊呪爆炎撃」を叩きこむ。
圧倒的知力のあるアレンの攻撃すら、剣は深く食い込むが致命傷には程遠い。
(これも、防がれると)
アレンたちはあの手この手の作戦で、精霊獣を攻撃し続けているが、作戦の方法にパターンが減っていく。
「アレン!?」
「大丈夫だ」
接近しすぎたため、強力な両手の爪がアレンを襲う。
攻撃をしたらすぐに退避行動をとっていたアレンは攻撃を受けることなく回避した。
ズシズシ
アレンたちが視線を集める中、精霊獣はゆっくりと、大空洞の中央に向かう。
大空洞の中央は、精霊獣が渾身の一撃で殴った大きな凹みがあり、天井からはヒビから打たせ湯のような命の雫がチョロチョロと流れている。
とめどなく流れてくる命の雫は床に空いた大きな割れ目から、山の下の方に流れ込んでいる。
「させないわ! ブリザード!!」
命の雫を飲めば、精霊獣は完全回復される。
させまいとセシルが氷魔法で天井のヒビを塞ごうとするが、命の雫は、氷魔法で出来た氷の魔力を吸収し、巨大な氷も簡単に消してしまう。
にやけた精霊獣は、落ちていく命の雫をチロチロと舌を伸ばして命の雫を口にする。
精霊獣の喉を命の雫が通ると、瞬く間にこれまで受けた傷は完治する。
命の雫を吸収した精霊獣の筋肉がメキメキと膨張し、強化されていく。
元々なで肩で細い身だった体は幾度とない命の雫を飲み、肩が張った筋肉隆々の姿になっていた。
『キュロキュロ!!』
勝利を確信した精霊獣は思わず笑みが出る。
お待たせと言わんばかりに、アレンたちにゆっくり体の向きを変える。
「ちょっと、もう勝てなくなるわよ!!」
(余裕だな。いよいよやばくなってきたぞ)
既にこの状況が何度も続いている。
セシルの魔法でも、ソフィーやルークによる精霊の力でも、アレンたちに頭上から落ちてくる命の雫を止めるすべは見当たらない。
精霊獣は大きく息を吸い、胸がパンパンに膨らむ。
『毒が来るぞ。下がるのだ!!』
大精霊ムートンが叫ぶや否や、体を巨大化させていく。
アレンたちはムートンの陰に隠れる。
『キュロオオオオオオオ!!』
どす黒い息を精霊獣は吐き出した。
一気に大空洞の空間を、猛毒の息が満たしていく。
『なんて毒だ。もう持たぬぞ!?』
巨大になったムートンが自らの身を挺して、精霊獣の吐いた毒を自らの毒と中和させていく。
しかし、強化されさらに強くなった精霊獣の猛毒は、ムートンの毒を圧倒しているようだ。
体が沸騰して悲鳴を上げる。
「ゲホゲホ!」
アレンたちは各自に持たせた天の恵みや香味野菜を使い、ムートンが吸収できずに受けてしまった猛毒を中和し、猛毒効果で削れていく体力を回復させる。
(完全に回復された上に、さらに強化される。毒の効果は増していきムートンも限界。火口の泉は枯れそうにないと)
外に置いてきたクワトロに、火口にある生命の泉の源泉がゆっくりと減っていく様を確認させる。
山の内部に割れ目ができ漏れているため、火口の水位はゆっくりと下がっているようだ。
しかし、減る様があまりにもゆっくりしているので、このまま源泉が尽きるのを待つというのはあまりにも無謀な作戦だ。
「何か、別の方法を考えなきゃ。ん? 誰か来るわよ」
セシルも現状を打破しようと、策を必死に巡らそうとする。
自分らの真後ろの通路を駆ける者がいる気配がした。
誰だと仲間たちが通路側を振り向くと、死んだはずのフォルマールが駆けきて、大空洞に入ってくる。
「フォルマール!!」
全身が溶けていく様を見たセシルが、驚きのあまり大声で叫んだ。
アレンたちも男の登場に驚くが、登場したフォルマールはいつもの寡黙な表情のまま握りしめる弓を構える。
(弓と弽が変わっているだと?)
全身に纏う法衣に変わりがないが、肘まで覆うほどの、弓を引くための弽と弓が一新されている。
大空洞上部へ向けてフォルマールは魔力で形成した矢を放った。
「神技発動、明鏡止水」
放たれた光り輝く矢は大空洞の中央上部ではじけると、光が大空洞を照らす。
ムートンが吸収できなかった猛毒の臭気を大空洞全域でかき消してしまう。
(なんかすげえ強化されて帰ってきたんだけど。どういうこと?)
精霊獣は両目で睨みつけ、新たにやってきたフォルマールに警戒をしているようだ。
アレンたちはその隙にフォルマールの元に駆け寄り、魔導書でもステータスの変化を確認する。
【名 前】 フォルマール
【年 齢】 70
【加 護】 大精霊神(加護大)
【職 業】 弓帝
【レベル】 60
【体 力】 4228+10000(加護大)+12000(真引分)
【魔 力】 2685+10000+12000
【霊 力】 24685
【攻撃力】 4343+10000+12000
【耐久力】 3840+10000+12000
【素早さ】 4074+10000+12000
【知 力】 2317+10000+6000
【幸 運】 2638+10000+12000
【神 技】 疾風迅雷〈1〉、明鏡止水〈1〉、無限の矢筒
【スキル】 弓帝〈6〉、真轟雷弾〈6〉、真天雨矢〈6〉、真強引〈6〉、真金弓箭〈6〉、真引分〈2〉、光の矢〈1〉、弓術〈6〉、神技発動
【経験値】 0/6億
・スキルレベル
【弓 帝】 6
【真轟雷破】 6
【真天雨矢】 6
【真強引】 6
【真金弓箭】 6
【光の矢】 1
【疾風迅雷】 1
【明鏡止水】 1
・スキル経験値
【真轟雷破】 0/1億
【真天雨矢】 0/1億
【真強引】 0/1億
【真金弓箭】 0/1億
【光の矢】 0/1億
【疾風迅雷】 0/1億
【明鏡止水】 1万/100万
・装備
【武器】精王之弓:攻撃力30000、命中率補正強
【籠手】精王之弽:耐久力30000、体力10000、魔力10000
【防具】精霊法衣:耐久力6000、魔法耐性上昇、ブレス耐性上昇
【指輪①】攻撃力5000、攻撃力5000
【指輪②】攻撃力5000、攻撃力5000
【首飾り】攻撃力3000、攻撃力3000
【耳飾り①】物理攻撃ダメージ7パーセント、体力2000
【耳飾り①】物理攻撃ダメージ7パーセント、体力2000
【足輪①】素早さ5000、回避率上昇
【足輪②】素早さ5000、回避率上昇
ステータスを見ると、エクストラモードになった上に大精霊神の加護がある。
レベルとスキルレベルはそのままで、スキルはエクストラモード仕様になっていた。
神技を3つも手にし、見たことない木目調の弓に弽を装備している。
「フォルマール、何ができるんだ?」
強化されて帰ってきたフォルマールのスキルを把握することが重要だ。
アレンは先ほどの行動から、フォルマールは既に自らのスキルを完全に把握していると感じる。
フォルマールの力が戦術に組み込めるかどうかが今最も大事なことだ。
「魔石を貸してくれ。Sランクが良い」
「ほれ、これくらいでいいか?」
アレンはゴロゴロとSランクの魔石を魔導書の収納から出した。
10個ほど出したドッジボールサイズの魔石が地面に転がる。
「もう、大雑把だな」
「その必要はない。無限の矢筒よ、我に強力な矢を」
ルークが拾って上げようとするが、フォルマールが手でその必要はないと制止した。
「わ!?」
ルークが驚く中、転がる魔石がフォルマールの胸の位置まで浮かび上がり、魔石は光に溢れ形を変えていく。
10個のSランクの魔石は10本の矢に変わった。
これが神技「無限の矢筒」の効果のようだ。
フォルマールを中心に浮く10本の矢のうち1本を、弽で手に取り、弓に構える。
「これは威力凄いのか?」
「では試してみよう。狙い勝手の良い的はあるようだ」
「真・轟雷弾」
フォルマールはSランクの魔石を変えて作った矢で精霊獣を狙う。
矢は精霊獣に向かう雷を帯びた1つの線となり、精霊獣に当たった。
『キュル!?』
精霊獣は両腕を使い、守りの姿勢を取り、フォルマールの矢を受けた。
当たった矢は光砕けて散る。
矢の衝撃で数メートルほど吹き飛ばされたが、両の爪で受けたそこにはほとんど傷がなく、精霊獣は問題ないぞと言わんばかりに腕を振るう。
「全然ダメだろ。もっと威力出せねえのかよ!」
(お? 轟雷弾でこの威力になるのか。これってもしかして、いや、くじのために貯めてるところだし)
精霊獣もまだまだ余裕そうな様子にルークは不満だが、アレンは違った。
「アレン、霊晶石よ。亜神級の霊晶石を全部出しなさい」
「え?」
「『え』じゃないわよ! 3つあるわよね。早く出しなさいよ!!」
セシルも必要なことが何か分かったようだ。
Sランクの魔石でこれだけの威力があるなら、亜神級の霊獣を狩って手に入れた霊晶石ならとんでもない威力になると考える。
Sランクの魔獣と亜神級の霊獣では10倍近いステータスの差がある。
「ほら、大事に使えよ」
先ほど同様に魔導書から出して、床に転がす。
「分かった。無限の矢筒」
3つの霊晶石に弽を持った方の手でかざすと、光が溢れ矢に変わっていく。
「おい、これ元に戻せるんだろうな?」
「恐らくできない」
アレンは「3つとも矢に変えなくてもいいだろう」という言葉を飲み込んだ。
「アレン、私が魔法で引き付けるわ」
パワーアップして戻ってきたフォルマールの強力な一撃を御膳立てするとセシルは言う。
「む? そうだな。いや、だったら、使っていない作戦がある」
「ルーク、ソフィー、手短に伝えるから、作戦通り動いてくれ」
「ええ」
「分かった。やっつけてやろうぜ」
アレンたちは精霊獣に向きなおった。
フォルマールが戻ってきてからの逆襲劇が始まろうとしているのであった。





