第530話 3日目 名もなき獣
精霊の泉の底近くから繋がる、長い横穴から抜けた先に広い空間があった。
空間の上部には水面が見え、空気があるらしく、浮上し始めたところで待ち構えている者がいた。
『グルルル!!』
水中を震わせ、体長10メートルを超える大きさの首が短いタイプの首長竜のように見える。
アレンの前世に当てはめるとモササウルスが一番ぴったりな姿かもしれない。
【年 齢】 50125
【種 族】 精霊獣
【体 力】 102000
【魔 力】 133000
【霊 力】 131000
【攻撃力】 115000
【耐久力】 107000
【素早さ】 123000
【知 力】 144000
【幸 運】 128000
【攻撃属性】 木、クリティカル率増
【耐久属性】 木、物理耐性強、魔法耐性強、毒耐性、酸耐性
(何だ、こいつ。かなりのステータスだな)
クワトロに特技「鑑定眼」を使わせると、とんでもない強さだと分かる。
ステータスは10万を超え、耐性が付きまくっている。
「かなりの強さだ! みな警戒しろ!!」
敵意むき出しな表情からも、戦闘は避けられないだろう。
前方で2、3回左右に旋回した後、全力でこちらに突っ込んでくる。
『なんの!!』
水の大精霊トーニスはアレンたちの入った泡の大玉を操作して、間一髪横に避けた。
「ちょっと、どこが精霊獣は襲ってこないのよ! 早く浮上しなさいよね!!」
『分かっておるわい。お嬢ちゃん、そんなに急くでないわ。ソフィー殿、魔力を貰うぞい!!』
トーニスの頭を両手で掴み大きく揺らし、浮上しろとセシルが急かす。
ここは水の中で身動きができない状況だ。
精霊の泉の雫を浴びてしまうと、人族なら強力な酸を浴びたように溶けてしまう。
「どうぞ!! わたくしの全ての魔力を!!」
水の大精霊トーニスと契約を交わしたソフィーの魔力が、意識を集中させ一気に流れ込む。
『ふぁ!? 何じゃこの魔力は!!』
7万を超える膨大な量の魔力が流れ込み、あまりの魔力の量にトーニスは泡を吹きだした。
ノーマルモードのソフィーはレベル60で早々にカンストしている。
腕輪も指輪も首飾りも魔力上昇に特化している上に、大精霊だと知力1万上昇の恩恵もある。
(早々にスキルレベルがカンストしてしまったな。次は木の大精霊を探さないとな)
トーニスが驚愕する中、アレンは次の行動を考える。
『皆、突っ込んでくるぞい! むん!!』
魔力を最大限込めた泡に下から精霊獣が向かってくる。
トーニスは両手の平を前に突き出し、ソフィーから吸収した魔力で泡は一気に速度を上げ、上昇を開始する。
『グルアアアアア!!』
ソフィーの全魔力を込めたお陰で、精霊獣が体当たりをしてきても、泡の壁は破れることはなかった。
しかし、トーニスの上昇する力に精霊獣の突き上げる力が加わり、アレンたちを乗せた泡は数百メートル上昇し、水面まで上昇し、さらに水面を超えてさらに上空へと吹き上がった。
弾力のある泡が重力に負けて再度水面に落ちると、大きな衝撃音が反響した。
水面に上がったため、泡の上部の部分が消えていく。
(む、ここは巨大な空洞か)
ドーム状の巨大な空洞にアレンたちはいる。
きっと外から見たら、どこかの巨大な岩山の内部なのだろう。
空洞に裂け目があるのか空気も存在する。
そして、浮上した水面の先には陸地もあり、多くの精霊らしき気配を感じる。
『おい、何かやってきたぞ!!』
『雫を盗んでいるのがバレたんだ。邪魔はさせないぞ!!』
『皆力を貸せ!!』
(なんだ、この精霊たちは。だが、雫を盗んでいるのはお前らか)
浮上した先の陸地の、少し離れた先には無数の精霊たちが徒党を組んでいた。
何やら、魔力を込めモササウルス風の精霊獣に力を与えているようだ。
「なんなのよ、あいつらって、また来るわよ!!」
精霊獣の戦意は一切衰えておらず、少し離れたところからスピードを上げて水面に飛び出て、再度攻めてくる。
水面に上がり、泡の上部が無くなったところを、精霊獣が襲ってくる。
「俺に任せろ。毒沼津波!!」
ルークが全魔力を込めたエクストラスキル「毒沼津波」を食らわせる。
酸の塊が飛びあがった精霊獣の腹に津波のようにぶちまけられる。
『グアアアア!?』
水面に飛び上がり、勢いよく襲おうとした精霊獣の腹に強力な全てを溶かす酸の一撃をお見舞いする。
しかし、攻撃を受けた腹が少し焼けたように見えるが、致命傷には程遠く、水中に逃げ込んだ。
(酸耐性があるからな。ダメージはほとんどないと)
アレンは魔導書で精霊獣のあまり減っていない体力を確認する。
「私たちも戦うわよ! アイスニードル!!」
「ぬん!!」
セシルの氷魔法も、フォルマールの弓に込められた魔力も生命の泉に吸収されてしまう。
「……これは水中で倒すという選択肢はないな。次上がってくるタイミングで俺が仕留める。グラハン、憑依合体だ」
(一気に倒した方がいいな。トーニス、それでいいんだな)
アレンは先ほどから、何か悲しい顔で精霊獣を見つめるトーニスが気になっていた。
グラハンを召喚し、覚醒スキル「憑依合体」を使用させる。
召喚されたグラハンは青白い炎に自らの姿を変え、アレンに吸収されていく。
アレンの体が青白く燃え、力が沸いてくる。
さらにネスティラド戦で折れたため、新調した新たなオリハルコンの剣にも青白い炎は移っていき、武器も含めた全身が炎に包まれた。
「さて、いくぞ。火耐性はないな」
アレンは剣を高々と掲げ、精霊獣への攻撃のタイミングを計る。
精霊獣は水中で水面と水平に旋回すると、再度速度を上げ浮上し、アレンたちを襲ってくる。
少し離れたところから飛び出てきた精霊獣は、弧を描いてアレンたち目掛けて牙をむく。
『グルアアアアアア!!』
アレンはグラハンの特技の中から有効打を選択する。
剣を包む赤い炎が骸骨のようにかたどり始めた。
襲ってくる精霊獣にタイミングを合わせ、剣を構える。
「霊呪爆炎撃!!」
『グギャアアアアア!?』
精霊獣の額に当たったアレンの剣は、精霊獣の肉を燃やし、その巨躯を精霊たちが徒党を組んでいる陸地に向かって吹き飛ばした。
「すごい……。一撃ね」
陸地部分の随分先まで吹き飛ばされたのを見て、セシルは目を丸くする。
アレンは亜神級や大天使級の天使を狩り続け、グラハンも召喚獣にできたことにより、圧倒的な力を手に入れた。
「素晴らしいですわ、流石、アレン様!!」
セシルに続いてソフィーもアレンを褒めたたえる。
「グラハンのお陰だな。お陰で前衛としても戦えるようになったし」
【霊呪爆炎撃の効果】
・消費魔力は1万、クールタイムは10分
・火と呪属性の攻撃
・攻撃を受けると、対象は呪い効果の度合いによって魔力と霊力の回復が遅滞
・攻撃を与え続けるほど、呪いの効果は上昇
・威力は知力に依存
【憑依合体の効果】
・効果は1時間、クールタイムは1日
・発動中は剣術のスキルレベルが3上昇
・グラハンの知力(強化含む)の半分、アレンの知力が上昇
(やめろ、そんなに褒めるな、攻撃力はドゴラやシアに負けているからな!!)
グラハンの特技は知力依存であった。
レベル185まで上げた圧倒的な知力によって、憑依合体した際に発動できる特技「霊呪爆炎撃」の威力がとんでもないことになる。
羅神くじでドゴラやシアに取り押えらえた状況が思い起こされる。
アレンは知力依存の攻撃を手に入れたお陰で、亜神級を超える精霊獣に強力な一撃を与えられたが満足できない状況にあった。
攻撃力は、ドゴラやシアには敵わず、力負けをし、取り押さえられてしまった。
(さて、こいつらをどうするかな)
アレンは意識を前方に戻した。
バウンドすることなく吹き飛ばされた精霊獣は陸地部分の精霊たちを巻き込み、大きな騒ぎとなるのであった。
襲ってきた精霊獣を泉の横穴を抜けた陸地の部分に吹き飛ばした。
精霊獣はアレンの攻撃を受けた腹を上部に向け、意識を失い伸びてしまっている。
『エリーゼ様、無事ですか!』
『おい、早く回復させろよ!』
『分かってる。ちょっと待ってろ!』
(エリーゼだと? 思ったエリーゼと違うな)
モササウルス風の精霊獣に、エリーゼの響きが全くしない。
10体を超える精霊たちがワチャワチャと、精霊獣の周りに集まり始めた。
アレンの剣撃で大きな傷を負う精霊獣を、精霊たちの力で必死に治そうとしているようだ。
(多くの耐性は精霊たちによるものか)
クワトロに特技「鑑定眼」で目の前の精霊獣を鑑定したが、複数の耐性があった。
ステータスについても、亜神級にしてはかなり高い方だったので、精霊たちが精霊獣のステータスを増強していたのかと思う。
アレンたちはゆっくりと精霊獣と精霊たちに歩みを進めていく。
「なんなんだよ、こいつらは……」
泉を超えた先にこんなに広い空間があったことに驚いていたルークは現状が理解できない。
『まだ、治んねえのか。俺たちが時間を稼ぐぞ』
『ああ、そうだ。僕らがエリーゼ様を守るんだ!』
精霊たちが向かってくるアレンたちに敵意をむき出しにしていく。
アレンたちも応戦すべく、武器を構えお互いの間に緊張が一気に増す。
『お前たち、待つのじゃ!!』
『トーニス様……』
アレンたちと対峙する精霊の1体がつぶやいた。
ソフィーの傍にいた水の大精霊トーニスが杖を掲げ叫んだ。
アレンたちの中にトーニスがいることを知り、精霊たちは落ち着きを見せる。
アレンたちの中にトーニスがいることを知り、かなり動揺するが段々と落ち着き敵意がなくなっていく。
「なんなんだよ。これはどういうことだよ!」
状況が分かっていそうなトーニスに、ルークは状況の説明を求める。
『ふむ、そうじゃの。あの泉をみるのじゃ』
横穴を抜けた先にある空洞の、陸地の部分にも泉が沸いていた。
煌めく命の雫が満たされており、この陸地部分の中央にある小さな泉と生命の泉は繋がっているようだ。
ルークは言われるがままに、アレンたちと共に小さな泉の傍に立って、中を覗き込んだのであった。





