第507話 霊獣グラハン②
アレンたちの前に恐怖帝を討ち、騎士の成れの果てに霊獣となったグラハンが現れる。
弱りきった霊獣グラハンを聖獣石に取り込んで、霊Sの召喚獣にしようとしたが「穢れ」があって上手くいかない。
「とりあえず、作戦を立てないといけないな。少し距離を取ろう」
弱った霊獣グラハンから距離を取って、召喚獣にする方法を模索すると言う。
守人長のアビゲイルも、斥候担当のボンゴラも困惑した様子だ。
霊晶石を取りに来たという審判の門を超えてきた者たちを案内したら、何やら透明な水晶の玉を霊獣に押し付け始めた。
アビゲイルもボンゴラも一緒に移動する。
距離を取ったところで、メルルやガララ提督たちもゴーレムの降臨を解いて、浮遊羽の効果で空を飛んでアレンたちの下にやってくる。
「これからどうするの? グラハンを召喚獣にするってことでいいのよね」
セシルが代表してどうするのかアレンに問う。
「そのとおりだ。戦闘中も話をしたが、あの霊獣のグラハンは俺の新たな召喚獣になるかもしれない」
「マクリス、クワトロに続いてってこと? 聖獣じゃないわよ?」
これまでの2体は聖獣であった。
霊獣のグラハンが仲間になるのかと言う。
「霊獣も召喚獣にできるらしいな」
(そもそも、聖獣じゃないとダメなんて俺の思い込みだからな)
聖獣石を手に入れてから「聖獣」を捕まえると躍起になっていた。
「グラハンね。確か恐怖帝を殺した親衛隊騎士よね。なんで、こんなところで霊獣しているのかしら?」
「それも気になるところだな」
「でも、上手くいかねんだろ」
セシルとの会話に、ドゴラも参加する。
グラハンの攻撃を一手に受けたドゴラは方法がないのではと言う。
「ヘルミオスさんは、何か知っていますか? グラハンの生前の顛末とか知りたいです」
(仲間にするヒント頂戴)
今のままでは情報が足りなすぎると思った。
学園を卒業したヘルミオスにアレンは問う。
グラハンを召喚獣にする情報が何かないか知りたい。
5大陸同盟の盟約により作られた各国の学園都市では、魔王史を習うのだが、1年の時はそれぞれ各国の建国以降の歴史について習う。
アレンたちは恐怖帝について学園で習ったが、恐怖帝を殺した騎士の名前は習っていなかった。
側近に殺されたとかそんな話だったと覚えている。
アレンがラターシュ王国の王国史を深く習ったように、ヘルミオスはギアムート帝国の帝国史を学んでいるはずだ。
中央大陸を唯一、統一を果たした恐怖帝を殺した男の話だ。
それなりに授業で触れられているはずだ。
「えっと、恐怖帝を倒して、英雄になったんだけどその後、逆賊として処罰された騎士の名前だよ……」
ヘルミオスは絞り出すように、遠くを見ながら答えた。
(あれだな。勇者もクレナと一緒で学科の授業は真面目に聞かないタイプか。それにしても逆賊ね)
アレンは勇者ヘルミオスの評価を1つ下げた。
ヘルミオスの仲間たちも仕方ないわねと軽くため息をつく。
「ヘルミオスは授業あまり聞いていなかったからね。グラハンのことは私も詳しくないわ……。ベスターなら詳しく知っているんじゃない?」
ヘルミオスとは学園にいたころからの学友で仲間の剣王シルビアは言う。
「む? まあ、そうだな。私もそこまで詳しくないが……。グラハンとは恐怖帝の暴挙を止めた男で間違いないな」
ヘルミオスの仲間で聖騎士王ベスターが答えてくれるようだ。
こんな男勝りな口調だが、ベスターは女性でヘルミオスより数歳年下だ。
金髪青眼ポニーテールで体格も良く、アレンたちもS級ダンジョンの頃からの仲だ。
タンク職をパーティー内でこなすのだが、耐久力高めだからか、かなり堅い性格だ。
グラハンとは、恐怖帝に仕えた親衛隊の1人だ。
恐怖帝も才能だったり、実力があれば重職に登用する性格だったこともあり、元は平民だったが長い年月をかけて親衛隊に登りつめたとベスターは語る。
「そんな男が何で、恐怖帝を殺したんでしょう。たしか、中央大陸を制圧した後、他の大陸を攻めるぞって時に殺されたんですよね」
恐怖帝が死んだときの話を思い出す。
恐怖帝は中央大陸を初めて制圧したギアムート帝国の皇帝だ。
恐怖帝が殺されたタイミングをアレンは知っている。
「……それは知らない。偶発的な出来事だという説もあるな。だが、処刑された経緯なら分かるぞ。記録では、恐怖帝の死後、中央大陸全土で内乱が勃発したんだ」
恐怖帝殺害については、恐怖帝の行動に疑問を持ったグラハンの偶発的な事件だったと言われているらしい。
「ああ……」
アレンは恐怖帝がいなくなるとギアムート帝国はどうなるかべスターの言葉で理解した。
恐怖帝死後の前後に起きたことについて、細かい内乱の状況をベスターは語る。
中央大陸にあった何十もの国家を侵略してギアムート帝国は中央大陸を統一した。
力で侵略した国家を隷属化し、人々から尊厳を奪ってきた。
忠誠を見せている貴族であっても、納税が滞れば晒しものにして処刑するくらい当たり前のことだった。
屈服しても地獄、抗っても地獄の強権を振るってきた恐怖帝がいなくなった。
中央大陸全土で侵略され苦しんできた隷属国家の人々が反旗を翻した。
今を逃して、独立の機会などないかのように武器を手に取った。
元々ギアムート帝国の貴族であっても、この機会に独立して王国を建国する者も現れ始める。
(ラターシュ王国のラターシュ王家もたしかギアムート帝国の貴族だっけ)
ラターシュ王国の王族は、ギアムート帝国の南部を任せられた大貴族だった。
建国1000年のラターシュ王国は恐怖帝の死の折に建国したようだ。
1000年前に建国された国はとても多い。
ギアムート帝国の南部の重要な地方が独立とあって、ラターシュ王国以南の地は一気に独立に動いた。
お陰で今でもギアムート帝国はラターシュ王国に厳しく当たっているらしい。
内乱と独立の中、この機会を逃さない種族がいた。
「中央大陸内だけでは終わらなかった。獣王国が動き始めたのだ」
恐怖帝に最も弾圧を受けたのは獣人たちだった。
虐げられ中央大陸から逃げガルレシア大陸にいる獣人たちは、恐怖帝亡き中央大陸の混乱を知る。
建国したばかりのアルバハル獣王国は、他の獣王国にも声を掛け、何十万にもなる兵の挙兵を開始した。
「その歴史に間違いはないな」
シアもベスターの話に誤りはないと言う。
獣王家に語り継がれる歴史の話と照らし合わしても、誤りはないようだ。
グラハンの行動で世界がどうやら大きく動いたようだ。
帝国内が大いに混乱し揺れる中、復讐に燃える獣人が一気に挙兵してやってくるという情報が、新たなギアムート帝国の皇帝の耳にも舞い込んでくる。
「ギアムート帝国の次代の皇帝は、力を示す必要があった。先代の皇帝を討った反逆者を処刑することにした」
間違いなくグラハンは最初は英雄として扱われていた。
グラハンたち親衛隊による恐怖帝の暴挙を止めたことは中央大陸の全土に広がった。
歓喜と歓声でグラハンたちを包み込んだ。
次代のギアムート帝国の皇帝もそれを利用しようとすらしていた。
しかし、混乱と暴動を止め、帝国を1つにするため、次代の皇帝は力を示す必要があると判断した。
自らに権力を集中する必要があると次代の皇帝は行動に移した。
そこまで聞くと何が起きたのかアレンにも分かった。
「皇帝を中心にギアムート帝国を1つにするのにグラハンは邪魔であったと」
皇帝を討った者と共になど考えられなかった。
「そうだ。まあ、グラハンだけでなく手を下した親衛隊全員を処刑しようとしたんだがな」
親衛隊たちが寄ってたかって、恐怖帝を切り惨殺したと言われている。
「もしかして、それが、あいつが言っていた『俺が全てを考えた』って話か」
グラハンの攻撃を受け続けたドゴラは、うわ言のように口にする『俺が全てを考えた』の言葉の意味を知る。
「そうだ。グラハンは全ての罪を背負おうとした。……そう、背負おうとしたんだ」
「ん? ああ、もしかして……」
(自分1人の命じゃすまなかったということか?)
「グラハンの一族、使用人に至るまで全員残虐な方法で処刑された。帝国を今一度1つにするためにな……。いわゆる有名なスライム刑だな」
他の親衛隊は処刑を免れたが、グラハンの妻も子も含め皆殺しだったと言う。
ギアムート帝国には手足を縛ってゴブリンに凌辱され殺される「ゴブリン刑」など残忍な処刑が多いことで有名だ。
処刑の多くは、恐怖帝のいた時代に誕生した。
グラハンの一族郎党は、手足を縛られ、大量のスライムで満たされた池に生きたまま投げ落とされたと言われている。
群衆が見守る中、ため池に突き落とされた者たちは絶叫の中、血肉をゆっくりと溶かされ殺されたと言う。
(俺だけがやったか。この時の言葉でもあったのか)
グラハンはどれだけの思いで、刑を受けたのだろうと胸が苦しくなる。
「そ、そんな……。それはあんまりですわ……」
ソフィーが言葉にならないと絶句し涙を流す。
これが恐怖帝を殺したグラハンに起きたことの顛末だとベスターは締めくくった。
アレンは今一度、魔導書に流れたログの内容を確認する。
『霊獣の穢れが清められていないため、聖獣石に入れることができません』
「……そうか」
「アレン!?」
アレンがグラハンの下に歩みを進めるので、セシルが声を上げてしまう。
「ちょっと、ここで待っていてくれ。説得をしてくる」
アレンは今一度、大木の下にいる霊獣グラハンの下に歩み寄る。
体力が戻ったグラハンが一気に距離を詰め、アレンの下にやってくる。
『儂は剣聖グラハン。1人でやったのだ!!』
そして、手と一体になった大剣をアレンの頭に振り落とす。
アレンは片手でグラハンの大剣を受け止めた。
圧倒的な耐久力を誇るアレンのステータスだが、受け止めた手から血が流れる。
(そうか、お前は全てを守りたかったんだな)
グラハンの言葉のどこにも自らを「英雄」と語る言葉はない。
「……恐怖帝ゼルディアスは魔王となって生きているぞ。俺の仲間になってくれないか?」
恐怖帝は魔王に転生し、現在も多くの人々を殺している。
『儂は剣聖グラハン。逃げも隠れもしないぞ!!』
説得を試みてみるが、会話がかみ合わない。
骸骨をかたどった青白い炎のグラハンの窪んだ瞳は、アレンを見ていないようだ。
(霊獣は生前に未練がある者がなってしまうんだった)
グラハンが見る光景は家族の最後だと思うと、やるべきことは1つしかないと思った。
「穢れがあるなら俺らが清めてやる。もう少しそこで待っていてくれ」
アレンは力強く告げると、距離を取り、仲間たちの下に向かう。
「どうだった? アレン、怪我しているじゃねえか」
キールがアレンの手の怪我に気付いて回復魔法をかける。
「無理だな。会話が成り立たない。『穢れ』ね。この世界にも聖水的な物はあったはずだ」
穢れを癒すには聖水と相場が決まっている。
「どうしても仲間にするんだな」
「そうだ、キール。グラハンは生前の魔王を知る男だ。……それだけでも価値がある」
アレンはどうしてもグラハンを召喚獣として仲間に加えたいと言う。
「キールの名前で、ちょっとエルメア教会を動かすぞ。最高の聖水がほしいからな」
キールはエルメア教会トップの「教皇見習い」の地位にある。
「ああ、構わないぜ」
枢機卿に話を持ち掛けて、エルメア教会で最高の聖水を手に入れ、グラハンの穢れを清めることにする。
(やるべきことが決まった後は……)
「さて、他の霊晶石を探さないと。アビゲイルさん、次の霊獣をお願いします。できるだけ強いのがいいです」
当初の目的に戻るとアレンは言う。
「か、構わないが……。この先に亜神級の霊獣がいる。少し回り道になるが、その先に、大天使級の霊獣がいるはずだ」
既にアビゲイルの理解を超えていた。
だが、砦が陥落するのではという状況の中で、救ってくれた事実は変わらない。
霊障の吹き溜まりの案内は続けてくれるようだ。
「え?」
「ん? なんだ?」
「いや、何故回り道をするんですが?」
「すまない。説明が足りなかったな。この先に圧倒的な力のある亜神級の霊獣がいて危険なのだ。回り道をしないと……」
「亜神級の霊獣を狩りに行きます」
「……」
アビゲイルは言葉を飲み込んだ。
そして、止めなくていいのかとアレンの仲間たちを見ると、出発前に飯を食うかと魔導具袋から干肉や果実を摘まんでいる。
誰1人、恐怖感はなかった。
「大丈夫です。案内だけで、戦闘はこちらでしますので」
「わ、分かった」
「守人長!? 亜神級は無理だど!!」
「……問題ない。彼らは強い。それにずっと霊晶石を天空王陛下に献上できずにいたのだ。ここで案内を止めてどうする」
ボンゴラは青白くなるが、アビゲイルにも守人長としての使命があった。
これだけの英傑ならもしかして亜神級の霊獣にも敵うかもしれないという。
こうして、アレンたちは霊獣グラハンと出会い、亜神級の霊獣を狩りに向かうのであった。





