第497話 卒業式?
アレンたちの目の前には、神界に行くための巨大な審判の門がある。
クレナとハクの必死の戦いによって、試しの門でメガデスを倒した。
そして、竜王マティルドーラと英雄アステルとの戦いにも勝利した。
その結果、アレンたちは神界に行く権利を勝ち取ったのだ。
アレンはアレン軍、勇者軍、ガララ提督軍の万を超える軍勢を竜王の神殿に呼んでいる。
アレンは審判の門を管理している時空神デスペラードと交渉し、100人までアレンたちは神界に行くことができるようになった。
こうしてアレンは自らのパーティー「廃ゲーマー」、勇者のパーティー「セイクリッド」と、ガララ提督のパーティー「スティンガー」と一緒に神界に臨もうとしていた。
「さて、とりあえず神界に行ってみるか」
(行かないと始まらないからな)
「そうだな。早くいってみようぜ!」
ずっとS級ダンジョンで暗がり生活をしていたドゴラも門の先に行きたいと言う。
S級ダンジョンの最下層は、魔導具による灯りなど頑張っているのだが、どうしても日の光のある地上と違って薄暗い場所だ。
「今回はパーティーを分けないのね」
「そうだな、セシル。せっかくの神界だ。なるべく皆で行ってみよう」
同じパーティーメンバーであるペロムス以外の全員で神界を探索しようとアレンは言う。
海底のプロスティア帝国や竜神の里と違い、今回は全員で行く。
(ん? ああ、そう言えば)
彼らもアレンたちの動向を見ているのだが、竜王や竜人たちもアレンを見ていた。
アレンは竜王の下にゆっくりと歩みを進める。
『ぬ?』
アレンが自らの下にやってきたことに竜王が何だと疑問の声を上げる。
その周りにいる竜王に仕える神兵や神官の竜人たちは警戒して表情は強張る。
今回の審判の門はクレナとハクの頑張りによって、開けることができた。
しかし、元々決まっていたこととはいえ、最後に竜王と戦えば審判を超えることができると言う条件を時空神の使いのデスペラードは突き付けてきた。
かなり理不尽な上に、竜と乗り手の2対2で戦えるよう、神兵や神官も武力をちらつかせ、アレンたちを威圧した。
アレンの行動に竜人の鱗で覆われた頬に冷や汗が流れ落ちる。
「ちょっと、人数が足りなくてそんなに多くは連れていけませんが、一緒に神界に行きますか?」
『な!?』
「いえ、驚かれても期待はしないでください。交渉の結果、そんなに枠はありませんよ。まあ、10人以下でしたら大丈夫です」
(まじ、ベータテストの募集でももっと枠があるわ)
アレンの心の中で不平不満が沸いてくる。
新しいネットゲームがオープンされる際、テストユーザーを募ることがある。
その際、ユーザーを抽選などで決め、希望者全員はテストに参加できないが100人なんて少ない人数ではなかったとアレンは記憶している。
残り60人ほど枠があるので10人くらいなら神界に行けるぞと言う。
ブンッ
(む?)
アレンが発言すると、いきなり魔導書がアレンの前に現れた。
魔導書の漆黒の表紙にはいつものように銀色の文字でログが流れている。
『現在アレンのパーティー15名、ヘルミオスのパーティー10名、ガララ提督のパーティー15名となっております。神界に行けるのは残り枠60名です』
100人以上は絶対に神界に行けないという強い時空神の意思を感じる。
態々、魔導書の表紙に残り人数を出してくるようだ。
なお、アレンが竜王に言う10人とは一般的なパーティーの構成人数だ。
(あれ? この場にいないペロムスも入れて14人のはずだけどタムタムも入っているのか?)
【廃ゲーマーのメンバー構成15名】
アレン、クレナ、セシル、ドゴラ、キール、ソフィー、メルル、フォルマール、シア、ルーク、ペロムス、ロザリナ、イグノマス、ハク、タムタム
ダンジョンマスターディグラグニに魂を与えられた魂も廃ゲーマーの一員だった。
あとでメルルとタムタムに教えてあげようと思う。
魔導書を見るとタムタムもステータス欄が見えるようになっていた。
竜王が少しの沈黙のあと口を開いた。
『クレナ殿とハク殿が仲間と共に命を懸け手に入れた大事な人数なのだろう。我が願望によって埋めるわけにはいかぬ』
そこまで言うと竜王は静かに目を閉じた。
もしかしたら、アステルがこの場に居たら答えは変わっていたのかもしれないなと思う。
「そうですか……えっと」
アレンは3000年もの間、竜王が神界を願望していたことを知っている。
遠慮しなくても良いと言おうとしたが、今一度目を見開き、視線を竜人の神官に変えて、竜王は話を進める。
『なるほど。狭い里の中にいる間に、世界には英雄が生まれていたか。テグサノよ』
「は!!」
アレンは竜王が話しかけた先の竜人を見ると高位の神官が返事をした。
竜王の側近中の側近のようだ。
『我、竜王マティルドーラは審判の門を開いたハク殿と同じ未来を見ていくことにした。竜神の里は、アレン殿の協力関係にあることを里全土にお触れを出すのだ!!』
神殿に轟くほどの声で竜王は叫んだ。
目の前に立っているので、もう少し声を抑えてほしいとアレンは思う。
「さすがアレン君だね。いや、さすがに君付けはそろそろ失礼かな。ああ、そうそう、渡さないといけないものがあった。招待状ね」
ヘルミオスがアレンの行動に呆れが少し混じった口調で賞賛する。
アレンと竜王の下に、ヘルミオスは腰に付けた魔導具袋からごそごそと何か羊皮紙のようなものを取り出した。
既に成人しており、結構な立場のアレンに君付けは失礼になってきたかなと敬語が苦手なヘルミオスは何か言っている。
(何だよ。3ヶ月前にやったばかりだろ。まあ、何を話すか予想できるけど)
「また会議ですか」
アレンは明らかに嫌そうな顔をする。
「そんな顔をしないでくれよ。それは、5大陸同盟の参加要請だよ。この前も貰ったよね?」
アレンがつまらなそうな顔でヘルミオスから渡された丸められた羊皮紙を見る。
「さすが、5大陸同盟の会議にはアレン様がいないと始まらないと言うことですわね!」
ソフィーが興奮しながら、アレンを称える。
「当然だよ。アレン君は人類の希望だからね」
ローゼンヘイムでの戦い、S級ダンジョンの攻略、邪神教教祖討伐、海底大帝国の5大陸同盟への協力関係構築など、アレンのこれまでのしてきたことはその1つをとっても有史に残す偉大なことだとヘルミオスは言う。
今回、アレン軍が中心となって、60年以上に渡って占領されていた中央大陸にある魔王軍の拠点を全て破壊し、魔獣や魔神たちを殲滅した。
まだ話に上がっていないが、神界への道を開いたことも世界に広がることになるだろう。
5大陸同盟の盟主たちが通信の魔導具を使っての会議が数日前に行われた。
今後の魔王軍との戦いにおいてもアレンの助言は必要だ。
現在、ギアムート帝国の恐怖帝をしていた皇帝が蘇って魔王をしている事実が各国に知れ渡った状況だ。
ギアムート帝国に不信感のあるアルバハル獣王国もアレンの助言なら聞くと言う。
「はあ、ちょっと、そろそろ神界に行きたいのですが」
アレンはゲームをしようとしたら宿題するように言われた子供のような顔をしている。
決して「今から宿題をやろうと思っていた」などと言わない。
「場所はローゼンヘイムの首都フォルテニアだからソフィーさんもよろしくね」
日程は羊皮紙に書かれているので、何を話すか考えておいてほしいとヘルミオスは言う。
「まあ、そうでしたのね……」
ローゼンヘイムで5大陸同盟会議があることを聞いてソフィーが感動している。
(次はローゼンヘイムか。復興的な意味か)
中央大陸の魔王軍の拠点が全て無くなるという戦況の転換点を迎えたことになる。
今後どうしていくのか、話し合いは不可欠だ。
不信に思っている獣人国家の獣王たちも、前向きな話には参加してくれるようだ。
場所をローゼンヘイムにしたのもギアムート帝国など中央大陸ではやりたくないと言う前回の会議の波紋が残っているのかもしれない。
しかし、これもローゼンヘイムがまた5大陸同盟の会議ができるほど魔王軍の侵攻から復興したという明るい意味も含まれている。
その当事者にアレンもいる。
何か、最も欲しくなかった「立場」というものが四方八方から迫ってくる気がする。
「竜王様も、できればその会議に参加してください」
アレンの下に歩み寄ったヘルミオスは傍にいる竜王にも声をかける。
竜神の里はこれまで、魔王軍との戦いに一切関わってこなかった。
『分かった。配下と共に行くので、席を用意しておいてもらおう』
喜ぶソフィーを後目に、アレンは「話は分かりました」とアレン軍の下に向かっていく。
あまりのこの場に長居したらいけないような気がする。
端的に今後の予定の話を将軍たちに伝え、細かい話は後程すると言う。
アレンはアレン軍の配下の将軍たちの下に向かう。
ルド将軍などに今後の話をすることにする。
「すみませんが、皆で行きたかったのですが、人数制限があります。会議の準備は軍の強化など、方針が決まったらオキヨサンなどを通じて連絡します」
霊Aの召喚獣を通じて連絡すると言う。
「分かったである。シア様をお願いします」
「ああ、それと、アルバハル獣王国へ戻る際に1つ連絡をお願いできませんか?」
「ぬ? 何であるか?」
獣人のルド将軍は何か頼まれる用事はあったのかと疑問の声を上げる。
「神界に行く枠はまだあります。開けておくのはもったいない。良かったら十英獣の皆さんもいかがですかと声をかけておいてください」
「ぬ?」
ちょっと何を言っているのかルド将軍は理解ができなかった。
アレンは理解が進まないルド将軍に、説明をする。
十英獣の皆は、S級ダンジョンの攻略、その後の魔王軍の戦いに協力をしてくれた。
邪神教の教祖との戦いでアレンたちが向かう中、手薄になるはずのローゼンヘイムや中央大陸北部の戦いに参加を、ゼウ獣王子や十英獣の皆は戦ってくれた。
そのお礼がしたいと言う。
「これは、ソフィーが私にお願いをしてくれたとお伝えください」
「…アレン様」
ソフィーが頼んだという言葉の意味を理解したソフィーが胸を打たれているようだ。
魔王軍との戦いに向けて、世界は協力をしなくてはならない。
人族のアレンよりも、開催国でありエルフの国の王女のソフィーの要請であるほうが、収まりが良いとアレンは言う。
「ルド将軍、神界で原獣の里にも我らは向かいます。是非、英雄たちには相応の高みがあることをお伝えください」
もしも他の獣王国が神界に行きたいと言うのであれば多少の枠は用意するとも伝える。
(ルド将軍が固まった件について)
アレンが何を言っているのか理解をしたルド将軍は固まってしまった。
「確かにその役目、お受けするのである」
少し経ってルド将軍は涙を浮かべながら言葉に並々ならぬ返事をし、アレンの傍にいたシアに視線を移す。
「うむ、英雄たちの出発に相応しく頼むぞ」
「は! では、皆の者、英雄方が神界へ出発なさる。拍手をもって、送ってほしい」
パチパチパチ
大きな拍手が広がっていく。
「もっとだ。もっと大きな拍手を!!!」
ルド将軍は腹の底から声を上げ、拍手を打ち消すほどの声で叫んだ。
今度は神殿が揺れるほどの大きさの拍手喝さいが起きる。
竜人たちも一緒に拍手で見送ってくれるようだ。
「なんか卒業式を思い出すな」
「アレン? 何よそれ」
アレンの言っている意味が、セシルが分からなかった。
アレンは中学や高校の卒業式で在校生から拍手で送られたなと遥か前世の記憶を思い出す。
さすがにこの場に居続けるのもなんなので、急かされるようにアレンたちはヘルミオスやガララ提督のパーティーと共に審判の門を越えていく。
門を越えるとゆっくりと門は閉まっていくようだ。
割れんばかりの大きな拍手もここには届かなくなった。
門を越えると、圧倒的に広がる雲海が広がっていた。
「なんか、雲の上って歩けるんだな」
アレンはマシュマロの上を歩くような感じで雲を踏みしめる。
「それで、アレン君さっきの話もそうだけど、これはどういうことかな?」
ヘルミオスは神界に来て早々アレンに尋ねる。
ガララ提督も説明しろ感を強めて、アレンに視線を送る。
「ああ、そうですね。今後の話をまずはしましょうか」
アレンは卒業式のように見送られて神界に到着すると、今後の話を始めたのであった。