第487話 魔王軍拠点強襲戦②
成長レベル9に達したが獣Gの召喚獣同様にサイズはこれまで通りの、少し大きめのバッタとネズミサイズだ。
1歳の時に農奴の掘っ建て小屋に毛が生えたような実家でコソコソと召喚していた時と同じサイズだ。
「暴れてやれ」
両手の中で召喚した後、アレンは手の上から落とすと拠点に向けて自然落下を始める。
『……』
『チュー!』
虫Hと獣Hの召喚獣は落下しながら、やったるぞ感が溢れている。
2体の召喚獣は成長レベル9まで上げている。
【種 類】 虫
【ランク】 H
【成 長】 S
【名 前】 デンカ
【体 力】 27000
【魔 力】 20000
【攻撃力】 28000
【耐久力】 30000
【素早さ】 30000
【知 力】 25000
【幸 運】 22000
【加 護】 耐久力1000、素早さ1000
【特 技】 飛び跳ねる
【覚 醒】 群れを成す
【種 類】 獣
【ランク】 H
【成 長】 S
【名 前】 チョロスケ
【体 力】 30000
【魔 力】 29000
【攻撃力】 30000
【耐久力】 26000
【素早さ】 25000
【知 力】 21000
【幸 運】 20000
【加 護】 体力1000、攻撃力1000
【特 技】 駆け回る
【覚 醒】 鼠算式
ポン
ポンポン
ポンポンポンポン
覚醒スキルをそれぞれ使い、効果音を響かせ数を倍に倍に増やしていく。
一気に数を100体に増やし魔王軍の拠点に向かっていく。
セシルのエクストラスキル「小隕石」で噴煙立ち込める要塞の中、虫Hと獣Hの召喚獣の軍隊が暴れる。
虫Hの召喚獣の特技「飛び跳ねる」の体当たりによって、Bランクの魔獣の肉体が爆散する。
獣Hの召喚獣の特技「駆け回る」に巻き込まれて、要塞の壁に押しつぶされる魔獣もいる。
併せて200体に増えた召喚獣たちが、要塞内を無造作に動き回る。
(完全に制御不能と)
成長レベル9になっても指示に従わないとは、個性を超えた強い意志を感じる。
成長レベル9の検証は随分進んでいる。
【成長レベル9召喚獣の特徴】
・召喚獣1種類につき1体しか成長レベル9にできない
・ステータスの上限は加護になる2つが3万で、そのほかのステータスはランダム
・加護は2つのステータスを1000ずつ増加
・王化すると全ステータスが1万増加
・指揮化すると全ステータスが5000増加
【成長レベルと加護の変化】
・成長レベル1は2つの加護が2ずつ上昇
・成長レベル2は2つの加護が4ずつ上昇
・成長レベル3は2つの加護が10ずつ上昇
・成長レベル4は2つの加護が20ずつ上昇
・成長レベル5は2つの加護が40ずつ上昇
・成長レベル6は2つの加護が100ずつ上昇
・成長レベル7は2つの加護が200ずつ上昇
・成長レベル8は2つの加護が400ずつ上昇
・成長レベル9は2つの加護が1000ずつ上昇
※成長レベル9は各召喚獣1体まで
成長と王化や指揮化が重なったことだけでも感謝しよう。
それぞれの召喚獣を1体ずつ成長レベル9にするにしても、尋常じゃない量の聖珠が必要なようだ。
まだパーティーメンバーに聖珠が行き届いていない状況もあり、無尽蔵に聖珠ポイントに変換するつもりはない。
もっとも聖珠ポイントが少なくて済む虫と獣系統の召喚獣を優先して成長レベル9にしていく。
虫H、獣H、獣G、虫B、虫Aの召喚獣をとりあえず成長レベル9にした。
獣Gを除く4体は自らを増やすことができるので、今回のような戦争向きだ。
聖獣を召喚獣に取り込んだなら、定期的に聖珠を作ってくれるので1体でも多く早く召喚獣にしたい。
「お前らも行ってこい。1体も逃がすな。全て殲滅だ」
『ギチギチ』
『ギチギチ』
王化した虫Aの召喚獣も、指揮化した虫Bの召喚獣も子ハッチと子アリポンと共に魔王軍を囲い込んでいく。
こちらは、規則正しい軍隊のような統制の取れた動きだ。
それから1時間が経過する。
『ぐぬぬ。魔王様』
アレンたちの目の前にこの拠点のボスと思われる魔神が横たわる。
ものの1時間かそこらで、拠点の最深部にアレンたちは到達し、魔神を1体倒すことができた。
いくつか情報を聞き出したかったのだが、有無を言わさず戦闘になり倒すしかなかったとも言える。
『魔神を1体倒しました。転職ポイント1ポイントを取得しました。レベルが113になりました。体力が125上がりました。魔力が200上がりました。攻撃力が70上がりました。耐久力が70上がりました。素早さが130上がりました。知力が200上がりました。幸運が130上がりました』
(ふむふむ、随分上がるようになったな。お? 転職ポイントも1ゲットと)
クレナやアレンを除いて全員を星5つの才能にするには100ポイント以上の転職ポイントが必要だ。
やってみて効果があると味を占めたのか聖珠ポイントといい何かと「ポイント」を神界から貯めさせられているような気もする。
しかし、小さなメダルといい収集は冒険の基本だ。
1ポイントも残さずしっかり貯めていこうと思う。
魔導書に載ったステータスをアレンは確認する。
(攻撃力は相変わらず上りが悪いな。幸運が上がるのも嬉しいが)
後衛職のステータス配分になっているアレンはステータスの効果について、さらに精度を高めて検証をした。
アレンも含めてステータスが高くなったので検証効果がはっきりとしていたことが分かる。
他のステータスに比べて代わり映えのない幸運だったが、万を超えるステータスを手にして体感できるほどに効果が分かってきた。
幸運も大事なステータスの一要素だ。
(この世界では、敵を倒してドロップする世界ではないからな)
前世でやり込んだゲームによっては幸運を上げると、敵がアイテムを落とす確率が変わったりするものだ。
この世界では敵を倒しても魔獣の死体から素材は手に入るが、アイテムは一切落とさない。
それでも、ステータス欄に幸運があることに意味はあった。
アレンが検証した知力と幸運のステータスの違いと幸運の効果についてまとめた結果を魔導書で見る。
【ステータスの検証 知力と幸運】
・知力:高いほどデバフを受けづらくする
・幸運:高いほどデバフを一定確率で避ける。ついでに敵の攻撃も一定確率で避ける
今回も魔王軍との戦いでデバフをかけてくる魔獣たちの魔法をアレンたちは完全に防ぐことができた。
香味野菜もかけているのだが、魔獣のランクが上がってきて完全防御は難しくなってきたので、幸運はとても助かる。
「よし、魔神は倒した。外の魔獣たちも一掃するぞ」
中に入れなかったハクに乗ったクレナと、タムタムを操縦するメルルに合流して、外の魔獣の殲滅をすると言う。
アレンのパーティーも加わったことで、残党狩りの速度は明らかに早くなる。
3時間もかけずに数十万に上る魔王軍は一掃された。
アレンは状況を確認するため、将軍たちやガララ提督や勇者ヘルミオスを招集する。
「順調に殲滅が終わったようですが、そちらの軍は大丈夫ですか」
「うん、被害はほとんどないかな。上手くいったね」
「ガハハ、思ったよりも余裕だったぞ」
間もなく日が天に上がるころだ。
ヘルミオスもガララ提督も、敵の拠点を昼前に落とせて随分ご機嫌なようだ。
「それで、これからどうするの?」
セシルはアレンにこれからについて聞く。
「そうだな。昼飯を食って少し休憩入れたら、午後からもう1つ拠点を落とすぞ」
(次の殲滅は3時ころにしようかな。これだと1日2つしか拠点落とせそうにないかな)
「相変わらずね、みんなついてこれるかしら」
「アレン君は相変わらずだね。食事と休憩を指示させておくよ」
「ぬう、そうだな。まあ、部隊を戻すのは早い方が良いか」
ヘルミオスとガララ提督はアレンのペースに合わせてくれると言う。
中央大陸の魔王軍拠点強襲作戦は続いていくのであった。
***
それから5日が過ぎた。
拠点を思いの他良いペースで陥落させることができた。
さすが数百体はいるという魔神たちだ。
どの拠点にも魔神が1、2体いる。
お陰でアレンはレベルを125まで上げることができた。
『わ、我はラモンハモンの代わりに中央大陸を任された上位魔神……』
最後何が言いたかったのか分からない。
奥に何か部屋のある大きな広間に鎮座するように上位魔神がいた。
部屋がかなり広かったお陰で、マクリスなどの大型の召喚獣も出し放題でボコボコにできた。
『上位魔神を1体倒しました。転職ポイント5ポイントを取得しました。レベルが130になりました。体力が750上がりました。魔力が1200上がりました。攻撃力が420上がりました。耐久力が420上がりました。素早さが780上がりました。知力が1200上がりました。幸運が780上がりました』
「なんか一人だけ、とんでもなく上がっているわね」
アレンが自らのステータスアップを目に焼き付けていると、セシルが覗き込んでくる。
学園都市にいたころ、成長限界はないが経験値が通常の100倍必要とアレンが語った時、「何それ、絶望じゃないの」といったセシルは今ではうらやましく思う。
「そうだな。まあ、魔王はどれだけ強いか分からないからな。しっかり上げることができたぞ」
既にこと切れて、灰になっていく上位魔神を後目に、アレンはまだまだレベル上げが足りないと言う。
(クレナ、シア、ハクのレベルがカンストしたけど)
2人と1体ともレベルは99まで上げることができた。
「我々はとうとうやったのか。これで中央大陸から魔王軍の脅威を排除したと」
「そうですね。ライバック将軍」
少し遅れてアレン軍の部隊も拠点の最深部までやってきた。
既に灰に変わってしまった上位魔神を見ながら、何か感慨深そうだ。
ゼノフも無言で何かを考えている。
魔王軍が侵攻して50年以上が過ぎた。
その間にいくつもの国が無くなったが、とうとう中央大陸にある魔王軍の拠点を全て滅ぼすことができた。
これで魔王軍が新たに攻めてきても、魔王軍は魔族たちの根城である「忘れ去られた大陸」からの侵攻となる。
距離的にも対応しやすく、時間の余裕が生まれたとアレンは考える。
「さて、この奥はと」
(何を守っていたのか)
上位魔神は大事な場所を守るように、扉の前に立ち塞がっていた。
いくつも拠点を破壊し制圧してきたのだが、こんな対応はこの拠点だけだ。
そして、上位魔神がいたのもこの拠点だけだ。
仲間たちと共に警戒をしながら、開けた先にはいくつもの魔導具が並ぶ巨大な設備があった。
「ここは魔王軍の研究施設かしら」
「どうだろうか。研究というより移動のための施設のように見えるぞ」
実験的な何かをしているように思えない。
一番奥の魔導具の床には、何か紋章のようなデザインが光っている。
ペロムスから聞いたシノロムの研究所の話を思いだす。
アレンは床の光る紋章の奥に佇む魔導具に近づいていく。
『こちらは中央大陸に設置された転移地点です。申し訳ございません。たった今、管理者権限により、転移の権限は失われてしまいました。この転移装置は機能しておりません』
「ふむふむ。これは魔王軍が世界中に張り巡らせた転移装置の1つだと」
(そして、俺たちが上位魔神と戦っている間に、機能を停止させたと)
どうやら上位魔神との戦いは時間稼ぎであったようだ。
転移装置の魔導具は『既に機能が失われており、転移はできない』と同じ文言を何度も音声出力している。
「どうするの?」
「これは、ララッパ団長に研究させよう。せっかく魔王軍の置き土産だ。有効活用するとしよう」
「え? ああ、これを使って、転移魔導具の研究をするってことね」
「うむ。技術は奪うものだ。1から作ったんじゃ、時間が掛かりすぎるからな」
アレンは仲間や集まってきたアレン軍の将軍たちに説明をする。
部隊の強化には、このような強襲や避難用に使える転移の魔導具がどうしても必要だ。
ヘビーユーザー島の移動と一緒に頼んでいた転移の魔導具を、アレン軍の魔導技師団は完成させていない。
目の前に機能は失われたが、転移することができた魔導具がある。
せっかくなのでいただいて有効活用しようとアレンは言う。
一応、魔王軍側の施設と繋がっていた魔導具なので護衛に召喚獣を配置しつつ、転移の魔導具の完成を急いでもらうことにする。
こうして、アレンたちは中央大陸にある全ての魔王軍の拠点を破壊することに成功した。
機能が失われた転移の魔導具も戦利品として手に入れ、転職ポイントを10手に入れた。
レベルについても、クレナとシア、ハクはレベル99でカンストした。
アレンはレベル112から130に上げることができた。
「さて、準備は整ったな。メガデスと戦うぞ」
「いや、待って。さすがに今晩くらい勝利の祝杯した方がいいよ」
「え? ああ、そうですね」
勇者軍の中には感動のあまり涙をこらえている者たちがいる。
皆の思いを1つにするためにも祝杯を上げようとヘルミオスから提案を受ける。
こうしてアレンたちも参加して、夜通し勝利を祝した宴会となった。