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ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~  作者: ハム男
第9章 竜王マティルドーラと審判の門
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第480話 聖鳥クワトロ

 アレンたちの前に巨大な黄色の鳥が現れた。

 体長は10メートルくらいだろうか。

 顔には2対の4つの目、頭の後ろに2対の4枚の羽が生えている。

 聞いていた通り「ひよこ」を巨大にして神々しくしたような見た目をしている。

 なぜこんなところに鳥人国家レームシールの守り神と聞いていた聖鳥がいるのか分からない。

 皆が戸惑いながら無言で視線を交わす中、腰を低くしたアレンは魔導書から出した聖獣石を両手で抱えてゆっくりと距離を詰める。


「ちょっと、アレン。何する気よ!」


 慎重にそろりそろりと歩くアレンの後ろから、セシルが小声で話しかける。


「もちろん捕まえる」


(必ずゲットする。聖獣マスターに俺はなる)


「何考えているのよ」


「そうだな。作戦は必要か。体力を半分に削らないと捕まえにくいか。ん?」


 セシルとの会話がかみ合わない。

 アレンはルークの肩に乗る大精霊に視線が移る。


『む? どうしたのだ?』


 ジロジロ見るので大精霊が反応する。


「そうか。これは運命だったのか。毒攻撃で体力をギリギリまで削って……」


 全てのことは繋がっていた。

 貴重でレアなモンスターを毒で体力を削り弱らせ仲間にしてきた、健一だった前世のゲームの記憶が蘇る。


「アレン、落ち着きなさいよ!!」


 セシルの拳がアレンに振るわれる。


「は!? 俺は何をしていたんだ……」


 アレンは我に返った。


『……』


 障害となる物が何もない広い空間にいるため、アレンたちの小芝居は丸見えだ。

 4つの目で聖鳥クワトロは無言でアレンたちを見つめている。


「……」


 アレンたちも無言で見つめ合ってしまう。

 何の時間か分からない状況は少しばかり続いていく。


『とうとう、この試しの門を越えようとするものが来ましたか。何用ですか? 出口はあちらですよ』


(なんだ、見た目の割に随分優しい口調だな)


 聖鳥クワトロはアレンが怪しい行動をとったためか、怪訝そうにアレンたちを見つめている。

 次の空間に移動する魔法陣を嘴で指し示す。

 アレンは、ずんぐりむっくりでよく肥えた見た目の割に聖鳥クワトロは優しい口調だなと思う。


「実は聖鳥を探しておりまして」


『おや、この試しの門を攻略しに来たのではないのですか?』


「試しの門を攻略していますが、実は別に目的があるのです」


 アレンがやってきた目的を端的に話し始める。

 世界は魔王によって滅ぼされそうだ。

 魔王を倒すため仲間と共に、神界を目指して試しの門を攻略中であること。

 魔王と戦うため、召喚獣にするため聖獣を探していること。

 この審判の門の存在は調停神に教えてもらった。


『調停神ファルネメス様が、この場を教えるとは……。皆さんには何か特別な運命があるのかもしれませんね』


 調停神の言葉に聖鳥クワトロは反応した。


「運命?」


 なぜ調停神が教えてくれたことが、運命なのか分からない。


『この試しの門は時空神デスペラード様が管理する前の遥か昔、調停神ファルネメス様が管理していたと聞いております』


 何千年前か何万年前か知らないが、随分昔のようだ。


「おお! ファルちゃんが管理していたんだ!」


 調停神に審判の門を教えてもらったクレナが反応を示す。


(なるほど、だからこの門の存在を教えてくれたのか。手伝ってくれないけど)


 アレンたちは偶然、審判の門を目指していたわけではなかった。

 調停神はヘビーユーザー島に戻った際に、狩りに来るように伝えてあるが来ようとしない。

 アレンは、駄馬に与える飯はないと牧草を半分に減らした。

 たまに心が折れたか確認するため牧場に行くが、調停神から畜生を見るような目で見られている。


「聖鳥クワトロ様は、何故このような場所に?」


 なんでここにいるのかも聞いてみる。


『私ですか。私は、魔王の邪気から身を守るためにここにいるのです』


 何でも魔王の力は年々強まってきているらしい。

 神の加護によって守られている聖獣もいるが、聖鳥クワトロは違うのだという。

 聖鳥クワトロは聖獣ルバンカと違って、獣神ガルム様から加護は頂けなかった。

 その聖獣ルバンカは獣神ガルム様の力で、神界にある原獣の園に連れて行ってもらった。

 今では、聖域となっているこの試しの門に身を置いているらしい。


(なるほど、魔王という名の嵐が去るのをこんなところで待っているのか。っていうか、ルバンカも、神界に行かないと捕まえられないと)


 聖獣ルバンカの居場所を聞いて、神界に行く目的がまた1つ増えたなと思う。


「そうでしたか、それで、先ほどの話に戻るのですがこの石の中に入ってください」


 会話のキャッチボールで聖鳥クワトロが何故この場にいるか聞いてみたが、アレンの行動は変わらない。

 水色のドッチボール大の聖獣石を聖鳥クワトロに突き出した。


『申し訳ございません。私は、争いを好まないのです』


「しかし、戦わないとクワトロ様を慕う鳥人たちは救われませんが?」


『……』


(黙ってしまったな)


 アレンと聖鳥クワトロの間で沈黙が生まれた。


 アレンは聖獣石を使い、Sランクの召喚獣の封印を解いていく。

 そんな目的が自らにあることをプロスティア帝国で知ったのだが、聖獣がどこにもいなかった。


 特に有名な3獣と呼ばれる、聖魚マクリスを除く、聖獣ルバンカと聖鳥クワトロの情報がまったくない。

 5大陸同盟会議で鳥人国家レームシール王国の国王が来ていたので、聖鳥の居場所を聞いたが不明瞭な回答が返ってきた理由を知る。

 レームシール王国も、今どこにいるのか把握していなかった。


 当の聖鳥クワトロが、聖域である門の中に隠れていた。

 どうやら、聖獣ルバンカも魔王の力を避けるために獣神ガルムに神界に連れて行ってもらっているようだ。


「アレン様、そのようなことを申されても……」


 いつもアレン側の意見を押すソフィーだが、今回ばかりは聖鳥クワトロの肩を持つ。

 だからと言って、どうしようもないものがあるだろうと言いたいようだ。


「確かに。しかし、だったら私の提案を受けないのもどうでしょう。聖鳥クワトロ様、私の召喚獣は魔王の影響を一切受けておりません」


 1歳の時から15年間、魔王の影響を受けて召喚獣が暴走したことは一度もない。


『あなたの望みは分かりました。では、こうしましょう。器を見せてください』


「器ですか?」


(力じゃなくて器か。これは困ったな。扉に続いて器ね。この世界の信仰や価値観かな)


 力を見せる方がとても分かりやすい。

 だが、聖鳥クワトロが求めているのは『器』であった。

 器は神器などに使われているが、この世界では『扉』であったり、『器』に特別な意味があるのだろう。


 エクストラスキルの開放を『扉を開ける』と聞いたのはローゼンヘイム侵攻の時だ。

 上位魔族のグラスターがその言葉を使い、その後もドゴラが扉の先にある火の神フレイヤの神殿に入った話をしていた。


『そうです。私は鳥人の安寧のために力を貸すことを否定するつもりはありません。しかし、力を貸すに足る器を示してください』


 思考が進む中、聖鳥クワトロの話が進む。

 アレンの力の有無ではないよう『何か行動』で示せということだろう。


「分かりました。では、えっと、どうしましょう」


『心配には及びません。私の4つの目があります。どこにいても、あなたのことは見ておりますので』


 ピカッ


 聖鳥クワトロの目が光り、眼にアレンを映した。


(聖鳥のスキルかなんかか。監視されてしまったのか。まあ、いいか)


 聖鳥クワトロは仲間にならなかったが、フワッとした召喚獣にするためのクエストのようなものを受けた。

 クエストは受けることに価値があるので、聖獣石に入ってもらうための第一歩だと考える。

 アレンたちは聖鳥クワトロのいる場所を後にする。


 それから、床にある魔法陣を踏んで別の場所に移動を開始した。


「おい、アレン。どうやって聖鳥様を仲間にするんだ?」


 聖鳥クワトロとは別の空間に転移したところで、キールがどうするのか聞いてくる。


「そうだな。今後、鳥人が困っていたら積極的に助けることにしよう」


「お、おい。お前、聖鳥様に見られているんじゃないのかよ」


 アレンはこれからレームシール王国が困ったときは、積極的に救済に乗り出す。

 恩を着せるし、どれだけ助かったのか感謝の気持ちを国王相手に書面に書かせるとアレンは言う。


「見てようと見てなかろうと変わらない結果を考えないとな」


 行動で示せと言うので、変わりようのない事実を突きつけることにする。

 アレンたちは会話をしながらも、ダンジョン攻略を再開し、転移を繰り返していく。


「そういうものなのか、って、宝だ」


 転移先の空間にポツンと宝箱がある。

 中を開けると帯のようなベルトのようなものが入っていた。


「これって何かしら? 赤い腰帯のようだけど」


 セシルは真っ赤なベルト状のものを手に取って首をかしげる。


「待ってろ」


 この試しの門の中では分からないものが手に入る。

 アレンはセシルから受け取って、魔導書に入れてみる。


『ファイアバンドを収納しました』


「どうやら腰帯装備で間違いないようだな」


「おお! 新たな装備だ!!」


 クレナも新装備にワクワクしている。

 今まで装備がなかった腰に巻くタイプの装備のようだ。


「誰に装備させるのよ」


 初めて手に入った装備を誰に装備させるのかセシルが問う。


「いや、装備するのは、やめておこう」


 アレンはせっかくの装備を収納に仕舞ったままにする。


「おいおい。なんだよ」


 せっかくの装備だろとキールは言う。


「まあ、ペロムスの鑑定結果を見てからにするが、これが耐久属性を火に変えるだけなら止めておいたほうがいい」


 鑑定結果によっては特別な効果があるかもしれない。


「そうなのか?」


 キールは理解できなかった。

 セシルも何なのよと首をかしげている。


「ああ、そうだ。もし、これで水属性の攻撃を受けてみろ。即死するかもしれないぞ」


 疑問符を浮かべるキールにアレンは簡単に説明することにする。

 この世界には攻撃属性や耐久属性というものがある。

 属性の相性によって大ダメージを出すことができる。

 属性の相性によっては、ダメージを最小に抑えることも可能だろう。


 火属性と思われるファイアバンドは耐久属性を火属性に変えるなら、火の相性の良い属性のダメージを軽減してくれる。

 そこまで言ったところでソフィーが理解したようだ。


「アレン様、弱点となる攻撃を受けたら危険になる。基本属性は弱点となる属性が多いため、態々弱点を増やす必要がないってことですわね」


「そういうことだ。この階層には腰帯が出るみたいだからな。探してみるが、基本属性が出ても装備を避けた方がいいな」


 態々弱点を増やすため、火水風土の基本属性の腰帯は装備しないと言う。

 アレンの言葉に仲間たちは納得したようだ。


「アレンってよく分からないものに詳しいわね」


 話を聞いてみたら納得するが、初めて手に入った装備を装備しないという選択肢があることにセシルは不思議に思った。


「前の世界では、属性を制する者が効率を制すという言葉もあったからな。高位属性の腰帯を探すぞ」


 聖鳥クワトロから受けたクエストと、腰帯探しが加わったアレンたちの階層の攻略が進んでいくのであった。

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発売日:2025年4月11日
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 召喚獣を先行させているから、クワトロが突然現れなければアレン視点では先に見つけているはずではないかな? あとラス1と言っときながらやっぱ先進んでる笑
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[一言] >は!? 俺は何をしていたんだ…… 強欲で謙虚なアレン様が正気に戻った(チッ >調停神から畜生を見るような目で見られている 食べ物の恨みは大きいw >属性を制する者 レベルを上げて物理で…
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