第477話 牙の門②
アレンは牙の門3階層を攻略中だ。
この階層ではかつてないほど、アレンたちは警戒を強いられている。
3階層も攻略が進んで7日が過ぎた。
「左から槍が来るぞ!!」
「分かったわ!!」
アレンたちの周りを囲むように飛ぶ鳥Eの召喚獣が1本10メートルを超える巨大な槍が100本以上アレンたちに向かっていることを察知する。
牙の門3階層は刃が襲ってくる階層であった。
罠とか、何かのスイッチを踏んだとか関係なく槍やら剣やらの物理攻撃が押し寄せてくる。
『グルオオオオオ!!』
ハクが炎を吐き、刃を燃やし尽くす。
ソフィーが精霊を使い、アレンたちの周りに障壁を作り、タムタムが体全体で盾となりアレンたちを守る。
何度も攻撃を受けてしまったお陰でハクは「物理耐性」を獲得した。
あらゆる素材の刃が飛んでくるので、素材の硬度によっては大きなダメージを受けかねない。
物理耐性のあるアレンや、耐久力の高いクレナと違って、後衛職にはとても危険な階層だ。
ほぼ全ての槍を薙ぎ払ったが、1本の槍がルークに迫る。
「ルーク、避けろ!!」
「え? うわ!!」
間に合いそうにないので、アレンが石Cの召喚獣の特技「みがわり」を使おうとしたその時だった。
ルークよりもアレンよりも先に反応を示す者がいた。
ルークの肩に乗っていた大精霊ムートンが大きく膨らみ始め、かばうようにルークを包み込む。
ジュウッ
槍が向かってきた先から、強酸に変わった大精霊の体で溶解させていく。
巨大な槍は形を維持できず蒸発し、煙となって消えていった。
『ボケっとするなよ!』
「ありがとう、ムートン」
ルークと契約を交わした大精霊ムートンは、ルークの意思とは関係なくルークを守る。
全身に目のような器官があるのか知らないが、ルークの身に迫る全ての者に対して大精霊は攻防一体の動きをする。
仲間たちの中で転職が進んでおらず、特に耐久力の低かったルークは、圧倒的な守りの力を得た。
(さすが、大精霊だな。ミスリルの槍が蒸発したんだな。力でいうと魔神級だな)
アレンは大精霊がどの程度の強さなのか把握している。
【精霊の強さについて】
・原精霊:DランクからCランク
・幼精霊:CランクからBランク(ソフィーの契約する精霊)
・精霊:AランクからSランク(ソフィーの契約する精霊)
・大精霊:Sランクから魔神級
・精霊王:亜神
・精霊神:神
精霊の強さや属性と敵との相性によっても多少前後するが、概ねこのような形だ。
なお、契約は交わしたものの大精霊であるムートンをルークは自らの意思で操作することはできない。
操作できるのは唯一エクストラスキル「毒沼津波」を発動したときだけだ。
大精霊を自らの意思でコントロールするには星4つのソフィーでも無理だ。
恐らく星5つ必要だと思われるので、ルークだと星3つ分足りない。
なお、ソフィーは星4つの大精霊使いになったのだが、精霊使いのころ契約をしたサラマンダーやケルピーなどの幼精霊たちも顕現できる。
転職したから幼精霊と契約が切れるということはない。
アレンたちは、防いだり弾いて下に落ちた槍を拾い始めた。
原型を留めたヒヒイロカネ、アダマンタイトの槍が結構落ちている。
「ソフィーも大精霊を捕まえないといけないな」
アレンはボール型のカプセルを投げつけ、モンスターを捕まえるようなノリで言う。
ソフィーはあと1回転職すれば、将来的には大精霊を顕現できる。
ルークのおかげで大精霊と契約を結べばエクストラスキルが手に入ることも分かった。
「そ、そうですわね。ちょっと捕まえるは違うと思いますが」
精霊王や精霊神と大精霊の違いについて考えていることをソフィーに伝える。
神の領域にないため制約がないのか、大精霊はかなり積極的に戦闘に参加する。
これは神の領域に足を踏み入れた精霊王や精霊神との違いのようだ。
「おお、オリハルコンだ!!」
「それは当たりだな」
クレナがガシッと槍を握りしめ、天に掲げる。
この階層は稀にだがオリハルコンの武器も手に入る。
各自、栗拾いのノリで全員に持たせた収納の魔導具に納めていく。
オリハルコンは珍しいが、この階層はメガデスが言うように、いい武器が手に入る。
アレンのパーティーだけでなく、アレン軍、勇者軍にも配って軍の強化に繋げたい。
軍方面だが、とうとうバウキス帝国も、数千人規模程度の精鋭部隊を持つ決断をした。
その名もガララ軍で、ゴーレム使い、魔導具使いで構成された軍で、数千人規模になるらしい。
アレン軍、勇者軍のS級ダンジョンでの活躍により、ミスリル級ゴーレムが予定以上に増えたこと。
勇者軍の活躍をギアムート帝国が声高に唱えたことが要因らしい。
少し前にガララ提督に「余計な仕事が増えたぜ」と報告を受けた。
今後はアレン軍、勇者軍、ガララ軍の共闘路線だろう。
『回収は終わったか? さっさと先に進むぞ!!』
アレンが武器の配布を考えていると大精霊が大きな声を上げた。
大精霊のモチベーションはこの先にある何かのようだ。
3000年、牙の門2階層で何を思っていたのか、アレンたちを急かすので前に進むことにする。
刃を身に纏った恐竜のような魔獣たちも倒し進んでいく。
魔獣のランクはほぼAランクで1体当たり数百万の経験値が得られる。
お陰で転職したばかりのクレナとハクもモリモリレベルが上がっていく。
「あれ、ちょっと、怪しいんじゃない?」
「ん? そうだな。行ってみよう」
アレンたちは巨大な刃の山に向かった。
大小入り混じった剣山のような山がたくさんある。
牙の門は巨大な沼地の底に次の階層へ行く階段があった。
アレンたちの中でルークが一歩前に出る。
「ムートン、行けるか?」
『もちろんだ』
肩に乗った大精霊にルークは確認すると、全身が陽炎のように揺らぎ始めた。
(ふむ、ドゴラと違って普通にエクストラスキルが発動するな)
「いくぞ! 毒沼津波!!」
ルークは全魔力を込めて、エクストラスキル「毒沼津波」を行使する。
ルークの前に巨大な紫、緑、青、紺などの色をした粘度を持った津波が現れ剣山を飲み込んでいく。
一瞬剣山が反応を示すが、強い酸性の効果があり、みるみるうちに剣山の剣が溶解していく。
この剣山は一定以上近づいたり、攻撃すると剣などの武器が大量に発射される仕組みとなっている。
反応させる前に剣を溶かし、発射されても勢いを殺す作戦だ。
ルークの魔力でミスリルまでは溶解できるので、毒沼からヒヒイロカネ、アダマンタイト、オリハルコンの武器が飛び出てくる。
「ミラーたち、はじき返せ」
『……』
召喚された石Bの召喚獣たちは無言でアレンたちを守る。
前方からやってくることが分かれば、こうやって守った方がいい。
石Bの召喚獣が剣や槍や斧をはじき、しばらくすると剣山は随分小さくなった。
「ちょっと、洞穴があるわよ! 何か次の階層に行けるんじゃない!!」
剣が無くなって一回り以上小さくなった剣山に洞穴のようなものをセシルが発見する。
「よし、拾う物を拾ったら洞窟に入るぞ」
せっせと拾って、アレンたちは洞穴の中に入って行く。
洞穴は結構奥の方まで続いていた。
奥には空間があり、アレンたちが探していた巨大な物が鎮座していた。
「おお! 扉だ! 門番だ!!」
ルークがとうとう門番との戦いが始まるぞと感動する。
パタパタ
虹色に輝く虫の羽が背中にある妖精竜の姿をしたメガデスがやってきた。
『やあ、こんなに無傷で攻略されたことはないよ。もしかして、ダンジョンが易しすぎるのかな』
「いえいえ、大変貴重な体験をさせて頂いております」
驚くメガデスに対して、アレンは社交辞令を全力で出す。
精霊王ファーブルの件もあるので、仲間たちも含めて警戒を怠らない。
『あれれ、何か嫌われちゃったな。まあ、挑戦者に嫌われるのは毎回の事なんだけどさ。それで、門番に挑戦するの?』
「そうですね。どれくらいの強さですか?」
『え? そうだな。まあ、牙の門の倍以上だと思っていいよ~』
(倍以上ってことは2、3倍か。S級から魔神級くらいかな)
単刀直入に聞いたが、教えてくれた。
前回の門番戦でも教えてくれたから、もしやと思ったが教えてくれた。
このためにメガデスと会話していると言っても過言ではない。
「そうですか。ちょっと厳しそうなので、準備してから向かいます」
アレンは予定通り、メガデスに試しの門から出してもらいS級ダンジョンへ向かった。
大きな街がすっぽり入った巨大な塔の中にアレンたちは一瞬で転移する。
1階層の部分の上空に移動したのだが、下の方で何やら騒がしい。
それも、昨日も来ているので、昨日ほどではない。
(さて、さくさくとレベルを上げるぞ)
アレンは大精霊ムートンから英雄アステルが竜王マティルドーラと共にS級ダンジョンを攻略したという話を聞いた。
これは竜王がダンジョンを攻略し、S級ダンジョンに通っていたことを意味する。
ダンジョンマスターのディグラグニにハクをS級ダンジョンに入れるか尋ねたところ、正規のルートから入ってくるなら問題ないと言われた。
正規のルートとはC級ダンジョンから始めて、A級ダンジョンを5つ攻略することだ。
アレンたちは試しの門攻略と同時にハクのダンジョン攻略を進めてきた。
既にアレン軍の活動のためにA級ダンジョンの攻略地図は完成してある。
鳥Aの召喚獣の「巣」を設置すれば容易くダンジョンは攻略できる。
ハクがS級ダンジョンの入り口となる神殿の前に、アレンたちと共に並ぶ。
冒険者たちが驚きながら見つめる中、順番がやってきた。
アレンたちは冒険者証を見せる。
『ガウ』
ハクも昨日貰い、右手中指に括り付けた『A』と表示された冒険者証を見せる。
冒険者証はこのS級ダンジョンの冒険者ギルドで作ってもらった。
「……お話の通り、2階へ直接お入りください」
「ありがとうございます」
1階の入り口が人間サイズしかないので、2階にハクが入れるよう、改築もしてもらった。
アレンはSランク冒険者の権限を使うことを惜しまない。
このS級ダンジョンにある冒険者ギルドの支部長に指導する権限がアレンにはある。
大精霊から話を聞いてこれは真っ先に指示を出した。
2階に大きく開閉した窓からアレンたちは入り、そのまま階層を移動していき、キューブ状の物体に話しかけて最下層に向かう。
ガンガンガン
遠くでドゴラとシアが仲良く一緒に石Dの召喚獣を殴り続けている。
「アレン様!」
アレン軍の将軍たちがやってくる。
「やあ。とりあえず新たな武器が手に入った。まだヒヒイロカネの武器を使っている者はアダマンタイトに変えてくれ」
アダマンタイトの武器を床に置いていく。
7000人を超えたアレン軍の全員がヒヒイロカネ以上の武器を装備しているのだが、アダマンタイトとなるとまだまだ足りない。
なお、将軍、隊長格から優先してヘビーユーザー島にいる鍛冶職人たちが鍛造やら造込をして武器の効果を追加させている。
各自に持たせた魔導具袋の中の武器を置くと武器は山のようになる。
「じゃあ、ルド将軍。これを勇者軍にも配っておいて下さい」
「は!!」
ヒヒイロカネの武器は共に戦う勇者軍に配るよう将軍たちに指示をする。
勇者軍はギアムート帝国が集めた精鋭のようだが、装備はミスリル製がほとんどだった。
「じゃあ、これからアイアンゴーレムだね。ハク、戦い方があるからね」
『ワカッタ!!』
武器の配布も指示したところで、お姉ちゃん風を吹かせたクレナがハクを先導する。
アイアンゴーレムを狩って、レベルを上げる作戦だ。
こうして、牙の門の門番と戦う算段をつけるクレナとハクであった。





