第407話 成長
昼食を終えたセシルやシアがぞろぞろと部屋に入ってくる。
とりあえず、今の状況を簡単にアレンはセシルやシアと共有する。
何でも天使Sの召喚獣を召喚しようと思ったら膨大な数の聖珠が必要になりそうだった。
「ちょっと、そんなに聖珠が手に入るわけないじゃない。多分、地上の王家にある聖珠の数より多いわよ!」
その言葉にセシルが絶句する。
天使Sの召喚獣を召喚するために、地上の王家が持っている全ての聖珠を回収しないといけないかもしれない。
(たしかに。まあ、そもそも封印されているので、天使Sは召喚できないんだけどな)
天使Sの召喚獣を召喚するためには、竜Sと霊Sの召喚獣の封印を解かなくてはならない。
なんかやることが多過ぎて、ワクワクが止まらない。
『私をカードに戻さないでほしい』
一旦カードに戻されたメルスは不平不満を言って、もう一度ソファーで横になる。
召喚獣になって疲れないはずなのだが、雰囲気で楽な姿勢を取りたいようだ。
「「……」」
涅槃像のような姿になったメルスを見て、セシルとシアが色々と悟っていた。
「聖珠が必要になったな。聖獣ってそもそもなんだ?」
アレンの今後の目標がログに流れたような気がする。
そもそも聖獣とは何かメルスに訪ねてみる。
『聖獣とは、獣や人が何らかの形で力を得た存在だ』
「随分ざっくりしているな」
『方法は1つじゃないということだ。主な方法は神の眷属となることだがな』
「神獣とは何か違うのか?」
同じ獣の括りで神獣とかもいた。
『神獣か。それで言うなら聖獣とは神獣へ至る過程とも言えるな』
(獣から聖獣に。聖獣は神獣へと至ると)
「ん? 獣神ガルムもか?」
「そうだな。ガルム様はただの獣であったと聞いておる」
ガルムの話になったので、シアも話に参加した。
ルークが子供ながらにガルムが獣かよと言っても、シアは怒ったりしないようだ。
何でも遥か昔に獣人の飼っていた獣が力をつけ獣神となったと言われている。
これは獣神ガルム本人の話だという。
ガルムはいきなり神になったわけではなく聖獣、霊獣を経て獣神ガルムになったようだ。
(さすが、獣神と意思の疎通ができる獣王家だな。そうか獣も拝められると神になるのか。それでいうと調停神も獣出身っぽいな)
獣王家と獣神は密接なつながりがあることは何度も聞いた話だ。
そんな話の中に、獣王家の先祖に獣神の血が混じっているとか。
前世で王神一体の信仰があったが、この世界は本当に神と王との間に子供を産むという。
そして生まれた一族がアルバハル家だという。
だから獣神ガルムは自らの子孫をたまに介入しつつ見守っている状態にあるらしい。
そして、同じく獣っぽい風体の調停神ファルネメスももしかしたら獣出身かもしれない。
最後に見た調停神は、馬小屋で寝ながら牧草を食っていた。
「聖珠とは別に神珠というのもあるのか」
『それは神の領域を犯すということに他ならないからな』
神珠はあるようだ。
先ほど神珠を手に入れようとするアレンは、怖いものなしの性格であることを知ってのことのようだ。
聖珠の手に入れ方は涙を流させるだけでなく、魔石のように聖獣を倒しても手に入るようだ。
涙や体液のように何度も聖珠は生成できるが、倒してしまったら聖獣は死んでしまい、それ以降手に入らなくなる。
これはクレビュール王家で聖珠を手に入れてから、メルスから方法を聞いた。
アレンは横になっているメルスの話を魔導書に整理する。
(なるほどな。強さランキングがまた追加されたな)
強さを求めてきたアレンは、最近強さランキングを作成し始めた。
この世界に存在する強者たちを知るためだ。
強さランキング表
・創造神、暗黒神
・上位神(獣神、豊穣神)
・神(4大神など)、精霊神、神獣
・亜神
・聖獣、上位魔神、王化メルスもこの辺
・魔神
戦いの向き不向きなど同じランクの中でも力の差があるだろうが、こんな感じだとメルスの話を聞いて整理する。
今の魔王はどれだけの力があるのか分からないとメルスから聞いた。
なお、通常の魔王は聖獣よりも弱いらしい。
そして、上位魔神と聖獣は同じくらいらしい。
こうやってランキング表を見ると、自分がまだまだ弱いんだなと思う。
(さて、霊珠も分かったし、そろそろ分析するか)
封印されているスキルや召喚獣もあるが、分析できるスキルがある。
アレンは完全な分析モードに変わる。
それを見て、メルスはようやく解放されたと目をつぶる。
まずは、毎度おなじみ魔導書の拡張レベル8になっていることだ。
これはやはり召喚獣を収納できる枚数が増えたことを意味していた。
80枚から90枚に順調に増えてくれた。
これだけでAランクの召喚獣を10体多く出せるようになったことになる。
今はアレン軍が各大陸に召喚獣を送ったりするので1つでもホルダーの数は増えた方が良い。
(あとは封印されたスキルの解除方法を確認するか)
『封印されたスキルは封印されているため使えません。Sランク召喚獣の解除とレベルアップが必要です』
(うは!? ヒントくれたど!!)
レベルいくつまで上げたら2つのスキルの封印が解けるのか分からない。
また全ての召喚獣の封印を解除したらいいのかも分からない。
だが、展望のようなヒントを魔導書は表示してくれた。
(あとは、今封印されていなくて使えそうなのは成長スキルか。成長ね。久々にスキル経験値が貯まるスキルを新たに使えるな)
覚醒スキルぶりにスキル経験値が貯まるスキルが手に入った。
(召喚獣を成長するようにできるのか。とりあえず、デンカに使ってと。おっと魔力回復リングは外さないと必要魔力が分からないぞ)
名前から召喚獣を成長できるようにしてくれたと思われる。
いつも新しい召喚獣の実験に使う虫Hの召喚獣を召喚する。
そして、魔力回復リングを外して成長のスキルを使用する。
虫Hの召喚獣は何も変化がなかった。
(何も変わらない。ん?)
変化しないのでログを確認する。
『成長スキルを使用した。虫Hの召喚獣は成長Hになった』
(ほう、ログは出ているな。成長Hって何ぞ? 魔力消費は2か。それだけか? おお!!)
さらに変化を確認すべく魔導書のページをめくると、新たなページが追加されていた。
【種 類】 虫
【ランク】 H
【成 長】 H
【名 前】 デンカ
【体 力】 3
【魔 力】 0
【攻撃力】 2
【耐久力】 5
【素早さ】 5
【知 力】 1
【幸 運】 2
【加 護】 耐久力1+1、素早さ1+1
【特 技】 飛び跳ねる
【覚 醒】 群れを成す
(ステータスが加護も2プラス2で2倍になっているぞ。加護が増えるっていう意味の成長か?)
加護は虫Hの召喚獣の2倍だ。
単純に加護が増えるスキルなのかと、さらに成長させようとする。
しかし、今回も同じく、魔導書の中に新たなページはできない。
そこで魔導書を見るとログが新たに流れていた。
『虫Hの召喚獣を成長Gにするには成長スキルのレベルが足りません』
どうやら、成長スキルのスキルレベルによって成長できる限界があるようだ。
ならばと、虫Gの召喚獣に成長スキルを使ってみる。
『虫Gの召喚獣を成長Gにするには成長スキルのレベルが足りません』
これでスキルレベルによって、成長できるランクが固定されていることが分かる。
1なら成長ランクをHにしかできない。
だから、Gランクの召喚獣を成長ランクGにすることはできないようだ。
虫Hの召喚獣をもう一体召喚してみた。
これは普通にできるようだ。
2体目の虫Hの召喚獣が成長ランクHに成長した。
どうやら制限はないようだ。
ならばと削除と生成、成長を繰り返し、成長スキルをスキルレベル2にしようとする。
すると、虫Hの召喚獣を成長Gにすることができた。
【種 類】 虫
【ランク】 H
【成 長】 G
【名 前】 デンカ
【体 力】 7
【魔 力】 0
【攻撃力】 8
【耐久力】 10
【素早さ】 10
【知 力】 6
【幸 運】 7
【加 護】 耐久力2+2、素早さ2+2
【特 技】 飛び跳ねる
【覚 醒】 群れを成す
(魔力消費は5か。今度は召喚獣のステータスが増えたぞ)
アレンは成長スキルの能力が分かってきた。
あれこれ1時間ほど試して、成長スキルも4に上げ、予想に誤りがないか検証を進めていく。
成長スキルのまとめ
・成長Gに必要なスキルレベルは2、必要スキル経験値は1000
・成長Eに必要なスキルレベルは4、必要スキル経験値は10万
・成長Sに必要なスキルレベルは9と予想、必要スキル経験値は100億
・同ランクの召喚獣を召喚するのに必要な魔力を消費する
・同ランクの召喚獣を生成するのに必要な魔石を消費する
・成長できる召喚獣の制限は枠に達するまでできる
・スキルレベルで成長できるランクが決まっている
・成長した召喚獣は、同ランクの召喚獣の2倍の加護がある
・成長すると、同ランクの召喚獣相当のステータスになる
・成長した際のステータスはランク相当内でランダム
(こ、これはすごいぞ。今まで活躍できなかった全ての召喚獣に期待が持てるぞ!!)
アレンは成長スキルの凄さが分かってきた。
これまで召喚レベルが上がると召喚しなくなった召喚獣は多い。
それはランクが高い召喚獣の方が、ステータスも加護も多いからだ。
だから、特技が有用でも加護やステータスを優先して召喚しなくなった召喚獣も多い。
この成長スキルのスキルレベルを上げていけば、Bランク以下の召喚獣をAランク同等にまで強くさせることができる。
これは圧倒的に戦術の幅が広がる。
そして、成長した召喚獣の加護は倍になるので、アレンのステータスもかなり上がりそうだ。
(これはカベオを成長させたら、自爆の威力が上がりそうだな。ん、メルスはもっと強くなるのか)
耐久力依存で覚醒スキル「自爆」の威力が上がる石Eの召喚獣がいる。
成長スキルが上がった時の戦略が広がる中、アレンはメルスを見つめる。
『何だ。何もしないぞ!』
アレンがメルスを見て何か気付いた。
そんなメルスは休日出勤をお願いされた部下のようにアレンを睨む。
「メルスを成長させたら、加護も倍になって、ステータスもSランクまで上げることができるのか」
涅槃像の姿をしたメルスに対して、さらなる可能性を感じる。
これに加えて、まだ封印されたスキルが2つにSランクの召喚獣もある。
既に使える成長スキルがとんでもない可能性を秘めていた。
全ての封印が解けた時のことが頭を巡り、胸の高鳴りを覚えたアレンであった。





