第379話 商人ペロムスの告白①
5大陸同盟の会議が無事に終わった。
5大陸同盟の盟主や各国の代表がどう思ったか知らないが、アレンの中では問題なく終わったと思っている。
会議で話をした国内で害をなすAランク以上の魔獣退治のため、全世界との通信の魔導具の整備をしていきたい。
バウキス帝国が用意してくれているという魔導具使いにその辺りのことをやってもらおうと思う。
5大陸同盟の会議から5日が過ぎた日のことだ。
アレン、セシル、ペロムスの3人はグランヴェルの街を治める代官の館にいる。
代官の館といっても学園に行く前にはアレンが従僕として住んでいたグランヴェル家の館だ。
「それでは、グランヴェル子爵にもよろしくお伝えくださいね。セシル様」
アレンが従僕だった頃にはいなかった40過ぎの男がセシルに丁寧に挨拶をする。
この男が、現在グランヴェル子爵領を治める代官で、なんでもグランヴェル子爵夫人の親戚らしい。
遠縁の親戚が、本家の娘に挨拶をする構図のようだ。
昨日の晩に館に宿泊した際、一緒に夕食を食べたときそんな話を聞かされた。
「はい。では行ってきますね」
「リッケル、セシル様をよろしくお願いしますよ」
「はい。もちろんです」
代官がリッケルに念を押す。
良いことも悪いことも教えてくれて、アレンの面倒を見てくれたリッケルに久々に会えたことは良かったと思う。
そんなリッケルは、従僕長から御者になっていた。
リッケルが玄関に馬車を用意してくるようだ。
「ちょっと。ペロムス。何ていう顔をしているの!」
外に出るなりセシルがペロムスの強張った表情に呆れて思わず大きな声が出てしまう。
「いや、だって、一度断られているし」
「だから、私たちが付いているんじゃない。私に任せなさい。フィオナのことは私がよく知っているんだから」
「って、痛い!? 分かったよ」
セシルが胸を張り、私がなんとかすると言いながら、ペロムスの背中をバンバン叩く。
今日はこれからペロムスがこの高級宿の支配人チェスターの娘フィオナに告白する日だ。
以前に告白をしたことがあり、ふられているのだが、2度目のトライだという。
転職も済んで、ダンジョンに行ってレベルも上がった。
シアが獣王を前にして自らの意志を通すため行った激しい戦いを見て、自分もと奮い立ったようだ。
セシルも背中を押すが、セシルとフィオナの関係を知っているアレンとしては、一緒に同席をすることにした。
リッケルに馬車を出してもらって目的地に移動する。
「アレン、この服で大丈夫かな?」
「いいんじゃないのか」
(いや、知らんし。というかもうすぐ到着するんだが?)
王都で仕立てて貰った有名な服らしい。
正直に言うと、普段着ているものとの違いがよく分からない。
アレンが魔力の種を使いながら適当に答える。
まもなく目的地に着いてしまう中、ペロムスは自らの服装を気にしているようだ。
服装になど興味のないアレンは最強の装備が着ぐるみなら躊躇わず着ることができる。
襟元を気にするペロムスを見ながら、今更服装なんて変えられないだろうと思う。
「ペロムス似合っているわよ。なんか、小金持ちになった商人の息子っぽいわ」
セシルがペロムスを元気づけるため、見たまんまの感想を言う。
「そ、それ。何か褒められていないような……」
セシルがペロムスを見て思ったとおりの感想を言う。
見た目からして成金のお坊ちゃまだ。
「それでは、セシル様到着しましたよ」
グランヴェルの街、中央広場にある高級宿に到着したとリッケルは言う。
「ええ、リッケルありがとう。真面目に働くようになったようね」
「そんなぁ、セシルさま。このリッケル。いつも真面目に働いてますよ!」
「あら、そうだったわね」
リッケルの返答に対して今度はセシルが適当に答える。
リッケルの怠け癖は筋金入りで、治癒が不可能であることはグランヴェル家でも周知の事実だ。
リッケルには、帰りは自分らで帰るので館に戻ってよいと伝えて高級宿に入る。
すると、高級感あふれる紳士服を着た者が待っていましたとやって来る。
既にこの高級宿の支配人であるチェスターには約束を取り付けてある。
最上階にあるチェスターの部屋に案内される。
「よく来てくださいました。セシルお嬢様」
「ええ。チェスターもお元気そうで」
部屋に入るなり、大げさな身振りでセシルがチェスターから歓迎される。
チェスターとはほとんど面識がないので、今日のアレンはほとんどお飾りのような存在だ。
「あら、アレン様! ……と、セシルもいるのね」
「あら、お久しぶりね。フィオナ。私もいるわよ」
チェスターの横にはフィオナもいる。
ブロンド色の長い髪をソバージュにした気立ての良さそうな女性だ。
アレンやセシル、ペロムスとは同い年でもある。
チェスターはこのグランヴェルの街の有力者でフィオナはその娘だ。
アレンとこの2人の関係と言えば、グランヴェルの街に襲来したマーダーガルシュからフィオナを救ったことがある。
その結果礼金として金貨を貰ったのだが、そのお金でミスリルの剣を買うことができた。
その結果、Cランクの魔獣、外殻の硬い鎧アリの魔石を回収することができた。
それからもう5年という月日が流れており、あっという間に時間が過ぎたと思う。
フィオナとペロムスが出会ったのもそれくらいだという。
折角来たのでお茶しながらでもというので、アレン、セシル、ペロムスとチェスター、フィオナが向かい合うように座る。
「それで、ペロムス殿、商売の方はうまくいっているのですか?」
「あ、あの。チェスターさん。前も言いましたが、敬語は不要です」
「何をいいますか。我が高級宿の系列は全てペロムス殿の傘下ですから。商人たるもの歳ではなく、成果で人と接するべきですよ」
チェスターがセシルに対するのと同様に丁寧な口調でペロムスに話しかける。
しかし、愛するフィオナの父親であるチェスターには、威厳のある形で接してほしいと言う。
しかし、チェスターはそれではいけないとペロムスに言う。
成人したがまだまだ若いペロムスは、これから多くの部下や配下を持つことになる。
自らの立場を優先して接してほしいということだろう。
高級宿を一代で築き上げたチェスターは、グランヴェルの街の発展に貢献してきた。
先人であるチェスターの態度はそのままペロムスに対する、これからの商人としての生き方を示しているようだ。
なお、チェスターの抱える高級宿は王都などラターシュ王国内に複数あるが、ペロムスがチェスターに出された「商人の価値を示す」という課題に合格するため、宿屋の買収を続けた。
その結果、グランヴェルの街にあるこの高級宿を除いて全ての宿屋の買収に成功した。
その後、買収した宿もグランヴェルの街にある高級宿も全てペロムス廃課金商会の傘下に加えている。
チェスターには傘下として、ラターシュ王国内にある高級宿の経営を任せている。
「アレン様は、ペロムスさんとはどのような関係を?」
アレンはフィオナからペロムスとの関係を聞かれる。
「クレナ村の生まれで、同い年だったこともあり、騎士ごっこをした仲ですよ」
ガキ大将をしていたドゴラが、クレナの家に騎士ごっこに行く際、ペロムスを連れて来ていた。
ペロムスとは6歳とかそれくらいの頃からの仲だ。
「ああ、なるほどですわ。今は何をされていらっしゃるのですの?」
「ああ、今はセシルやペロムスと活動を同じにしておりまして……」
使用人からお茶が運ばれてくる中、フィオナがアレンに話しかけてくる。
アレンとペロムスの接点は知らないようだ。
フィオナは街でも最有力とも言える富豪の娘ということもあり、アレンが従僕をしているころ、グランヴェルの館にやって来ていた。
特にアレンがマーダーガルシュから救ったころからかなり頻繁に館にやって来ていた。
従僕として接客の対応をしていたアレンに対してもあれこれ聞いてきたが、ペロムスの接点まで知らなかったようだ。
(俺じゃなくてペロムスに話しかけてほしいのだが)
そんなフィオナから矢継ぎ早に久々に会ったアレンに対して、質問が飛んでくる。
アレン軍がどうのこうのという血なまぐさい話はこの場にはふさわしくない。
その辺りを濁しつつ、ペロムス廃課金商会の事業を手伝ったりしているといった話をする。
「ちょっと、フィオナ。今日はアレンの話をしに来たんじゃないわよ?」
あれこれ聞いてくるフィオナに対して、アレンの話はそこまでだとセシルは言う。
その様子を見てチェスターが若干引いている。
そして、アレンには興味があるのかとペロムスが若干涙ぐんでいる。
「あら、まだ私とアレン様との話を邪魔するのですの?」
セシルとフィオナの間に火花が飛び散る。
セシルとフィオナはアレンが従僕時代からすごく仲が悪い。
貧乏貴族の娘と大富豪の娘という立場からマウントの取り合いをずっとアレンは見てきた。
ペロムスがもう一度交際をお願いするとアレンに話を持ち掛けた所、セシルが「じゃあ、私も一緒にお願いしてあげるわ」と言った。
今回、アレンがペロムスに同行したのは、この状況が予想出来たからだ。
交際がどうのこうのって話ではなくなるのではないかと思った。
「ペロムス、そろそろ黙っていないで何か言ったらどうだ?」
アレンがペロムスに話をふる。
今日は昔懐かしいセシルとフィオナの喧嘩を見に来たわけではない。
「そ、そうだね。ふぃ、フィオナさん」
「な、なんですの! この前お返事したはずですわよ!!」
フィオナからははっきりとした拒否反応が見られる。
(これってもう無理なんじゃね)
その絶望的なまでの態度に他の相手を探したほうがいいのではとアレンは思う。
「僕と、こ、交際してほしい!!」
顔を赤くしながらも、フィオナに交際を申し込む。
それを見て、これはこれで鋼の意思を感じる。
どうしてもフィオナと交際したいようだ。
「わたくし、強い殿方が好きですの! ペロムスさんにはこの前きっぱりとお断りしたはずですわ!!」
そして速攻で断られた。
(ふむ、断られてしまったな。今日はどこかうまい店でも連れて行くかな。S級ダンジョンの拠点周辺であるかな)
玉砕したペロムスを見て、アレンは今晩もペロムスに付き合ってうまいものでも食べに行くかと思うのであった。





