第372話 5大陸同盟会議①
アレンたちは魔導船に迎えに来た馬車に乗りギアムート帝国の王宮に入った。
王宮入口には、騎士や役人が待ち構えており、そのまま待合室に案内された。
そして、メルスに作らせている魔力の種を消費しながら、しばらく待っていると会議に出席する時間になったようだ。
王宮の騎士が、アレンたちが待っていた待合室にやって来る。
騎士の1人が、迎えが来たかと立ち上がったアレンたちを見て何か気付いた。
立ち上がり、神器カグツチを背中に背負おうとしたドゴラを見て声を掛ける。
「申し訳ありません。武器の携帯は……」
どうやら、会議室は世界の王族や代表がやって来ている場なので武器は不携帯だと言う。
「ん? ん~、じゃあ、俺は会議いいわ。どうせ聞いていても、わけ分かんねえし」
神器カグツチを持って行けないなら、この待合室で待っていようかとドゴラは席に座ろうとした。
「え? そ、それは……」
武器不携帯をお願いしたら、まさか会議への出席を辞退するとは思ってもみなかった騎士がたじろいでしまう。
会議でドゴラは自分が何かを発言する予定も、話を聞いてどこまで理解できるかも分からない。
こういうことはアレンに任せるに限るとドゴラは思っている。
ドゴラとしては、神器は常に持っていた方がいいという考えであった。
そして、常に神器カグツチを携帯するのは、仲間を救った火の神フレイヤに対するドゴラなりのけじめであった。
『ドゴラよ。これも人の世の取り決めよ。わらわは構わぬ。世界に顔を売ってくるのだ』
「そうなのか?」
しかし、火の神フレイヤは『人間ごときが。わらわがどこにあるのか口にするか!』なんてことは言わず、ドゴラだけでも会議に参加するように言う。
(最近かなり機嫌がいいからな)
火の神フレイヤは最近とんでもなく機嫌がいい。
既にヘビーユーザー島に入居した3つの町の住人が朝晩、火の神フレイヤの神殿に焚かれた炎に向かってお祈りを捧げてくれているからだ。
そして、エルマール教国のニールの街には既に火の神フレイヤとドゴラの石像が置かれている。
アレンが石像を置くようにお願いしたのだが、神官たちが早々に行動に移してくれたようだ。
ニールの街の中央広場に鎮座する結構大きい火の神フレイヤ像に対しても、信心深いエルマール教国の民たちが祈りを捧げに来ている。
お陰で、ドゴラのオリハルコンの斧の加工が既に始まったとアレンも報告を受けている。
なお、今は神器カグツチとアダマンタイトの大斧を背中に背負っている。
何も知らない人がドゴラを見ると大斧を2本も背負っており、2度見する様な出で立ちだ。
火の神フレイヤは細かいことは気にしないというスタンスのようだ。
神器カグツチは丁重に扱ってほしいと伝え、アレンは仲間たちと共に騎士と役人たちに連れられ待合室を出る。
(やっぱりなんかきれいな王宮だな。出来たばかりだからか)
ラターシュ王国に比べてもきらびやかで綺麗な王宮を見ながら、この帝都の興りを感じる。
今いるギアムート帝国の帝都は魔王軍によって攻められてから遷都したという。
以前はギアムート帝国の北の方にあったので、南の方に遷都した形となる。
その際、魔導船の発着地を広くしたり、広い会議室を作ったりと、考えられた設計になっていると言う。
時の皇帝の没後、この帝都は皇帝ベルティアス8世=フォン=ギアムートの名前にちなんで、帝都ベルティアスと名付けられた。
ベルティアスは5大陸同盟を唱え、今の魔王軍と戦いうる世界組織の原型を作ったとされるギアムート帝国で広く賢帝と呼ばれている皇帝だ。
こちらですと呼ばれた会議室に入る。
「結構いるのね」
思わず、セシルが声を漏らす。
「そうですわね」
アレンの連日のアイアンゴーレム狩りの犠牲者となったソフィーも同意する。
ここ最近、セシルとソフィーの連帯感が半端ない。
アレンは、アイアンゴーレム狩りに参加したのだが、廃ゲーマー全員でアイアン狩りをするのは効率が悪いと判断した。
S級ダンジョンの攻略中と違い、王化した召喚獣にメルスに、ヒヒイロカネゴーレムを動かすメルルと随分パーティーは強化された。
そして、パーティーを2つに割ろうと言い出し、2パーティーが並行してアイアンゴーレムを狩っている。
・アレン、クレナ、セシル、ソフィー、フォルマール、王化霊A、王化竜A
・ドゴラ、メルス、キール、メルル、王化獣A、王化石A、王化魚A
そして、アレン組とドゴラ組で1日何体アイアンゴーレムを狩れるか勝負している。
1日10時間を超える狩りが何日も続いており、この5大陸同盟の会議はセシルやソフィーにとって久々の休息に当たる。
なお、王化した虫Aの召喚獣は数を増やしながら中央大陸北部の魔王軍の領域を侵攻中だ。
会議室に入ると、5大陸同盟の盟主が座る円卓があり、その奥には、各国の代表が座る席が設けられている。
各国の代表の席は、学校の教室の机のように円卓に向かった、配置になっている。
「アレン様はこちらにお願いします」
「はい」
中央にある円卓の手前にある壇上に案内される。
アレン以外の者はこちらですと、壇上近くに並べられた椅子に座る。
椅子には既にマッカラン本部長が座っている。
どうやらこの檀上は、5大陸同盟の会議に招かれた者に何かを問いただす場所のようだ。
(結構こってり絞られていたな)
今回の会議のために呼ばれたマッカラン本部長には、既に質疑が済んでいる。
この5大陸同盟の会議は前日から始まっている。
別にアレンたちを待って会議が始まったわけではない。
アレンたちを呼んだことも、今回行われる会議の議題の1つに過ぎない。
世界は魔王軍を中心にいくつも問題を抱えており、この会議はその問題を1つずつ答えに近づけていくものだ。
最適解の正解や1つしかない答えなどない。
そういうそれぞれの立場をこもごも交錯しながら、1つずつ解決策を積み上げていく。
答えに行きつかないのはどこの世界も同じなのかもしれない。
アレンはローゼンヘイムの女王のポケットに鳥Gの召喚獣を忍ばせていた。
5大陸同盟の会議に呼ばれたのだが、どんな話を聞かれるのか、事前にどんな話をしているのか知っておきたかった。
「なんか、大変でしたね」
「ふむ。いつもこんな感じじゃよ。近いからと毎回呼ばんでほしいの」
ついさきほどまで特にギアムート帝国の皇帝に責められ続けていたマッカラン本部長の横を通る際に、ねぎらいの言葉を送る。
マッカラン本部長1人を責めるだけで1時間以上が経過していた。
責められる理由は転職ダンジョンを広く冒険者に使えるように開放したからだ。
ギアムート帝国は転職ダンジョンを完全に5大陸同盟主導で掌握したいと唱えているようだ。
しかし、ダンジョンの管理は冒険者ギルドが行っている。
冒険者ギルドとしても、冒険者の才能の星の数が増えた方が良いに決まっている。
亡くなる冒険者もいるダンジョンだが、冒険者1人1人が強くなれば生産性が上がることに違いはない。
アレンは亡くなる人が減るようにと、自らが攻略した情報を冒険者ギルド情報部に伝えている。
そして5大陸同盟は戦後処理で転職ダンジョンの告知が遅れてしまった。
そういうわけで、さっさと条件を満たしたものは皆利用できるようにしたがそれが気に食わなかったようだ。
冒険者ギルドは5大陸同盟の下部組織ではないが、基本的に協力関係にある。
しかし、利害が対立したら自らの利益を大事にしますよということだ。
多くの利害が対立し、その中で折り合いをつけたり、ぶつかり合いながら、この世界は回っている。
(さて、俺らが呼ばれた理由は3つのようだが)
・アレン軍の強さ
・アレンの人となり
・アレン軍の活動目的
魔王軍が攻めてきたので戦争していたら、20年ぶりに誕生したSランク冒険者アレンが何か才能のある者たちで組織を作った。
これはどうするつもりの組織だ。
そもそも、アレンとはどういう奴だと、そんな理由で5大陸同盟の会議に呼ばれた。
壇上に立ち、目の前に円卓に座る5大陸同盟の盟主たちを見る。
他の4人より座っているのに頭1つデカく、ふんぞり返って座り、胸の前で腕を組んでいるのは現獣王だろう。
一緒に飯を食った仲の魚人のクレビュール王国の国王もいる。
連合国は代表国を持ち回りで決めている。
今年はクレビュール王国が連合国の代表なのだろう。
盟主たちが座る円卓の奥には100人近い王族や国の代表たちがいる。
5大陸同盟は5つの大陸の盟主と100近い加盟国により成り立っている。
(オルバース王も来ているな。あとはゼウ獣王子もか。ギアムート帝国の特別扱いか)
ダークエルフのオルバース王は今回の会議で5大陸同盟に正式に加入した。
既に先日、多数決が取られ全会一致でダークエルフの里ファブラーゼの加入が決まった。
魔王軍との戦いには多くのものを負担しないといけない。
1つでも参加国が増えれば、自らの国の負担が減るため基本的に歓迎される。
なので、加入する国によっぽどのことがないかぎり、何の反対も起こらないまま加入が決まる。
そして、オルバース王の横にいるゼウ獣王子にも気付く。
基本的に1国1人というのが原則だと思うが、獣王がいるにもかかわらず、5大陸同盟の会議にゼウ獣王子も参加している。
温和な性格で、今回も魔王軍との戦いにも前向きに参加してくれたゼウ獣王子をぜひ次期獣王にというギアムート帝国の思惑が見え隠れするなとアレンは思う。
なお、十英獣についてもこの王宮で待機している。
獣王自ら迎えアルハバル獣王国に帰る予定のようだ。
S級ダンジョン攻略からローゼンヘイム、中央大陸への戦争に参加した十英獣たちは1人もかけることなくその役目を果たしている。
「……そんなに緊張しないでいいぞ。余らは敵ではない。アレンよ」
ギアムート帝国皇帝レガルファラース5世=フォン=ギアムートが王族たちの状況を見ながら、考え事をするアレンに対して緊張するなと言ってくる。
金髪の髪に赤みのある目、そしてとても整っているが、どこか厳しさのある顔のギアムート帝国の皇帝は中央大陸の盟主だ。
(マイクが付いているのか?)
5大陸同盟の盟主が座る円卓から聞こえる声はこの広い会議室に良く響くなと思う。
「いえいえ、このような場も慣れておりませんので、粗相がなきよう緊張しかございません」
マイクのような魔導具が壇上の演台の上に置いてあるので、そちらに向かって話しかける。
すると、声が拾われ会場に広く響き渡った。
恐らく、各所にこういった拡声用の魔導具がこの会議室に置かれているのだろうと思う。
そう言って、ギアムート帝国皇帝に対してアレンはニコリとしながら返事をする。
各国の代表やゼウ獣王子を見ていただけなので、緊張など全くしていない。
「ほう、緊張はなしか。勇者ヘルミオスに並ぶ英雄だからなのか」
その言葉と態度でギアムート帝国皇帝は、アレンにもその仲間たちにも緊張がほとんど感じられないことに気付いた。
この場で緊張しているのは、ルークとペロムスだけだ。
「はあ。中央大陸に英雄を名乗る者が出てきたか。どんどん湧いてくるわい」
ギアムート帝国の言葉に、胸の前で腕を組んだ獣王が、英雄と呼ばれたアレンに、鼻息を荒くしながら、厳しい視線を送る。
(俺のことを知ったのは、学園で勇者と戦った時からかな。それにしても、獣王は勇者を持ち上げ続けたギアムート帝国の皇帝のやり方が気に食わないと)
アレンが2年生のときに初めて、5大陸同盟の間でアレンのことが話にでてきたかと思う。
その時はきっと勇者ヘルミオスと対戦したアレンという少年が闘技台の原型を失うほどの激しい戦いをして、善戦したと伝えただろう。
震えあがりながらも各国の国賓たちがアレンとヘルミオスとの戦いを見学していた。
その後語られるのはローゼンヘイムでの戦争参加、S級ダンジョン攻略、エルマール教国への救難信号の対応だ。
アレンに対する視線からも各国の代表の内心は興味津々のようだ。
「ふむ、皆アレンに興味があるようだ。何でもアレン軍なる軍隊を持ったようだが、アレンの目的を聞かせてくれないかな?」
「私の目的は魔王を倒すことです」
自らの活動についてギアムート帝国皇帝が尋ねてくる。
アレンたちが参加する、世界の代表を集めた5大陸同盟会議が始まったのであった。





