第361話 軍の受入れ②
島に転移させて早々に、土系統の精霊魔法を使えるエルフたちが動き始めた。
今回やって来た精霊魔導士1000人の内、その半数以上が土系統の精霊魔法を使える。
ごつごつした岩の上に土をかぶせ、あまりに大きな岩は砂に変えていく。
まずは居住地区の地面をなだらかな土に変えていく。
この島には1万人を超える人々が住むことになる。
数平方キロメートルに亘って、ガンガン均していく。
「やっぱり、これだけの人数だとすぐに開拓できそうね」
セシルがアレンの横でつぶやいた。
「ああ、選定は順調に進んでいるみたいだし、あまり待たせるわけにもいかないしな」
(ふむ、流石に順調だな。全員レベルもステータスもカンスト勢だし。塀や堀も作る必要もないし。住めるようにするのに10日もかからないんじゃ。おっと、生成生成)
現在この島には獣人2000人とエルフ2000人がいるのだが、全員レベルもスキルも最大値まで上げている。
当然モードはノーマルモードだ。
地面を均していく行程も速いのだが、それと並行して精霊魔法の木系統の精霊魔導士が、別の場所で木をガンガン植えていく。
木の生育に水も必要なようで水系統の精霊魔導士も協力して合わせ技のような動きだ。
あっという間に10メートルを超える木に成長するのだが、レベルがカンストした獣人たちが両手で大根を抜くように、引っこ抜いていく。
大振りの鉈で無用な枝葉も根も切り落とし、丸太に変えていく。
これら丸太は住宅を作る上での建材になる。
そんな丸太もこれから整地した町の建材に大量に使われるため、どんどん精霊魔法で作り積み上げていく。
(町を囲む塀を作らないで良い分、土地は有効に使えるな)
ここは浮いた島の上だ。
住宅スペースや畑や牧場スペースなどを作るのに無用な塀や堀を考えなくて済む。
ただ、結構上空をこの島は浮いているのだが、空を飛ぶ魔獣が寄ってこないとも限らない。
その辺りは草Aの召喚獣の覚醒スキル「金の豆」を使い、撒いておけばいいだろう。
半径1キロメートルの範囲で10年に亘ってAランクの魔獣も寄せ付けなくなる。
そんな中、アレンは袋の中にある「魔力の種」を使用する。
エルマール教国で救難信号を受けてからは、ずっと戦いの連続であった。
移動中や休憩中にスキル経験値を稼いできたのだが、召喚レベル9までまだまだだ。
一刻も早く、最短でスキルレベルを上げる。
喝を入れて、魔力の種の生成をメルスにもさせる。
せっかく魔力の種を使うなら半径50メートルの範囲で魔力2000回復するので、歩きながらエルフと獣人の魔力を回復させていく。
魔力回復リング、魔力2000上昇リング、そしてマクリスの聖珠を装備している。
セシルに「マクリスの聖珠を貸して」というと、「返してよね!」と言いながらも、絶対に断られない。
返すとニマニマしながら、セシルはマクリスの聖珠を受け取る。
(ソフィーは遅いな。明日になるのかな)
式典が終わった後、女王に個室に連れて行かれて何かやっているようだが、何が起きているのか分からない。
せっかくの家族団らんなので、ソフィーとの合流は明日になるのかと思う。
「あ、あの。アレン様、ここから山の辺りまで均したほうがよろしいでしょうか」
アレンが歩きながら魔力を回復していると、エルフから話しかけられる。
整地をする責任者のようだ。
「そうですね。まあ、だいたいそれくらいでしょうか」
「はい!」
(あまり力入れなくても大丈夫ですよ。この島は魔王軍拠点攻撃に使う可能性が無くなったわけではないし)
アレンが作成した島の開拓地図をエルフたちにも獣人たちにも1枚ずつ渡してある。
その計画に沿って、開拓は進められていく。
この縦10キロメートル、横8キロメートルの島には複数の町、生活していく上での畑や牧場、生活用水などのための川と、魚人のために湖ができる予定だ。
そして、山の神殿は火の神フレイヤの祭壇になる予定のため改修しなくてはいけない。
町の場所も火の神フレイヤの神殿と、夜になったら祀られている炎がはっきりと見えるようにしようと考えている。
習慣はとても大事なので毎晩寝る前に祈ってほしい。
町についてはそうだし、兵については転職をしてもらう予定だ。
(元邪神教の信者の仕事も探さないとな。たしか、ペロムスは王都かな)
この島で行える産業も興す予定だ。
同じクレナ村出身の商人ペロムスが、ラターシュ王国の王都にいる。
いくつか相談したいことがあるので会いに行こうと思う。
これからの予定はいくつもある。
しかし、この計画のためにアレンが付きっ切りになると本末転倒になる。
前世でも、自分の家を持ったり、箱庭みたいな町作り要素のあるゲームはいくつかやったことがある。
ネットゲームは家やアジトを購入して、それに自分なりのアレンジを加えるサービスも多かった。
アレンは前世で健一だった頃、ゲーム内の家は敵を狩って手に入れたアイテムや装備品の荷物置き場と化していた。
かわいい家やカッコいい家などに興味を持ったことはなかった。
(これも成長なのかな)
ずっと、前世の記憶を頼りにやってきたと思う。
それで助かったことも多い。
しかし、商売や産業を興す上で、前世では仲間にすることがほとんどなかった商人のペロムスの力を借りる。
S級ダンジョンの最下層ボスであるゴルディノとの戦いは、怪盗ロゼッタがとても役に立った。
前世で捨ててしまっていたが、本当は必要なものは結構あることを知った。
アレンの行動に制約が掛からない程度にしっかり島の開拓はしようと思う。
そんなことを考えているとメルスがソフィーを連れてやって来る。
「ん? もういいのか? 一晩くらい向こうにいてもいいぞ」
「……いえ、頑張らせていただきます」
何があったか知らないが、多少凹んでいるが大丈夫なようだ。
何か底知れぬ熱意のようなものをソフィーから感じる。
「そうか。ソフィーすまないが、着いて早々だがちょっと一緒に来てくれ。ダークエルフの方も準備が調ったみたいだ」
「もちろん行きますわ」
ソフィー無しでも良かったのだが、ダークエルフをヘビーユーザー島に招くならソフィーがいた方がいいだろう。
そういうわけで、少々凹んだソフィーと2人でダークエルフの里ファブラーゼに向かう。
「なんか若いな」
「そうですわね」
ダークエルフの里ファブラーゼは、アレン軍へ1000名のダークエルフを参加させると書いてあった。
既に出発式的なものも終わらせており、広間に集合したアレン軍への参加者たちは参加したエルフたちに比べても随分若いように見える。
島で現在開拓中のエルフの参加者の大半は従軍経験のあるものだ。
少なくとも3年は魔王軍と戦った者が多く、レベルもスキルもほとんどカンストしている。
エルフなので見た目は人間より若く見えるのだが、それでも20代から30代の見た目の者が多かった。
しかし、アレンたちを見ている、今回参加する1000人のダークエルフたちは10代半ばから後半の者がほとんどだ。
エルフ、ダークエルフの成人は30歳と聞いた。
ハイエルフ、ハイダークエルフの成人は50歳と聞いた。
なので、50歳のソフィーは、セシルやクレナと見た目というか若さは変わらない。
恐らくダークエルフたちは、30歳前後くらいの者を選んだようだ。
(なるほど、2つ星のもの1000人と言っていたが、他の条件はほとんど記載していなかったな)
多分レベルもスキルもカンストしていない。
そもそも魔王軍との戦いに参加しておらず、レベルがカンストするにはエルフに比べて随分時間がかかるのではと思う。
この里の周りにも魔獣がいて討伐することもあるだろうから、レベル1では流石にないだろうが、エルフほどの熟練者ではないのは間違いないだろう。
アレンとソフィーがダークエルフたちを見ていると、オルバース王と長老、女性のダークエルフがやって来る。
「準備は万全だ。少し荷物もあるのでそちらも一緒に持って行ってほしい」
同じこの場にいるオルバース王がアレンに直接声を掛ける。
広間の半分を占める山盛りの荷物も一緒に運べばいいのかと思う。
どうやら開拓やダークエルフたちの暮らしに必要なものを集めてくれたようだ。
「ありがとうございます。あの、こちらの方は」
「……」
アレンの目には女性の前に立っている見た目8歳くらいのダークエルフがいる。
何か知らないが、睨んでいるように思える。
とりあえず、メンチを切り返すことにする。
ここで負けてはいけない。
「ああ、この子は私の子供でルークトッドという。ぜひこの子も一緒に連れて行ってあげてほしい」
オルバース王はさすがにアレンが自分の子にメンチを切るなんてするはずがないと、何かの勘違いだと思ったようだ。
普通に話を進める。
「はあ」
手紙にも書いていないので聞いていなかったが、王の子供なら王子なのかと思う。
(ん? 精霊王も一緒に来るのか? 確かファーブルだっけ)
ルークトッドの手の中には真っ黒なイタチの姿をした者が丸まっている。
この里の精霊王でファーブルという名前だったような気がする。
精霊王ファーブルとダークエルフの王子が、どうやら軍に参加するんだなと思うアレンであった。





