第323話 チームソフィー③ 里(2)
チームソフィーの仲間たちが連合国のある大陸西側の砂漠地帯に向かった。
異形の姿をした邪教徒たちと魔獣たちが、巨大な外壁に囲まれた砂漠の街を襲っていた。
街を襲う邪教徒や魔獣たちを倒したソフィーたちが救ったのはダークエルフの里ファブラーゼの人々だった。
「これは失礼しました。エルフの王女でしたか」
ソフィーは何十分もまたされたためフードを被っていた。
褐色の肌に灰色の髪と長い耳をしたダークエルフの兵は一瞬間をおいて、誰なのか理解した。
「はい。ソフィアローネと申します。ダークエルフの王オルバース様へのお目通りは叶いますか?」
「し、しばらくお待ちを!? いや、こちらでございます」
透き通るような白い肌に真っ白な長い髪に金色の瞳を持つのは、エルフの王族であるハイエルフの証だ。
フードをしているが、長い耳も見え隠れしている。
その金色の瞳で見つめられたダークエルフの兵は混乱してしまう。
魔獣から、よく分からないゴーレムや同じく虫の魔獣を使って救援してくれたかと思ったら、ローゼンヘイムの王族の王女だ。
さんさんに降り注ぐ日差しが強い日中帯の炎天下の中、門の外でこれ以上待つのは問題だと考えたようだ。
外壁に取り付けられた通用口を案内する。
フォルマールを先頭についていくと、外壁の中に設けられた待合室で待つように言われた。
「おお、ここは涼しい」
フードを被り暑さをしのいでいたソフィーと違って、メルルはこんな炎天下で待たされて堪えていたようだ。
頭に鳥Aの召喚獣を乗せたメルルが待合室のソファーに座りながら言う。
「ええ。そうですね。バウキス帝国も結構暑かったですが、ここは更に堪えますね」
ソフィーもそう言いながら隣に座る。
フォルマールだけ警戒して入口で立っているようだ。
「ダークエルフの里かぁ。ソフィーは来たことないって話だっけ?」
しばらくお待ちくださいと言って、待合室から小走りに出ていったので、まだまだ待たせるのかと思いメルルがソフィーに話を振る。
「そうです。ここには来たことはありません。長老や女王陛下からは、話は聞いていたのですが、これほど厳重に部外者を寄せ付けないとは。お陰で、里は守られたのかもしれませんね」
メルルは、ここにダークエルフの里がある経緯についてソフィーから聞いていた。
1000年以上昔、ローゼンヘイムでのエルフとの抗争に敗れ、ダークエルフはこの広大な砂漠の中に隠れるように暮らしている。
ダークエルフの里ファブラーゼは連合国にも加盟しておらず、他国の干渉を受け付けていない。
ローゼンヘイムとダークエルフの里ファブラーゼは最小限の外交的なやりとりがある。
これはお互いの国同士が、現在も抗争中であることを意味し、外交が監視の役割も果たしている。
外交官的な施設はなく、年に数回お互いの外交分野の長老が行き来する程度だ。
「そうだったんだ。西に行くって聞いてなんかびっくりしているな~って思ってたよ」
「そうでしたか。私も顔に出ていましたか」
「そうだよ。ふふふ」
召喚獣を召喚できるメンバーがいないので、チームソフィーは恐らく連合国の西か東に行くと予想できた。
南以外では北の虫Aの召喚獣隊の応援が直ぐに到着するからだ。
メルスの御破算になった八英雄計画の代わりの対応を聞いて、元気がないことを突かれたメルルは、私も見てんだよとソフィーに不敵に勝ち誇る。
「これから、オルバース王にお目通りをお願いするかと思いますが、少々騒がしくなるかもしれません」
驚かないでねとソフィーはあらかじめメルルに言っておく。
「王に会うんだ。って、女王じゃないの?」
「はい、ダークエルフは王政ですので」
メルルはダークエルフもローゼンヘイムのように女王が統治していると思っていた。
ソフィーは、いつまで待たされるのか分からないので、メルルにダークエルフについて説明をする。
ダークエルフは王が統治をしている。
男しか王になれないのだが、王になるには、王族の子供か長老会の子供の男が条件だという。
「へ~。王の子供以外も王になれるんだ」
「それはローゼンヘイムも同じですよ。私たちエルフも長老の子供も女王になれます。世界樹の下では皆平等ですので」
ローゼンヘイムには農奴も奴隷もない。
家名もなく、国名を名乗るときも「ローゼンヘイム国」とは言わない。
世界樹の元にいるエルフたちの世界をローゼンヘイムと呼んでいる。
そして、長老の子供が王であったり女王になれる理由は、エルフもダークエルフも子供ができにくい。
そのため、王や女王の子供だけ、しかも男だけ、女だけとすると後継が続かないことがある。
そのため、長老の子供も王になる資格を与えている。
「結構エルフとダークエルフも似ているんだね。ダークエルフにも精霊神みたいなのがいるの?」
メルルが「みたいなの」と言うので、ソフィーとフォルマールの口元が引きつる。
「そうですわよ。このファブラーゼの里は、精霊王ファーブルさまが祝福を与えております」
なんでも精霊神ローゼンよりも数千年長く生きているらしい。
精霊王ファーブルに対しての言葉使いは注意するようにソフィーはメルルに忠告する。
その後、この里にやって来た理由や、王に会って話すことなど、メルルの話を進めていく。
「これはこれは、エルフの王女がなぜこのようなところに」
ソフィーと談笑していると、待合室を案内したダークエルフの兵が、ローブのような服を着たダークエルフのかなり年配の老人を引き連れてやって来た。
「これはジアムニール様、わざわざ長老がお出迎えとは、痛み入ります」
ソフィーも見たことのあるダークエルフだった。
ジアムニール長老は外交を任せられており、ローゼンヘイムにも足を運ぶことがある。
「お出迎えとは……。王家だからと言ってそうですかとお入れするわけにはいかぬので……」
王族のソフィーであっても、約束も何もなければ里に入れませんという。
「難しいという話でしょうか。オルバース王には、お話があるのですが」
ソフィーは何も臆することなく、にこりとしながら話を続ける。
「何かよく分からない力で御助力いただいたようですが。そちらについてはこれから親書をローゼンヘイムには送らせていただきますのじゃ」
しっかり、形式的な礼を尽くすという。
ダークエルフにとって、魔獣から助けた人たちを里に入れることより、このまま帰ってもらうことの方が大事な様だ。
エルフとダークエルフとの関係が分かるやり取りだ。
しかし、ソフィーは一切引く気がなかった。
「申し訳ありません。今、話を通しているところですので、すぐにお食事をご準備しますね」
そう言って、ソフィーは直射日光のない室内にいても被っていたフードを脱いだ。
そして、フードの中に隠れていた精霊神を、抱きかかえ長老の見えるように出した。
暗いところに閉じ込めて申し訳ありませんと、眠そうにしている精霊神の背中を撫でる。
「は!? ぶは!!」
「ジアムニール様!?」
腰を抜かしたジアムニール長老の元にダークエルフの兵が駆け寄る。
『はは。ソフィーはどこかアレンに似てきたね』
「いえいえ。必要なことですので、ご理解くださいませ」
そう言って、ソフィーは精霊神の顎を撫でてあげる。
「「……」」
ダークエルフが2人、そのやり取りを固まってみている。
「それで、精霊神ローゼン様をこのような場所にいつまでも……」
分かりますよねとソフィーは言う。
「こちらに案内しますのじゃ。すぐにソフィアローネ王女が精霊神ローゼン様と共にやって来たことをお伝えしに行くのじゃ!!」
「分かりました!!」
ジアムニール長老は若干切れ気味にダークエルフの兵に言う。
精霊神がいるならいると言っとけとそういう話なのだろう。
ダークエルフの兵はすごい勢いで走って先ぶれに行ってしまった。
ではとジアムニール長老と一緒に外壁の中に設けられた待合室からダークエルフの里ファブラーゼの中に入った。
「おお!! 砂漠に自然が溢れている」
「ふぉふぉふぉ、これも精霊王ファーブル様のお陰なのじゃ」
メルルはタムタムに乗っている上空から、この里には緑が生い茂っていることは認識できていた。
このダークエルフの里は面積が100平方キロメートルにもなる巨大な里なのだが、日の光を遮るように巨木が生え、木々の樹冠が重なり合うように強い日の光は木漏れ日のようになっている。
外壁の外に比べて随分涼しく感じる。
そして、樹冠の間から入ってくる日光を避けるため、ひらひらとした服を着たダークエルフたちが、ソフィーやメルルを見て驚いている。
よそ者がやって来たなという表情だ。
「立派な木ですね」
歩きながら、樹冠の間から見える巨木を見る。
里の中央には、その辺りの巨木の10倍以上の巨大な木が生えている。
タムタム(イーグルモード)で上空から見たら、里の中央の巨木に比べたら、日差しよけになっている里の大きな木々は草かコケのように見えた。
「ふむ。まもなくじゃ。まもなく、この木は世界樹になる」
呟くように、願いを込めるようにジアムニール長老はつぶやく。
「それは素晴らしい」
ソフィーは自然と本心の言葉が出た。
「……」
ジアムニール長老は無言で寂しい顔をした。
「いえ、もうしわけありません。軽率な発言でした」
「良いのじゃ。ソフィアローネ王女を責めてもしょうがないからの。でも、あまりそのように里では言ってくれないでほしいのじゃ。ささ、皆驚いておるのでの。こちらなのじゃ。遠いのでこれに乗ってほしいですじゃ」
里の中央に社を構えるオルバース王のところまで案内してくれるという。
しかし、里の中央は何キロも先になるので、王女をそこまで歩かせるわけにはいかない。
外壁の門近くから、兵たちが2足歩行の小型の竜を連れてやってくる。
小型といっても体長2メートル以上ありそうだ。
そして、2体の小型の竜に馬車のようなものを備え付けられていることから、これに乗って移動するようだ。
こちらからお乗りくださいと案内され、3人とも乗り込むことにする。
こうして、ダークエルフの里ファブラーゼを統治するオルバース王の下に向かうのであった。





