第318話 八英雄計画
メルスは何度も世界を滅ぼしてきたことを口にした。
この世界は神が調和を大切にしながら在り続け、どうしてもどうしようもなくなったら数万年に一回という期間で神がリセットボタンを押す世界であった。
それは人々の大量虐殺を意味し、メルスはその執行に関わってきたと言う。
仲間たちは絶句する中、アレンは別のことを考えていた。
(数万年に一回グレートリセットか。俺の前世は結局どうなっていたのかな)
内戦に戦争、宗教問題や人種問題、飢餓に貧困、貧富の差、環境問題など世界中で問題を抱え、問題が膨らんだり解決を見せたりしながらも人類は知恵を絞っていた。
しかし、各国の思惑もありなかなかうまくいかなかったが、その後数万年を超えて人類は繁栄できたのか。
もしかしたら、数千年後、数百年後に前世の世界は滅んでいたのかもしれない。
『アレン殿を別の世界から連れてきたといったな』
アレンが話をするように言ったのでメルスは続ける。
「そうだな。かなり強引というか有無を言わさずと言うか」
(ゲームを遊ぼうとキャラ設定をして、いざ始めたら異世界で赤ちゃんになっていた件について)
『エルメア様はこの世界に来ても問題がない、本人に願望があるものを選んだはずだ』
「たしかに。ん? 八英雄ってことは、俺と同じ条件の人を別の世界から8人呼ぶ計画であったってことか?」
「アレンがこの世界に8人もいるの!?」
「セシル、なんだその言い方は?」
「あら、それは大変そうねって思っただけよ」
アレンがエルメアに苦情申告しており、成長の早いアレンの召喚士の設定にメルスが苦労している話を聞いているので、セシルは神界が大丈夫なのかと考える。
アレンが8人いるのも楽しそうかもともセシルは妄想する。
『8人呼ぶつもりであったのが、正しい表現だ。最初の1人目のアレンを呼ぶときに手違いが無ければな』
「俺が魔王を選びそうになった話?」
『そうだ。魔王を選びそうになったアレンに「召喚士」を用意した。それも星8つの職業をだ。これで、これ以上異世界から適性者を呼ぶことが出来なくなった』
「エルメア様が呼ぶために用意した力を全て消費したとかそういうことか」
アレンは前世で健一のときに最初「魔王」の職業を選択しようとした。
エルメアは、これはいかんと慌てて「召喚士」を用意したのだが、星の数を8つにしてしまった話を精霊神から聞いている。
『そういうことだ。元々8人呼べるだけ準備していた神の力を1人に込めた。これがどれだけのことだったか、今の戦場の状況やこれまでアレンがしてきたことを考えればわかることだ』
「アレンが頑張っていたからだよ」
黙っていたクレナが口にした。
アレンはクレナが騎士ごっこに誘う前から石を木に投げたりして頑張っていたことを知っている。
決して神から与えられた力だけではないと言う話をする。
『たしかに。アレンの行動は常軌を逸して……。いや狂気じみて……。いや』
「「「……」」」
アレンの行動を表現する的確な言葉になるようメルスは言い直そうとするが、あまり前向きな表現が見つからないようだ。
『とにかく。魔族から魔神になる者など稀だ。それも1人いたらいい方だと言われていた。それをあんなふざけた作戦で倒せてしまうアレンが普通では決してないと言うことは理解してくれ』
「それは八英雄計画の代わりになる計画が始まったって話か」
理解したことをアレンはメルスに伝える。
『そうだ。計画は変更された。もう別の世界から適性のある者を呼べない』
ここまで聞いて、これまで疑問に思っていた答えなのかと理解した。
本来であればノーマルモードがほとんどの世界のようだ。
神や魔神が開放者と呼んでいるエクストラモードの者すらこの世界にはほぼいない。
星6つでエクストラモードやヘルモードを選択しそうなものを8人呼ぼうとした。
しかし、アレンを呼ぶために全ての力を失った。
(この話の流れだと俺1人で魔王倒せよって話にならなかったってことか)
異世界から適性のあるものを呼べないなら、どこから適性のあるものを呼ぶのかという話をしているのであろう。
仲間たちも「なるほど」と何となく思い当たる節がある。
アレンは何となく、バランスの良いパーティー構成になったなみたいな話をしていたからだ。
「それで、才能のある者を俺の周りに集めた」
そして、以前から思っていたことを口にした。
なんとなく答え合わせが出来た気分だ。
『まあ、そうだな。同じ世代で才能があるものを生まれやすくしたというのが正しい表現だ。あまりやり過ぎると魔王軍が確実に反応する』
幼馴染のクレナは剣聖の才能を持っていた。
そして、領主の娘は魔導士の才能がある。
これは偶然ではなかった。
「神は私に魔王軍と戦ってほしいと」
『最終的に選ぶのは本人であるし。ただ、知り合い、仲間になれば自然とそうなるのではと考えた。これは全て可能性の話になる。そもそも異世界から8人を呼んでも全員が魔王と戦うかすらも確定した計画ではない。これも可能性の話だ』
セシルの疑問にメルスは答える。
仲間になるのは本人の自由意志だ。
そして、たとえエクストラモードやヘルモードを8人呼んでも、全員が揃って魔王と戦うかも確定した計画ではなかった。
少なくとも魔王と戦うだろうという目算だけの計画のようだ。
「じゃあ、『天秤』とかいうふざけた才能のあるペロムスも神が用意した才能だったのか」
アレンはクレナ村の村長の息子ペロムスについて話をする。
アレンと同じ年に、クレナ村の鑑定の儀で、ここにいるクレナとドゴラ以外にも才能がある者がいた。
その1人がペロムスだ。
エクストラスキル「天秤」は全ての事象の価値を比べることができる。
「ペロムスか。だから、クレナ村にはおかしいのが大勢いたのか?」
キールがペロムスを思い出して口にする。
このメンバーは学園に通わなかった商人ペロムスのことを良く知っている。
「失礼な。俺は違うぞ」
「「「……」」」
お前が一番変だという視線がアレンに集まる
「そういえば、ペロムスってフィオナと結婚するのよね」
セシルが思い出したかのようにペロムスについて口にする。
「ああ、どうだろ。チェスターさんは是非みたいな話だとグランヴェル子爵が言っていたぞ」
「じゃあ、決まりじゃない。結婚式はいつって言ってたの? 私も呼んでくれるのよね。フィオナの式、私見てみたいわ」
最近グランヴェル子爵に会っていないセシルが、ラターシュ王国の王都に連絡用の召喚獣を配置したアレンに聞く。
アレンたちが学園に行く前の話になるがペロムスは、豪商チェスターの娘フィオナに一目ぼれをしたらしい。
豪商チェスターはグランヴェル領でも一番の豪商で、王都やグランヴェルの街に高級宿をいくつも持つ富豪だ。
開拓村の村長の息子とは天と地ほどの立場に差があるとか。
結婚の許可を貰いにチェスターに会いに行ったら、「俺に認められる商人になれ」とかそんなことを言われたとか。
ペロムスは王都の商業学校に行きながら、チェスターに認められようと店を起こした。
「ペロムス結婚するんだ!」
クレナも嬉しそうに話に参加する。
何故全員ペロムスを知っているのかというと、アレンたちが学園に通う2年の間、ちょくちょくアレンにアドバイスを受けに学園まで魔導船に乗って来ていたからだ。
「いや、だから、父が認めてもフィオナ本人が『まだ』興味ないとかそういう話だぞ」
アレンは悲しそうに言う。
何年もかけ頑張って商人として、豪商チェスターに認められたペロムスは、フィオナからふられてしまったらしい。
「あれ? ペロムスって今ダンジョンに行っているんだよね」
メルルは何か月も前にアレンが言っていたペロムスの近況について思い出す。
フィオナに振られたペロムスは諦めることを知らなかった。
「そうだぞ。何でも『私、強い殿方にしか興味ないの』ってフィオナさんに言われて、ダンジョン攻略しているらしいぞ。レイブンさんに手伝ってもらっているとか」
(指輪とか装備貸したからな。有料で。まあ、レイブンさんたちの仲介はタダにしたけどな)
ペロムスはアレンに商売だけでなく強くなるための助言を貰って、ダンジョンに通っているらしい。
アレンも学園都市にいた頃、手に入れたアイテムや装備を有料で貸した。
グランヴェルの街でお世話になったレイブン、リタ、ミルシーの3人も同行し、他にも数名の傭兵を雇いダンジョンを攻略中だという。
お金で仲間や装備を解決するのはいかにも商人らしいとアレンは感心した。
ダンジョンを攻略する商人の子供は「ポポロ」という名前にしてもらおうと思う。
「まあ、好きな女性のためにそこまでするなんて素敵ですわ!」
真っ白な頬を赤くし、金色の瞳を輝かせてソフィーはまあまあと興奮している。
そして、15歳になって大人になったアレンたちの中で、一番乗りで結婚を果たしそうなのが商人ペロムスだ。
今年、結婚を予定しているのでという色恋の話で盛り上がってしまった。
「お、おい! お前らいい加減にしろ!!」
ジャガイモ顔のドゴラが真っ赤にして怒り出した。
自分の話のために時間を使っているため、申し訳ないと思って黙って聞いていたが、我慢の限界のようだ。
「分かったよ。そんなに睨むな」
(メルスが止めなかったのが悪い。えっとどこまでの話だったか。仲間、仲間の話ね)
「……」
ドゴラが全力で睨むので、仲間たちはしぶしぶと話を元に戻すことにする。
「ん? じゃあ、勇者を村に7人集めるとか、聖女や剣聖が結集するみたいなことができなかったってことだな」
魔王軍もそれなりに人の世界から情報を得ているだろう。
さすがに大々的にそんなことをしても、見つかってしまうだけだ。
『そういうことだ。ドゴラのエクストラスキルが使えないという話だな』
メルスもようやく核心的な話ができるという顔をする。
「俺のエクストラスキル?」
『そうだ。星の数は増やせない。だからエクストラスキルを変えることにした』
「威力のあるエクストラスキルを選んでくれたと?」
アレンが理解し話を進める。
『そうだ。無限と言っていいほどあるエクストラスキルの中でも、当たりを選んだといったところだ。ドゴラ以外はな』
「え? おい! 俺だけ外れだったのかよ!!」
ジャガイモ顔がはちきれそうだ。
『違う。当たりを選んでも仲間になった時の効果は薄いとエルメア様はご判断された』
(ん? これって、ああ、この話をすることを躊躇ったのか)
「前に言っていた、エクストラスキルは最大3つ持てるって話か?」
『……そうだ。実はドゴラのエクストラスキルは王級だ』
「「「王級!?」」」
初めて聞く単語だ。
皆が一斉に声がハモってしまう。
そのままメルスは話を続ける。
エクストラスキルには数多の効果があり当たりはずれもある。
そんなエクストラスキルは最大3つまで持てるが、3つの枠に入るのはそれぞれ別の階級のエクストラスキルだという。
それが、将級、王級、帝級の3つだ。
「アレンを除く全員にエクストラスキルがある。それは全て将級で、ドゴラだけ王級なのだ」
(セシルのプチメテオでも将級なのか。将級の中でもプチメテオや限界突破は当たりで、ドゴラのエクストラスキルは1つ格上って話か)
「な、なんで、俺だけ王級なんだよ」
どこか嬉しそうにドゴラが聞く。
『それは、目標が魔王討伐だからだ。エルメア様は「どんなに当たりでも斧戦士は力不足だな」って言って1つ階級の高い王級を無理やりドゴラに与えている』
どうやらここにも創造神エルメアの手心を加えられた者がいたようだ。
「ん? だから、使いこなせないと」
『そういうことだ。王級のエクストラスキルを最初から持っている者はいる。稀にだがな。しかし、それを使いこなせたものはほとんどいない。少なくとも私はすぐに使えなくて当たり前だと思っている』
メルスはさらに説明をする。
王級のエクストラスキルは絶大な効果を発揮するが、達人であったり、戦いにずっと身を置いている者であっても何十年もかかるらしい。
メルスとしては使えなくて当然と奮闘するドゴラを見ていたようだ。
一度発動させたことがあるとメルスが聞いた時は、奇跡は起こるんだなと思ったという。
「簡単に使える方法ってないのか」
『発動条件とか。これを飲めば絶対に発動するってことではない。エクストラスキルはその者の命とも言えるスキルだ。命を使うのだ。正直、いつ自在に扱えるか分からない』
扱い方は人それぞれで、発動はかなり難しいという。
「俺は特別なのか」
(お? そうだと言え。メルス)
アレンは共有してメルスの意思に入れるが、そうだと答えろと視線を送る。
メルスはやれやれと視線で返事をする。
『ドゴラ。エルメア様が魔神を狩るためにヘルミオスに力を与えたように、お前には力がある。しかし、それを使いこなせるかはお前次第だ』
「俺に力が。勇者に与えたような力が」
『英雄を語るにふさわしい力だ』
「英雄か。俺は英雄になれるのか」
お前次第だとメルスはいったが、ドゴラは自分の両手を見て、感慨にふけってしまうのであった。





