第296話 ディグラグニ①
アレン以外の3パーティーが得た討伐報酬のうち、金箱と虹箱の報酬がアレンの手元にある。
ゼウ獣王子とガララ提督の判断に、獣人やドワーフたちも何も言ってこないので、ありがたく貰うことにする。
石板のような魔導具を怪盗ロゼッタがアレンを睨み警戒しながら抱きかかえる。
(いや、そんなに警戒しなくても奪ったりしないぞ。それに収納魔導具って持っているし。「特大」じゃなくて「大」だけど)
アレンは4000体近いアイアンゴーレムを倒している。
確かに銀箱から魔導具は出るし、収納用の魔導具はアレンの魔導書の中に入っている。
1割程度の確率で出る銀箱からは、ヒヒイロカネの石板、魔導具、アダマンタイト製の武器や防具などが出た。
お陰で一通り、冒険に必要な魔導具は手に入ったのかなと考えている。
(よしよし。アダマンタイトゴーレムに、また一歩近づけたぞ)
アレンはアイアンゴーレムを4000体近く狩り、3つの金箱を出していた。
うち1つはオリハルコンの塊だったのだが、アダマンタイトゴーレムの本体用石板が2つだった。
被らなかったアダマンタイトの本体用石板(足)をお陰で手に入れることができた。
『おめでとうございます。皆様が初めてのS級ダンジョン「試練の塔」の攻略者です。まずは証明書を発行しますので、お受取り下さい』
報酬の宝箱に意識が向かっていた皆がようやく落ち着いたことを見計らって、キューブ状の物体がもう一度話しかけてくる。
そして、アレン、ヘルミオス、ガララ提督、ゼウ獣王子の4人の目の前に漆黒の名刺サイズのカードが現れる。
(おお、『S級ダンジョン「試練の塔」攻略証明書』とあるぞ。裏には俺たちの名前が刻まれているのか)
漆黒のカードには金の文字で表裏に証明書であることと、誰が参加したのか書かれている。
「ゼウ獣王子、これで完璧な証明になりますね。獣王国に戻れそうで良かったです」
アレンが、ちゃんと証明書を発行してくれるダンジョンで良かったねと言う。
「うむ、まあ、そうだな」
ゼウ獣王子は、表面と裏面を見ながら返事をする。
『次に、初回討伐報酬ですが、ディグラグニ様が直接渡したいとのことで、こちらにいらっしゃいます。それではお呼びします』
「お! お願いします!」
アレンが歓喜の声で返事をする。
ズウウウウン!!
「「「な!?」」」
そして、キューブ状の物体の真後ろに、いきなり漆黒に輝く巨大な物体が現れる。
(とうとうやって来たな!)
その姿は全長10メートルのアダマンタイトのゴーレムだ。
『おう! すまねえな! 驚かせてしまったな。俺がディグラグニだ!!』
そう言って軽快にダンジョンマスターディグラグニが現れた。
「初めまして。アレンといいます。このパーティー全体のリーダーはゼウ獣王子なのですが、初回討伐報酬を頂くのは私たちのパーティーという話になっております。私がパーティーリーダーですので……」
『話が長げえよ!』
どうやら説明が長かったようだ。
「申し訳ありません。私が初回討伐報酬を交渉します」
『おっと、すまねえな。ちょっとダンジョン作りで忙しくてな。来月までに作れとか、エルメア様も無理を言うぜ』
「ああ、転職用のダンジョンですよね。順調ですか?」
『問題ねえよ。エルメア様が急いで作れって言うからよ。チョー忙しいぜ』
やれやれとディグラグニは言う。
今3月の始まりだが、あと1ヵ月後の4月になると、攻略すると転職できるダンジョンができると精霊神から聞いている。
任されたダンジョンマスターディグラグニは、現在転職するための難易度やらの設定でS級ダンジョンを不在にすることが多いとのことだ。
普段であれば、祭壇から出てS級ダンジョンの1階層の街にやって来ることのあるディグラグニと聞いていた。
アレンたちは長いことこのS級ダンジョンにいるのだが一度も会っていない。
(今の今まで学園都市に居たのか。ダンジョン間は大陸が違っても一瞬で移動できるのかな)
場所はアレンたちも通ったラターシュ王国の学園都市らしい。
学園都市のA級ダンジョンの1つを転職ダンジョンなるものに目下リノベーション中と聞いている。
『お前は相変わらずだな。ディグラグニ』
創造神エルメアに転職制度を任されたのにだるそうに言うディグラグニに対して、呆れたと精霊神ローゼンが口を開く。
『お!? ローゼンじゃねえか。おひさだぜ!』
『気安く呼ぶな。お前と違って、僕は神に至ったのだ。はは』
『あんだよ。タメなんだから、そんな見た目で堅苦しいこと言うなよ』
ディグラグニとローゼンが会話を始める。
同期なんだから、お前だけ出世しても、敬語は不要だろと何か前世のサラリーマンの会話のような話をしているなと思う。
(あんまり仲が良くないって話だっけ)
眉間に皺の寄る精霊神を見ながらアレンは思い出す。
何でも、ディグラグニと精霊神は5000歳ほどで同じ年らしい。
創造神から神器を貰った時期も全く同じらしい。
一緒に創造神の神殿に呼ばれて、神器を頂いたと精霊神がフカマンを食べながら話していたことを思い出す。
『ふん。皆の祈りや願いをこんな箱庭に使いおって。エルメア様も呆れておいでだ』
『あん? このダンジョンの様式美が分かんねえかな~。エルメア様もまだまだだぜ』
『き、貴様! 僕だけじゃなくてエルメア様にまで、そのような口を叩くのか!!』
仲が良くないと聞いていたが、かなり悪いようだ。
モモンガ姿の精霊神が怒りの握りこぶしを器用に作っているなとアレンは思う。
精霊神に怒鳴られ、五月蠅いなと顔をそっぽ向けるディグラグニを見ながら、2体の関係性を察する。
(創造神から貰った信仰の器を使って、祈りを集め、S級ダンジョンを拡張したり、討伐報酬やお宝を作ってくれていたのかな。もしかして、それで階層ボスや最下層ボスが強かったのか)
以前に神器を持つ者が、人々から祈りを集め、その祈りの力で亜神へ、そして神に至ると創造神から聞いた。
ディグラグニはその祈りの力を使い、自らの楽しさのためにS級ダンジョンを拡張させているらしい。
とんでもない力のSランクの階層ボス、毎年大きくなっていく1階層の街並み、天まで届きそうな塔も、人々の祈りの力が働いているのかとアレンは分析する。
「それで、初回討伐報酬ですが」
『おう! そうだったな。何がいいんだ?』
ディグラグニと精霊神の関係性もかなり興味深いが、今は初回討伐報酬の話がしたい。
「では、仲間たち全員をヘルモードに変更してください」
『は!? お前何言ってんだ!? できるわけねえだろ!!』
「エクストラモードも駄目ですか?」
『当たり前だ!!』
ヘルモードもエクストラモードも駄目らしい。
精霊神も以前できないと言っていたので、信仰の器の無駄使いをしているディグラグニには無理かなと思っていた。
「では、エクストラスキルが1つずつしかありません。2つ目のエクストラスキルをください」
ゼウ獣王子のお陰で知った、エクストラスキルは最大3つという話を元に、エクストラスキルの追加を求める。
『それも無理だ。無理。さっきから、その辺は神の領分だ。つうかよ。そこに神様がいるんだからよ。そいつに頼めよな!』
『おい!』
そこにいる神である精霊神に話が振られ、余計なことを言うなと精霊神が反応する。
「ちなみに転職はいかがですか?」
『あん? 転職くらいならできるかもだが、一度転職が終わったやつとか星の多い奴は無理だぞ』
条件はあるが、転職はできるらしい。
「いくつくらいですか?」
『3つかな』
(転職して3つか。かなり少ないな。まあ、亜神の段階で精霊神は星4つまでとか言っていたしな。精霊神になってクレナを星5つにしてくれたけど。っていうか、このダンジョンマスターかなりぶっちゃけるな。エルメアから制裁食らいそうだな)
ヘルモードとか、星の数とかアレンにとっては常識の話だが結構な人がいる前で口にする。
転職ダンジョンの作成も、普段素行の悪いディグラグニに対して、創造神による神罰の類なのかもしれないと思う。
「たしか、来月できるダンジョンは最大星4つまで、転職は1回だけという条件でしたよね。転職を願いにすると、あまりおいしくないですね」
新しく始まる転職制度について、アレンは精霊神がローゼンヘイムに逃げ出したくなるくらい執拗に質問している。
転職制度はそんなに大盤振る舞いの制度ではないという話だ。
『じゃあ、どうするんだ。魔導具とかなら、割といいもの作れるぞ』
アレンが無理難題を言うので、ディグラグニが自分の得意分野で願い事を言えと言う。
(さて、この辺は思っていた通りか。そろそろ本題だな)
アレンは事前に聞いていたので、モード変更は叶わず、転職はアレンたちの仲間の強化ができるほどのものではないと考えていた。
念のために聞いていたにすぎない。
急いでいるという話なので、本題に入ることにする。
「メルル。ちょっと魔導盤を貸して」
「うん」
すると、アレンはメルルに魔導盤を貸すように言う。
メルルは何に使うんだろうと思いながら、首から下げた魔導盤をアレンに渡す。
アレンが手元に魔導盤を持ったので、同じくゴーレム使いのドワーフたちが何だろうと見つめる。
アレンは、魔導盤の表と裏を手元で何度もひっくり返す。
魔導盤の表にはミスリルの石板が10個はめられており、裏はツルツルで何もはめられていない。
そもそも裏面には穴がなく石板をはめることはできない。
「では、この魔導盤の裏面にも石板をはめる穴を作って、表裏合わせて石板を20個はめられるようにしてください」
アレンは考えていた初回討伐報酬をディグラグニに伝えるのであった。