第281話 リーダー①
ミスリルゴーレムを倒して1ヵ月が経った。
この1ヵ月、アレンたちはアイアンゴーレムを狩り続けてきた。
お陰で最後に転職したソフィーのスキル経験値がカンストした。
アイアンゴーレム狩りは常時戦闘状態になるので、スキル経験値稼ぎにもってこいだ。
4階層では手に入らない貴重なアイテムや装備が、アイアンゴーレムから出る宝箱の銀箱と金箱から手に入った。
アイアンゴーレムから出る宝箱のうち、9割は木箱だ。
銀箱は1割程度、金箱は1000個に1つ程度の確率のようだ。
それでも、これまで金箱を3つ出すことができた。
その金箱の1つからオリハルコンの塊が出て、仲間と共に大騒ぎになった。
こんなに低い確率なら、4階層でオリハルコンが出るのは奇跡に近い確率なのかもしれない。
以前出たオリハルコンの塊と同様に、名工ハバラクに預けることにした。
火の神の神器を取り返したら、名工ハバラクは最優先で武器や防具を作ってくれると約束してくれている。
しっかりとしたものを鍛えてもらいたい。
「たしかに、魔石を頂きました」
取引を済ませ、魔石をいつものように受け取る。
(魔石なんていくらあってもいいからね)
アレンはストックした魔石について考える。
実はアレンは召喚レベル9にするだけなら、魔石の数は足りている。
スキルレベル9にするまでに必要なスキル経験値400億を稼ぐには、300万個ほどBランクの魔石の一部を等価交換して魔力の種にしたらよい。
スキルレベル8にする10倍の数の魔力の種を作らないといけないので、経験値稼ぎと並行して行うなら1年以上は軽くかかりそうだが、それも時間の問題だ。
だが、その時間が神器を奪われたせいで足りないのが今の問題なのかもしれない。
大量に必要な魔石の使い道も新たに増えた。
金銀の豆はそれぞれAランクの魔石5個を必要とする。
一時的に大量の魔石が必要になったり、召喚レベル10以降を目指すなら、貯められるだけ貯めておいた方がいい。
天の恵みも万単位である程度ストックしておきたい。
やはり魔石はいくらあってもいい。
しかし、等価交換のお陰で明らかに最優先事項は魔石から経験値に変わった。
Eランクの召喚獣を召喚できるようになってからずっと魔石を求め続けてきたが、初めて魔石よりレベル上げの方が重要になった気がする。
そろそろ魔石中心の考えを持つなと言われているような気もしてくる。
成長や環境の変化と共に何が必要となるかは変わってくるものだ。
お金が貴重だった農奴の時代。
魔石が貴重だった15歳までのスキル経験値。
そして、成長限界なしと、必要経験値100倍の両方の意味で経験値が必要な今だ。
まだ、王化スキルは封印されたままだ。
メルスからは封印されたスキルがある状態では召喚レベルは上がらないと言われた。
言われてみたらセシルの魔法がそう言う設定だったことを思い出す。
知力の関係もあるのだが、魔法使い系統の職業には習得できる魔法にレベルのキャップがある。
召喚士も似たようなものだと聞いて驚愕する。
それを知った以上は経験値が何よりも欲しくなる。
どこかに魔神は落ちていないものか。
お客様の中に魔神はいませんか。
上位魔神キュベルから遊びに来る魔神がいるかもと聞いたが、全く襲ってこないぞと思う。
「これから、どうするの? 今日なのよね」
魔石からずいぶん外れたアレンの妄想をセシルが現実に引き戻す。
「ああ、今日だ。とりあえず。酒と肉だな。買い出しに行こう」
魔石のことを考えているとセシルから、アレンは今日のこれからの予定を聞かれる。
今日は大事な用事があるので、買い出しに行かないといけない。
漫画でしか見たことのないような骨付きの塊肉を肩に担ぎ、お酒も上等なものを樽で3つ用意する。
「3つで足りるのか?」
大樽をドゴラとクレナにそれぞれ持たせ、アレンも担いだところで、キールに聞かれる。
「う~ん、ちょっと厳しいかもな。まあ、酒屋は夜でも開いているし。まだ昼間だからな」
足りなければ買えばいいと答える。
拠点に戻る。
30人でも余裕で入るかなり広い食堂だが邪魔な家具がたくさんあるため、寛ぐために必要な家具以外を隅へと片づけていく。
ソファーの一部は庭に置いていく。
「ちょっと何してるのよ」
怪盗ロゼッタが、アレンの仲間たちがやっていることが何なのか問う。
ヘルミオスのパーティーにはまだ何も言っていない。
無言でアレンたちがすることを見つめている。
「……」
ソファーに深く腰を掛けて酒を飲んでいるガララ提督が睨むように様子を見ている。
「ああ、もう少しでゼウ獣王子がやって来るので、一緒に説明します」
魔導具を見たら、もう結構な時間だ。
場所を取るソファーは、ガララ提督が座る分ともう1つだけを除いて庭先に運んでしまった。
「ゼウ獣王子がお越しくださりました」
時間通りにやって来た。
使用人がゼウ獣王子を通してくれる。
「む? 何だこれは」
ウルとサラの2人の獣人も引き連れ、ゼウ獣王子は入ってくるなり呟いた。
「あ、いらっしゃいませ。早かったですね。ゼウ獣王子のソファーはありますので」
(ゆっくりしていってね)
アレンはそう言って、ゆったり座れるソファー席を案内する。
「どうしたのだ? どうしても来ていただきたいと言われ、来たのだが……」
用件も伝えず大国の王族をアレンは呼び付けた。
王侯貴族の世界ではありえないことだが、それが分からないアレンではないとゼウ獣王子は分かってくれた。
来てくれる辺りがとても義理堅く感じる。
「今日は、これから最下層ボスに挑戦する決起集会をしたいと思っています。ゼウ獣王子には、それでお越しいただきました」
「おおお!! とうとう挑戦するのか!!」
王族らしく深く座ったばかりのゼウ獣王子が、興奮して立ち上がる。
アレンのダンジョン攻略の話はゼウ獣王子の耳にも入っている。
ウルから攻略の状況は聞かれて答えているし、ゼウ獣王子もたまに飯や酒を飲みにこの拠点にやって来る。
随分、ダンジョンの攻略が進んでいるが、いつ挑戦するのかくらいに思っていた。
今日は態々、大事な最下層攻略前の決起集会に自分を呼んだのかとゼウ獣王子は考えた。
「けっ。なんだ。大袈裟に何が起こるかと思ったらそう言うことかよ」
昼間から既に酒を飲んでいるガララ提督が悪態をつく。
「そうなんだ。厳しい戦いになるけど、アレン君頑張ってね」
木のコップのお酒を飲みながら、ヘルミオスが激を入れてくれる。
「それでヘルミオスさんにはお願いがあります。『セイクリッド』に協力をお願いしたいと思っています」
ヘルミオスがパーティーリーダーをするパーティー「セイクリッド」への参加を要請する。
「え? アレン君のパーティーに入って攻略を手伝って欲しいってこと?」
「いえ、実は最下層ボスは最大4パーティー50人まで参加できるようなのです」
「え? どういうこと?」
アレンは5階層で起きた経緯について説明をする。
ヘルミオスはある程度聞いていたが、これまで複数パーティーで最下層ボスを攻略するかは聞いていなかった。
ゼウ獣王子が最下層ボスと戦う条件についてそうなっているのかと黙って聞いている。
「……」
ガララ提督は睨みつけるように聞いている。
「それで僕たちへ参加か」
「はい。最下層ボスへの参加のみでいいです。最下層ボスを倒すと通常の報酬が3つ、初回特別報酬が1つ出ます。私は初回特別報酬のみでいいです」
魔神が本気を出した時ほどの難易度のあるゴーレムから手に入る3種類のメダルは、ヘルミオスのパーティー分をすでに用意してある。
最下層ボスのみの協力依頼だとアレンは強調する。
「ちなみに、最下層ボスはどれくらいの強さだと思う」
既にヘルミオスの顔に笑顔はなかった。
後ろで話を聞いているヘルミオスのパーティーも心配そうだ。
(そうだな。これがリーダーの務めだ)
「私の予想では、手に入れるために倒した3種類のゴーレムの数倍の強さ、もしくは難易度だと思います。最低それくらいはあるでしょう」
「ちょ!? そんな敵いるわけないじゃない!!」
「だからお願いをしています」
最下層ボスは5階層にいるゴーレムの数倍の強さがあると言うアレンに対して、そんなこと有り得ないと怪盗ロゼッタが言う。
「やはり、最低それくらいって話か。じゃないとアレン君なら自分らだけで挑戦しそうだし」
ヘルミオスは既に状況を理解していた。
「すまぬが、どう言うことなのか余にも分かるように話をして欲しい」
ゼウ獣王子もダンジョンに入る。
しかしそこは2階層から4階層が中心だと聞いた。
一緒に行動する獣人の構成や人数が毎回違うこともあり、その時の編成で行く階層を変えていると聞いている。
5階層以降に挑戦したこともないし、Sランクの魔獣を倒したこともない。
挑戦したこともないので、5階層にいるゴーレムの強さが分からない。
だから、状況がいまいち分からない。
アレンは2階層から4階層までに出てくるSランクの階層ボスより、さらに5階層のメダルを落とすゴーレムは強いこと。
さらに最下層ボスはその数倍の難易度になると予想されると説明する。
「うん。多分そんな感じだよね」
ヘルミオスは頷きながらアレンの話を聞いている。
「そんなことが有り得るのか?」
「デスゾーンもゴーレムのいる間も含めて、全て1パーティーのみしか入ることができません。それがそれぞれの難易度の設定ともいえます」
4パーティー50人の意味する本当の意味を説明する。
1パーティーでも20人、30人で行動する者も多い。
だから一概には言えない。
ただパーティー数のみを考えれば4倍だ。
人数も考慮すれば2倍から3倍程度かもしれない。
「そんなの攻略できるのか? 獣王陛下は余になんて試練を課したのだ?」
ゼウ獣王子はこの時S級ダンジョン攻略の本当の意味での難易度を知った。
「パーティーを集めれば可能です」
最高のパーティーを集めれば可能だという。
「う~ん。もう少し情報が欲しいかな。ちなみにだけど、アレン君は僕らが参加したとして、攻略する見込みがあるってことだよね」
ヘルミオスは即答しなかった。
(これが勇者にとってのリーダーの在り方か)
「ヘルミオスさんの『セイクリッド』が参加してくれて、恐らく勝率は半分といったところです」
「「「!?」」」
「ちょっと! そんなに強いって!?」
怪盗ロゼッタも驚く。
相手は世界最強とも呼び声高き勇者ヘルミオスとそのパーティーだ。
そして、最下層ボスまで1つのパーティーで辿り着いた実績のあるアレンたちのパーティーと合流しても、勝てる可能性は5割だとアレンは言う。
「うん。たぶんそれくらいだよね」
「ただし、それは勝つことを前提の話です。もし、厳しければ撤退をすればいいのです。全員無事に撤退するということでしたら、それはほぼ問題ないでしょう。もし厳しくて撤退しても再戦を強要することはありません」
召喚獣を囮に使えばいいアレンにとって、撤退することは得意とするところだ。
「分かった。行こう」
「ありがとうございます」
「まあ、ぶっちゃけると、皇帝にも仲良くするようにとか色々言われているんだ」
(ぶっちゃけたな。まあ、そういうことだと思った。中々ギアムート帝国に帰らないし)
ヘルミオスはずっと拠点に居座り続けた。
理由はアレンだった。
何らかの恩であったり、関係を築くように言われていたのだろう。
金の豆と銀の豆を渡してからは、さらに関係を良くするように強く言われたのかもしれない。
こうしてヘルミオスがアレンと一緒に最下層ボスと戦うことになったのであった。





