第275話 アイアンゴーレム
「さて行くか。今日はアイアンメダルを手に入れるぞ」
アレンはそう言って仲間と共に拠点から出て行く。
「それにしても5階層に行く度に、毎回Sランクのメダルを取りに行かないといけないって大変だな」
いつものごとく、神殿の行列に並んでいるとキールが独り言にしては大きな声でつぶやいた。
「そうだな。まあ、昔に比べて倒し易くなったしな」
アレンが軽く返事をする。
初めて倒した時に比べて、Sランクの階層ボスを倒す時間は圧倒的に短くなった。
アレンのAランクの召喚獣が有用なので、かなり安定して倒せる。
Sランクの階層ボスのメダル以外は取引で有り余るお金で手に入れている。
アレンのパーティーは現在50万枚を超える金貨を所有している。
セシルの発案で、ダンジョンで稼いだ金貨はパーティーで管理することにした。
装備集め、石板集めの側面の強いダンジョン攻略であったため、とんでもない金額になった。
5日に一度の魔石の取引は少し前の冒険者ギルドとの取引からBランクも追加するようにお願いした。
お陰で5日に一度の取引は魔石だけで金貨1万4千枚に達する。
アレンも含めて仲間たちには、もろもろの雑費はいるだろうからと金貨100枚を毎月配っている。
クレナやドゴラはそのお金で買い食いをしている。
甘党のアレンもそのお金でお菓子やら果物を買っている。
メルルは一部、実家に仕送りをしているらしい。
そんな話を聞いて思い出す。
同じ帝国内だが、メルルの実家はどこなのかと。
実はバウキス帝国の帝都周辺の村にあるらしい。
そうやって配りまくるが、どんどん貯まっていく。
アレンたちが売りに出す装備は金貨数千枚から数万枚にもなる。
ステータス3000増加の指輪はオークションに出せば、金貨3万枚を超える額で競り落ちる。
会話しながら並んでいると、行列は早く進むので5階層に直ぐに到着する。
いつもの薄暗く広い部屋の中央に移動し、正面の少し遠くに明かりが見える。
そこにはキューブ状の物体が浮いており、最下層ボスのいる場所に転移してくれる。
「今日はこっちだ」
「ああ」
アレンが振り返り、後方にある灯りの方に歩き出す。
ほどなく歩くと、灯りの前にキューブ状の物体が浮いている。
『私は鉄の間転移システムS503です。鉄の間に移動しますか?』
「はい」
アレンが返事すると視界が変わる。
そこは大きな広間だった。
アレンは目の前にいる敵を無視して辺りを見回す。
(やはりここは、広間だが、完全な個室にはなっていないな)
アレンは銅の間でもしかしたらという疑問を抱いていた。
それはガララ提督の最下層ボスの戦闘からの脱出だ。
ガララ提督は最下層ボスに挑んだ。
これはガララ提督の仲間に確認をしている。
銅、鉄、ミスリルの間のボスを倒し、メダルを手に入れ最下層ボスに挑戦した。
そこで敗退し、仲間を失ってダンジョンから脱出した。
(デスゾーンは階層が変わっても地形は一緒だからな。この間と最下層ボスの間が同じだとしたら。ちょっと最下層ボスも同じと仮定して、逃げる用のキューブを探しておくか)
最下層ボスは倒すと決めている。
しかし、倒せるとは限らないので、逃げることも想定するのがパーティーリーダーの務めだと考えている。
天井も高い広間の壁にはいくつもの通路が繋がっている。
きっとここは迷宮の中の小部屋の1つなのだろう。
そして、迷宮のどこかに逃げるためのキューブが浮いている。
召喚獣を使い探すことにする。
アレンは正面に視線を戻す。
目の前には100メートルに達するアイアンゴーレムが2体横に並び立っている。
まだ、距離は十分にあるので戦闘は開始しない。
「さて、皆行くぞ!」
初めてSランクの敵が2体いるので、アレンは気合の入った掛け声を上げる。
陣形を組み、メルルはミスリルゴーレムを降臨させ、距離を詰めていく。
『『……』』
一定の距離に入ると2体のアイアンゴーレムが動き出す。
1体は片手が光り出しビームランスを作る。
もう一体はビームソードとビームシールドを両手に作りだした。
(なるほど、ブロンズゴーレムに引き続きメルルのスキルを使ってくるな)
「2体とも武器を装備したぞ!! アレンどっちから倒すんだ?」
アレンが分析を進める中、ドゴラは武器と盾を握りしめ、どちらから倒すか標的を問う。
2体いると聞いて、状況を見て対象を決めると言うのはアレンの作戦だ。
「槍から倒すぞ。盾は倒すのに時間がかかりそうだ」
敵のスキルや見た目から、遠距離、近距離、防御、回復など何を得意とするか判断しようと思ったが、武器をそのまま作ってくれたので、助かったと思う。
2手に分かれ、盾のアイアンゴーレムには、ドゴラとメルルと竜Aの召喚獣で動きを封じる。
その間に槍のアイアンゴーレムには残り全員で一気に攻めることにする。
(初めてのSランク相当2体相手だが、そこまでではないか。このまま倒せるのか?)
相手は物理一辺倒なようで、ビームランスやビームソードを振り回す。
その攻撃も竜Aの召喚獣が攻撃を食らうことによって、敵の攻撃のターンは相殺される。
竜Aの攻撃は、無視できない程度には効いているようだ。
「きゃっ!?」
「ソフィアローネ様!!」
「いえ、大丈夫です」
(おっと、思いのほか槍の射程距離が長いな)
槍だけで100メートル近く射程がある。
ソフィーたちのいる後衛にまで攻撃が届いてしまう。
「すまない。ソフィー、回避率をあげるよ。出てこいタコス」
『お呼びですか?』
10メートルに達する巨大なクラーケンが出て来る。
新しく召喚できるようになった魚Aの召喚獣だ。
「煙幕を張ってくれ!」
『畏まりました』
魚Aの召喚獣は、口から2体のアイアンゴーレムに対して黒い墨を吹きかける。
(これで回避率を上げてと)
【種 類】 魚
【ランク】 A
【名 前】 タコス
【体 力】 9000
【魔 力】 10000
【攻撃力】 8000
【耐久力】 6500
【素早さ】 8000
【知 力】 10000
【幸 運】 7000
【加 護】 魔力200、知力200、回避率上昇
【特 技】 煙幕、タコの心臓
【覚 醒】 擬態
「そろそろ、通じたか?」
『ああ、アレン殿。問題ないぞ。槍の方からでいいんだろ?』
「そうだ。盾より先に槍を倒すぞ」
槍のアイアンゴーレムにメルスは属性付与を使う。
『分かった。裁きの雷!』
メルスが覚醒スキル裁きの雷を使う。
クールタイム1日で、今日はもう使えないが、敵の数を減らすことを優先する。
『アイアンゴーレムを1体倒しました。経験値12億を取得しました』
そして、セシルの雷魔法とクレナの攻撃で難なく倒せる。
(経験値10億超えたか。それにしても、そこまで強くないか)
地面に倒れたビームランスのアイアンゴーレムに対して、ビームシールドのアイアンゴーレムが反応する。
『リペアエナジー』
そして、ずっと無言だった盾のアイアンゴーレムが何かを唱えたかと思うと、完全に体が修復した状態で槍のアイアンゴーレムが復活した。
「ちょ、ちょっとアレン。元通りになったじゃない!!」
セシルが動揺する。
他の仲間たちも同じようだ。
「蘇生する敵は初めて見たな」
「って何を落ち着いているのよ!!」
(背中をガンガン叩かないでくれ)
仲間を呼んだり、連携して攻撃する魔獣はいたが、この世界で蘇生魔法を使う魔獣はこれまでいなかった。
「次は盾を優先して倒すぞ! ドゴラ、メルル、動きを封じる相手を槍に変更してくれ」
「おう!」
「うん、分かった!!」
盾の方を先に倒そうとする。
メルスの覚醒スキルは使ってしまったが、属性付与があるので、そこまで苦も無く攻めることができる。
『アイアンゴーレムを1体倒しました。経験値12億を取得しました』
10数分かけて盾のアイアンゴーレムを倒す。
『リペアエナジー』
せっかく倒した盾のアイアンゴーレムは復活する。
「ちょ!? ちょっと!!」
「ふむふむ」
セシルが後ろで驚く中、アレンは対策を考える。
どうやら、2体とも蘇生が可能なようだ。
(えっと、こいつらをガララ提督たちはどうやって倒したんだろう)
戦闘中のため、なるべく急いで倒し方を考える。
前衛のクレナやドゴラはともかく、後衛のソフィーたちはもろに攻撃を受けたら耐えられないかもしれない。
そんな中、真っ先に考えるべきは、ガララ提督のパーティーは20体のミスリルゴーレムを使って、どうやってアイアンゴーレム2体を攻略したのかという話だ。
正直、蘇生の速度が早過ぎて2体同時で倒しても、多少の時間差で蘇生されてしまいそうだ。
(恐らく力押しではないなら、距離かな?)
もしかしたら、蘇生の回数が有限という選択肢もあるが、なるべく可能性の高い方法で倒そうと考える。
自分がガララ提督ならどうやって倒すか頭を回転させていく。
「みんな通路まで逃げるぞ!!」
「え? アレン、逃げるの?」
まさか逃げると思っていなかったクレナが、後ろにいるアレンに声を上げた。
「そうだ。通路まで皆はダッシュで移動しろ!!」
「ダッシュって何よ?」というセシルを後目に、後退を始める。
この大きな広間には通路がいくつかあり、一番近い通路の入り口まで走る。
2体のアイアンゴーレムががむしゃらに追ってくるが、それは竜Aの召喚獣で足止めさせる。
超再生を使う竜Aの召喚獣2体を使って足止めをしている間にアレンたちは通路に逃げ込む。
「ちょっと、ここ天井が高くて普通に入ってくるわよ!!」
「そうだな、ってきたぞ」
通路に逃げ込んでも意味がないというセシルに詳しく説明する暇がない。
アイアンゴーレムのステータスはかなり高く、動きも速い。
「ソフィー、後ろの槍をノームに頼んで、足止めをしてくれ!!」
「は、はい」
ソフィーはエクストラスキル「大精霊顕現」を使い、大精霊ノームにより大岩で槍のアイアンゴーレムを足元から固めていく。
あまりに巨大なアイアンゴーレムのため、足場を固めたところで腰くらいまでしか固められないが、動きを止めるには十分だった。
「よし、じゃあ逃げるぞ!!」
ここまでしたらセシルは何も言わなくなる。
さらに進んで距離を引き離し1体にしたところで、盾のアイアンゴーレムを属性付与と属性攻撃のコンボで倒す。
『アイアンゴーレムを1体倒しました。経験値12億を取得しました』
「ふむ、蘇生しないな。やはりゴーレムたちの距離だな」
「す、すごいわね。なんですぐに倒し方思いつくのよ」
「アレンすごーい」
いつもアレンのすることに驚く仲間たちだが、今日はかなり反応が大きい。
ボスとの戦い初戦で攻略をすぐに思いつく。
「慣れているからな。久々だったけど」
仲間を蘇生する敵は、前世の頃かなり多かった気がする。
いかに蘇生魔法などを阻止して倒すかが大事だった。
そう言うとアレンは仲間と共に広間の入り口付近で固まったもう1体のアイアンゴーレムのところに向かう。
(こ、こいつはまだ動けていないぞ)
アレンの中で何か、大きなときめきのような感情が湧いてくる。
『アイアンゴーレムを1体倒しました。経験値12億を取得しました』
そんな感情とは関係なく、ボコボコにして難なく倒す。
また経験値が手に入る。
アイアンゴーレムの足元には宝箱が落ちている。
アイアンゴーレムは倒す度に宝箱を落としていた。
全ての宝箱を回収する。
全て木箱でミスリルゴーレムの石板が3つとステータス3000増加の指輪が1つ手に入った。
倒した分だけSランクの魔石も落ちている。
広間に戻ると、奥の方に宝箱が出ている。
中を開けるとアイアンメダルが入っている。
そして、目の前にはキューブ状の物体が浮いている。
「アレンどうしたんだ?」
皆が初戦で無事に攻略できたと口元が緩む中、アレンが考え事をしている。
それを不思議に思ったドゴラが声を掛ける。
「いや、こいつらは経験値だ。とうとう見つけたぞ!!」
また何かが始まったぞ、と思うアレンの仲間たちであった。