第268話 スカーレット②
12月になった。
先月、アレンたちはビービーを倒し、その後スカーレットに挑戦した。
3階層の階層ボスでワーム状のSランクの魔獣なのだが、耐性が無くどんな攻撃も通じる反面、もの凄い勢いで回復する。
この回復速度を上回るほどの攻撃を加えることができなかった。
3時間かけても膠着状態が続いたので、その日は断念した。
それから、しばらくして強化のレベルが8になった。
そこで再戦をしたのだが、それでも倒せない。
強化レベル8は予想通り、召喚獣の2つのステータスを2000増加させるのだが、攻撃力が強化レベル7から1000増えてもスカーレットの体力上昇を上回る攻撃をすることができない。
その日も3時間の激戦の末、倒すことが出来ず諦めることにした。
そして、月が変わって12月になった。
あれからソフィーは既に転職し大精霊使いになった。
メルルとソフィーを除く転職組についても、スキルレベルは6になり、ステータスが増えた。
これならばと、今日は4度目のスカーレット討伐挑戦の日だ。
「今日はスカーレットに挑戦します」
「何度もすごいね」
「まあ、こいつを倒さないと5階層に行けませんので。ヘルミオスさんはいつまでこのS級ダンジョンにいるつもりですか?」
「う~ん。皇帝陛下は帰って来いって言ってこないんだよね。多分、アレン君のダンジョン攻略は見届けると思うよ」
アレンは同じ拠点に住むヘルミオスとは、普段しないことをする場合に情報を共有することにしている。
そして、ヘルミオスの予定もたまに確認する。
ヘルミオスのパーティーもずいぶん長いこと、S級ダンジョンにいるが、このパーティーの目標はダンジョン攻略ではない。
装備も手に入れ、お金もずいぶん稼いだのだが、まだいるようだ。
普段は2~3ヶ月程度しかこのダンジョンに滞在しないらしいが、数ヶ月前にギアムート帝国宛てに送った神器の件がヘルミオスのS級ダンジョンの滞在を長くしているのかもしれない。
「じゃあ、アレンのスキルレベルが上がるまではいそうですわね」
セシルも会話に参加する。
アレンのスキルレベルは来月にようやく8になれるところまできた。
バウキス帝国の帝都の魔石まで買い付けるようになったことが大きい。
冒険者ギルドへの資料の作成とスキル経験値稼ぎを並行してできたのは、仲間たちの協力があってこそだ。
「へ~。アレン君の新しいスキルは見てみたいかしら」
怪盗ロゼッタも、皆もアレンへ視線が集中する。
どうやら特殊なアレンのスキルには興味があるようだ。
「そうですね。まあ、今日のスカーレットを倒せなかったら、再挑戦は召喚レベルが上がってからになるかな」
「ふふふ。それはないよ。僕の超身兵がスカーレットなんてぼこぼこにするからね」
「ふふふ」
メルルが腕組みをし、スカーレットの討伐を宣言する。
クレナもなぜか一緒に腕組みをして不敵に笑っている。
「けっ」
そんな、メルルとクレナの話にガララ提督が舌打ちをする。
相変わらずのガララ提督の悪態にも反応することなく、アレンたちは神殿へ向かう。
そして、3階層の砂漠地帯に移動する。
「スカーレットはあっちだ。行くぞ」
巨大なワーム型のスカーレットは砂の中にいる。
姿は見えないが、巨大な体で砂の中を這っているため、居場所は鳥Eの召喚獣が捕捉済みだ。
「今日は私から攻撃するわよ!」
砂の中を黙々と移動するスカーレットの上空にたどりつくなり、後ろにいるセシルが初撃を宣言する。
もちろん構わないので、タイミングを今一度合わせるため打ち合わせをする。
「キール。前も言ったけど、回復が一瞬遅いから、その辺注意してくれ」
「ああ、分かっているよ」
「頼むぞ。これを上手くやらないと、クレナとドゴラが体勢を崩されて倒せないからな。今後の階層ボスとの戦いでも必要になってくるからな」
「ああ」
何度も言わなくても分かると不満の表情のキールに、アレンはそれでもしっかり念を押す。
「じゃあ、セシル。行くよ」
全員の体勢が揃ったところで、魚Bの召喚獣を砂の中で移動させる。
そして、スカーレットの頭付近まで移動させたところで、砂の下で大きな反応を示す。
アーケロンの姿をした魚Bの召喚獣をスカーレットが咥え込んだ。
そして、頭を上げるように体を砂の中から現し、数十メートル持ち上げる。
「よし、釣れたぞ!!」
「プチメテオ!!」
スカーレットが頭を持ち上げ、地面と垂直になったところを巨大な真っ赤に焼けた岩の塊が落ちて来る。
知力と魔力をそれぞれ3000上げる指輪を装備し、2度の転職を済ませカンストしたステータスのお陰で、エクストラスキル「小隕石」は、ローゼンヘイムの頃から比べ物にならない程の威力に達した。
タイミング良く魚Bの召喚獣をカードに戻した瞬間に頭を粉砕し、更に巨大な大岩は胴体部分も潰していく。
小隕石の衝撃は、クレーター状に砂を吹き飛ばし、砂に埋まっていた体の全てが姿を現す。
クレナとドゴラはそのまま頭の潰れたスカーレットに突っ込んで行く。
もう何度も戦っているので、この程度の攻撃でスカーレットが死なないことは知っている。
体を持ち上げ、頭が再生しそうなところへ、頭を失った胴体の部分を2人で攻撃し続ける。
(急所みたいなところがあればいいんだが、どこを攻撃しても変わらないみたいだし。さて、急所を作れるかな)
一切の耐性のないスカーレットだが、弱点になる部位もない。
ダメージを受けた箇所を念入りに攻めていく。
そんな中、本日挑戦する決め手となった作戦を実行する。
「タムタム、降臨!!」
メルルがクレナとドゴラと同時にミスリルゴーレムを召喚する。
【名 前】 タムタム
【操縦者】 メルル
【ランク】 ミスリル
【体 力】 15000+1800
【魔 力】 15000+1800
【攻撃力】 15000+1800
【耐久力】 15000+1800
【素早さ】 15000
【知 力】 15000
【幸 運】 15000
バウキス帝国では、100メートルに達したゴーレムを超身兵と呼ぶ。
超身兵になる条件は、巨大化用石板と超巨大化用石板を魔導盤にはめることだ。
10メートルだったゴーレムは、100メートルに達し、ステータスは元の状態の5倍になる。
メルルのミスリルゴーレムはアレンの召喚獣も含めて、仲間たちの中で最も巨大でステータスが高くなった。
(相変わらずの迫力だな。欠点と言えば、キールや召喚獣の補助がゴーレムに効かないくらいか)
「ビームソード!!」
メルルはアレン命名のスキル「光束剣」を発動する。
ミスリルゴーレムは光る剣状のスキルを使い、巨大なワームの魔獣のスカーレットの胴体の中央を、文字通り輪切りにしようとする。
大量の血と体液をまき散らしながら、ゆっくりスカーレットを2等分にしていく。
「お!? 片方動かないぞ!!」
(超大型石板1つの時は無理だったが、攻略法発見か?)
2等分に輪切りにされたスカーレットは片方が動かないので、動く方の胴体をさらに2等分しようとする。
どんどん小さくして、攻撃を一点に集中しようとする作戦だ。
再生能力のせいで、2等分にした時点で、それぞれ再生されて2体になるかと心配したが、そんなことはないようだ。
「あ、ソフィー。地面に潜っちゃうよ」
「ソフィー。大精霊顕現を頼む」
メルルとアレンが同時に、輪切りにされ動く方の胴体の先が砂の中に入ろうとすることに気付く。
「はい! 大精霊ノーム様。お力をお貸しください」
ソフィーがエクストラスキル「大精霊顕現」を発動する。
大精霊ノームが姿を現し、砂状だった地面を岩盤のようにカチカチに硬化させていく。
地面が砂から岩盤に変わり、スカーレットの地中への脱出が止まってしまう。
その後、16分の1の大きさになったスカーレットを、クレナがエクストラスキルを発動し、ボコボコに切りつけていく。
アレンも惜しげもなく竜Bの召喚獣に覚醒スキル「怒りの業火」を使わせ、丸焼きにしていく。
それから20分ほど経過した。
『スカーレット=サンド=ワームを倒しました。経験値を2億5000万取得しました』
「「「おおお!!!」」」
スカーレットは姿が消え、岩盤のように固くなった地面にSランクの魔石とワームの形をした魔獣の模様のあるアイアンコインが落ちている。
流石に、何度も何度も挑戦し、失敗してからの討伐成功だったので全員の笑顔が漏れてしまう。
(これだよ。こうじゃなきゃ!)
試行錯誤しても敵わない敵に必死に戦い、ようやく攻略法が見つかった時のような、前世の最も楽しかった時の記憶が鮮明に蘇ってきそうだ。
「これで、あとはクリムゾンだけだな」
「ああ」
ドゴラの声にアレンが答えるが1つ懸念が頭をよぎる。
ガララ提督20人のパーティーはミスリルゴーレムの超身兵20体で、最下層ボスの攻略に惨敗した。
スカーレットを倒しスキルレベル8は攻略の最低条件なのかとアレンは思うのであった。





