第263話 転職③
ダンジョン祭に合わせてS級ダンジョンの攻略を目指したガララ提督であったが、その結果は惨敗であった。
最下層ボスとの戦いで仲間を何人も失い、パーティーの解散を宣言した。
ガララ提督がアレンたちの拠点に上がり込むようになった。
そして、酒浸りの毎日だ。
今日もアレンたちの拠点の食堂のソファーで小さな樽を抱えて、お酒を浴びるように飲んでいる。
ガララ提督にも拠点となる建物があるらしい。
アレンたちの建物より立派な、バウキス帝国の軍の最高幹部であり、英雄にふさわしい建物があるのだが、皆に合わせる顔がないとアレンたちの拠点に入り浸っている。
ガララ提督の拠点は、半年ほどのダンジョン生活で稼いだ金を仲間や建物を世話していたドワーフたちで分配して解散を伝えたという。
しかし、ガララ提督の帰りを信じて、今も拠点は維持し続けている。
ガララ提督の仲間のドワーフがたまに様子を見に来る。
お酒代とか食事代をヘルミオスの使用人に渡しているらしい。
アレンたちもヘルミオスたちも、この飲んだくれのガララ提督を追い出すことはせず、静観することにしている。
提督という軍職についているなら、仲間や配下の死は長年多く見てきたはずだ。
それが、このような状況になるのは、よっぽど思うことがあるのだろう。
『じゃあ、今日は3人の転職だね』
アレンが、ソファーに腰を深くかけて、飲んだくれているガララ提督を見ていると精霊神ローゼンが口にする。
「うむ。お願いする」
(なぜ、ゼウ獣王子もいるんだろうか。別にいいけど)
そして、何故かゼウ獣王子も成人式同様にここにいる。
転職の話は、シア獣王女と邪神教の情報交換の際にしている。
しかし、今日転職すると伝えたのは、ヘルミオスとその仲間だけだ。
ヘルミオスをアレンはチラッと見る。
ヘルミオスからはニコッと微笑み返される。
どうやらヘルミオス経由のようだ。
ギアムート帝国の公爵のヘルミオスにも、立場のようなものがあるのかもしれない。
精霊神の腰振りダンスが始まる。
キールだけパラディン系の攻撃と回復を兼ねた職業の選択肢が出たが、ドゴラとフォルマールの転職先は1択であった。
それぞれの転職先を指示しながら、3人の転職を進めていく。
なお、ソフィーについては現在4体目最後の幼精霊を懐かせている。
あと1ヵ月もあれば転職ができると精霊神が言っている。
『これで3人の転職が終わったね』
「ありがとうございます」
今日は、ドゴラ、キール、フォルマールの転職が終わった。
【名 前】 ドゴラ
【年 齢】 15
【職 業】 破壊王
【レベル】 1
【体 力】 1729
【魔 力】 857
【攻撃力】 1988
【耐久力】 1235
【素早さ】 1138
【知 力】 695
【幸 運】 953
【スキル】 破壊王〈1〉、渾身〈1〉、斧術〈6〉、盾術〈3〉
【エクストラ】 全身全霊
【経験値】 0/10
・スキルレベル
【破壊王】 1
【渾 身】 1
・スキル経験値
【破壊王】 0/10
【渾 身】 0/10
【名 前】 キール=フォン=カルネル
【年 齢】 15
【職 業】 聖王
【レベル】 1
【体 力】 970
【魔 力】 1740
【攻撃力】 577
【耐久力】 665
【素早さ】 1182
【知 力】 1670
【幸 運】 1274
【スキル】 聖王〈1〉、回復〈1〉、剣術〈3〉
【エクストラ】 神の雫
【経験値】 0/10
・スキルレベル
【聖 王】 1
【回 復】 1
・スキル経験値
【聖 王】 0/10
【回 復】 0/10
【名 前】 フォルマール
【年 齢】 68
【職 業】 弓王
【レベル】 1
【体 力】 1376
【魔 力】 828
【攻撃力】 1605
【耐久力】 1294
【素早さ】 1068
【知 力】 622
【幸 運】 851
【スキル】 弓王〈1〉、遠目〈1〉、弓術〈6〉
【エクストラ】 光の矢
【経験値】 0/10
・スキルレベル
【弓 王】 1
【遠 目】 1
・スキル経験値
【弓 王】 0/10
【遠 目】 0/10
アレンのパーティー転職経緯メモ
・クレナ 剣聖★★★⇒剣王★★★★⇒剣帝★★★★★
・セシル 魔導士★★⇒大魔導士★★★⇒魔導王★★★★
・ドゴラ 斧使い★⇒狂戦士★★⇒戦鬼★★★⇒破壊王★★★★
・キール 僧侶★⇒聖者★★⇒大聖者★★★⇒聖王★★★★
・ソフィー 精霊魔術師★⇒精霊魔導士★★⇒精霊使い★★★
・フォルマール 弓使い★⇒弓豪★★⇒弓聖★★★⇒弓王★★★★
(ふむふむ、皆いい感じだな)
アレンは転職が済んだ3人のステータスと転職の経緯を魔導書に記録する。
(ドゴラは体力と攻撃力の引継ぎがすごいな。レベルとスキルレベルがカンストすれば、クレナにこの2つのステータスは並ぶんじゃないのか。とりあえず、全身全霊については触れないでおいてやろう)
前回の転職では嫌味を言った全身全霊のエクストラスキルであるが、星4つになった喜びを爆発させているドゴラに対して嫌味を言うのは控えることにする。
なお、全身全霊はもう半年になろうかというS級ダンジョンで1度も発動していない。
これはもう、発動できない何か別の理由があるのでは、とすら思えてくる。
(フォルマールの攻撃力もいい感じだな)
フォルマールは星1つの弓使いのころ、どうしても攻撃力不足が欠点だったが、3度の転職を経て、攻撃力が随分上がった。
これならAランクの魔獣にも、遠距離からの攻撃で倒すこともできるだろうと考える。
「なるほど、来年からこのような転職制度が始まるのか」
「そうみたいですよ」
ゼウ獣王子が感心しながら、転職の様を見ている。
(転職制度と火の神の力が弱まっているという話は1月1日に神託があるんだっけか)
精霊神が追加で情報を持って帰って来た。
神器を奪われたという話を聞いていなかった精霊神は、最近ではたまに神界に旅立っているようだ。
なお、神器が奪われたとか、魔王軍に神界が攻められたという情報は伏せ、火の神の力が弱まっているという形で言葉を濁して伝えるという。
あくまでも世界の混乱を避けるためという話であるが、それだけが理由だろうかとアレンは思う。
「剣聖以上の才能を持った者たちで構成されたパーティーか。まるで我が獣王国の十英獣のようだな」
どこか懐かしい者を見つめるように転職を済ませたアレンのパーティーを見つめる。
「じゅうえいじゅう?」
ドゴラは何かかっこよさげな単語が出たのでゼウ獣王子の言葉に反応する。
「十英獣とは獣王国が認めた10人の英傑を称える言葉だ」
(たしかゼウ獣王子は十英獣か、それに近い実力者たちをバウキス帝国に呼びたいんだよな)
獣人のウルから聞いた話を思い出す。
ゼウ獣王子は、実力者をバウキス帝国に呼びたいと考えている。
その筆頭に上がるのが十英獣だ。
10人の獣人のことなのだが、10人とも剣や斧など武器も様々で、前衛だけでなく後衛も含めて構成されている。
何を基準に選ばれているかというと、アルバハル獣王国が発祥と言われる武術大会でそれぞれの部門での優勝者だという。
アレンは何の気なしにウルに聞いたら、ウルが熱く語りだした。
年に一回行われる獣王国武術大会は、獣王国全体から猛者が集まる。
優勝者は1年間十英獣の1人として呼ばれる。
防衛戦のような制度で、翌年の各部門の優勝者と対戦して負けない限りずっとその立場を維持するらしい。
職業も冒険者から軍属など様々で、大会に優勝さえすれば何でもありだと教えてくれた。
かなり脳筋な制度と大会で獣人らしいと思った。
当然、ゼウ獣王子へのダンジョン攻略の加勢は、ベク獣王太子が猛反対しており、渡航を制限しており厳しいのだとか。
「英雄か。俺が英雄か」
自分を獣王国の英雄に例えられて、ジャガイモ顔のドゴラの目がさらにキラキラする。
アレンのパーティーにおいて、ドゴラが誰よりも英雄志向が強い。
剣聖を超える職業についてもその気持ちは変わらないようだ。
「けっ。お花畑がよ! 英雄だか何だか知らねえが、誰がやっても最下層ボスは倒せねえよ!!」
「あん? なんだと!! やってみねえと分かんねえだろうが!!」
ガララ提督が悪態をつくので、自分の夢を鼻で笑われたかと思いドゴラが顔を真っ赤にする。
「は! 誰がやっても一緒だぜ。あの最下層ボスはな。勇者ヘルミオスが20人いようが、50人いようが勝てねえよ。お前に、お前らに勝てるのかよ!!」
ドゴラの返しでさらに悪態をつく。
皆がまあまあと真っ赤になったドゴラを宥める。
(ほう、勇者50人でも無理か)
そんな中、アレンだけが別のことを考えていたのであった。





