第249話 ゴーレム降臨
アレンたちは獣王国と中央大陸の間で起きた因縁を聞いた。
今すべきことは特になさそうなので、中央大陸と仲良くしてくれそうな獣王子が次期獣王になってほしいと思う。
ギアムート帝国は独自に政治的な駆け引きで交渉をしているらしい。
1000年前に帝国から独立した獣王国であるが、ギアムート帝国もアルバハル獣王国も1000年前から存在する当事国だ。
しっかり、話し合って解決の道を模索してほしいものだ。
最悪の事態が起きる前にできることはたくさんあると考えている。
しかし、もし獣王国が中央大陸の南側から攻めてきたら、仕方ないが魔王になるしかない。
過去の前例を上げるなら、一度戦争が起これば数百万の獣人が中央大陸に攻めてくると言われている。
5大陸同盟と言う形で、盟主同士で同盟を結んでいるものの、獣王国は潜在的な中央大陸の敵国だ。
だから、魔王軍は南の2大陸のうち獣王国を攻めないのかもしれないとアレンは思った。
もし獣王国が進軍してくれば、たとえ全ての獣人を滅ぼそうとも、家族のいる村も国も守るつもりでいる。
「どれだけ血を流そうと」とアレンが言うと、ヘルミオスにはそうならないようにしていこうねと言われた。
アレンたちが1000万に達した魔王軍の大半を殲滅したことを知っているので、あまりに平然と言うアレンの言葉にヘルミオスの仲間たちは息を呑んだ。
ヘルミオスのパーティーの交流会はぼちぼちして終わった。
ヘルミオスからはどれくらいの頻度でダンジョン攻略しているのか聞かれて、5日のうち3日半がダンジョンの中にいると言うと、ヘルミオスのパーティーも同じ頻度で合わせるらしい。
3階建て拠点は学園の頃と同様に、2階は男部屋、3階は女部屋にしているが、3階の部屋では足りなくなった。
ヘルミオスのパーティーはほぼハーレム状態なので、一部2階を利用することにした。
ヘルミオスたちは今回のダンジョンについても4階層をメインに活動すると聞いている。
貴重な武器や防具が出るらしい。
ついでに英雄王になったヘルミオスのレベルとスキルレベル上げをする。
「さて、じゃあ、アイアンゴーレムを出してみてくれ」
「うん」
アレンたちは3階層に転送した広場にいる。
ここは広い上に魔獣たちが出てこない安全地帯なので、ゴーレムの降臨実験に最適だ。
アレンと仲間たちを背にメルルは魔導盤を握りしめる。
両手で握り締めた魔導盤は、幾何学的な文字が表面に浮かび上がる。
「何か魔導盤がすごいことになっているぞ。とうとう出てくるのか」
ただならぬ魔導盤の反応に、キールが思わず杖を握りしめ身構える。
そして、1つ大きく息を吸ってメルルが叫んだ。
「タムタム降臨!!」
目の前に幾何学的な文字が円状に並んだ巨大な魔法陣が敷かれる。
そして、魔法陣から飛び出すように、頭からゴーレムが一体出てきた。
地面の上に立つ全長10メートルの鋼鉄の体が直立不動で立っている。
「すごいわね。これってどうやって動かすの?」
「僕が乗らないと動かせないんだ」
ゴーレムは自力で動くことはできず、あくまでも傀儡の人形だ。
操縦者であるゴーレム使いが中に入らないと動かない。
メルルが出現したアイアンゴーレムに魔導盤をかざす。
すると、胸部の水晶のような部分から、メルルを懐中電灯で照らすようにゴーレムから光が放たれ、魔導盤に呼応する。
宙を浮いたかと思ったらメルルがゴーレムの中に吸い込まれて行く。
「す、すげえな。中に入って行くぞ。って動いたぞ」
「おお! 動いた!!」
ドゴラがどういう理屈で水晶の中にメルルが入るのかと口にしていると、ゴーレムがゆっくりと動き出した。
どうやらメルルが操縦しているようだ。
それから、歩いたり、少し速めに移動させてみたり、殴る動作をさせてみたりと、あれこれ広場で試してみるが、自在に動かせるようだ。
魔獣との戦いも、この動きなら問題ない。
メルルが一旦、ゴーレムの中から出て来る。
「メルル。すごい!!」
「へへっ」
クレナが称賛するので、メルルがどこか気恥ずかしそうだ。
「なるほど。これがこのゴーレムの性能か」
魔導盤の表面は最大10個の石板をはめることができる。
そして、裏面の真っ平な部分には、このゴーレムの性能が表示されている。
【名 前】 タムタム
【操縦者】 メルル
【ランク】 アイアン
【体 力】 1500+900
【魔 力】 1500+900
【攻撃力】 1500
【耐久力】 1500+900
【素早さ】 1500
【知 力】 1500+900
【幸 運】 1500
(体力や魔力が上がっているのはメルルの合金スキルの影響か。操縦者のステータス上昇スキルの影響を受けると)
アレンはメルルの首に掛けた魔導盤をマジマジと見る。
アレンの魔導書では仲間のステータスを見ることができるが、メルルのゴーレムのステータスを見ることができないようだ。
しかし、操縦者であるゴーレム使いの魔導盤の裏面に表示してくれる。
ヘルミオスが鑑定スキルでアレンたちの数値化したステータスを見ることができたように、この世界は一部の才能によるスキルや、こういった魔導盤を使ってステータスを数値化することができると予想する。
そして、ステータスが現在900増えているので、合金レベル2になったときに1800増えるのだろう。
操縦者の才能の星の数によるステータスの増加が、ゴーレムのステータスに影響する。
「じゃあ、手に入れた強化用石板をはめてみてくれ」
「うん!!」
5つの本体用石板を揃える過程で3つほど強化用石板を宝箱や隠しキューブで手に入れた。
強化用石板の大きさは本体用と同じなので最大5つはめることができる。
この石板の大きさが、巨大化用や特殊用で違うことも、ダンジョン攻略中にメルルから聞いて知ることができた。
石板がもたらす効果によって大きさが違うようだ。
特別な効果ほど石板がでかくなり、最大10個しかはめることができない魔導盤の空きを埋めてしまう。
・本体用石板の大きさ1
・強化用石板の大きさ1
・大型用石板の大きさは2
・超大型用石板の大きさは3
・移動用石板の大きさは3
・特殊用石板の大きさは5
アレンとしても、仲間であるメルルのゴーレム強化はこのダンジョン攻略にとって大切なことだと認識している。
体力、攻撃力、素早さが増える強化用石板を手に入れたので3つともはめる。
すると、ゴーレムのステータスがそれぞれ2000ずつ増えた。
アイアンの強化用石板は1つ2000増加で統一しているようだ。
(守りたければ、体力や耐久力用の石板をはめるといいのか。自由度があるな。それにしてもこれで、メルルのスキルレベルが上がるようになったぞ)
メルルはゴーレムがいないとスキルレベルが上がらない。
「じゃあ、メルル。次は実戦だな」
「うん!!」
ある程度、ゴーレムの力が分かったので、場所を岩山に移動する。
既に魔獣が出てくる岩山の目星はついている。
鳥Bの召喚獣で移動し、クレナとドゴラの間にアイアンゴーレムに乗ったメルルを岩山の大穴の前に待機させる。
ワラワラといつものごとくサソリの魔獣が穴から飛び出してくる。
クレナとドゴラが身構える中、アイアンゴーレムが腕を振りかぶる。
「メガトンパーンチ!!」
メルルはアレン命名の飛腕のスキルを発動させる。
鋼鉄の腕が伸び、サソリの魔獣を砕きつぶす。
(ほうほう、紐状の何かで胴体と繋がっているのか。じゃあメガトンパンチで正解か)
飛腕というスキルだったので、メガトンパンチにするか、ロケットパンチにするか迷っていたが、完全に腕が離脱しないタイプの攻撃なので、メガトンパンチで正解だったと思う。
なお、アイアンパンチという選択肢は最初から除外されている。
次の階層でミスリルゴーレムの石板を集める予定なので、ミスリルパンチでは語呂が悪いとアレンは考えている。
それから魔獣を一掃し、大穴の前で検証をする。
「メルルやったね。私たちが転職してレベルが下がる分、戦力が落ちずに助かるわ」
セシルがメルルを称賛する。
あと1ヵ月もすれば、アレンとメルルを除く全員がスキルレベルもカンストし転職してしまいそうだ。
メルルのゴーレムのお陰で、Aランクの魔獣のいるこの階層でも下がるステータスでなんとかやっていけそうだ。
「うん。でもAランクはまだ難しいよ……」
(メルルのステータスでは硬い外皮の覆うAランクの魔獣はまだ厳しかったな)
メルルのアイアンゴーレムの攻撃力は3500だ。
これでは、耐久力が高いAランクの魔獣の外皮を砕くには難しかった。
「たしかに。まだ石板を集め始めたばかりだしな。Bランクは余裕があるが、Aランクはクレナとドゴラに任せるといいぞ」
「うん、メルル。任せておいて!!」
クレナが胸を張り、メルルの笑顔が戻る。
こうしてメルルがゴーレムを手にし、攻略は続いていくのであった。