第247話 来店②
「お知り合いですか?」
ヘルミオスが声を掛けたため、ガラの悪いガララ提督がアレンとヘルミオスのパーティーの座る大きなテーブルに木のジョッキを持ってやって来る。
「うん。ガララ提督はよくこのダンジョンにいるからね。たまに情報を共有したりね。5大陸同盟の会議でも一緒になることがあるし」
「なるほど」
(お互いの立場で会う機会も多いのか)
アレンとヘルミオスとの会話の中、メルルが必死に店員のドワーフに注文をしている。
この前初めて会ったときには、「お世話になった上官です」みたいな態度だったのになとアレンは思う。
そして、ソフィーの肩からテーブルに降りた精霊神ローゼンが、メニューの書かれた羊皮紙を見ながら腕組みをし、今日はこれがいいかとブツブツと言っている。
(どうせ、いつものフカマンだろ。収納にも出来立てがいっぱいあるぞ)
フカマンはバウキス帝国の名物で、蒸かしてモチモチにしたパンだ。
最近のローゼンのマイブームで、アレンの収納にも精霊神が求めるので出来立てのフカマンが大量に入っている。
「中央大陸の英雄はもうダンジョン攻略か。精が出るこった」
ガララ提督を見ていると、帰ったらゲームしようと飲み会の席でウーロン茶を飲んでいると、隣の席のおっさんに絡まれた前世の記憶がふつふつと蘇る。
「それは、ガララ提督も同じでしょうに。もうダンジョンに来たんですか?」
「おうよ。戦争も終わったしよ。そろそろダンジョンを攻略しろってな」
「なるほど、それでこの面子ですか。バウキス帝国は攻略に動いたってことですね?」
ガララ提督と会話しながら、勇者ヘルミオスはガララ提督がやってきたドワーフたちの座るテーブルを見る。
「まあな。獣王国も本気みたいだしな。後れを取るなって話だぜ。全くがめつい皇帝に仕えて俺も大変だぜって。おおいっ!? ふがふがっ!!」
またバウキス帝国の皇帝の悪口を言いそうになったので、ガララ提督と一緒にやって来たドワーフたちが、口を塞いで羽交い絞めにして元居たテーブルに運んでいく。
「ヘルミオスさん。バウキス帝国が本気ってどういうことですか?」
「ん? ああ、あのテーブルにいるドワーフは全員魔岩将だよ。ガララ提督を除いてね」
(まじか。バウキス帝国の総戦力と言ってもいい戦力を揃えて攻略に来たのか。それがバウキス帝国の本気と。そして、魔岩将部隊を率いる魔岩王のガララ提督か)
ガララ提督を合わせて20人がテーブルに座っている。
ガララ提督を除いて、1000万に1人の魔岩将の才能があると教えてくれる。
ガララ提督については、メルルからこの20日の間に教えてもらった。
そんな魔岩将を率いるのはバウキス帝国最強にして唯一の「魔岩王」の才能のあるガララ提督だ。
「いいな。なんか懐かしい」
アレンはそんな状況に前世の記憶が蘇り懐かしさを感じる。
「あら? 聖騎士のアレンは、ゴーレム使いもやっててって!? ちょ!? なんで? ふがふが!!」
「いや、何でもないです。食事が来たので食べましょう」
隣に座るセシルが余計なことを言いそうになったので、アレンが口を塞ぐ。
アレンは前世の頃、基本的に効率厨の必死狩りと呼ばれる狩り方をして、キャラ育成に努めてきたが、それだけの遊び方だったわけではない。
例えば、魔法使いのみの構成で狩場に出掛けて、紙装甲に怯えながら皆で魔法を撃ちまくって敵を倒すような遊び方もしている。
いわゆるネタプレイという奴だ。
ゴーレム使いのみで構成されるガララ提督のパーティーはきっと、攻防兼ね揃えているので、ネタプレイではなく実際に攻略ができる構成なのだろう。
「いえ、お気になさらず。同じゴーレム使いだけでダンジョンを攻略しているんだなと思っただけです。それでいうとヘルミオスさんはどんな感じでダンジョンを攻略するんですか?」
「う~ん。僕はどちらかというと攻略よりレベル上げと装備を揃えに来ただけだからね。4階層で活動するだけだよ。アレン君は攻略を目指しているんだよね?」
「そのつもりで来ました。じゃあ、ヘルミオスさんのパーティーとは拠点は共有するが、ダンジョンでは別行動ですね」
「うんうん。そうなるかな」
拠点に上がり込んできたヘルミオスのパーティーを追い出すつもりはない。
30人は住める大きな建物なので、家賃を人数割りで払わせようとアレンは考える。
当然、ヘルミオス達の使用人もその人数に含まれている。
アレンも仲間たちも拠点の管理に困っていたのは事実だ。
ダンジョン攻略に集中したいが、拠点の管理をする人がいない。
何日もダンジョンに籠って、家のことをするのは疲れるなと思っていたところであった。
(まあ、召喚士の能力や前世の話をしなければ別にいいか。それにしても、攻略はしないのか。勇者のパーティーも結構なメンツに思えるんだが)
「てっきりこの構成なので攻略を主目的に来たのかと思いました」
「いやいや、このダンジョンは僕らのパーティーでも厳しいよ。ああ、忘れていた。皆を紹介するよ」
そう言って思い出したかのようにヘルミオスは仲間の名前と職業などを紹介してくれる。
仲間も合わせて10人の構成で、どうもヘルミオス以外は才能が星3つのようだ。
勇者ヘルミオスがリーダーな「セイクリッド」パーティー
・勇者ヘルミオス
・剣聖シルビア、剣聖ドベルグ
・聖騎士1人
・聖女2人
・大魔導士2人
・弓聖1人
・怪盗1人
(ドベルグさん以外全員女だな。使用人で男いたかな? それにしても聖騎士は1人か。「聖騎士は1人のみ」はこの世界でも共通の認識だとは)
アレンも、アレンが率いる「廃ゲーマー」の皆を紹介しながら、聖騎士が1人なのに懐かしさを覚える。
タンク役で補助魔法も使えた聖騎士は、補助が重ならず、そして、火力も前衛よりやや低いことから複数をパーティーに入れるメリットはなかった。
一緒に狩りに行くパーティーを組む際、「この職業は何人」のように制限があったことを覚えている。アレンが前世で遊んでいたネットゲームでは聖騎士は基本的に1人が原則だった。
「剣王か。職業を変更できるのは本当であったのだな?」
「はい、そうです」
そんなアレンが懐かしく思う中、アレンのパーティーも自己紹介をすると、最後にドベルグがクレナの職業について反応した。
「ドベルグ」
ヘルミオスが制しようとしたが、ドベルグが立ち上がる。
「精霊神ローゼン様」
「ん? 何だい?」
「我も転職させていただきたい。そのために来ました」
フカマンを頬張るローゼンにドベルグは頭を深く下げて懇願する。
「ふむ」
ローゼンは手を顎に当て考え始めた。
(ぶっちゃけ、そうなるわな。転職してより強くなれるって聞いたら、誰だって転職したいって思うだろ)
ドベルグは転職のために、今回のヘルミオスと同行したのかなと思う。
「対価を払えば、転職させて頂けると聞きました」
「ふむ、ドベルグよ。君は何を僕に払うのかな。はは」
「余命は1年で結構です。残りの全てを捧げます。それは対価になりませんか?」
ドベルグは頭を下げたまま、テーブルの上に胡坐をかくローゼンに懇願し続ける。
「「「!!」」」
「ちょっと、アレン。止めなくていいの!」
アレンとヘルミオス以外の全員が動揺する。
セシルがアレンに止めるように言う。
剣聖ドベルグは転職させてくれるなら残りの寿命は1年で良いと言う。
それだけ、力が欲しいとドベルグは思っているようだ。
『剣聖ドベルグよ』
「はい」
『創造神エルメア様より、お前のこれまでの生き様については聞いているよ。全てを捨て魔族や魔神と戦っていることについてもだ。エルメア様はとても感謝しておいでだ』
「はい。で、では、転職を?」
『まだ、話は終わってないよ?』
「申し訳ございません」
『今回、僕の独断でアレン君のパーティーを転職させてしまったからね。神界は少しごたごたしているんだ。神界が"皆を平等に"を大切にしているからだけど。だから少し待ってほしい』
「待つと?」
『そう。転職については今神界で調整中だと言っておこう。これが回答になったかな? 僕もそのためにここに来た。自分がやったことだからね。はは』
「分かりました。お待ちしております」
『はは』
ドベルグとローゼンの会話はそれまでのようだ。
ローゼンはお腹を膨らませながら、フカマンを必死に頬張るのを再開する。
ドベルグも無言で酒を飲み始めた。
目をつぶり、肩を震わせているので、どこか自分の世界に入ってしまったようだ。
もしかしたら、転職して力を得ることができるということに、何か強く思うことがあるのかもしれない。
(なるほど、ローゼンがソフィーについてきたのは何か理由があるんだな。それにしても、メルルは少し飲み過ぎだな)
ローゼンのことだから理由を教えてくれないだろうが、ローゼンなりにここに来た目的があることをアレンは知った。
視線をメルルに移すと、我を忘れてお酒を飲んでいる。
流石に飲み過ぎだと注意しようとする。
その時だった。
店の扉が勢いよく開く。
「ここか?」
「は、はい。ゼウ様。こちらでございます」
身の丈2メートルを超えるライオンの獣人が獣人たちを引き連れ勢いよく店に入ってきたのであった。