第217話 能力値①
アレンは、ローゼンヘイムの長老と大将軍に取り計らってもらい、ラターシュ王国の国王への謁見の許可をもらった。
「謁見までどれくらいの予定ですか?」
「そうだな。ラターシュ王国は、国王陛下の謁見まで10日は必要だと言っている」
(10日か。ローゼンヘイムは既に世界に対して終戦宣言をしているからな。そして、ローゼンヘイムの重鎮がすぐにやって来た)
ローゼンヘイムは国内向けだけでなく、5大陸同盟を通じて全世界に対して魔王軍に勝利し戦争が終結したことを宣言している。
この戦争で攻めてきた魔王軍の総数は700万に上り、魔神もローゼンヘイム陥落に向けてやってきたこと。そのほぼ全ての魔獣と魔神も倒したこと。勇者ヘルミオスに戦争の終盤で助力して貰ったことを正式に発表している。
なお、魔神が元ダークエルフであったことは世界に伝えていない。
これはエルフとダークエルフの問題であり、公にしないということをアレンは女王から聞いている。アレン自身も吹聴して回るつもりはない。
(できれば、自分の代で解決したい、か)
アレンはソフィーを見ながらエルフの女王に言われたことを思い出す。
今回の戦争は終結したが、問題の全てが解決したわけではない。
ローゼンヘイム南方にある連合国の大陸には、ダークエルフが作る小国がある。
今後外交を通じて、話し合いの場を設けるところから始めると聞いている。
「10日ですね。では、その前日には王都に到着できるようにしたいと思います」
アレンがそう言うとルキドラール大将軍と長老が頷いた。
「アレン、10日の間どうするの?」
セシルが今後の予定をアレンに聞く。
「当然、ダンジョンを攻略する。レベル1で王城に乗り込んでも仕方ないだろ?」
「乗り込むって、国王陛下に何をしようとしているのよ」
セシルがため息をつきながら、アレンの言葉に呆れている。
「それは、相手次第だな。ああ、学長、鑑定の儀で使ったあの黒い板をお貸しいただけますか?」
アレンの仲間たちのレベルは1だ。
昨日、ローゼンヘイムから学園都市に帰ってきたのだが、まだ何もできていない。
「ん? 鑑定をするのか?」
アレンの仲間たちが転職したことを知らない学長が、何故鑑定が必要なのかと疑問符を浮かべる。
「はい。これからちょっと仲間たちの鑑定をすることはできますか?」
「別に構わぬが」
(うし、レベルが上がればステータスの上昇値から能力値を調べることはできるが、情報として知っておいた方がいいだろう。思ったのと違う成長をされたら、戦法や作戦が変わってくるからな)
3月の終わりで既に、今年度の受験が始まっている。
鑑定の儀に必要な道具一式を使わせてほしいということだ。
ローゼンヘイムでも鑑定することはできたが、できれば一刻も早くローゼンヘイムを発ちたいという諸般の事情があり、学園で鑑定することにしたのだ。
学長が、試験官にアレンたちの仲間を鑑定するように指示を出しに学長室を後にする。
ほどなくして戻って来た学長が、指定の一室で鑑定ができるようにしたと言う。
「では、ルキドラール大将軍、フィラメール長老、ご足労ありがとうございます。王都でお会いしましょう」
「「うむ」」
そう言ってアレンたちは学長とルキドラール大将軍とフィラメール長老を置いて学長室を後にする。
(卒業証書の授与式は別にいいか。正規の卒業はしていないしな)
3年間の授業を終え、全ての学園で共通の課題をクリアすれば、学園を卒業できる。
これが正規の方法での卒業で、最後に生徒全員を講堂に集めて授与式を行い、1人1人に卒業証書を学長が渡す。
こういった儀礼もあるのだが、そんなことをするくらいならダンジョンに行ってレベルを上げたい。一応仲間たちにも学長から卒業証書を貰いたいかと聞いたが、セシルからは今更だと言われた。アレンの仲間たちも、常識の枠からもうずいぶん外れてしまったようだ。
アレンたちは学長から言われた一室に入る。
そこには漆黒の板に水晶、そして試験官と思われる人が1人立って待っていた。
「すいません、お手数お掛けします」
「いえいえ、どなたからでも大丈夫ですよ」
いきなりのお願いだが快く対応してくれるようだ。
全員の鑑定をどんどん進めていく。
鑑定結果が出るたびに試験官がドン引きしている。
【名 前】 クレナ
【体 力】 S
【魔 力】 B
【攻撃力】 S
【耐久力】 S
【素早さ】 A
【知 力】 B
【幸 運】 A
【才 能】 剣王
【名 前】 セシル=グランヴェル
【体 力】 A
【魔 力】 S
【攻撃力】 C
【耐久力】 C
【素早さ】 A
【知 力】 S
【幸 運】 A
【才 能】 大魔導士
【名 前】 ドゴラ
【体 力】 A
【魔 力】 C
【攻撃力】 S
【耐久力】 B
【素早さ】 B
【知 力】 C
【幸 運】 B
【才 能】 狂戦士
【名 前】 キール
【体 力】 B
【魔 力】 S
【攻撃力】 C
【耐久力】 C
【素早さ】 B
【知 力】 A
【幸 運】 A
【才 能】 聖者
【名 前】 ソフィアローネ
【体 力】 B
【魔 力】 A
【攻撃力】 C
【耐久力】 C
【素早さ】 B
【知 力】 S
【幸 運】 C
【才 能】 精霊魔導士
【名 前】 フォルマール
【体 力】 A
【魔 力】 C
【攻撃力】 A
【耐久力】 B
【素早さ】 A
【知 力】 C
【幸 運】 B
【才 能】 弓豪
「なんか皆、鑑定結果随分よくなっているんじゃない?」
「うんうん!」
セシルの言葉にクレナが反応する。
転職して職業は変わったが、確かに鑑定結果の能力値は良くなっているようだ。
ドゴラやキールも漆黒の板に表示されている鑑定結果を見ながら嬉しそうにしている。
「セシルの能力値は、俺のレベル60までの時とまったく同じだな」
「そうなの?」
アレンは魔導書のメモをセシルに見せる。
そこには、5歳の鑑定の儀のあと、創造神エルメアから送られてきた鑑定の儀の結果が記録されている。
【名 前】 アレン(5歳の時)
【体 力】 A
【魔 力】 S
【攻撃力】 C
【耐久力】 C
【素早さ】 A
【知 力】 S
【幸 運】 A
【才 能】 召喚士
「本当ね。たしかヘルミオス様もそんなこと言っていたわね」
「ああ、俺の能力値は大魔導士に似ているって言っていたが、その通りだったな」
(たぶん、勇者のパーティーメンバーに大魔導士とか普通にいるんだろうな)
「でも、60までのってどういうこと?」
「ああ、それか。ちょっと見てみてくれ」
そういうとアレンは水晶に手を当てる。
誰よりも激しい光を放ち、鑑定結果が漆黒の板に表示されるが、全ての能力値がEだ。
「相変わらずね」
「だが、これは成長速度を勘案したものであって、レベル61になってからのステータス上昇値のみを勘案したらこんな感じだ」
アレンはイメージしやすいように魔導書に今の能力値を表示させ仲間たちに見せる。
【名 前】 アレン(レベル61以降)
【体 力】 S+
【魔 力】 SS
【攻撃力】 A
【耐久力】 A
【素早さ】 S+
【知 力】 SS
【幸 運】 S+
【才 能】 召喚士
「な、お前どういうことだよ。Sより高えじゃねえか!」
ドゴラが食い気味に反応する。
皆がドン引きするくらいの能力値だ。
「ああ、前も少し話したけどレベル61超えてから、ステータスの上がり方が倍になったんだ。今まで全てのステータスの上昇値は40までだったと思うけど、攻撃力と耐久力を除いて40以上は上がるようになった」
「お前、すげえんだな」
ドゴラが普通に称賛する。
アレンはレベル60まで一定の速度でステータスが上がっていったが、レベル61からは全ステータスの上昇値がレベル60までの倍になった。
これがノーマルモードを超えたということなのだろうと思う。
(きっと、このステータスの上昇値がまた変わった時がエクストラモードの限界を超えた時なんだろうな。それで言うとまだヘルモードの入り口にも俺は立っていないのか)
「アレン、何だか嬉しそうだね」
「ああ、クレナ。何だかやっとやり込みが始まった気がするぞ。クレナもすぐに転職してもっと強くならないとな」
「うん!」
やり込みの「や」の字も達成していない状況のような気がして、アレンはワクワクが止まらない。
星4つの剣王になったクレナには、英雄王に転職する前の勇者ヘルミオスの域に早く達してほしいと思う。
アレンは学園を受験する際に記録したヘルミオスの能力値を確認する。
【名 前】 ヘルミオス
【体 力】 S
【魔 力】 A
【攻撃力】 S
【耐久力】 S
【素早さ】 S
【知 力】 A
【幸 運】 A
【才 能】 勇者
(少なくともクレナはこれくらいの能力値には達すると。あとはノーマルモードでSを超えることができるのかって感じだな)
今のところアレンのレベル61から以外でステータスの上昇値40を超えた例を知らない。ぜひこの辺りも探索したいと思う。
「さて、今日はホテルに戻って明日からダンジョン攻略だ」
「「「おう!」」」
学園も無事に卒業したアレンたちの新たな活動が再開されるのであった。





