第20話 Fランク
9月が終わり10月に入った。身重になったテレシアが働けないため、ロダンは1人で朝から晩まで作物の収穫を行なっている。
他に変わったことといえば、アレンはとうとう6歳になった。異世界に転生して6年の歳月が流れた。魔導書があるおかげで、忘れてはいけない健一だった頃のことは魔導書のメモ機能に記録しているが、アレンなのか健一なのか分からない時が増えてきた。
10月1日を迎え、6歳になってステータスも上昇した。括弧内のステータスの0.5倍であったが、0.6倍に増えた。魔力も10から12に増えた。スキル経験値の上昇速度は最大魔力量に大きく依存するので助かる。
Fランクの召喚獣については分析が始まったばかりでまだ完全に理解をしていない。まだ【-】となっている召喚獣がなんなのか分からない。
当初は翌日にでもFランクの生成や合成をしたかったが、強化がかなり有用なので性能についてしっかり調べてからにしようとした。
強化のスキル
・消費魔力は10
・効果はステータス2つを+10に増やす
・増えるステータスは加護になっているステータス
・召喚獣のランクが違っても効果は変わらない
・召喚とカード化を繰り返しても強化の効果は消えない
・合成したら強化の効果は消える
・強化しても加護の数値は変わらない
(なるほど、ホルダーに貯めている召喚獣は余裕があれば強化しておけばいいのか)
召喚獣を出さないといけないとき、強化した召喚獣を出したほうがいいに決まっている。
今は午前中だ。アレンは樽の中にいる。皆のボロ服を樽の中で、素足で踏んで洗っている。これもなかなかの肉体労働である。しかし、何も考えずにできるため、召喚スキルの検証など考察タイムに使っている。
アレンの家では近くの共有水汲み場から、ロダンが毎朝水を汲んでくる。水を流す際は細い用水路がアレンの宅側も流れているため、そこに流してしまう。樽の水を流し、庭先に洗った服を干す。
(おお! アルバヘロンが飛んでいるな。もう秋だ。そろそろ父さんは狩りに行く時期か)
アレンより少し背の高い、物干し竿として使っている棒に洗い物を干していると、鳥の影が視界の端に映る。洗濯物越しにアルバヘロンが悠々と飛んでいくのが見える。
秋は他にもアルバヘロンの半分くらいの大きさのタンチョウのような鳥も飛んでいる。季節性の渡り鳥だろう。季節の変化を感じる。
(さて、魔力も回復しているし、Fランクの検証を進めるぞ)
強化の検証がほぼほぼ終わり、Fランクのための生成レベル3と合成レベル3の検証に入っている。
今のところ検証結果が出ていること
・生成レベル3の消費魔力は10
・合成レベル3の消費魔力は5(レベル1から変更なし)
・虫F1枚と獣F1体を合成すると鳥F
「あとは【-】を見つけるだけか」
一度合成に成功したら、【-】が消えるが、まだ合成のパターンを発見できていない。生成と合成を繰り返しながら【-】を探すため、何日もかかっている。
(生成できるのは虫と獣だけで、鳥は必ず合成しないといけない謎ルールだな。虫F獣F、獣F鳥Fのパターンはやったから、次は虫F鳥Fのパターンだ。これで決まってくれよ。そうでないとランクが違う組み合わせを探していかないといけないからな)
虫F獣F、獣F鳥Fを合成した際は、凹みの左に置いたカードの召喚獣が合成された。明らかなる失敗である。今度こそという思いで、ドキドキしながら魔導書の合成ページを開く。
虫Fと鳥Fのカードをカードがすっぽりはまる凹みに入れる。
(合成虫F、鳥F!)
叫ぶように念じると魔導書の表紙が輝く。どうやら合成に成功したことが表示されたようだ。しかし、表紙を見ずとも合成ページを見れば結果が分かる。
「おおお! 新しいカードができた!!」
思わず声にだしてしまう。口を閉じ、できたカードを手に取る。
(これは草か?)
カードの右下には草Fとある。
(召喚獣なのに草なのか)
リンゴのような丸く赤い体に顔がある。枝のような細い手足が丸い体から生えている。頭にはヘタが伸びており葉っぱが1枚そこから生えている。
(そうか、草か、とりあえず、名前を決めてと。これで獣、虫、鳥、草の4種類のFランク召喚獣の生成と合成が全てできたな)
・形状はヒルの虫Fのステータス
【種 類】 虫
【ランク】 F
【名 前】 チュー
【体 力】 15
【魔 力】 0
【攻撃力】 13
【耐久力】 20
【素早さ】 20
【知 力】 13
【幸 運】 11
【加 護】 耐久力5、素早さ5
【特 技】 吸い付く
・形状は犬の獣Fのステータス
【種 類】 獣
【ランク】 F
【名 前】 ポチ
【体 力】 20
【魔 力】 0
【攻撃力】 20
【耐久力】 10
【素早さ】 15
【知 力】 18
【幸 運】 11
【加 護】 体力5、攻撃力5
【特 技】 噛みつく
・形状はハトの鳥Fのステータス
【種 類】 鳥
【ランク】 F
【名 前】 ポッポ
【体 力】 11
【魔 力】 0
【攻撃力】 13
【耐久力】 12
【素早さ】 20
【知 力】 20
【幸 運】 14
【加 護】 素早さ5、知力5
【特 技】 伝達
・形状はリンゴの草Fのステータス
【種 類】 草
【ランク】 F
【名 前】 アッポー
【体 力】 14
【魔 力】 20
【攻撃力】 12
【耐久力】 15
【素早さ】 10
【知 力】 13
【幸 運】 20
【加 護】 魔力5、幸運5
【特 技】 アロマ
(獣Fのポチの特技『噛みつく』は初の攻撃系スキルだな。やっと思っていた召喚獣らしい特技かもしれない。だけど、そんなことどうでもいいくらいの召喚獣がいるな)
4体の召喚獣が新たに召喚できるようになった。どの召喚獣も気になることが多い。検証はこれからになるだろう。そんな中、アレンが待ちに待った加護を持った召喚獣が現れた。
草Fの召喚獣を震える手を押さえて手に取る。
(や、やったFランクにしてとうとう魔力増加の加護を持った召喚獣が出てきたぞ!!!)
リンゴに手足が生えた見た目である。神界の会議室でいくつか挙がったデザイン案の中でどれにするか議論したかもしれない。決まったのがこのリンゴならある意味面白いと思う。
だが見た目など、この加護による最大魔力が5増える点を考えればどうでもいいこと。今最も必要なものと言える。
今想定している懸念で1つ大きなものがある。それはおそらく次の召喚レベル4に上げるには、約30万のスキル経験値が必要であるということ。
召喚レベル2にするには、生成のスキル経験値が1000必要であった。
召喚レベル3にするには、生成のスキル経験値が10000必要と合成のスキル経験値が11000必要であった。
これは、どうも全ての召喚に関わるスキルを上げたら召喚レベルが上がると考えてよい状況である。
なぜなら生成レベルは3になり、そして合成レベルが3になった瞬間に召喚レベルが3になった。
ここから分かることは、召喚レベル4にするには30万のスキル経験値が必要ということだ。
・生成のスキル経験値を10万弱稼ぐ
・合成のスキル経験値を10万稼ぐ
・強化のスキル経験値を11万1千稼ぐ
6歳の最大魔力12で1日3回確実に魔力を消費し、スキルを稼いだ場合、30万稼ぐのに20年以上かかる。当然歳を重ねれば最大魔力は増えていくがそれでも10年以上かかる計算になる。
その10年20年の期間を、草Fカードが短縮してくれる。
(あとは何枚草カードを持つかだな)
最大30枚のカードをホルダーに入れておける。力は恐らくその辺の村人よりはあるだろう。洗濯をしていても力が足りず困ることはない。
(とりあえず獣Fは10枚くらいいるかな。何かあったときのために力は必要だ。騎士に押さえつけられたこともあったな。他のカードは厳選して残りは草Fを最大数持つってことにするかな)
なんとなく、レベル上げと現状の生活に支障がないバランスを考える必要がある。
(草Fのカードの性能を見ておくか。アッポー召喚)
草Fのカードが光り泡となって消えていく。そして、草Fの召喚獣が現れる。リンゴの大きさの召喚獣が枝のような手足を生やして立っている。
(ふむ、リンゴだな。手足はあるがあまり動かない。まあリンゴだからな。特技は『アロマ』か。特技も見ておこう。アッポー特技使って)
草Fの召喚獣に特技を指示する。するとモコモコとアッポーが埋まり始めた。吸い込まれるように地面にめり込んでいく。
(ん? なんだなんだ? 地面に埋まっていくぞって、て、え? 草じゃなくてこれは木か。木が生えてくるぞ)
草Fの召喚獣は完全に地面に埋まる。そこからニョキニョキと木が生えはじめた。1メートル程度の苗木程度の木が生えた。匂いを嗅いでみる。何かエッセンシャルオイルのような匂いが鼻をくすぐる。何か気分が落ち着く。
(え? これだけ? 確かにいい匂いだけど。こんなのを10枚以上持つのか)
草Fは加護以外役に立たないのかなと思う。
その日の夕方である。クレナとの「騎士ごっこ」も終わり、アレンは家の中にいる。夕食の準備をしている。そんな時でもカードの構成をどうするか考えている。
「あの人遅いわね」
いつもなら、とっくに畑から戻ってくる時間である。戻ってこない。
さらに1時間が経過する。
マッシュもいるので、先に夕食を食べる。それでも帰ってこない。18時の鐘が鳴った。マッシュと遊ぶ。マッシュも疲れてそろそろ眠りに着くころだ。
「ただいま」
「あら、遅かったわね」
「ああ」
ロダンが帰ってきた。難しい顔をしたロダンがいつもより遅く帰ってきた。
ロダンは18時過ぎに帰ってきた。テレシアは遅かった理由を聞く。
「どうしたの? 遅かったわね」
既に家族が済んだ食事を遅めにとるロダンだ。テレシアが何かあったのか尋ねる。アレンは子供部屋にいるが、何事かと聞き耳を立てる。
「いや、村長宅に呼ばれてな」
「そうなの」
「今度のボア狩りに平民を何人か入れてほしいって言われたんだ」
「そうなの?」
テレシアは、それでなんでそんなに難しい顔をしているのって顔をしている。
「いや、何も問題はない。別に今まで一緒にやっていた奴らが減るわけじゃないからな。若いので4、5人ばかり行きたい奴がいるから入れてくれって頼まれたんだよ」
何も問題がないと言い聞かせるようにテレシアに話した。それから会話が続くのであった。さすがに連携もあるので、練習をさせてほしいとか、班分けはどうするのか村長に話したようだ。ロダンがそんな話をテレシアにするのであった。





