第190話 魔族戦①
「はは、アレン殿やりましたな」
「ええ、作戦通り進んで良かったです」
戦場となった門前で陣形が出来ていく中、ルキドラール大将軍がアレンに話しかけに駆け寄って来る。
作戦通り門を占拠出来て喜んでいるようだ。
攻城戦は門を奪うことが大事なのはルキドラール大将軍も同じ認識だ。
「しかし、まだまだ魔獣がいる中、回復部隊を残してエクストラを使い切ってしまいましたな」
「確かにそうですね。しかし、勝利は目前です。あとは掃討戦と行きましょう。半日も掛ければ殲滅できるはずです」
今回の作戦は、門を奪うことに最も力を入れている。それで確実に要塞を落とせると判断したからだ。
攻城戦で門を奪えば、魔王軍の守りは隠れる壁を失い、半減どころではない。しかも、今度はエルフの軍隊が、城壁や門を活用して守りを固めることができる。
そのためにエルフ達に攻撃系のエクストラスキルを惜しみなく使わせた。
その結果、南門を奪い取り、魔王軍の半数までを討つことができた。
魔王軍も回復部隊や魔法部隊、遠距離攻撃部隊が外壁の下に待機していたのだが、最優先で狙い撃ちにした。
巨大な外壁が盾になっているのに狙い撃ちされるとは、魔王軍も思っても見なかっただろう。魔王軍の討伐数以上の成果が今回の作戦にはあった。
なお、それでも魔王軍の残存魔獣はエルフの軍の3倍はいる。
「では、私達は外壁の占拠をしたいと思います。話の通り5000人ほど兵をお貸し下さい」
「あい分かった。次の作戦だな」
門の前にこれだけの兵がいても無駄になる。門を奪った後の作戦へ移行すると、将軍にアレンは伝える。
将軍が指揮官に指示を始める。人選については既に決まっているので、アレンの元にエルフ達が集まって来る。
(南側の外壁を奪えば、ほぼ勝利は見えてくるからな)
5000人ほどの兵達とともに、南側外壁の完全制覇に動き出す。
このラポルカ要塞は東西南北を外壁に囲まれているが、兵員が配置できるように整備してある外壁は南北のみだ。
そもそも、ラポルカ要塞自体が東西を険しい山に挟まれている立地なので、東西からの攻めは想定していない。東西に壁はあるが、兵員を配置するほどに整備されてはいない。
「じゃあ、付いて来てくれ。東側の階段から上がって行くぞ!!」
「「「は!!!」」」
(ふむ、将軍でも指揮官でもないんだが)
今更になって、エルフの部隊を引き連れることに違和感が生まれた。しかし、些細な事なので、それに構わず、壁沿いを殲滅しながら要塞の南東にある階段目指して、仲間とエルフの部隊と共に進んで行く。
ガトルーガと3000人の部隊が、要塞南西の階段から外壁に上がって魔獣を倒しながら進んで行き、現在中央付近で交戦中だ。
中央付近からあまり進めていないのは、南東の階段からの魔獣の増援が多過ぎるからだ。
魔王軍側も、外壁を奪われたらそれこそ戦いが終わることが分かっているようだ。
この要塞で最も高い位置にある外壁上を奪えば、かなり一方的に魔王軍を狩ることが可能になる。魔王軍は、怒濤の勢いで援軍を出し続けている。
時間をかけ南東の階段に到着し、魔獣を倒しながら階段を上がって行く。
かなりの数の魔獣に囲まれるので、アレンが目まぐるしく倒された数の分の召喚獣を再召喚していく。
(2日で結構使ったが2万個くらいだな。殲滅できれば30万個の魔石がゲットできると思えば頑張んないとな。って、ん?)
ティアモ攻防戦と違って、今回はエルフの部隊が活躍してくれたので、竜Bの召喚獣に覚醒スキルを連発させるようなことはしていない。お陰で消し炭になる魔石も少なく、戦いに勝てば、魔石の回収ができそうだ。
「む、南門に魔族共が向かって来るのか?」
(おいおい、なんで向かって来るんだよ。逃げていいんだよ? 逃げてくれた方が、都合が良いが仕方ない)
アレンは、ラポルカ要塞中央にある一番大きな建物から出て行こうとする3体の魔族を、霊Bの召喚獣を通して確認する。
どうやらグラスターと言う魔族がブチ切れて、こちらに向かって来るようだ。それをネフティラとヤゴフが追う形で南門を目指している。
「え? こっちに来るの?」
アレンは即座に決断した。
「すまない、皆、このまま攻めていってくれ。俺たちはこの場を離れる。グリフ達出て来い!」
『『『グルル!!』』』
アレンと仲間達は鳥Bの召喚獣に跨る。召喚獣をこの場にも出しているがそのままにして、南門に向かって飛び出す。アレンは今回、セシルと2人乗りをする。
門前でもエルフ軍と魔王軍の死闘が続く中、アレン達は門より前に待機する。
何分も経たないうちに、3体の魔族がやって来る。
『貴様らか?』
鳥Bの召喚獣に乗るアレン達を見るなり、グラスターが呟いた。
「え? 何がでしょう?」
問われたので、とりあえずアレンが答える。
『貴様らが、我らが軍を破り、この拠点を落とそうとしているのかと聞いている!!』
(熱くなっているな。このままだと魔王軍の魔獣を100万体以上消耗させた上に、要所であるラポルカ要塞を攻め落とされた責任を取らされそうだからな。逃げてもお前たちに未来はもうないと)
霊Bの召喚獣が、ラポルカ要塞の攻防における3体の魔族の会話を聞いている。
「いえいえ、皆エルフのお陰です。まあ、敵将が馬鹿なお陰で随分上手くいったようですが」
ここで何かを語ってもメリットはないので、アレンは自らの立場をはっきりとは言わない。怒ってくれているなら挑発だけはしておく。
『こ、殺す!! 絶対に殺す!! ネフティラ、ヤゴフ合わせよ!!!』
『はい、グラスター様』
『分かりましたゴフ』
3体の魔族が攻撃体勢に入った。
「おっさんをクレナ、おにいさんはフォルマール、獣男はドゴラが担当して」
3体とも名前を知っているが、知っていることは悟られてはならない。
「「「おう!」」」
魔族の立ち位置と装備でそれぞれの役割を推測し、速やかに作戦を決める。
グラスターは大剣を、ネフティラは杖を、ヤゴフはナックルを装備している。
連携されると困るので1人1体の配置とする。
(ネフティラは立ち位置が上手いな。ふむふむ、これはヤゴフを先に倒すかな)
魔法系のネフティラを先に倒したかったが、グラスターを盾にする立ち位置を取っているので、ヤゴフを先に倒すことにする。
魔族達が向かって来るので、合わせるように武器を手に戦いに挑む。
『ぬん!』
「んぐ!」
初撃でグラスターの大剣を受けきれず、クレナが鳥Bの召喚獣ごと吹き飛ばされる。
ドゴラも同様に、ヤゴフに吹き飛ばされているようだ。
(やはり1対1はまだまだ厳しいか。クレナの限界突破は別だけど、まだAランクを1人で倒せるわけじゃないしな)
数手しかクレナとドゴラの戦いを観察していないが、はっきりと分かるステータス差だ。
さすが魔族といったところだとアレンは思う。
「クレナ、ちょっとそのまま粘っていてくれ。キールはクレナの回復をして援護よろしく!」
「うん、分かった!」
「ああ」
「セシルは俺と一緒に獣男の方を先に叩くぞ」
「分かったわ」
(とりあえず、魔族側も結構連携を取れることが分かったぞ。1体ずつ確実に減らしていかないとな)
3体の魔族のうち一番倒し易そうなヤゴフに狙いを定める。
ヤゴフはドゴラとは倍近い身長差がある大型の魔族だ。
大きく振りかぶるドゴラの大斧とヤゴフのナックルがぶつかり合う。
「ぐっ」
ドゴラが完全に打ち合いに負けてしまい、鳥Bの召喚獣ごと吹き飛ばされてしまう。
ドゴラが吹き飛ばされるのと同じタイミングで、セシルが巨大な火の塊をヤゴフにぶつける。ドゴラに攻撃したばかりで躱し切れないヤゴフに、火の塊が直撃する。
『ゴフッ!』
「もう一度って、あわっ!」
追撃しようとするセシルとアレンの2人乗りコンビに対して、ネフティラが巨大な氷の塊を作り2人目掛けて飛ばしてくる。
アレンが鳥Bの召喚獣に避けるよう指示して、寸前で躱す。
アレンは5体いる鳥Bの召喚獣と、上空に飛ばしている鳥Eの召喚獣に、自らの視界も合わさりほぼ死角がない状態だ。
鳥Bの召喚獣への指示も行い、セシルに攻撃が来ないようにする。お陰で、セシルは魔法攻撃に専念できる。
(んっと、出せる召喚獣枠は3体か)
南門と外壁にぎりぎりまで召喚獣を出していたが、いつの間にか3体分の枠が空いた。
召喚獣が盾になるようエルフ兵の前面に出していたので、エルフから回復魔法の援護を受けていたが、やられてしまったようだ。
「ドラドラ、ケロリン行くぞ!」
『『おう、任されよ!』』
『は!』
竜Bの召喚獣2体に獣Bの召喚獣1体を召喚する。
竜Bと獣Bの召喚獣1体ずつをヤゴフに配置する。
もう1体の竜Bの召喚獣は、距離を置きつつネフティラに向けてブレスを吐き、魔法に対して牽制する。
(あくまでも、ヤゴフを先に倒すと)
ヤゴフに対して、集中的に攻撃をする。
お陰でヤゴフが受ける攻撃が増えていく。
「おらあああ!」
受けきれなかったドゴラの渾身の一撃がヤゴフに決まる。
吹き飛ばされ、建物の壁を粉砕する。
『ヤゴフ、何をしている!!』
『だ、大丈夫ゴフ』
『もう良い。エクストラの門を開け、ヤゴフよ』
(ん? エクストラの門?)
『は! グラスター様ゴフ』
そういうと、吹き飛ばされた先で立ち上がったヤゴフの体が陽炎のように揺らいだのであった。





